私は良く不運だの不憫だのと友達たちから野次られることが多かった。
自分自身ではそんなことはないと思っていた。
良くノリで付き合って悔しがったりはしているけど、実際は運は良い方だと思う。
たまに目立ったところでの失敗が多いだけで、それは人並程度であって
決して絶望的な程ではないはず。今回だって確率は半々なんだ。
あ...。開いた。
また背後で扉が開いた気配がした。
さっき見たいに体のどこかを自由にしてくれるのかな?
そう思った次の瞬間だった。
目の前が急に真っ暗になったと思った途端に私の思考と記憶もブラックアウトしていった。
俺の答えと言うよりは、記憶の中の彼女が教えてくれた答えは間違っていなかったようだ。
なぜなら、先ほど部屋の扉が開き、奴が俺の体の一部を解放して去って行ったのだ。
その部分とは驚くべき事に視界だった。
俺の目隠しは外されたのだが、外す前に目を閉じるように言われていたので、
奴の顔や姿を見ることはなかった。
ようやく光を取り戻した俺は自分の置かれている状況を脳内の想像から目の前の現実へと
昇華させることが出来た。
俺が思っていた通りに狭く、暗い部屋の真ん中で椅子にロープで拘束されていた。
部屋といっても何か家具やインテリアがあるわけではなく、打ちっぱなしのコンクリートの
殺風景な壁と床に囲まれており、天井の隅には奴の声が出てたのであろうスピーカーと
カメラがあるだけだった。
もはや、部屋と呼ぶのも烏滸がましいような作りだった。
どちらかと言えば、
視界は解放されたとは言うものの、まだ自由に身動きが取れるわけではなかった、
体と足はガッチリと椅子に縛られたままなのだから。
『お疲れ様でした。もう少しで終わりますので、その調子で答えて下さいね。』
「そりゃどうも。」
『続いての質問は特に大切なものです。絶対に嘘をつかないで答えてください。』
俺は何だか嫌な予感がしていた。
その原因は頭の中に浮かんできていた男の声と制服姿の女の子にあった。
二人のことは既に思い出していた。
俺が期せずして出くわしてしまったあの事故。
あの時、俺には彼女を目視で確認することが出来なかった。
急いでいたということもあって、そのまま立ち去ってしまった。
後に目撃者を探していた被害者遺族から話を聞かれた時に初めて若い学生が亡くなっていたことを
知ったのだ。
俺がもう少しちゃんと確認していれば、彼女は助かっていたかもしれないと思うと
やりきれない気持ちにさせられるが、決して見て見ぬ振りをしたわけではなかった。
あれは仕方のないことだった。俺はそう割り切り続けていた。
俺は正直に何も見ていないことを彼女の母親に伝えた。
その時の彼女の何とも言えない顔が脳内にフラッシュバックしていた。
『昨年の6月6日。貴方はある事故を目撃していますね。その際に嘘の目撃証言を
していますか? 』
どうやら俺の悪い予感は的中していたらしい。
今回の出来事にはあの事故が絡んでいるようだ。俺は必死に忘れようとしているというのに。
「それなら即答できる。俺は嘘なんかついていない。ありのままを伝えている。
金を貰って証言を曲げたり、自分が不都合になるからって証言を変えたりしていない。」
『そうですか...。』
奴は何故か残念そうに一言だけ呟いた。
何故あんなんにも残念そうだったのだろうか。
ここまで来れば奴が事故の関係者であることは間違いないだろう。
だとすれば...。
俺の頭には一人の女性の姿しか浮かんでこなかった。
そう...あの何とも言えない表情で俺の話を聞いていた彼女だ。
「うわっ! 」
突然と背後から何かが飛び出してきたので、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
飛び出してきたのは写真だった。所々が折れ曲がったり、破れているボロボロの写真だった。
考え事をしていて、気が付かなかったようだ。いつの間にかに背後に奴が立っていたのだ。
奴が差し出していた写真には一人の少女が写っていた。
あの子だ。それは俺の頭の中で笑いかけていた少女だった。
あの事故で亡くなった被害者の少女だ。
俺の頭の中で出てきた時と同じ表情をしていた。
当たり前だ。俺はこの表情の彼女しか知らないのだから。
だから笑っていたのだ。俺は彼女の笑顔しか知らないのだ。
『彼女を覚えているか? 』
「...もちろんだ。」
やはり、俺の背後に立っているのは彼女の母親なのだろうか。
それしか考えられない。
だけど、俺は妙な違和感に襲われていた。
その原因となっていたのは目の間の写真だった。
何故、こんなにもボロボロなのだろうか。
もちろん、肌身離さず持っていたからだとか悔しさで握り締めてしまったりだとか、
いくらでも理由は想像できた。
だが、目の前の写真からは、そう言った悔しさだとか未練だとかの感情は伝わって来なかった。
目の間の笑顔の彼女の写真から伝わってくるもの...。
『では、彼女の名前を覚えているか? 』
「えっ? 」
覚えていない。そもそも俺は彼女の名前を聞いたのだろうか。
普通に考えれば聞いていたのだろう。でも、全く思い出せない。
どうする?
正直に答えるか?
もし、本当に背後に立っているのが彼女の母親だとしたら、自分の娘の名前を覚えていない。
と正直に伝えて良いだろうか?
いや、覚えていない。と言うより間違った名前を言ってしまうほうがマズイだろう。
「すまん...覚えていない。」
『そうですよね...。』
その意外な言葉を聞いた時にボロボロの写真から伝わって来た感情が何だったのかが見えてきた。
それは
大切に持っていたからボロボロになったんじゃない。怒りをぶつけた結果ボロボロになったのだ。
何故?
彼女は娘じゃないのか?
色々な感情がぐちゃぐちゃになったところで、首筋に大きな衝撃と視界の隅に強烈な閃光を
感じたと思った途端、俺の視界と意識は真っ暗になっていった。