Sheltered Girl   作:夏野 雪

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玖-三つの籠に五つの卵

 目を覚ました俺が見たものは何も変わらない壁と床だった。

首筋にヒリヒリとする痛みがある他は意識を失う前と変わらないように思えた。

いや。あった。

体が完全に解放されていた。椅子に座ってはいたのだがロープは解かれていて

自由に動けるようになっていた。

これはどう言うことなのだろうか。

『お目覚めですか? 社さん。』

目覚めの悪い寝起きには出来ることなら聞きたくなかった声が聞こえてきた。

「ああ。ところで俺はもう自由ってことで良いのか? 」

『もう少しで自由ですよ。その部屋を出てください。』

「あ? この部屋を出てもいいのか。」

奴からの返事はそれ以上は何も返ってこなかった。

俺は恐る恐る椅子から自分自身の体を剥がしていった。

突然椅子が爆発したりだとか、どこからともなく刃が飛んで来たりといったかとはなく、

何事もなく二本の足でしっかりと立ち上がることが出来た。

俺は解放された喜びを感じると共に、どこか不気味で奇妙な感覚に襲われていた。

奴の目的は一体何だったのか?

俺は何故気を失っていたのか?

分からないこと、腑に落ちないことが多すぎる。

結局のところ、俺はここへ何のために連れて来られたんだ。

その答えがあそこにあるかもしれない。

俺は振り返ると部屋に唯一用意されている扉を見つめていた。

あの扉をくぐれば全てが分かるかもしれない。

俺は黒く丸い形をしたドアノブへと手を伸ばした。

回った。

俺が右へ捻るとドアノブは確かに回り、このまま押しこめば扉が開く手ごたえを感じた。

俺はそのままゆっくりと扉を奥へと押した。

その先に待っていたのは部屋だった。

自分がさっきまで拘束されていた部屋より一回り大きくなっただけの部屋だった。

そして、その部屋には明らかな異変があった。

部屋の真ん中で人が倒れている。

女性だ。仰向けの状態で目を見開き、口をだらしなく開けたままだった。

俺は直感的に感じた。

その女性は()()()()()()()()()()()()()()

 

 

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 署内に残っている人間も僅かとなった頃、舞元は自分の机の上に残された全く同じメーカーの

三本の缶コーヒーの空き缶を眺めていた。

被害者の母親の行方は掴めず、彼女は忽然と姿を消していた。

舞元は上司に二件の行方不明が事件に関与している可能性があると掛け合ってみたのだが、

物的証拠に乏しく、ほとんどが舞元自身の推測の域を出ない状況では、まともに取り合っては

もらえずに軽くあしらわれてしまっていた。

舞元自身も経験上、そうなるであろうことは予測できていた。

それでも筋を通すと言う意味で、一度話を上へ持って行ったのだ。

『俺は確かに言いましたよ。』

そう心の中で伝えると、独自で捜査を始めていた。

 

抱えてる正式な仕事の合間を縫っての捜査だったから身が入らなかった

というわけではなかったが、母親の行方は彼女の家の前を最後にぱったりと途絶えていた。

母親は娘の事故以降、仕事を辞めていて金に余裕があったわけではない。

それに他人との交流も断っており、頼れるような人もいなかったはずなのだ。

二人を何処へ連れて行き、何をしようとしているのだろうか。

彼女の怒りの矛先は何故二人に向けられたのか。

「お疲れちゃん! 」

ドンっと乱暴な音と共に目の前の机に一本の缶コーヒーが置かれた。

いきなりの事に驚き、椅子から転げ落ちそうになってしまった。

「うおっ! 何だお前かよ。」

慌てて振り向くと笑顔の早瀬がそこには立っていた。

「アハハ! 何ビビってんねんな。お化けでも出たかと思ったん? 」

「うっせー。こっちは仕事に集中してたんだよ。」

早瀬は前かがみになり、わざとらしく何もない机の上を左から右へと視線を動かした。

「ほー...気のせいなんかな? あたしには空き缶と領収書の山しか見えへんけどなー。」

「俺レベルになれば安楽椅子に座ったままでも事件を解決できんだよ。」

「はいはい。じゃこれお土産ね。」

早瀬は勢い良く机の上に置いた缶コーヒーを軽く指ではじいた。

それは舞元の机の上に陳列されていた空き缶と同じメーカーの同じブラックコーヒーだった。

大変有り難いことではあるのだが、これは嫌味を込めて敢えて同じメーカーを選んできたのか、

偶然なのかまでは名刑事にも判断しかねる部分ではあった。

「おう。サンキュー。」

「じゃ。あたしはこれから交通課の可愛い後輩と食事行ってくるけど、

モッさんは引き続き頑張ってなー。」

悪魔的な一言だけを残して早瀬は笑顔で部屋を出て行った。

どうやら缶コーヒーを舞元に届けに来てくれただけのようだ。

早瀬の手土産を早速飲もうと舞元は手を伸ばした。

その時、奥に並んでいた三つの同じ空き缶に目が行った。

 

三本の同じ空き缶...。

 

その手前にもう一本同じ缶...。

 

「...そうだよな。どうしてこんなことに気づかなった。」

伸ばしかけた手を慌てて引っ込めると舞元は資料室へと向かい走り出した。

 

 

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