あくを貫け   作:@silky

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時系列遡ります。
前話の二年前です。


孤島-1

「今日からここはあなたのものよ」

 

「母さん、本当にいいの? 最果てのとはいえ島一つ買うなんて……うち、貧乏だったんじゃ」

 

「貧乏なのはあの人の甲斐性のせいよ。あたし個人のポケットマネーは余りあるほどだから気にしなくていいの」

 

 それは母息子の会話だった。

 まだ幼い少年は家庭の財産を心配して、ラプラスの背に抱きつきながら、母の顔を見上げた。

 

 そんな心配する子の頭を撫でて、母は暗に父の収入に対してお茶目に罵倒した。

 

 島を買うために巨額の金が必要だったのは確かだ。

 

 今までの生活水準を考えるともはや全財産を投げ払ったように思えるはず。

 

 しかし、実際に支払ったのは母のポケットマネーであり、父が意地でも自分の稼いだお金で家族を養うと決意していたため、ずっと眠らせていた資産でもあった。

 

 かといって、その資産を眠らせたままにしておくつもりもなく、自分の息子のためにお金を使いたい気持ちは父と同じであった。

 

 それは中高のスクール課程の学費として当てようと考えていたが、そんな計画もすぐに潰れた。

 

「これはあたしからの卒業祝いよ。手のかからないいい子でしかも入学してから一年で卒業なんて手がかからなすぎよ。天才なのは嬉しいことだけど、もう少しお節介したいのよ」

 

「だから島を買うって……いくらなんでも非常識なんじゃ……」

 

「使われなかった学費だから気にしないでいいの」

 

「でも……」

 

 先に島に降りた母に続いて、少年はラプラスに「ありがとう」とお礼を言って島に降りた。

 落ちないかハラハラしながらも、表情に出さずに見守っていた母は、少年の危なげない着地に、内心お祭り騒ぎの賞賛の嵐だ。

 

 もっと別の使い道があっただろうに。

 

 そう言いたげな顔の息子に、母は微笑ましく思いながら、ダイブボールにラプラスを戻した。

 

「ありがとう、ノア。少し休んでおいて」

 

「ポエェ」

 

 ラプラスはボールから出た光に包まれて姿を消す――正確にはボールの中へと帰還する。

 

 母はラプラスの入ったダイブボールを腰のベルトのホルダーに戻した。

 

 少年は、ラプラス以外の五つのボールを見た。

 

 それはダイブボールと違いすべて同じノーマルなモンスターボールだ。だが、ボールが違えども彼彼女らがラプラスと同じくらい強さを秘めていることを知っている。

 

 ただ……最後の一匹を除いて。

 

 少年の好奇的な視線を感じ取ったのか、母はいたずらにそのボールを撫でた。

 

「……ねぇ、お母さん。そのボール」

 

「彼女は秘密兵器なの。だから今はまだ秘密ね」

 

 

 そう言って言い聞かせて、少年の背中を押して島の中枢へ向かって歩き始めた。

 

 少年は母の誤魔化しにヤキモキしながらも、母が「秘密兵器」と呼ぶポケモンに会える日を楽しみにとって、母の手から逃れるように歩き始める。

 

 島の中心には草むらがあった。

 

 野生のポケモンの気配は一切なく、この島にポケモンが一匹もいないことが分かる。

 

「そうね……ここは広場にして建てるならあそこかしら?」

 

「建てる?」

 

「そうよ。はい、こちらをご注目ください」

 

 母は息子の疑問に対して浮き足立ちながら意気揚々とカバンの中に入っていたパネルを見せた。

 

「なんとこの商品、非売品! ケーシィーのテレポートを科学的に解析! 対となるパネル間の移動を可能にした未来技術の域にある超最先端科学の結晶!

 その名も――!

 おひとり様ワープ床!」

 

 母はパネルを地面に下ろして、モンスターボールを取り出した。

 

「来て、パチリス。貴女の出番よ」

 

「パチィ!」

 

 ボールから飛び出たのは、でんきリスこと、チャームなマスコットじみたポケモンだった。

 

「パチリス、それじゃ充電よろしく!」

 

「パチ! パーーチィイイイイイ!!!」

 

 パチリスは放電した。

 突然、雷を身に纏ったと思えば、その電気をパネルへ向けて放射する。

 

 パネルが焼け焦げないのか心配していた少年は、数秒してパチリスの電気が止まったところで、それが杞憂だったことに気がついた。

 

「さて、実はもう準備してたのよ」

 

 そう言って母はパネルの上に立つ。

 

 すると、まるで空気に溶け込むようにその姿を消して、少年はパチリスと置いてけぼりになる。

 

 不安に思った少年を元気づけるようにパチリスがしたり顔で少年の肩をぽんぽんと叩いている間に、今度はパネルからもう一度母が姿を現した。

 

「ごめんね、一人にして。今呼んできたわ」

 

「呼んできたって、誰を?」

 

「屈強な建築の匠たちよ」

 

 そう言って視線を向けたパネルから、一つの影が姿を見せた。

 

「ゴーリィ!」

 

 それはゴーリキーだった。手には木材を担いでいる。

 筋骨隆々のポケモンで、おもに掘削現場や工事現場で活躍するかくとう気質のポケモンだ。

 

 だが、現れたのはその一匹だけではない。

 

「ブシィ」

「ワルワビィ」

 

 ドテッコツ、ローブシン、それにズルズキン。カイリキーだっている。

 次々と流れ込んでくるポケモンたちに少年は目を瞬かせ、驚きに目を丸くした。

 

 最後に入ってきたのはポケモンではなく人だった。

 

「へー、これがあんたの買ったっていう島かい。秘境って感じでいいじゃねえかい」

 

「でしょ? とりあえずここを広場にするから、あそこに建てて欲しいの。大丈夫そう?」

 

「楽勝だ。そもそもオレんとこの建築は地盤すら自前なもんだからな」

 

 そう言ってローブシンを自慢げに親指で指す。

 コンクリートブロックを二つ手に持ち、軽々と扱うその剛力さはさすがポケモンといったところだ。

 

「まぁ、任せとき。明日には終わっとるから」

 

 キラリと真っ白な歯を見せ、大工の男はヘルメットを被った。

 




登場人物

主人公 黒  未
母   朱莉 ラプラス パチリス
大工  堅持 ローブシン カイリキー ドテッコツ ゴーリキー ズルズキン イワーク

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