超高校級の希望と超高校級のゲーマーの輪廻転生先が魔法界だったら 作:グローサリー部
超高校級の希望、
ツマラナイ。僕にとって起こりうる全ての事象は、僕の予想を超えられず、多少経緯に差異はあっても結果は同じところに集約する。だからかつての僕は未知に希望して、だから付け込まれた。利用された。超高校級の絶望に。
絶望、そんなものいくら論理的に考えたところで必要ない。そう最初僕は評価した。でも違った。絶望に絶望しちゃう、そんな絶望的に絶望な
未知という新鮮な感覚。江ノ島盾子が恍惚した表情で口にしていた絶望の素晴らしさに、僕ものめりこんで、戻れなくなって、深く沈みかけた。そんな僕を、絶望を愉しんで、血にまみれていた僕を、洗い流して、もう一度のチャンスをくれた女生徒がいた。絶望だけじゃない、新しい可能性。
希望、人が望む予定調和な、平和な、ツマラナイ今この時のすべて、そんなものくらいにしか考えてこなかった。だから、驚いた。まったく予想出来なくて、あの時僕はうろたえた。それから僕は知りたいと思った。試したいと思った。希望と絶望、どちらが僕にとって予想がつかないのかを。それには僕自身も参加した。でも僕の才能は邪魔だったから、僕が神座出流になる以前の僕である
結果として、希望でも絶望でもない未来を創り出し、日向創は神座出流に戻らなかった。けれど、純粋な彼でもない、いわば僕と彼のハイブリッドに彼はなった。彼はそれでも納得したようだ。だから、あの世界の物語は希望で終わり、未来が始まる。それで終わりだと、僕は予想した。この、
1980年1月1日。僕は生まれた。名前は
僕には凡そ不可能というものがありません。また生まれてから1度も何かに驚いたためしがありません。努力と呼ばれる行為も僕にとっては今更無意味です。
僕は余すところなく才能を持っています。また生まれつき、虹彩がとても赤いです。そのせいで、友達は全くできませんでしたが、これといって支障も無かったので気にしません。しかし、そんな僕にも悩みはあります。とにかく、この生活は退屈です。スパイ的な才能を活かして、外に出てもいいですが、結局は退屈しのぎの退屈止まりでしょう。無意味です。そうしてただ刻々と時間だけが過ぎ去っていく現在と未来を憂いて、淡々とした毎日を悶々と過ごしていました。
1986年7月2日。僕に引き取り手が見つかったみたいです。なんでも、イギリスに住むイギリス人夫婦らしく、奥さんが過去に日本人に命を助けられて以来日本人が大好きだとか。子供を作れない身体らしく、いい機会なので養子を貰いたかったらしいです。たまたま僕が選ばれたのだ。僕は生まれつき運もいいので、この夫婦はもの好きだが悪い人たちじゃないはずです。
他に断る理由もないので、僕は養子に迎えられる決意をした。
数日後に迎えが来た。白い肌にブロンド髪の碧眼で揃った夫婦だった。
「こんにちは。カムクラくん。私はアーチー・イーガン。こっちはグレース・イーガン。よろしくね」
夫の方が先に挨拶してきた。ピシッとした高級な白いスーツ姿が似合っていて背も高く、185㎝はありそうだ。少し片言だが、聞き取れないほどじゃない。それに、僕ならたとえ耳で聞き取れなかったとしても、完璧な予測ができます。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。それに、この度は養子に迎えていただき、ありがとうございます」
できるだけ分かりやすく丁寧に返すと、奥さんの方も話しかけてきた。質のいい黒のドレス姿でよく似合っている。2人の洋装からしてパーティーの帰りだったのだろう。
「ご丁寧にどうもありがとう。カムクラくん。グレースです。よろしくね」
グレースはそのまま握手を求めてきた。僕もそれに応える。繊細だが、温かい手だった。
イギリスへ渡る際もこれといって、大したことは起こらなかった。期待していたわけじゃないが、やはりツマラナイ。この調子では、結局イギリスでも、あの孤児院みたいな退屈な日々が続くだろうことは容易に予想できた。
何時間にも及ぶフライトを終え、イギリスにやっと着いた。ずっと座っていた疲労感はあるが、大したことは無い。後で自分で治せる範囲だ。
「やっと着きましたか……」
日本とは似ても似つかない街並みや空気感は少しだけ新鮮な気がして、興味がわくこともあった。しかし、特筆すべきところは無かった。
1987年7月9日。イーガン夫妻の家は立派だ。とても広い敷地に、これまた大きな屋敷が建っていた。塗装も白を基調にした美しいもので、周りの自然との調和がとれている。僕のそれに匹敵する建築の才能の持ち主だったのだろうか。
孤児院とは比べ物にならないくらい生活レベルが向上した。食事はほとんど高級食材を使った料理だったし、敷地が広いので運動にもこまらない。高い水準の教育も受けることができるらしく、まさに人生の大出世である。
ツマラナイことを考えていると、グレース婦人が話しかけてきた。
「イズル、話があるのだけれど、いい?」
ちなみに、イギリスにいる間は英語で会話している。英語は孤児院では教えてくれなかったが、僕は1ヶ月程で、1つ論文を書ける程度には上達した。
「はい。なんでしょう?」
重い雰囲気ではないから、悪いニュースとかではないはずだ。
「実はね、もう1人の養子の手続きが済んで、今アーチーが迎えに行って戻ってきてるの」
……重い雰囲気では無かったが、思いっきり大きな話ですね。
「養子を取るのはあなた方の自由です。僕に断る必要はありませんよ」
「…ええ、そうよね」
グレース婦人は何か言いたそうだが、自分からは言いづらいらしい。……仕方ないので助け舟を出してあげましょう。
「養子とは一体どんな子なんですか?」
聞くとグレースはパアッと明るい表情になって答えた。
「えっとね、性格は直接会った訳じゃないけど、とても大人しい子らしいわ!ああ、女の子なのよ!写真で見たのだけれど、とっても可愛いかったの!私、女の子の子供がいたら着飾ってあげるのが夢だったのよ。あ〜とても楽しみだわ!あなたもそう思わない?イズル!」
次から次へと、よっぽど楽しみにしているのだろう。グレースの勢いは加速度的に上昇していた。
「ちなみに、その子の歳はいくつなのでしょう?」
声の調子を変えて、グレースを少し落ち着かせる。
「たしか、あなたと同い年よ。誕生日で言えば、3月生まれだから、厳密に言えば、あなたがお兄ちゃんになるわ」
「そうですか、では名前は?」
「日本人の子で、│七海千秋《ななみちあき》ちゃんよ」
「七海千秋でーす。趣味はゲームでーす。オールジャンルでいけまーす。」
七海千秋が僕の部屋を尋ねてきた。家族全員で先程軽く歓迎会を開いてもてなしたが、律儀なことに3人相手にそれぞれ改めて自己紹介に回っているらしい。
年齢のせいか全体的に線が細く、色白で、外にはねた特徴的な毛先の髪型をした彼女。七海千秋。その名前を聞くと、何かが引っかかった。僕は何かを忘れている。けれど、忘れるなんて生まれてから1度も経験したことがない。気のせい、とは考えにくいが……
「よろしくお願いしまーす。えっと…カムクライズルくん」
それに今の彼女には何かが足りないと思った。内面とかじゃなくて、外見。ビジュアル的なところ、なんとなく頭に目がいく。なんというか、そのヘアピン、日本で市販で売ってたのだろうが、これは違う。そうなぜか強く思い込む自分に正直驚いていた。
「カムクラくん?」
「……すみません。自己紹介の言葉を考えていました」
先のことを考察しながら、自己紹介も考えていたのだ。
「おー、カムクラくんも。私と一緒だね」
七海千秋は少しだけ頬を赤くして、嬉しそうに笑っている。
「一緒、ですか?」
「うん。頭の中でテキストボックスを思い浮かべて、言いたいことをテキストにして打ち込み終わって、やっと喋れる。まあ、慣れてくると、早くなるんだけどね」
先程ゲームが好きと言っていた。ファミコンとか、おそらくその辺の影響なのでしょう。
「では、この後で色々とお話しするのもいいですね。では改めて僕の自己紹介を済ませます」
「うん。お願い」
「僕は神座出z……っ!うぐっ!」
瞬間ズキッと頭痛が走る。そして、閃光が走った痕のように視界が白くなり、ジワジワとひろがっていく。あまりの痛さに立っているのもままならなくなり、右手でこめかみを抑えながら、その場に膝をついてしまう。こんなのは生まれて初めての経験だ。
「え?……カムクラくん?!大丈夫?!」
七海千秋が、心配して僕の右腕に触れる。
「あっ……え?!痛っ!」
すると今度は、どうやら七海千秋にも頭痛が走ったらしい。彼女もこめかみを抑えてその場に座りこんでしまった。
お互いに痛みのせいで助けも呼べず、動けない。先の接触から、この頭痛は恐らく偶然ではないはずだが、なにか命に関わる病気の症状の可能性もある。一刻も早く、助けを呼びたいが……体が動かない。
数十分も僕達はその場に座り込み、やっと痛みが引いてきた。七海千秋も痛みは引いたようでホッと息を吐いた音がした。その七海千秋の方を見た瞬間、世界がガラッと変わる感覚がした。
「え…っ!」
「あ!」
ガーンと、今までの答えの出ない疑問や、この世界に産まれる前の記憶が蘇った。戻ってきたと言う方が正しいか。なんにせよ、一大事である。さすがに予想していなかったことが起きている。
「…七海千秋、あなたも記憶が戻りましたか?この世界に産まれる前の、超高校級のゲーマーとしてのあなたの記憶です」
「うん…全部、思い出したよ。みんなのこと、日向くんのこと……絶望のこと」
絶望…ならば、彼女は自分の死んだ時の記憶も戻ったのだろう。その時のトラウマもまた蘇ったのか、ブルブルと体が震えていた。
「ここで少し待っていてください。温かいココアでも淹れてきます」
「…ありがとう。カムクラくん」
1人にするのは少し不安だが、彼女はあれで結構タフな精神力を持っている。きっと記憶と共にそれも戻ってきているはずだ。変に気を遣いすぎるのもよくないだろう。
台所に向かいながら記憶を整理し直す。さすがに、一度に一気に押し寄せてきたせいで、まとまりがついていない。それに、前世でも忘却という機能が無かったせいで、情報の容量が大きい。…めんどうですね。
ココアを持ってくると、七海千秋は泣いていた。
「ごめんねカムクラくん。気を遣わせちゃって」
「いえ」
「みんなのこと、思い出したら、なんか、泣きたくなっちゃった」
「…どうぞ」
ホットココアを渡す。七海千秋は素直に受け取った。
「熱いので気をつけてください」
「ありがとう。カムクラくん優しいね」
「僕の記憶では、あなたは僕を以前の僕の名前で呼んでいましたね。なぜ、今はその名で僕を呼ぶんですか?」
七海千秋は、僕を日向創だったと見抜いた数少ない人の1人だ。前世でも、僕のことを「日向くん」と呼んでいた。
「……今のカムクラくんからは、日向くんって感じが前より全然しなくなったからかな」
おそらく、新世界プログラムに残された僕が、僕の最後の記憶だからだ。僕の死因は、新世界プログラムの崩壊だったということになる。しかし、絶望による死の記憶が目の前の七海千秋にあるのなら、あの時共に残った七海千秋を模した人工知能はもういなくなってしまったのだろうか。
「ね、カムクラくん」
「はい、なんでしょう?」
「私がいなくなっちゃったあとのみんなが、どうなったのか。知ってる範囲でいいから、教えてくれないかな」
真っ直ぐと僕の赤い目を見据えながら、彼女は希望する。この強さこそが、彼女の長所であり、江ノ島盾子に狙われた理由の1つだった。
「かまいません。ですが、いい話ばかりとは言えませんが、よろしいんですね」
「うん、聞かなきゃ、これから先進めないよ」
「分かりました」
僕は事の顛末を全て包み隠さずに、できるだけ分かりやすく伝えた。かかる時間は長かったが、普段とは違い、彼女は眠たげにもせず、ずっと真剣に聞いていた。時折涙しても、目をそらすことはしなかった。
日向創らの話を伝えきり、彼らが絶望でも希望でもない新たな未来を創り出したこと、今はまだ昏睡状態とはいえ、みんな生存していることを知り、そのことに七海千秋はとても安堵していた。ひとまず一段落したところで、今度はこの世界について、お互いが知っていることを全て話すことになった。
「私は1980年3月14日が誕生日だけど、年がズレてるだけで、月日は同じみたい」
「僕も同じです。もっとも1月1日は日向創の誕生日ですが」
「お正月が誕生日だと、お祝いも同じ日になるのかな?」
「興味ありません」
「む、気になりますな〜」
頬を膨らませる七海千秋。そんなことより、だ。
「なぜ、前世では死んだはずの僕たちが、この世界に飛ばされたと思いますか?」
「あ〜、それは気になるね。んー、きっと転生じゃないかな?ほら、ゲームとかでも強くてニューゲームってあるし」
それは転生まで合っているが死んだわけじゃない。しかし、当たらずとも遠からずと言ったとこか。
「はぁ。仮説ですが、輪廻転生というやつではないでしょうか?」
「えーと、輪廻転生って、たしか死んだ生物が、別の生き物になって蘇るってお話だよね?」
言いながら七海千秋は首をかしげる。
「はい。ただ、輪廻転生は本来、死んだ生物が次の生において前世よりひとつ高位の生命に生まれ変わることを言います。僕たちの場合は、生まれ変わった様子はありませんし、時代もさかのぼってしまっています。」
「だから、まだ仮説なんだね。それにしても高位の…生命体かー」
ふわー、とあくびして、七海千秋は自分の体を首を回してチェックしている。
「ですが、もともとが作り話のたぐいです。あまり当てにはならないと思われます」
「うーん、確かにあんまり変わった様子はないかな。あ、でもね、ギャラガのピン留めが無いの。同じ見た目で生まれ変わるならついでに再現してほしかったなあ。レアものだったのに…」
腕を組んでしゅんとする七海千秋。ああ、と納得した。先ほどの違和感はこれだった。
「おそらく、前世を今も生きる日向創が持っています。あなたが亡くなった時に僕が頂いたので」
「それなら安心。みんなは私のこと、覚えててくれるよね」
返事はしなかったが、七海千秋は嬉しそうに微笑んでいる。
「今日はこの辺にしておきましょう。もう遅い時間ですし、僕たちは7歳です。結局のところ、新しい生活になれなくてはいけません」
「ん、わかった。ではあらためまして、よろしくお願します。カムクラくん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
1991年7月20日。新生活や英語に慣れてきた僕と七海は、家でテレビゲーム対戦をしていた。イーガン夫妻は仕事の都合上、あまり家にいない。また、七海と呼んでいるのは、彼女に家族っぽくいこうと指摘され、断る理由もなかったからである。話が逸れたが、やはり元超高校級のゲーマー、この世界でもゲーム三昧である。正直、ちょっとあきれるくらいに。
「あ、あーあ、負けちゃった…接戦だったのにな」
僕も本気を出していた。落ち込んだ様子の七海だったが、すぐに持ち直した。
「でも…うん。楽しかったね。もう一戦しよ?」
悔しいが、僕と遊べて楽しい。前に七海が言っていたことだ。
「あなたもこりませんね。かまいません。満足するまでやりましょう」
勝率はまだ変わらないが、戦うたびに七海はプレイスタイルに手を加えている。このままいけば、僕が敗北する日もくるだろう。だからと言って、素直に負けるつもりもないが…。
何戦かして勝利し続け、時刻は昼の12時を過ぎていた。
「七海、これくらいにして昼食をとりましょう」
「あと一戦と言いたいところだけど、わかった。またやろうね」
「ええ、では今日は外食にしましょう」
玄関ドアの前まで来て、インターホンが鳴る。確認すると、細身で大柄、黒髪に緑色の目をした上品な老女がいた。
「こんにちは。Mr.カムクラ、それに、Ms.ナナミ。ミネルバ・マクゴナガルです。今日はこれの説明をしに参りました」
マクゴナガルは僕たちに差し出す。それは2通の手紙だった。僕と七海に1通づつある。ホグワーツというところから送られてきたようだ。丁寧に住所や僕たちの名前が書かれている。
許可をもらって、僕も七海もそれぞれ手紙の内容を読む。
『ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員』
『親愛なるカムクラ殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長 ミネルバ・マクゴナガル 』
『一年生は次の物が必要です
制服
普段着のローブ三着(黒)
普段着の三角帽(黒)一個 昼用
安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの)一組
冬用マント一着(黒、銀ボタン)
衣類には名前をつけておくこと
教科書
全生徒は次の教科書を各一冊準備すること
「基本呪文集(一学年用)」 ミランダ・ゴスホーク著
「魔法史」 バチルダ・バグショット著
「魔法論」 アドルバード・ワフリング著
「変身術入門」 エメリック・スィッチ著
「薬草ときのこ千種」 フィリダ・スポア著
「魔法薬調合法」 アージニウス・ジガー著
「幻の動物とその生息地」 ニュート・スキャマンダー著
「闇の力―護身術入門」 クエンティン・トリンブル著
その他学用品
杖(一)
大鍋(錫製、標準、2型)
ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)
望遠鏡(一)
真鍮製はかり(一組)
ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい
一年生は個人用箒の持参は許されないことを、保護者はご確認ください』
「……これは」
「魔法使い?」
僕も七海も流石に困惑した。いくらなんでも予想していなかった事態だ。
「ええ、あなた方兄妹には魔法使いになる資格があります」
僕たちの様子を見ながらマクゴナガルは続ける。
「先も言った通り、今日はその説明に参りました。…ですが、ご両親はご不在のようですね。日を改めて、またお伺いします」
僕と七海は顔を見合わせる。七海も困惑している。僕でさえ少し驚いている。
マクゴナガルに向き直してさらに驚いた。さっきまでマクゴナガルがいた場所には、もう誰もいない。気配すら残っていなかった。あらゆる才能を用いても、これは再現できない。ありえないことが起こっている。立ち尽くす僕と七海だった。でも、僕は今、とても嬉しい気がしていた。僕ですら、今は再現することもできない何か、きっと魔法というもの。自分の才能が告げるその実感。新たなる未知。一つ分かったことがある。輪廻転生の仮説は正しかった。より高位な存在とは、魔法使いになる素質を得たことなのだ。僕も七海も、きっとこれから退屈しない。そんな予感がしていた。これも、この時代に転生して初めての感覚であった。
マクゴナガルが来てから2日後、イーガン夫妻に帰ってきてもらってマクゴナガルを待つ間、一通り目を通してもらい意見を聞いた。両者ともものすごく疑っていた。無理もないですね…。
そもそも、魔法とか、ふくろう便も、リストにあるものがどこで買いそろえばいいのかわからないようなものばかりなのも、すべからく信用できないことこの上ない。しかし、僕と七海は超自然的な力でこの時代に生まれ、前世の記憶も持っている。更には、一昨日のマクゴナガルの説明できない消失。それらによって、この話は真実であると確信していた。
インターホンが鳴った。間違いなくマクゴナガルだ。僕がそう予測した矢先、七海が嬉しそうに玄関に向かった。僕も後を追う。
「あれ?」
ドアを開けても誰もいない。七海はちょっとガッカリした様子でドアを閉めようとして、ある存在に気付く。猫がいた。
「猫?」
その猫は七海と僕に挨拶するように鳴き、すたすたと家に上がり込んだ。ちょっぴり不思議な光景に戸惑い止められなかった。まさかあの猫…。
そのままイーガン夫妻の元まで歩いて行った猫はその正体を現す。猫の登場に動物が好きな夫妻はおどろきつつも、喜んでいたがこれには純粋に驚いた。僕も七海もその光景を見て驚き、立ち尽くす。予想してはいたものの、実際目にするととんでもない超常現象だ。いや、魔法か。
「改めまして、ミネルバ・マクゴナガルです。ホグワーツ魔法魔術学校で、副校長を務めております」
呆気にとられていたイーガン夫妻だったが、マクゴナガルが話し始めたことで我に返ったようだ。
「先に手紙にも書いてある通り、ご子息並びにご令嬢には、魔法使いになる素質があります。本来であれば、日本人で魔法を学ぶ子はマホウトコロという他の学校に入学するのですが、お二人とも、イギリス在住で、国籍もイギリスであることを踏まえた審議の結果、ホグワーツへの入学が許可されました」
僕も七海も引き取られた時点で国籍はイギリスになっていた。それよりも、ホグワーツ魔法魔術学校だけではない、マホウトコロ、そんな学校もあるのか。思ったよりも魔法の世界というものは広いのかもしれない。
「多くの場合、魔法使いの素質ある子は、両親か、あるいは片方が魔法使いの家庭に生まれます。ですが時に、両親がマグル…失礼、魔法使いでない人のことです。マグル同士の家庭にも、時に魔法使いが生まれます。イーガンご夫妻の場合は養子であるとのことで、さらに違ったケースですね。いえいえ、だからといって何か問題があるわけでは決してないので安心なさってください。私ども教員は来たのはそういったマグルのご家庭に説明をするために伺っているのです」
「いえ、ですが、本当なのですね。あなたの先ほどの…魔法というものでしょうか。とにかく、それで、確信しました。子供達が行きたいというのであれば、もう私共が止める理由もありません」
アーチー・イーガン夫は少し興奮気味になりながらも、それを抑えて言った。
「それで、どうかな?イズル、チアキ」
この話を断る理由など僕たちにはなかった。それに、この2日間ずっとこの日を待ちわびていたのだ。