ほのぼの聖女様.qbk   作:センセンシャル!!

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連載の息抜きに初投稿です(とんらん)


ほのぼの聖女様♂

 まずはじめに僕はこう問いたい。「聖女って何なの?」

 

 

 

 そもそも「聖女」などという概念はこの世界に存在しない。人がいて国を作り、魔物がいて人を襲う。人々は魔物を武器や魔法で撃退する。それで回っている世界だ。

 それが、僕が10歳を迎える日の夜、ある夢を見た。聖職者ならば、それを神託だと言うだろう。

 夢で現れたカミサマ――本人(?)曰く「世界の運営意志」は、僕にこう言った。

 「君は聖女だ」と。

 

 

 

「聖女?」

 

 上も下もないふわふわとした感覚の中、僕は光の玉に疑問を投げかけた。

 畏れはあった。だけど不思議な親しみも感じた。事実、彼(?)は砕けた口調で僕に語りかけていた。

 

「読んで字のごとく、聖なる女性のことだ。宗教的な意味であったり、本人の性格が高潔であったり、奇跡の力で偉業を成したり。ともかく人々が「この女性は神聖だ」と感じれば、それが聖女だ」

「あの……そもそも僕、男なんだけど」

 

 周りの男の子たちと比べて荒事が得意ではなかったり、外で遊ぶより読書が好きだったとしても、僕は心も体も紛れもなく男性だと自信を持って言える。

 カミサマは、自信を持って答えた。

 

「なんで聖女が女性である必要なんかあるんですか」

「えぇ……」

 

 いやだってさっき自分で「聖なる女性」って言ったじゃない。矛盾してない?

 

「数多の時空で昨今では「魔法少女」なる存在を男性が担ってたり、時代はジェンダーレスなのだよ」

「えっと、よくわかんないけど……女の人の役割を男の人が担うってこと?」

「その逆も然り。物分かりの良い子は好感が持てるぞ」

 

 「世界の運営意志としてひいきできないのが残念だ」とカミサマは笑う……笑ったような感じがした。

 話題は「聖女」に戻る。

 

「この世界に「聖女」は存在しなかった……が、死した人々と魔物たちの思念がなんやかやして私に働きかけた結果、「聖女」というリソースが新たに生まれた」

 

 彼は相当簡略化して説明してくれていたのだと思うけれど、その内容は半分も理解できなかった。僕が理解できたのは、この世界に「聖女」という役割が発生したということだけだ。

 

「その役割を与えられたのが、僕ってこと?」

「然り。まあ人間の半分は男性なのだから、「聖女」が女性になる確率も当然半分になる。女性を望んだ亡霊君たちには涙を飲んでもらおう」

 

 それでいいのかなぁ……。カミサマは「私がよしとしたのだから、文句は言わせんよ」とまた笑った。

 

「肝心の聖女が担うべき役割だが、「争いを平定すること」だ。そのための力が、君には備わっている」

 

 僕に特殊な力が備わっていると言われ、夢の中の自分の体を見る。手足におかしなところはなく、服装も農村の子供の普段着だ。変わったところがあるようには思えない。

 これまでにもそんな力を発揮したことはなく、カミサマの言葉の意味がわからなかった。

 彼は、さらに意味のわからないことを告げる。

 

「そして君はその力を使ってもいいし、使わなくてもいい」

「どうして? 役割を与えられたなら、それを全うすべきじゃないの?」

 

 光の玉が僕に近づき、その体(?)を摺り寄せる。僕を……人間を、この世界の存在すべてを愛おしいと思っていることを、肌で感じた。

 

「この世界は、完成している。人と魔物の陣営で別れ、争いを続けることで均衡を保っている。このたび生まれた「聖女」は、その均衡を崩しかねない存在だ」

「なら、僕はその力を使わない方がいいんじゃないの?」

「それでもその力は、紛れもなく君に与えられた力だ。その力の扱いは、君に与えられた権利だ。誰にもそれをはく奪することはできない」

 

 お母さんのような温かさと、お父さんのような力強さを感じる。それはカミサマの抱擁だったのだろう。

 夢の中で意識がまどろみに沈んでいく。ここにいられる時間は、もう残り少ないみたいだ。

 

「君は、君の思うように生きなさい。その道のりが、きっと「聖女」になる」

「……わかりました、カミサマ。僕は、僕の思った通りに力を使います」

「私は所謂神ではないのだが……それもいいだろう。君の思うカミサマとして、私も君たちを見守っているよ」

 

 そうして、不思議な夢の世界は溶けていった。

 

 

 

 

 

 10歳を迎えた日の目覚めは非常にすっきりしていて、夢の内容もしっかりと覚えていた。

 

「……変な夢。聖女とか、なんだったんだろう」

 

 以前読んだ本によれば、人が見る夢というのは潜在意識が現れたものだとか書いてあった。……僕に女の人になる願望があるとは思えないんだけど。

 それに、夢の中では何の疑問にも思わなかったけど、なんで僕はあの光の玉をカミサマだと思ったんだろう。当たり前だけど、僕はカミサマを見たことなんてない。

 わからないことだらけの夢。相変わらず僕に特殊な力があるとは思えないし、ちゃんと男のままだ。ついてる。

 確かなことは、今日から僕は10歳……この村では一端の村民として扱われる年齢になったということだ。

 

 僕の誕生日を祝って少し豪華な朝食を摂ってから、いつも通りに畑仕事を手伝って、自室に引きこもろうとしたところでお父さんに呼び止められた。

 

「せっかくの誕生日なのだから、たまには外で遊んできたらどうだ?」

 

 10歳から村民扱いにはなるけれど、大人として扱われるのはさらに5年後の話だ。今の僕は、子供と大人の間の扱いを受ける。

 だから家の手伝いを終えたら友達と遊ぶのが普通……なんだけど、僕はそれより本を読む方が好きなのだ。

 

「誕生日なんだから、好きなことをして過ごしたいよ」

「そうは言うがお前、いつも本ばっかり読んでるだろう。男の子なんだから、体も鍛えなきゃダメだぞ」

 

 「そんなんじゃ誰も嫁に来てくれないぞ」と続ける父。……それはそうかもしれないけど、その言葉はなんかモヤっと来る。

 お父さんの言葉には従うことにして、代わりに僕は文句を残した。

 

「時代はじぇんだーれす?なんだよ、お父さん。男の子だからとか言ってると、古臭いって言われるよ」

 

 当然お父さんは疑問符を頭に浮かべた。

 

 

 

 村の子供広場に行くと、同年代の子供たちが集まって追いかけっこをしていた。10歳になっていない子もいるし、少し年上の子もいる。

 僕がここに姿を現すのは稀なので、年下の中には知らない子もいる。向こうも、当然僕を知らないだろう。

 

「おねえちゃん、だれ?」

 

 おそらく5、6歳ぐらいの女の子が僕に近づき、尋ねてきた。……聞き間違いかな。

 

「僕は男の子だよ。アルバっていうんだ」

「アルバおねえちゃん?」

 

 いやだから男だってば。言っても女の子は聞いてくれない。子供たちのリーダー格に向けて大きな声で。

 

「アルバおねえちゃんきたよー!」

 

 と呼びかけてしまった。思わず頭を抱える僕。

 一瞬、広場が静まり返る。数秒後に誰かが笑いだし、一人が大笑いしながら僕に寄ってきた。

 

「よぉ、アル! 一年ぐらい見かけてなかったけど、その間にタマ落としたのか!?」

「そんなわけないでしょ。この子が勘違いしたんだよ。そっちこそ一年経っても下品なままだね、ノア」

 

 僕より二つ年上の、今の子供たちのリーダーだ。ノアール、通称ノア。男の子みたいな格好をしているけれど、れっきとした女の子だ。

 粗野な振る舞いの割に面倒見がよく、子供たちからは慕われている。滅多に姿を見せない僕のこともしっかり覚えているけれど、品のない物言いが苦手な子だ。

 っていうか、そうか。最後にここに顔を出したのが、一年前の誕生日のときだったのか。そういえば去年もお父さんに同じことを言われた気がする。

 そりゃ一年も自室に引きこもって本ばっかり読んでたら心配もするか。これからはもう少し外に出ようと反省した。

 

「はっ! おれらみたいのがお上品な言葉使ってもしょうがねえだろ! それともおタマタマって言えばよかったかァ!?」

「君はもうちょっと本を読んだ方がいいよ。僕たちだって、大人になったら都の人とか相手にする可能性があるんだから」

 

 農村の住民だからといって、外部と接触する機会がないわけじゃない。もしそうなら、僕の家に大量の本があることに説明がつかない。

 この村にも行商の人は来るし、徴税のための代官様だって来る。なんなら時々観光の人だって来る。

 そういう人を相手にしたときに無知を晒して恥をかくのは自分なのだから、知識を得る行為は何も間違ってはいない。

 それが想像できていないだろうノアは、僕の言葉を鼻で笑う。僕は肩をすくめてため息で対抗してやる。

 

「……ヘッ。変わってないみたいで安心したぜ。久しぶりだな、アル」

「こちらこそ。僕みたいなのを覚えていてくれてありがとう、ノア」

 

 これが僕たちのあいさつ。正反対の性質の僕たちは、いつしかこんなやり取りが定番になっていた。

 知っている子どもは笑ってみていて、知らない子たちはハラハラしながら見守っていた。最初に声をかけた女の子が、僕の服の裾をギュッとつかんだ。

 

「ふたりとも、ケンカはメなの!」

「心配させちゃってごめんね。別に仲が悪いわけじゃないから。これが僕たちのやり方なんだ」

「そんな言い方じゃ通じねえって。ほらチビすけ、見ろ。握手だ握手」

 

 ノアが無理やり僕の右手を取る。仲直りの証を見て、女の子はニコッと笑った。

 

「わたし、ユニ! よろしくね、アルバおねえちゃん!」

「だから僕は男だってば……こちらこそよろしくね、ユニちゃん」

「お? なんだなんだ、アルのやつチビすけに手ぇ出すのか?」

 

 はやし立てるノアに便乗するノリのいい幾人か。これだからあんまり外に出たくないんだよね。

 僕はため息をつき、ユニちゃんはわからなかったのかコテンと首を傾げた。

 

 

 

 僕が久々に顔を見せたことで中断となった追いかけっこが再開し、僕は木陰に座ってそれを眺めた。隣には、なぜかユニちゃんも座っている。

 一応家の農作業の手伝いをしているわけで、体力がないわけではない……と思う。ただ、ああも元気に走り回る気力が僕にはない。っていうか疲れるのが嫌だ。

 本でも持って来ればよかったなぁと、一年ぶりの同じ失敗を感じながら、今年はユニちゃんという違いもあるので、結果的には正解だった。

 

「アルバおねえちゃんは、やらないの?」

「お兄ちゃん、ね。僕はああいうの、楽しいと思わないからなぁ」

 

 そんなに僕は女の子に見えるんだろうか。自分自身、そこまで男らしい見た目だとは思わないけど、パッと見で男とわかる程度には男のつもりだ。服装だってちゃんと男だ。

 性別がわからないというならノアの方だろうけど、一年ぶりに見た彼女はちゃんと出るところが出始めていた。去年までは男と間違えられることもあったけど、今後はそんなことはなくなるだろう。

 子供たちが笑いながら騒ぎながら走り回っているのを見ても、やはり僕は本から得られる知識の方がよっぽど有用だと思ってしまう。それが僕の性分なんだ。

 ――ふと今朝方の夢を思い出す。「聖女」。カミサマは特殊な力があると言っていたけれど、もしかしてそれが原因で女の子に見られている可能性が微レ存……?

 

「いやそんなわけないか」

「? アルバおねえちゃん、どうしたの?」

「ん、変なこと思い出しちゃっただけ。あとお兄ちゃんだってば」

 

 なんかもう訂正するのも疲れてきた。何年かすれば、この子も僕が男だって理解するだろうし、放置でもいいんじゃなかろうか。

 結局夢については何もわからず、ユニちゃんの勘違いに屈しそうになっていると、にわかに広場の中心が騒がしくなった。

 見れば、二人の男の子たちが取っ組み合いのケンカを始めていた。追いかけっこの最中にぶつかるか何かしてしまったのだろう。

 ノアが気付き、二人を力ずくで引きはがす。よほど強く衝突してしまったのか、二人とも羽交い絞めにされても収まる気配がない。

 子供広場ではよくあることのはずだ。時間が経てばあの二人も疲れて怒る気力がなくなるだろう。そうしてノアに説教されて仲直りして、別の遊びが始まる。遠巻きに見ながら予想を立てた。

 ……だけど、今日はいつもと少し違うのだ。僕がいて、僕の隣にユニちゃんがいる。ユニちゃんは震えながら、僕の服の裾をキュッとつかんだ。

 

「アルバおねえちゃん……」

 

 男の子二人の衝突は、小さな少女には恐ろしい光景に映ったみたいだ。見れば目に涙が浮かんでいる。

 彼女を慰めるために頭をなでながら、また夢のことを思い出す。カミサマの言葉を、思い出す。

 

――「争いを平定すること」だ。そのための力が、君には備わっている。

 

「ユニちゃん。少しここで待っててね。僕がなんとかしてくるよ」

「アルバおねえちゃん……?」

 

 目線を合わせて笑顔を作る。ユニちゃんが怖がらないように。

 しばらくして、彼女は服の裾を手放してくれた。僕は立ち上がり、騒動の中心に向かった。

 

 駆け寄った僕に最初に気付いたのは、状況に困った様子のノアだった。

 

「何が原因なの?」

 

 短く、騒動の種を聞き出す。

 

「よくあることだよ。どっちからぶつかったの言い合いだ。誰も見てなかったから、どっちが悪いかもわからねえ。落ち着くまで待つしかねえよ」

「僕も同意見。……なんだけど、ちょっと試したいことがあるから。失敗したらフォローよろしく」

 

 「は?」と目を点にするノアを通り過ぎ、僕は少年たちのケンカの間に立つ。

 僕が広場に現れたときと同じように、一瞬の静寂。興奮した二人の少年はすぐに騒ぎ出す。

 

「関係ねえやつはすっこんでろ! いっぺんそいつをぶちのめすんだよ!」

「こっちの台詞だ、バカヤロウ! 放せコラ!」

 

 僕の登場で止まるとは思っていない。僕には「争いを平定するための特殊な力」が備わっている……らしいだけなのだから。

 どうすればその力を行使できるのかわからない。そもそもあれはただの夢だったのかもしれない。

 

 だけど、ユニちゃんが――小さな女の子が泣いている。それを見過ごすようでは、「男」じゃないだろう。

 

「見苦しい」

 

 できるだけ冷たく、鋭く言い放つ。それほど大きな声量ではなかったけど、再び場が静まり返った。

 チャンスとばかりに、僕は畳みかけた。

 

「ぶつかったって聞いたけど、二人とも「相手がぶつかった」って思ってるんだよね。だったら、両方が悪い」

「なん……」

「最後まで聞け。反論は後で聞く」

 

 少年の一人が騒ぎかけたが、それも僕の言葉で抑えられた。……これが「聖女の力」なのかはわからないけれど、今この場では間違いなく有効だ。

 僕は理路整然と、少年たちの間違いを説く。

 

「誰も見てなくてどちらがぶつかったのかわからない。お互いが相手が悪いと思っている。この時点で事実の立証は不可能なんだよ。証拠は何も残ってないんだから」

 

 嗜み程度に読んだ推理小説で、何よりも重要なのは「犯罪の証拠」だった。心証などミスリードにしか使われない。

 本の知識をもとに、この問題をひも解いていく。

 

「証拠を残さなかった、証拠を拾わなかった君たち両方が悪い。それをどっちが悪いだの、自分たちのミスを棚に上げて、見苦しいにもほどがある」

 

 誰も何も言わない。少年たちも、苦々しげな表情ではあるものの、これ以上騒ぐ気はないようだ。それを見てノアが拘束を解かせた。

 ……これだけでは収集がつかない。失敗を失敗のままにしては、何もつながらない。最後に僕は結論を述べた。

 

「両方が悪いなら、両方が謝罪する。そして次から注意する。それでこの件はおしまいにしよう」

「あ、ああ……。その、悪かったよ。ついカッとなっちまって」

「こっちこそごめん。頭に血が上ってた……」

 

 少年たちは頭を下げ、ノアが無理やり握手をさせる。二人は、恥ずかしげに苦笑した。

 

 

 

 そうして子供たちの遊びは再開され、僕は木陰に戻る。ユニちゃんが隣にいて……何故かノアもやってきた。

 

「アルバおねえちゃん、すごい!」

「驚いたぜ。まさかお前にあんな特技があるなんてなぁ」

「僕もうまくいくとは思わなかったよ。説明自体は自信があったけど、聞いてもらえるとは思わなかったから」

 

 普通、あそこまで場が興奮していたら、理屈での説得なんて不可能なはずだ。感情が邪魔をして他人の言葉なんて耳に入らない。僕にだって経験がある。

 それが、あんなにスムーズに事が運んでしまった。まるでそうなることが当然のように、小さな争いは収束した。

 何がどのようにしてそうなったのか、僕の主観ではわからない。せっかくだから、ノアに聞いてみることにしよう。

 

「ねえ、ノア。僕の言葉を聞いて、君はどう感じた?」

「おん? さすがは本ばっか読んでるやつだなぁって感心したけど。それがどうかしたか?」

「いや……変なことがなかったなら、それでいいんだけど」

 

 どうやらノアには不自然なものは感じられなかったようだ。……僕が夢のことで気にしすぎなだけで、たまたまうまくいっただけなんだろうか。

 ユニちゃんは、無邪気に喜んで僕をほめたたえる。年相応の反応だった。

 

「あのね、あのね! みんな、アルバおねえちゃんのおはなし、ちゃんときいてたの! むずかしかったけど、わたしもちゃんとわかったよ!」

「そっか。ユニちゃんはえらいね」

「アルバおねえちゃんのおはなしがじょうずなの!」

 

 話術については、ノアにも言った通りそこそこ自信があった。基本引きこもりだからと言って誰とも会話しないわけではないし、外出を勧める父を説得するのにあの手この手で回避するのだから、むしろ鍛えられている。

 おかげで僕の家のヒエラルキーは母>僕>父となってしまっている。……ちょっとお父さんが不憫だな。

 それにしても、ユニちゃんは賢いんだな。最悪の場合、難解な言葉を使って煙に巻くことまで考えての発言だったのに、ちゃんと理解できているなんて。

 

「そうだよなぁ。おれも、勉強とか嫌いだから難しいことはわからねえけど、アルの説明だとすんなり納得できたんだよなぁ」

「ええ、ノアまで? 君は僕より年上なんだから、あのぐらいわかるでしょ」

「いやいや、あれがうちの親父とかだったら、多分「何言ってんだこいつ」ってなるぜ。やっぱ本読んでるやつはちげえよ!」

 

 上機嫌に僕の背中をバシバシ叩くノア。無遠慮に叩くから痛い。悪意じゃないのはわかってるから、嫌な感じはしないけど。

 もし僕の意図をみんなが……仮に、みんなが理解できていたとして。そしてそれが「聖女の力」とやらの効果だったとして。

 僕は思う。「それ、話術師の力なのでは?」と。

 

 

 

 

 

 広場での一件以来、僕は外出することが多くなった。多くなってしまった、と言うのが正解だろう。

 あの日、最初に僕に気付いた女の子、ユニちゃん。彼女が僕をいたく気に入ってしまい、「きょうはアルバおねえちゃんこないの?」とノアに泣きついてしまったらしい。

 さすがのガキ大将も泣く子には勝てない。僕の家を訪れ「頼む!」と頭まで下げられてしまった。ついでに言えばそれをお母さんに見られた。

 

「アルバ。お母さん、あなたを女の子を泣かせるような子に育てた覚えはないからね?」

 

 スゴ味のある笑顔でそんなことを言われてしまっては、僕に従う以外の道は残されていない。誕生日にお父さんの言葉に従ってしまったのが運の尽きだ。

 

「……クソおやじ」

「ア、アルバ!? 父さん、お前に嫌われるようなことしちゃったのか!?」

「そんなことはないよ。せいぜい僕の大事な趣味の時間を削ったぐらいだよ、クソお父さん」

「アルバー!?!?」

 

 僕の小さな反抗で、お父さんはお母さんに泣きついた。お母さんは恍惚の表情でお父さんを慰めた。そんな両親です。

 ――全く関係ないけど、この翌年、僕には妹ができました。全く関係ないけど。

 

 子供広場に顔を出すと、真っ先にユニちゃんが駆け寄ってきて、僕に抱き着いてくる。

 

「アルバおねえちゃん、こんにちは!」

「こんにちは、ユニちゃん。何度も言うけど、僕は男だからね」

 

 一日に一回は注意する。それでもやめないところを見るに、もうこれは彼女にとって僕の愛称なのだろう。

 ユニちゃんのあとからノアがやってくるのも、お決まりになった。

 

「なーんか最近お前を見ることが多いから、レア度が減って残念な気分だよな」

「知らないよ、そんな事情。そもそも顔を出してくれって言ったの、君だからね」

 

 「わぁーってるよ!」と乱暴に言いながら僕の背中を叩く。最近はこの痛みにも慣れ、やはり彼女も女の子なんだなぁと思う。

 一度、彼女に言われて仕方なしに子供たちの遊びに混ざったことがあるんだけど……まあ男の子の力は強い。本読みの僕なんかじゃ相手にならなかった。

 彼らは家の手伝いに加えて日々の遊びで押し合いなんかをしているわけだから、僕よりも鍛えられて当然だ。そしてその力は、ノアより年下なのに、彼女よりも強かった。

 時折ノアが見せる寂しげな表情は、きっとそれが関係しているんだろう。彼女はあと3年したら大人の扱いになり……誰かの嫁になるかもしれないのだ。

 それなりの規模とはいえ、ここは農村。女性に求められるのは、次代を担う子を産むことだ。男勝りのノアだってそれは変わらない。

 ……そう考えると、僕も少し寂寥感がある。この粗野だけど優しさを感じる友人と遊べるのも、最長であと3年しかないのだから。

 

「僕も、最近は「もうちょっと外出しておけばよかったかな」って思ってるよ。体力で負けてるつもりはなかったんだけど」

「あいつらは手加減知らねえからなぁ。つっても、お前があの中に交じってるのは違和感半端じゃなかったけど」

「アルバおねえちゃんはユニといっしょにおままごとするの!」

「はいはい。んじゃおれはお父さん役な。アルは娘役で」

「なんでノアまで僕を女の子の役に当てはめようとするかな」

 

 この歳になってやることが、小さな女の子とおままごととは考えてもみなかったけど。

 僕と、ノアと、ユニちゃんの3人。こんな風に遊べる時間が、いつまでも続けばいいのに。

 本当に今更ながら、そんなことを思った。

 

 

 

 ――終わりは、本当に唐突だった。

 

「魔物が出たぞー!!」

 

 警戒を知らせる鐘の音と、村周辺の哨戒を行っていた大人の声。村中に響き渡るその異常に、子供広場の空気が凍りつく。

 次に何が起こるかを一瞬で理解した僕は、真っ先に動いていた。

 

「騒ぐな、落ち着け」

 

 あの、少年たちのケンカを抑えたときのように。できるだけ冷静に、鋭く、強い言葉を発した。

 パニック直前だった彼らは、皆一様に僕を見る。少なくとも「こういうことができる」と知った僕は、速やかな避難指示を出した。

 

「魔物がすぐにここに現れることはない。落ち着いて、避難所に向かえ。今一番怖いのは、パニックになって逃げ遅れることだ」

 

 魔物の脅威があるのだから、どの村にだって避難用の集会所は存在する。この村なら、教会の地下がそうだとお父さんが教えてくれた。

 子供である僕たちに魔物に対抗する術はない。僕たちがすべきなのは、大人たちが戦えるように、安全な場所に避難することなのだ。

 

「教会の場所がわからない子は、わかる子についていけ。わからないまま動こうとするな。ノア、先導を任せる」

「お、おう。教会の場所がわかる奴は手を挙げろ! わからない奴は、手を挙げた奴について来い! 若い順だぞ!」

 

 僕の意図を理解したノアが、その辺に落ちている木の棒に上着を括り付け、即席の案内旗にする。そうして彼女が教会へ向かうと、子供広場の皆も列を成して続いた。

 不安はある。それでも決してパニックは起こさず、避難は冷静に行われた。

 

「……ユニちゃんも。教会の場所はわかるよね」

 

 僕の隣から離れようとしない少女に、目線を合わせて言葉をかける。彼女は変わらず、僕の服の裾をつかむ。

 

「アルバおねえちゃんは?」

「僕は、残って逃げ遅れがないかを確認するよ。言いだしっぺだし、一応年長者の一人だからね」

「じゃあ、ユニものこる!」

 

 「ダメだ」と強く言い切る。……ユニちゃんがそう言うのはわかっていたし、涙目の女の子を一人にするのは心苦しい。だけど、彼女は真っ先に避難すべき年齢の子なのだ。

 

「みんながちゃんと避難するためには、順番は守らないといけない。例外は僕とノアだけ。「役割」がないユニちゃんは、避難しなきゃダメなんだ」

「でも、それだとアルバおねえちゃんが……!」

 

 年下の男の子に力負けする僕じゃ、確かに頼りないかもしれないな。なら、今は頼れる「おねえちゃん」であろう。

 

「大丈夫。僕は、「聖女」なんだから」

「アルバおねえちゃん……」

 

 ユニちゃんが僕の服の裾を手放す。まだ躊躇があるようで、僕の方を見ながら少しずつ下がっている。

 もう一度、「行って」と告げる。涙をためた少女は、こぼしながら頷き、背を向けた。

 これで、僕は「役割」をこなすだけ。立ち上がり、子供広場周辺の逃げ遅れを確認するため、走り出した。

 

 広場の外周を3周した結果、逃げ遅れはいないと判断する。……これだけ走ると、僕の体力では相当息切れする。僕も避難しないといけないのに、すぐには走れそうにない。

 

「……一番冷静じゃなかったのは、僕自身か」

 

 息を整えながら反省する。体力配分を考えられていなかった。子供たちを安全に避難させることで頭がいっぱいになって、自分のことがすっかり抜け落ちていた。

 ユニちゃんに再会したら怒られてしまうなと自嘲する。ともかく、一刻も早く息を整え、避難所に向かわなくてはならない。

 だというのに、僕の動悸を乱すバカが、戻ってきてしまったのだ。

 

「アル! なにやってんだ! とっとと逃げるぞ!」

「……なにやってんだは、こっちの台詞だ」

 

 教会へと続く道から、薄着一枚となったノアが駆けてきた。全力で走ってきたのだろう、彼女も息が切れており、あらわとなった肌に汗の玉が浮かんでいる。

 大声でバカと言ってやりたかったが、あいにくと大声を出せるほどの体力は戻ってきていない。

 彼女は僕のそばまで来ると、少しの間膝に手をついて息を整え、すぐに僕の腕をつかんだ。

 

「全員避難できたっ! ユニもだ! あとは、おれとお前だけだ!」

「朗報だね。こっちも、逃げ遅れはいない。3回確認したから間違いないよ」

 

 情報共有を済ませ、ノアは僕の腕を引っ張って走り出す。僕は、まだ息が整いきっていなかったけど、それでも足を動かした。

 

 

 

 二人の足は、広場から出る前に止まることになった。

 

「あっ……」

「魔物……"ブラッドウルフ"か……」

 

 広場の出口のところに、赤いたてがみの狼が一匹佇んでいた。その姿は、かつて図鑑で見たことのある魔物のものだった。

 生態も詳しく載っていたが……そんなものは正直どうだっていい。大事なのは、あれが"魔物"であるという事実だ。

 

 "動物"と"魔物"。二つを隔てる決定的な違いは、「人間に敵対しているか否か」だ。

 魔物は、例外なく人間と敵対し、襲いかかる。手傷を負って撤退する以外に、奴らが人前から姿を消すことはない。

 ここにいるのは、武器も魔法も持たない人間の子供が二人だけ。鋭い爪と牙を持ち、運動能力も人間と比較にならない魔物に傷を負わせる術はない。

 だから僕は――ノアの手を離し、彼女を守るように前に出た。

 

「僕が囮になる。その隙に、君だけでも逃げて」

「なっ、何言ってやがる!? あんなやつ、おれがやっつけて……!」

「無理だよ。武器も持たない僕らじゃ、アレをどうにかすることは無理だ。そして、僕の体力じゃ逃げ切れない。だから、君が逃げるんだ」

 

 「聖女の力」なのか、ノアの反論は封殺される。……感情的になったところで、死体が一つから二つに増えるだけだと、彼女だってわかるだろう。

 どちらかが犠牲にならなければならない。だったら僕は、"子を産む女性"を生かす。農村の民として、当たり前の選択をするまでだ。

 大人ではない、だけど僕はもう「この村の民の一人」なのだから。

 

「……僕があいつに突っ込んだら、君は走って。振り返ってはいけない」

 

 恐怖がないわけではない。正直、逃げられるなら今すぐ逃げたい。だけどそれは不可能であり、諦めの方が上回った。

 だったら、最期ぐらい大切だと思った女性を守って逝きたい。僕の自分勝手な「男の意地」だ。

 獲物を見定めるためか、今まで唸っていただけの血色の狼が動き出す。僕も、狙いを僕につけさせるため、前に走り出した。

 

「っっっアルバぁ!!」

 

 ノアの悲鳴にも似た叫びが木霊する。そして、僕は――

 

 

 

 

 

 魔物を殴り倒していた。

 

『キャイン!?』

 

 ……は?

 

「は?」

「は?」

 

 食われるなら、せめて一発はやり返しておこうと作った握り拳は、突然動きを止めた魔物の顔面にクリーンヒット、全体重+全力疾走の勢いが乗ったそれは、魔物にダメージを負わせることに成功した。

 よろよろと起き上がる魔物。先ほどまでのプレッシャーはどこへやら、まるで怯えた子犬のような悲鳴とともに、茂みの中へと逃げて行った。

 

「……はぁぁ?」

 

 意味不明が過ぎて、僕の口からは意味のない声が漏れた。

 

 

 

 

 

 結局、今回の魔物襲撃による被害は、警備に当たった大人が何人か怪我をしたのみで、死者は0。建物や畑にも被害はなく、村はすぐに平穏を取り戻した。

 僕は……僕の両親と、当事者のノアと、なぜかユニちゃんと一緒に家族会議となった。

 

「それでアルバが魔物を殴り倒した、と……言いたいことはいろいろあるが、アルバ!」

 

 ピシリとお父さんからデコピンが入る。多大な心配をかけてしまったのだから、折檻もやむなしだ。

 

「他人の心配をし過ぎて自分をないがしろにしてどうする! お父さん、避難所にお前がいなくて心臓止まるかと思ったんだぞ!」

「……ごめんなさい」

「だけど無事でよかったぁぁぁ!」

 

 そのままの勢いで泣き出して僕を抱きしめるお父さん。ずっと我慢してたんだろうなぁと頭をなでる。ノアが若干引き気味だった。

 ユニちゃんはふくれっ面。大丈夫と言った手前、思いっきり危険と対峙してしまったことでご立腹の様子。それでいて僕の服の裾を離してくれない。

 お母さんはこの件についての追究はしないでくれる様子だが、別のことが気になるようで、表情が真剣である。……僕とお父さん以外にはわからないだろうけど。

 

「それにしても、不思議なことがあるものねぇ。おかげでアルバが命拾いしたから、問題はないんだけど」

「ああ、それについてはおれも証言するよ。なんか、突然魔物が動きを止めて、アルに殴られに行ったんだ。少なくとも、おれにはそう見えた」

 

 僕の感覚は間違いではなかったようで、やはりあのとき、ブラッドウルフは動きを止めていたようだ。客観的に見ていたノアがそう言うのだから、間違いはないだろう。

 疑問なのは、「何故そうなったのか」。そして僕には、一つだけ思い当たる節があった。

 

「あの……突拍子もない話なんだけど、聞いてくれるかな」

 

 やや立場が弱いためおずおずと手を挙げる。みんなが僕に注目し、僕は心当たりについて話し始めた。

 

「10歳の誕生日の前の晩に、夢を見たんだ」

 

 あの、「聖女」という存在を知ったときの話を。

 

 

 

「聖女……何故、女なんだ……」

「僕にもわからない……」

 

 いや本当に。お父さんは、真っ先に僕と同じところを疑問に思ったようだ。頭を抱えてうなっている。

 対照的にお母さんは「あらあらまあまあ」と上機嫌。

 

「可愛い子に産んだ自信はあったけど、女の人の役割も任せられるぐらい可愛いって認めてもらえたのね。お母さん嬉しいわ」

「お母さんならそう言うと思ったけどさ。そういうことじゃないと思うからね」

 

 結局「聖女」ってなんだよっていうのもあるし。少なくとも可愛いとかは関係ないと思うし、男としては格好いいの方が嬉しいし。

 どこかズレた僕の両親とは違い、ノアは真面目に考える。実績があるので「ただの夢」と切り捨てられることはなかった。

 

「その話が本当なら、「争いを平定するための力」ってのを、アルは持ってるってことになるんだよな」

「そういうことになるね。結局、それがどういう力なのかは教えてもらえなかったけど」

「なんだよ、カミサマってケチだな。それぐらい教えてくれてもいいじゃねえか」

「本人曰く「私は所謂神ではない」らしいんだけどね。多分、時間制限があったんだと思う」

 

 あまり長くはない夢に、唐突に溶け始めた意識。伝えるべきことだけを伝え、力の実態は重要ではないと判断したのだろう。

 

「カミサマは、「君はその力を使ってもいいし、使わなくてもいい」って言ってたから、力の中身はどうでもよかったんじゃないかな」

「だったらなんでその力をアルに渡したって話だよ。それでおれら助かってるから文句はないけどさ」

 

 あとは、「力があること」さえ伝えれば、僕自身がそれを突き止めるという考えもあったのかもしれない。

 

「推測なんだけど、「聖女の力」っていうのは、「説得する力」なんじゃないかと思うんだ。ひと月前のケンカを止めた件を思い出してみてよ」

「……言われてみると、アルが口を出した途端にみんなが落ち着いたな。今回も、アルの指示をみんなが黙って聞いた」

「それが魔物にも通用するとしたら、「あらゆる争いを平定する力」ってことにならない? だって、言葉だけでどんな戦いも止められるんだから」

「確かにそうなるけど……魔物には説得してないよな、お前」

「そうなんだよねぇ……」

 

 結局はそこが疑問点になって、結論には至っていない。遠くはないと思うんだけど、まだズレがある。そんな感覚だ。

 なんにせよ――過信は禁物だけど――ある程度は魔物に通用する力があるということは理解した。

 

「それで、どうするんだよ」

「どうもしないけど」

 

 僕に不思議な力があって、魔物から身を守れる可能性がある。それ以上のことは何もない。

 

 カミサマは確かに言った。「この世界は、完成している」「「聖女」は、その均衡を崩しかねない」と。

 だったら僕は、何もしない。自分と自分の周りを守ることに力を使って、それでおしまいだ。すべての争いを止めようだなんて大それたことは考えないし、するべきでもない。

 この世界のすべてを知る由もない僕がそれ実行できたとして、より大きな悲劇を生み出したのでは意味がない。僕は、僕の小さな世界を守れればそれで十分なのだから。

 

「僕は、この村で育って、この村で生きていきたい。それ以上は望まないよ。幸い、強制もされてないしね」

「……そっか。そうか、そうだよな!」

 

 何かを納得し、笑顔になって僕の背中をバシバシ叩くノア。

 いつの間にか自問自答に決着し、僕を優しく見るお父さん。相変わらず何を考えてるか読ませない笑顔のお母さん。

 「わたしをわすれないで」と、ふくれっ面で僕の裾を引っ張るユニちゃん。

 そして、この村のひとたち。それが、「僕の守りたい世界」なんだ。

 

 

 

 僕の無謀に対するお説教と、謎の力に関する情報共有が終わり、これにて家族会議+αは終了する。

 

「アルバに何か力があることはわかったが、だからと言って無茶はダメだからな! お父さん泣くからな!」

「わかってるよ。僕だって、進んで危険に飛び込みたいわけじゃないんだから」

「「聖女」ねぇ……今度行商人さんから仕入れる本で、何かわかりそうなのがあったら買っておきましょうね」

 

 いつものペースに戻る僕の家族。機嫌は直ったけど、まだ僕の服を離してくれないユニちゃん。

 だけどノアが、そっぽを向いている。さっきまで上機嫌だったのに、いきなりどうしたんだろう。

 

「ノア?」

「……、……っし。決めた! 決めたからな!」

 

 彼女は僕の方を向き、ずびしと指を突き付けてくる。いきなりのことに驚き、硬直する。

 そんな僕に彼女はずんずんと歩み寄り、鼻がくっつくんじゃないかというぐらいの距離に近づいた。

 それで、気付いた。彼女の頬が、ほんのり赤みを帯びていることに。

 

 その意味に僕が気付くよりも先に。

 

 

 

 彼女は、僕の頬に口づけをした。

 

「……――ッッ!?!?」

「っ、今はこれで勘弁してやる! だけど、覚悟しとけよ! お前が15になったら、おれが婿にもらってやる!」

 

 いきなり何言いだしてんのこの子!? お母さん、「ヘタれたわね」って何!? ユニちゃん、お腹つねらないで!?

 混乱する僕を見て、いたずらっぽく笑う女の子。そんなノアも、顔は真っ赤だった。

 彼女は家の戸口の方へ駆けていき、最後にくるっとこっちを向いた。

 

「わかったな、"おれの聖女様"!」

 

 そう言って、彼女は我が家から飛び出した。

 しばらく凍っていたお父さんが僕に抱き着き「アルバが婿に行っちゃうなんて嫌だよー!」と滂沱し、お母さんに引きはがされる。ユニちゃんは不機嫌に僕をぽこぽこ叩いている。

 ノアールが残していった混乱の只中、僕は天を仰ぎ、カミサマに尋ねた。

 

「……だから、聖女って何なの?」

 

 もちろん、答えが返ってくることはなかった。




続きません(鋼鉄の意志)
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