高すぎる天井。至る所に施された装飾。つるつるの床に敷かれた、これまたお高そうな赤い絨毯。
中にいるだけでめまいがしそうな空間の一番奥には、金縁に青い光沢ある布でできた巨大な椅子。
どう考えても1/5程度の大きさで役目は果たせそうなのに、なんであんなに大きいんだろうと、半ば現実逃避気味に脳みそがどうでもいいことを思考する。
「遠路はるばる、よくぞ参った。面を上げよ」
厳かに告げられるその声だけで、思わず身震いをしてしまいそうだ。……正直言って、こうして礼をしてお顔を拝見しないでいる方が楽なんだけど。
命令に従わないでいるのは不敬罪に問われる。覚悟を決めて、僕は顔を上げた。
玉座に座る、若々しく精悍な男性。お話に出てくるような赤いマントを羽織った老人ではなく、漆黒の鎧を着こんだ方こそが、この国の王様だった。
「汝らの名を名乗るが良い」
容姿に相応しい、若々しくも威厳を感じさせる声。喉が渇いて声が掠れかけた。
……大丈夫、僕は一人じゃない。一緒にガチガチになっていても、ノアがいるという事実が、僕を助けた。
「クーエル村の民、アルバと申します。家名はありません」
「お、同じくノアールですっ」
「うむ、報告に相違ない。二人とも、楽にせよ」
これはつまり、礼の姿勢を緩めて良いということだろうか。……シエルさんは無礼は気にしなくていいって言ったけど、やっぱり緊張感を抜くことはできなかった。
少しだけ姿勢を楽にする。隣のノアは、さすがに国王様相手だからだろう、楽にしろと言われて楽にはしてなかった。本当に楽にされたらどうしようかと思うところだ。
しかし、場違い感が酷い。国王様はもちろん、控えている大臣の方々や文官、衛士の方々も、高級そうな意匠の装いだったり、甲冑に身を包んでいたりと、謁見の間に相応しい格好だ。
それに対して僕たちは――さすがに普段着の麻の作業着ではないけれど――木綿製の変哲のない服。一応、これでも僕らにできる最高のよそ行きなんだけど。
「ここにいてもいいんだろうか」という考えは、どうしても頭から抜けなかった。
「報告にあった「聖女の力」とやらを持つのは、アルバ。そなたで間違いないな」
「はい。僕……私で間違いありません」
「そなたは、少々わかりづらいが、男だな。にも拘わらず「聖女の力」なのか?」
「……そう説明を受けました。今回のご要請をお伝えいただいた代官様は、"御神託"とおっしゃっていました」
「ふむ、やはり"オリジン"か。よかろう、男であろうが「聖女の力」という名を持つだけだろう。問題はない」
謁見の緊張に加え「余計なことをしゃべらない」緊張が僕を縛った。うまく説明できただろうか。
シエルさんとの会話でわかっていたことだけれど、オリジン自体は珍しくても全くないわけじゃない。彼という前例もあるわけだし、殊更に取り立てることではないのだろう。
……そんなことよりも、国王様直々に「男に見えない」と言われたのは、若干クるものがある。最近は以前よりも男らしくなったと思ったのに……。
国王様からの問いは続く。
「そなたの持つ「聖女の力」は、一体何ができる」
「私自身、理解できておりません。"御神託"では、「争いを平定できる」とだけ」
「具体的には、何も説明がなかったのか」
「はい。誓って、力に関しての説明はこれだけでした」
何かが国王様に引っかかったらしく、問いは止まる。……僕は、嘘は一切言ってない。本当に力に関しては何もわかっていないし、それを調べるためにここまでやってきたのだから。
しばしあり、国王様は「わかった」と頷き、じっと僕を見て、最後の問いを投げた。
「その力が有用だと分かったとき、この国のために使う気はあるか」
見透かされたような質問。あるいは、当然の問いかけなのかもしれない。国としては、僕の持つ力を有効利用したくて、入学要請をしたのかもしれないのだから。
だから僕は――ここだけは、絶対に譲れない。
「いいえ」
はっきり、拒絶の意志を示す。大臣の方々にざわめきが走る。それは、国王様が手を挙げることで、すぐにも鎮まった。
「そなたは、国のために働く気はないと申すか」
「私は、農民であることを望みます。お国のために働くとすれば、それは畑を耕すことです。得体のしれない力に頼ることではないと愚考します」
「では、何のために学院への入学を望む」
「私の持つ力がなんなのかを知り、事故を防ぐためです。代官様からも、そうご提案をいただきました」
緊張はある。それでも、譲れない意志を伝えるため、毅然とした態度で答えた。
国王様は、僕を見る。僕も、決して視線は外さなかった。
やがて国王様は、もう一度手を挙げた。
「文官、武官ともに下がれ。しばし、この者たちと話がしたい」
「!? 陛下、それは警備の問題があります! お考え直しください!」
「――そなたらは余が、フリューゲル王家13代・アウグストが、かような子供らに後れを取ると申すか?」
まるで言葉だけで切り捨てるような、刃を思わせる空気だった。進言した大臣の方は、それを一番に受けたためか、畏れが表情に出ていた。
シエルさんの言った通り、国王様は僕たちの無礼をとがめはしなかった。……だけど、優しいだけの王様では、決してなかった。
「三度は言わぬ。下がれ」
「……はっ!」
もはや有無は言わせぬと、玉座の横にかけられた剣に手をかける。それの意味するところは理解できるだろう、僕とノア以外の全員が謁見の間から外に出ていく。
末尾の衛士の方が一礼をし、退出する。ゴゥンという低い音が響き、巨大な扉は締められた。
謁見の間は、僕とノア、そして国王様の三人だけとなった。
ただ事態の推移を見ているだけだった僕は、内心半狂乱だった。
なんで!? 王様と個人面談!? なにそれこわい!?
ノアに助けを求めようにも、彼女は僕が「いいえ」と言った瞬間に意識を飛ばしていた。頼れない幼馴染だなぁ、クソァ!
どうすればいいかわからず固まっていると、僕らの内心を気遣ったのかそうでないのかはわからないけれど、国王様はわかりやすく大きなため息をついた。
「そなたら、本当に楽にして良いぞ。足も崩して構わん」
「え……、しかし、陛下……」
「良いと言っている。誰が見ているわけでもなし。口調も、普段と同じで構わぬ。そなたらが農民であることを望むならば、私もそのように扱うまでだ」
「それとも、文官として徴用されることを望むか?」といたずらっぽく言われ、僕はあわてて正座した。あぐらはさすがにかけなかった。
ノアは……まだ戻ってこれてなかった。
「ノア、起きて。楽にしていいってよ」
「……ハッ!? アル、お前何言ってやがんだ!?」
「遅いよ。だいぶ前に終わったよ、その話」
そもそもノアは僕の意向なんてわかってるはずなんだから、あの答えはわかってただろうに。……わかっててもキツいものはキツかっただろうけど。
僕たちの素の様子を見て、国王様――アウグスト陛下は笑った。
「はっはっは。元気な子らよ。それでいて、私の要請を跳ね除ける意志が気に入った。正直なところ、あそこで屈して首を縦に振るようでは失望していた」
「試すような真似をしてすまなかったな」と、彼はシエルさんの言葉通りの「優しい王様」として、僕たちに語りかけた。
これ……つまり、僕たちがあの村で過ごしたいと思ってることを、知ってたってこと?
「「報告に相違ない」と言ったであろう? そなたは「村の出身」ではなく「村の民」と言った。そこまで含めて報告通りだったということよ」
「……つまり、どういうことだってばよ、アル」
「僕たちの意識が「農村の民」だってこと。代官様は、僕たちの意向含めて報告してたんだよ」
改めて、僕たちの村の代官様は人格者だと思う。最後まで僕たちに寄り添い、王命を全うしたんだ。本当に頭が上がらない。
そして、それはアウグスト陛下も。決して無理強いはせず、僕たちの意志を尊重しようとしている。
「私はもとよりオリジンに頼るような治世は行っていない。そのようなやり方では、すぐに立ち行かなくなる。故にオリジンを無理に囲い込むことはせぬよ」
「つまり、僕の力がなんであれ、初めから僕の自由意思に任せる気でいたってことですよね」
「……なんだよそれ~。こっちは心臓止まるかと思ったぞ」
よほど緊張していたのか、どかっと座り込んであぐらをかくノア。それは失礼なんじゃないかと思ったけど、陛下はみじんも気にした様子を見せなかった。本当に僕らを農民として扱っているのだろう。
ノアに合わせたか、陛下は玉座から立ち、僕たちの目の前であぐらをかいた。ええ……。
「陛下、いくらなんでもそれはやりすぎなのでは……」
「そなたらを農民として扱うならば、同じ目線に立たねば話もできぬだろう。構うことはない」
「……なんかもう、緊張してたのがバカみたいだな。王様、あんた絶対変な人だろ」
不敬すぎィ!? あまりにもいつも通りすぎるノアにギョッとしたけど、むしろ今この場になじんでいるのは彼女の方だった。ここ、王宮だよねぇ……。
「そもそも周りの貴族どもがもてはやし過ぎなのだ。我々王族は、常に魔物との戦闘の最前線にいると言って過言ではない。尋常な感性ではやっていけぬよ」
「王様って、魔物と戦うのか?」
「無論。この鎧が、何よりの証拠だろう」
最初から威容を感じさせていた、漆黒の鎧。それは人ではなく魔物から身を守るための、戦いの装束だったようだ。陛下は常に自身を戦場に置かれていた。
「ふむ。そなたらは、貴族とは何か、知っているか」
「え? えーと、本で読んだ通りなら、指導者ですよね。領主様だったり、代官様だったり」
「おれは「なんかえらい人」ぐらいしかわからねえや」
「二人とも、貴族の認識として間違ってはいない。が、正確ではない。貴族は、「民を守る者」だ」
民衆の上に立ち、下々を守るために戦う。そのやり方が、魔物との直接戦闘であったり、領地の経営であったりする。陛下はそう語った。
「民に支えられる貴族は、民を守るために戦う。その最たるものが王族であり、故に私は、政治も戦闘も行うのだ」
「両方とも、「民を守る」ということになるんですね。何となく、わかりました」
「……うーん。魔物と戦うのはわかるけど、なんで政治ってやつが民を守ることになるんだ?」
「僕たちの村が豊かなのは、領主様の政治がいいからだよ。それって、領主様に守られてることにならない?」
「そういうことか!」
僕の説明で納得するノアを見て、陛下は小さく笑みを浮かべた。……これも、「報告通り」ってことかな。
ここで、アウグスト陛下は奇妙な質問を投げかけた。
「ではそなたらに問う。魔物とは、なんだと思う?」
話の流れ的にはおかしくない、だけど明らかに空気を変えた質問だった。
僕は一旦頭をリセットして、まずは本で読んだ定義通りを答える。
「"人間と敵対する存在"。人間と対峙した際、必ず襲い掛かってくる者。辞書には、そう書いてありました」
「そういうもんだったのか? おれは「人を襲うやべーやつ」としか思ってなかったよ」
「大半の人はノアと同じ認識だと思うよ。……これに対し、僕がどう思うか、ですよね」
陛下は頷き、僕の答えを急かさず待った。目を閉じ、しばし考える。
すると、ある疑問が浮かんだ。「何故魔物は、必ず人を襲うのか」。
ただ飢えをしのぐためならば人である必要はなく、また人は武器や魔法で彼らを殺傷することができる。はっきり言って、行動原理としては非合理だ。
「……なんで魔物なんて存在がいるんでしょうね」
「それ、答えになってるか?」
「僕だってそう思うよ。でも、考えれば考えるほどわからなくなるんだ。なんで魔物が人を襲うのか。理由がまるでわからない」
「着眼点は良い。事実、魔物の被害を減らすため、「魔物が人を襲う理由」を調べている学者は存在する。もっとも、今のところすべては仮説の域を出ていないが」
そうおっしゃってから、陛下は立ち上がる。謁見の間の高い壁の上の採光窓の外を眺めた。
「原理については、学者が調べればよい。それが彼らの仕事だ。だから私は、私の立場から考える。そうすると、見えてくるものがあるのだ」
その目ははるか遠くを見つめ、もしかしたら野山を駆ける魔物を想像しているのかもしれない。
陛下は答える。
「魔物は、"貴族を貴族たらしめる"」
「それって、どういう……?」
「そなたらの領主は名君だから想像がつかぬかもしれぬが、王都にはいるのだ。"名ばかり貴族"というものが」
魔物とは戦わず、政治も行わず、ただ祖先の積み上げた功績で貴族を名乗る、実体のない貴族。それが"名ばかり貴族"だと、陛下はおっしゃった。
「彼奴らは、貴族であって貴族でない。民から支えられるのみで、民を守らない。私より前の王の時代からある、王都の悩みの種よ」
「……やっぱり、想像できないです。そんなことしたらみんなから見捨てられるって、普通に考えたらわかるじゃないですか」
「だよな。うちの村でそんなバカやる奴いたら、まずそいつの親がぶん殴るよ」
「やはりそなたらは農民だな。そなたらは、それでよいのだ。彼奴らに関しては、私が親のようなものよ」
「あまりに目に余るようなら、その者から貴族位をはく奪する」と陛下はおっしゃった。ただ、この方法は本当に最終手段らしく、簡単に行えるようなものではないらしい。
そして……最終手段にさせてくれるのが、魔物の存在なのだという。
「魔物がいれば、少なくとも領地を持つ貴族は、"魔物から領地を守る"という仕事を行える。放っておけば領地を失うのは自分なのだからな」
「貴族視点での、魔物との向き合い方。それが"貴族を貴族たらしめる"ということですか」
「……けどそれ、農民からしたら迷惑な話だな。だって、生きるか死ぬかが貴族のさじ加減一つってことになるだろ」
珍しく穿った見方をするノア。もしくは、農民視点から見た"貴族と魔物"だったからかもしれない。
もちろん農民だって自衛はするけど、限界がある。僕たちは、ブラッドウルフの脅威にさらされた経験があるのだから、肌で理解していた。
そして陛下は、そこまで含めて物事を見ていた。
「大きな視点から見る魔物と、個人の視点から見る魔物は、まるで姿が違う。脅威は減らさねばならないが、脅威がなければ人は堕落する。その見極めが、難しいのだ」
国王として、国を運営するために貴族を堕落させるわけにはいかない。かと言って、領民をないがしろにするわけにはいかない。陛下は常にそのバランスと戦っていた。
――思い出すのは、カミサマの言葉。「人と魔物の陣営で別れ、争いを続けることで均衡を保っている」。あれはこのことを示していたのだろうか。
だとしたら、「争いを平定する」という僕の力は……。
「だからこそ、アルバ。そなたの力は、無闇に使うべきではないのだ」
僕の考えと、陛下の言葉は、完全に一致した。今の会話の意味を、完全に理解した。
文官と衛士すべてを退出させた理由もまた、この一言のためだったのだろう。彼らの前で言うべき言葉でないのは、僕でもわかる。
僕は、無言でうなずいた。ノアは「え? え?」と僕と陛下を交互に見た。
「もし僕の力が、本当に「すべての争いをなくせる」なら、微妙なバランスが完全に崩れてしまうから……」
「その通り。個人レベルならば、問題にはならないだろう。だが世界すべての争いを失くせば、人は堕落に傾く。私とて、それに抗えるかはわからん」
背筋がゾッとした。もし僕が、何も知らず、影響範囲もわからないで力を使って、争いのない世界になってしまったら。……僕が、世界を終わらせてしまうのだ。
今まで僕は、世界を壊す爆弾を抱えながら、のんきに生きてきたのだ。ちょっとした拍子に着火してしまうかもわからないのに。
震える僕を、ノアが抱きしめた。いつもの男勝りな悪ふざけではなく、僕の不安を和らげるように。
「大丈夫だ。落ち着け、アル」
「……ありがとう、ノア。君がいてくれて、本当に助かった」
「いつも言ってるだろ。婿を支えるのは、嫁の仕事だ」
軽口も受け入れ、僕はノアの腕を抱き返した。……怯えがすべて消えたわけではないけれど、再び立ち向かう勇気はもらえた。
僕は、この爆弾を爆発させないためにここに来たんだ。前に進まなくちゃ、意味がない。
「ふふ……これではどちらが「聖女」かわからんな。いや、そなたらは二人で一人の聖女なのだろう」
「聞いたか、アル。王様から夫婦のお墨付きもらえたぞ」
「そういう意味じゃないよ」
僕一人では無理かもしれない。だけど、僕は一人じゃないんだ。故郷から遠く離れた土地までついてきてくれる、大切なともだちが一緒なのだから。
僕たちが落ち着くまで待ってから、アウグスト陛下は僕に使命を与えた。
「アルバよ。己の力を知るのだ。そして、それを御することを知るのだ。さすれば、そなたは望むように生きることができるだろう」
「必ずや全う致します、陛下」
「ノアールよ。アルバを支えよ。一人では抱えきれぬものも、二人でならばまた違う。そなたの望みを果たすがよい」
「応よ! 元からそのつもりだっての!」
威勢よく啖呵を切る少女。国王様への遠慮なんかすっかりなくなってしまっているけど、人前でこれはまずすぎる。
「ノア。わかってると思うけど、人前では陛下にそういう態度取らないでね。陛下は気にされない方だけど、周りは違うんだから」
「ああ、わかってるよ。えーと、こんなもんで大丈夫ですよね、王様」
「うむ、農民とはそういうものだ。アルバも、もっと砕けて構わなかったのだが……ここも報告通りとしておこう」
代官様、ほんとどういう報告をしたんだろう……。今更ながらちょっと気になった。
「あの、僕の評価ってどんな感じだったんですか」
「む? 報告では件の力に加え、芯から農民であること、その割には聡明であること、家族や友人に恵まれていること、悪い評価と言えば男らしい魅力には欠ける程度のものだ」
「……やっぱりそんな感じなんですね」
口から魂出そう。男らしさってなんだよ。そりゃいまだに力でノアにかなわなかったりするけどさぁ……。
僕が落ち込む理由は陛下もわかっているだろうし、こうなれば隣の幼馴染が僕の背中をひっぱたくのがお決まりなわけで。
「そんなもん気にすんなって! おれはちゃんと、お前の良さをわかってるよ」
「そうだと信じてるよ。でもそんな簡単なもんじゃないんだよ、男心ってものは」
「お前はものを複雑に考えすぎなんだよ。他のガキどもはもっと単純だったぜ」
「僕が単純に考えてちゃダメでしょ。収集付ける側だったんだから」
「お、そうだな!」と無責任に笑う単純代表。本当に僕たちは正反対だなと、思わず苦笑が漏れた。
そんな僕たちの様子は、陛下にとって安心できるものだったらしい。
「そなたらは、よきパートナーだ。学院でも、助け合って励むのだぞ」
「はーい! ちゃんと婿の面倒みますよっと!」
「だから僕は認めてないっ!」
最後はノアのせいでぐだぐだになったけど、僕たちは無事に陛下との面談を終えた。
陛下が鐘を鳴らし、謁見の間の扉が開かれ、改めて大臣の方々が並ぶ。僕とノアは、最初の礼の形を作っておいた。
国王としての威厳を持って、陛下は告げる。
「汝らの意向はすべて通す。アルバ、ノアール、両名の学院入学を承認し、卒業後は故郷へ帰ることを認める」
「ありがたき幸せ」
「今期の開校までしばしの猶予がある。汝らは学院の寮を使い、まずは王都に慣れるがよい。文大臣、荷大臣はそれぞれ手配せよ」
『ハッ!』
「これにて、アルバ、ノアール、両名の謁見を終了とする。執事長、二人を飛竜便停留所まで案内せよ。では二人とも、下がってよいぞ」
こうして僕たちはアウグスト陛下への謁見を終え、老執事に案内されて謁見の間を後にした。
停留所に着くころには既に飛竜便の用意は整っており、少し前に別れた騎竜師がきれいな礼をして立っていた。
「シエルさん。またお世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いします。国王様とのご対談はいかがでしたか?」
「なんかもう、想像してたのと全然違ったよ。すげー王様だな」
「ですよね」と笑うシエルさん。……もしかしなくとも、シエルさんのときも絨毯にあぐらとかやったんだろうなぁ。
見様によっては破天荒な国王様。だけど、物事を多面的にとらえていて、国民一人一人に心を砕く優しい王様だった。
だからシエルさんは、こんなにも陛下を慕っているのだろう。
「あれ、よく見たら竜が違いますね。ランディよりちっちゃい……」
「あの子は長距離移動が得意なんですよ。この子はハルと言って、国内での移動に使われます。女の子ですよ」
竜の雌雄の区別はつかないけど、彼より二回りほど小さい。性格もだいぶ違うようで、先ほどからシエルさんにじゃれついては頭を撫でられている。
「見ての通り甘えん坊で、定期的に構ってあげないとすねちゃうんですよ」
「へぇ。一頭一頭、個性的なんですね。……改めて、騎竜師ってすごいんですね」
「そうですね。私は、この職に誇りを持っています。お褒めいただき感謝します」
竜の個性を理解して触れ合わなければならず、空という危険な場所で竜の機嫌を損ねず操縦する技術も必要なのだ。
シエルさんの能力は確かに有利かもしれないけど、それだけで騎竜師になれるというわけではない。彼の努力のたまものだ。
――アウグスト陛下の言葉が脳裏に浮かぶ。「私はもとよりオリジンに頼るような治世は行っていない」 シエルさんが騎竜師なのはオリジンだからではなく、彼が騎竜師を志したからなのだ。
「僕も、立派な農民にならなきゃなぁ」
「その前に立派な家庭を作る、だろ。……あと3年だからな」
「怖くなるから処刑宣告みたいに言わないでくれる?」
ほんとにもう、この子はブレないなぁ。もっともノアの言うことにも一理はあるんだけど。
僕たちの村で15歳を迎えた農民は大人となり、家庭を作ることを求められる。20歳ぐらいまでなら独り身も許されるけど、それを過ぎると「ちょっとは焦れ」とせっつかれることになる。
僕はあと3年、ノアは来年で15歳となる。そんな時期に学院で学ぼうとしている僕たちに、果たして出会いの機会は訪れるのだろうか。
……なし崩しにノアと結婚させられそうで、ちょっと怖い。別に彼女が結婚相手として考えられないわけではないけれど。選択肢なしに結婚させられるのは、やっぱり癪に障る。
「僕が15になるまで待ってたら、ノアは立派な行き遅れだからね。わかってる?」
「うるせえ! 1年や2年、誤差だよ誤差!」
「お二人とも、すっかり固さが取れましたね。それでは、もっと王都に慣れるよう、空の旅へご案内致します」
シエルさんに促され、僕たちはハルの籠に乗る。やっぱりこの籠も王宮御用達のフカフカの椅子だった。
「なんかもう一生分の贅沢してるよね、僕ら」
「そうか? 珍しい経験はできてると思うけど」
「王都では、もっといろいろな経験ができると思いますよ。この程度で一生分などと言わず、もっと贅沢をなさってください」
やっぱりシエルさん、僕の反応で遊んでますよね。問いには笑顔で肯定を返された。
「それではこれより、王立学院寮を目指して飛行致します。上昇時と下降時には席をお立ちにならないようお願い致します」
僕たちが頷き、シエルさんが手綱を打つ。ハルは立ち上がり、助走をつけて飛び上がる。
僕たちは、王都の空へと飛び立った。
降りてきたのが謁見周りまでだったので、今回特に短いですけどここまで。わける必要なかったかも。
続きは知りません(文章が降りてこなければ続きません)
そこそこ登場人物増えたので
アルバ 11歳(すぐに12歳) 男
黒髪黒目の男の娘(微) 主人公。「聖女の力」という能力を与えられている。身分は農民。
名前の由来はラテン語の白。
ノアール 13歳(夏頃に14歳) 女
茶髪黒目、割りと発育の良い活発な美少女だけど、言動で全部台無しにしてる。褐色というほどではないけど日焼け肌。身分は農民。
名前の由来はフランス語の黒。
ユニ 8歳 女
金髪青目、可愛い系美少女。おっとりかと思いきや元気っ娘。アルバをおねえちゃんと呼ぶのは半ば癖。身分はまだない。
名前の由来はフランス語の黄色。
ルフィーナ 1歳 女
黒髪黒目。アルバの妹。皆からルフと呼ばれて可愛がられている。まだしゃべれない。身分はまだない。
名前の由来はラテン語の赤。
シエル 20代 男
金髪緑目。元農民現騎士。動物と意思疎通できる固有能力持ち。騎竜師。
名前の由来はフランス語の空。
アウグスト・フリューゲル13世 30代前半 男
金髪青目。現国王。ローザリアノオウジョがモデル。滑舌はいいし棒読みでもない。王妃様も王子殿下もいる。
名前の由来は元素記号とギリシャ語の金。
名前与えられてる人たちだけ。
今さらだけど、基本的に色から名前を取ってます(竜は別)