ハリー・ポッターと魔術王の継承者 作:スティグリッツ
9月1日。待ちに待ったホグワーツ入学の日だ。一ヶ月前は随分と待ち遠しく感じたものだが、今振り返ってみるとあっという間のようにさえ感じた。
「それじゃあ、気をつけてね。困ったことがあったらいつでも手紙を送ってきていいからね」
「うん。ありがとう、お母さん。そっちも元気でね」
親子にしては余所余所しく簡素な挨拶を交え、ソニアは駅まで送り届けてくれた母を見送った。これから仕事なのだろう、ピシッとスーツを着込んだ母は足早に去っていった。振り返ることは、無い。
ソニアも最後まで見届けることなくすぐに顔を背け、プラットホームに向かう。
「それにしても⋯⋯4分の3番線って何よ?」
ソニアはポケットから取り出したチケットを見て、大きく溜息を吐いた。
チケットにはこう記されている。
『9月1日 キングス・クロス駅 9と4分の3番線 ホグワーツ特急 11時発』
⋯⋯これではホグワーツへの行き方がサッパリ分からない。きっとハグリッドは重要な説明を忘れているに違いない。
しかし、そんな疑問も9番線の辺りにやってくる頃には氷解していた。
9番線と10番線のプラットホームの改札口の間。そこの柵は、漏れ鍋などで目にした魔法界特有の違和感を放っていた。しかも、よくよく観察してみると、辺りにもチラホラとそう言った『ゲート』とでも言うべき場所が点在しているのだ。
魔法族はもっと人目を忍ぶものだと思っていために、これは驚きだった。木を隠すなら森の中、ということだろうか。
感心しながら、一息に柵に突っ込む。衝撃は無い。あるのは、刹那の浮遊感だけだ。気づいた時には、彼女の目前には真っ赤な蒸気機関車が鎮座していた。ホームの上には『ホグワーツ特急11時発』の魔法の文字が浮いている。魔法の世界の列車だから何か特別な物であろうが、少なくとも見た目はそこら辺の鉄道車両と何ら変わりなかった。
キョロキョロとあたりを見渡してみると、まだ発車まで30分近くあるというのに、ホームは既にホグワーツの学生とその親たちで鮨詰め状態だ。
至る所から聞こえて来る御涙頂戴の感動シーンを極力視界に入れないようにしながら、ソニアは縫うようにして人混みをくぐり抜け、見事列車への搭乗に成功した。
どうやらこの列車は新入生以外も乗っているらしく、コンパートメントは殆ど埋まってしまっていた。最前列辺りに乗ったと言うのに、結局ソニアは遥か後ろの車両まで逆流する羽目になってしまった。
やっと見つけた客席の窓側の席に腰掛けると、ソニアは鞄から分厚い本を取り出した。
『幻の動物とその生息地』──ニュート・スキャマンダー著
無類の動物好きであるソニアだが、何故か生まれつき彼女は動物に好か難い体質だった。近寄れば憐れなほどに震え出してしまうか、異様な警戒心を露わにするかのどちらかだった。
しかし、ここは魔法の世界。マグルの常識は通じない。ソニアはもふもふの一角兎や素晴らしい毛並みの天馬に擦り寄られる姿を想像し、顔をにやけさせながら本を読み耽った。
「ごめんなさい、ここ、座ってもいいかしら?」
ヒッポグリフと仲良くなる脳内シミュレーションは、コンパートメントの戸が開く音によって中断された。入ってきたのは、ふわふわの栗色の髪と大きな前歯が特徴的な女の子だ。
「ええ、どうぞ」
それきり視線を本に戻す。暗に『話しかけないで』と態度で示したつもりだったのが、少女には通じてないようで弾んだ声で喋り始めた。
「私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。それって『幻の動物とその生息地』よね? 私も読んだわ⋯⋯⋯⋯すっごい刺激的だった! あまりに面白くて、1日で全部暗記しちゃったわ。貴女はどんな魔法生物が見たい? 私は断然ペガサス。特にセストラルよ。人によって姿が見えないだなんて、とっても不思議だわ!」
恐るべき肺活量のハーマイオニーに、ソニアは目を丸くして黙りこくる。たまにスターリング家にやってくる世間話が大好きな親戚のおばちゃんを彷彿とさせた。
「⋯⋯ソニア・スターリングよ」
「ソニアね。よろしく。貴女の親って魔法使い?」
「いえ」
「あら、なら私と同じよ! 私の家族にも魔法族は1人もいないの。マグルって言うらしいわ。だから手紙が届いた時はとっても驚いたわ⋯⋯今でも信じられないくらい!」
どうやら読書は中断せざるを得ないようだ。ここで本を片手に無視し続けたら烈火の如く怒るのは目に見えている。
ハーマイオニーのマシンガントークは、列車が汽笛を鳴らしてからも止まる気配を見せなかった。ソニアが二言三言しか返事をしなくてもまるでお構いなしだ。きっと喋るカカシだとでも思っているに違いない。
ホグワーツに着くまでの数時間この苦痛に耐えねばならないのか、と死んだ目でハーマイオニーの話に相槌をうっていると、ソニアにとっての救世主がやってきた。
「車内販売よ。何かいりませんか?」
ソニアは一も二もなく飛びついて───丁度昼時で小腹も空いていた───たんまりとお菓子を買い込んだ。
ハーマイオニーの分も、大量に。流石に口に物が入ってる間は喋りようが無いだろう。
「⋯⋯ねえ、見て‼︎ マーリンよ! あの、マーリン! 『歴史上最も有名な魔法使い。花の魔法使いとして知られている。アーサー王の相談者』ですって! 教科書の中にも何度も出てきたわ。私、彼のように歴史に名を残す魔法使いになりたいわ!」
⋯⋯もっとも、その目論見は見事に外れたが。ハーマイオニーは車内販売で買った蛙チョコレート────中に有名な魔法使いの写真が載ったカードが入っている魔法界のおやつだ。驚くべきことに、その写真は〝動く〟────を開けては、はしゃぎながらソニアに話しかけてきた。
「あら? 貴女のはゴドリック・グリフィンドールね! ホグワーツの創始者のうちの1人よ。知ってる? ホグワーツには4つの寮があるの。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリン。私、グリフィンドールが良いわ! 貴女は?」
「え? ええっと⋯⋯、ハッフルパフかしら。みんないい人そうだし」
トークテーマを二転三転させながら途切れることのないの会話。ハーマイオニーの驚天動地の語彙力に、ソニアは一周回って感心さえ覚えていた。そんな彼女に押されるように、ソニアも徐々に口数を増やしていった。
「ハッフルパフね。悪くは無いと思うわ。知ってる? その本を書いた人───ニュート・スキャマンダーもハッフルパフ出身らしいわよ。でも、私はやっぱりグリフィンドールがいいわ。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたし」
「ダンブル⋯⋯なに?」
「〝ダンブルドア〟よ。アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。入学案内にも書いてあったでしょう? 20世紀を代表する偉大な魔法使いで、ホグワーツの校長よ」
「ふぅん⋯⋯」
ハーマイオニーに手渡されたカードを見る。流れるような銀色の髪と見事な顎髭を蓄えた姿勢の良い老人だ。日に照らされた水面のようにキラキラと光る瞳が印象的である。
というか、よくこれだけ長いフルネームを噛まずに言えるものだ。
暫く会話に花を咲かせていると、不意にコンパートメントの戸が叩かれた。
「ごめん、僕のヒキガエルを見なかった?」
やってきたのは、丸顔でぽっちゃり気味な男の子だった。可哀想なくらいに顔色を悪くしていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
「いえ、見てないけれど⋯⋯」
「私も」
「そっか⋯⋯。どうしよう、トレバーったらすぐ僕から逃げるんだ。見つからなかったら、おばあちゃんになんて言われるか⋯⋯」
ついにはメソメソとぐずりだしてしまった少年に、ハーマイオニーは慌てて駆け寄ってあやし始める。
「大丈夫よ。私たちも一緒に探してあげるから⋯⋯」
私たち?
いや、別に彼のヒキガエル探しに手を貸すのには吝かでは無いが、人の断りもなく勝手に了承するのはどうかと感じた。
「う、うん。ありがとう⋯⋯。僕、ネビル・ロングボトム」
「私はハーマイオニー・グレンジャー。彼女はソニア・スターリングよ。それで、トレバーはどんな見た目をしているの?」
ネビルからトレバーの特徴を一通り聞いた2人は、手分けして列車内を探索することになった。
しかし、半ば予想がついていたことだが、この非常に長大で広大かつ数百の生徒で犇めき合っている車両から、手のひら大のヒキガエルを探し出すことは非常に難航した。しかも、向こうは自由に動き回るのだ。一つのコンパートメントを探している背後で茶色のヒキガエルが駆けていく様が容易に想像できる。
「⋯⋯失礼しました」
上級生達がいたコンパートメントの扉を閉め、げんなりとした様子で溜息を吐く。列車の外に逃げてないことを切に願うばかりだ────もっとも、その場合トレバーは挽きガエルにでもなっていることだろうが。
だが、そんな途方もない作業は思わぬ形で終わりを迎えることになる。歩き回っている内に尿意を覚えたソニアが用を済ませると、なんと洗面台の側で迷いガエルを発見したのだ。茶色のそいつは間違いなくトレバーだった。
ソニアが手を伸ばすと、カエルとは思えない俊敏さで逃げ出そうとしたが、一睨みすると小鹿のように身を震わせながら大人しくなった。大変不本意だが、ソニアは生まれて初めてこの悲しき特殊体質に感謝した。
すっかりと大人しく縮こまってしまったヒキガエルをポケットに入れ、元のコンパートメントに戻る。
だがまだ2人は捜索中らしく、そこはもぬけの殻だった。ソニアは今度は人探しの旅に出る羽目になってしまった。と言っても、こちらはすぐに見つかった。彼女の甲高い声は実に特徴的だったからだ。
「────でもレイブンクローも悪くないかもね」
「あ、いた。ロングボトム、ほら」
「あっ、トレバーっ⁉︎」
ガラリとコンパートメントを開き、所在なさげに突っ立っていたネビルにヒキガエルを投げ渡す。放物線を描きながらポトリと彼の掌に落ちたトレバーは、放浪癖が嘘のようにポケット目掛けて一目散に逃げ出した。
「ああっ⋯⋯よかったぁ! ソニア、ありがとう‼︎ これでおばあちゃんに怒られないですみそうだ!」
「別に。気にしなくていいわ」
裏表ない感謝に照れ臭くなって、ソニアは視線を逸らした。
「あ、キミは⋯⋯」
「⋯⋯。久しぶりね、ポッター」
一瞬名前が思い出せなかったのは秘密だ。
「あー、うん。久しぶり、スターライン」
お互い様だった。いや、向こうのが酷い。
「お知り合い?」
「あー、うん。まあね」
赤毛の少年の質問に、ハリーは曖昧に頷く。まあ彼からしたら自分とハグリッドの後ろを背後霊の如く着いて回っていた女の子だ。印象に残らなくて当然である。
「さ、ネビルのヒキガエルも見つかったことだし、早くコンパートメントに戻りましょ。放っておいたら他の人たちに盗られちゃうもの。──ああ、それと2人とも着替えたほうがいいわ。もうすぐ着くはずだから」
ツカツカと早足で戻るハーマイオニーに、慌ててネビルが着いていく。
ソニアはほつれの一つもないローブの背を恨めしそうな目で睨め付ける。
────こいつ、サボってやがったな、と。
「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」
新品のローブに着替えホグワーツ特急から下車した新入生たちは、大木の如き大男───ハグリッドの持つランプに誘われるようにわらわらと集まった。
「よし、よし。さあ、ついてこいよ。足元には気を付けろ。途中で変な生き物を見ても追いかけたりするんじゃないぞ。いいか! イッチ年生、ついてこい!」
明るいランプに照らされるハグリッドはいい目印だった。それがなければきっと誰かが迷子になっていただろう。それくらい真っ暗で、木が鬱蒼としていて、険しい山道だった。お喋りなハーマイオニーも流石にこの時ばかりは余裕が無さそうだった。
「みんな、ホグワーツが間もなく見えるぞ。この角を曲がったらだ!」
ハグリッドがそう言い終わらない内に、視界が突然開け、大きな湖の辺りに出た。
「うぉーっ!」
あちこちから一斉に歓声が湧き上がった。ソニアも柄にもなく黄色い悲鳴をあげてしまう。
何せ、それは学校というよりも〝城〟だったのだ。シンデレラや白雪姫に出てきてもおかしくないような、壮大で立派なお城である。ソニアは〝まるでお城のような〟豪邸のパーティーに参加したこともあったが、それがまさしくただの比喩でしかなかったことを初めて知った。
「4人ずつボートに乗って!」
マグルの小学生時代の嫌な記憶を彷彿とさせるセリフにソニアが遠い目をしている内に、ハリーと赤毛の少年、ハーマイオニーとネビルは同じ船に乗り込んでしまった。
ソニアはボーッとしている内にハグリッドに組分けされた───のだが。そのうちの2人がとても同じ歳とは思えないほどに大柄で重量級であったため、船が今にも沈みそうになってしまっていた。同乗の気品の良さそうな少年の顔色も随分と青白い。
「おい、クラッブ。湖の魚を取ろうとするんじゃない。ゴイル、それは蛙だ」
どうやら彼らはお友達同士のようだ。とても苦労していそうだ。生え際が心配である。
「みんな乗ったか? よーし、では進めぇ!」
ボートには魔法がかけられているようで、ハグリッドの号令とともに一斉に湖面を滑るようにして動き出した。
「まったく、あんな大声を出さなくても聞こえるというのに⋯⋯。まるで野人だ。ああ、自己紹介が遅れたね。僕はドラコ・マルフォイ。そっちのがクラッブで、向こうのがゴイル。キミは?」
「ソニア・スターリングよ」
「ふむ? 失礼だがあまり聞き覚えのない家名だね」
「それはそうよ。だってうちの家庭は非魔法族だもの」
ドラコの顔が急変する。顔からはスーッと表情が失せていって、瞳には剣呑な色が帯びる。嫌悪の色で満ち満ちた視線は、随分と久しく向けられていないものだった。
「チッ、なんだ。キミもその口か。『穢れた血』⋯⋯。これだからホグワーツは嫌だって母上に言ったんだ。ダームストラングの方が⋯⋯⋯いや、それはもういい」
それきりドラコは黙りこくってしまった。ソニアには何がなんだかよく分からないが、どうやら魔法界にも人種差別はあるらしい。『穢れた血』というのが何かは知らないが、名称から大体の予想はつくというものだ。
別に自分がどうこう言われるのは構わないが、両親まで馬鹿にされるたような気がして少し腹立たしかった。
地下の船着場に到着するや否や、ソニアはサッと彼らから離れた。元々他人と深く関わり合いを持つようなタイプではないが、ドラコのことは特に好きになれなさそうだった。
生徒たちは相変わらずカルガモのようにハグリッドの背を追いかけ、石段を登っていく。やがて巨大な樫の扉の前までやってくると、大きくノックをした。
ギィっと音を立てながら一人でに開いた扉の先にいたのは、厳格な顔つきを老女だった。ソニアの家に入学案内にやってきた魔女にして副校長、ミネルバ・マクゴナガルだ。
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
マクゴナガル教授に連れられてこられたのは玄関ホールの脇の小部屋だった。百人以上いる新入生を収容するには少々手狭で、誰もが窮屈そうにしていた。
「ホグワーツ入学おめでとう。
新入生の歓迎会が間も無く始まりますが、大広間の席に着く前に皆さんが入る寮を決めねばなりません。組分けは非常に大切な儀式です。ホグワーツにいる間、寮は皆さんにとっての家になるのですから。
寮は4つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。それぞれ輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いや魔女が卒業しました。
ホグワーツにいる間、皆さんの行いに応じて自分の寮に特点や減点がなされます。学年末には最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りになるように願っています」
マクゴナガルの厳かな声はどこか浮き足立っていた新入生の気を引き締めるのに十分だった。彼女は服装の乱れを直しておくように忠告すると、準備のために部屋を出ていった。するとそれを皮切りに、あちこちから組分けに対する不安の声が漏れ聞こえてきた。
ハリーやロンは試験だのすごく痛いだのと話し合っているし、ハーマイオニーなんかはぶつぶつと呪文を誦じていた。
「ソニア、どうしよう。僕、教科書に載ってる呪文なんて一個も覚えてないよ!」
「私もよ」
ネビルの顔は真っ青だ。ソニアの言葉も気休めにもならなかったらしく、縋るようにしてハーマイオニーの呪文────文字通りの意味だ────に聞き入っている。
しかし、先程マクゴナガル先生は『それぞれの寮に輝かしい歴史がある』と口にしていた。であれば、寮の間に優劣はない。魔法の点数を競う意味は皆無では無いだろうか。
⋯⋯⋯という正論を叩き出す一方、頭は同じくらいの不安でいっぱいだった。しばしの間彼女もそれとなくハーマイオニーの呪文辞典に耳を傾けた。
途中でゴーストの行列が部屋を横切るという珍事に皆が驚愕と恐怖を覚えたものの、それもマクゴナガルが戻ってきたことでどこかへと吹き飛んでしまった。
「組分けの儀式が始まります。一列になってついてきてください」
マクゴナガルに連れられ、大広間に入る。
そこには、夢のような素晴らしい光景が広がっていた。何千という蝋燭が空中と浮かび、4つの長テーブルを照らしている。そこには各寮の上級生たちが整然と座してこちらを興味深そうに眺めている。中央の上座には威厳のある先生たちが座っている。天井は吹き抜けになっていて、満天の星空が広がっていた。
────いや、何か違和感がある。
「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ」
ハーマイオニーがまるで自慢するような口調で説明してくれた。改めて『魔法』というものの万能さを実感して舌を巻く。
視線を正面に戻すと、マクゴナガルがスツールを用意していた。椅子の上には、誰もが想像するような〝魔法使いのかぶる帽子〟──つまり、ぼろぼろのとんがり帽子がのっかっている。
ただの小汚い帽子だと言えばその通りだが、ソニアは不思議とその帽子から言い知れない神秘的なものを感じていた。帽子はそんな視線に応えるようにピクピクと震え出し、口のような裂け目から歌声を響き渡らせた。
勇気と騎士道のグリフィンドール。
忠実で忍耐強いハッフルパフ。
賢く機知に富むレイブンクロー。
狡猾で手段を選ばぬスリザリン。
そして、それを組分けする考える帽子。
要約すればこんなところか。つまるところ、帽子を被れば勝手に自分の性格や素質に合った寮に組み分けしてくれるということだ。これがあれば、マグルの世界の就職面接は不要なのではないだろうか。
ハーマイオニーは自分の実力を示せないからか不満を滲ませていたが、大半の生徒は安堵の息を溢していた。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けて下さい」
シン、と静まり返ったことを確認したマクゴナガルが、厳格そうな声をより一層強めた。
「アボット・ハンナ!」
金髪のおさげの可愛らしい女の子だ。帽子を被ると、一瞬沈黙が下りる。
「──ハッフルパフ!」
右側のテーブルから歓声が上がり、ハンナは照れ臭そうな顔で席についた。
「ボーンズ・スーザン!」
「──ハッフルパフ!」
「ブート・テリー!」
「──レイブンクロー!」
「ブロックルハースト・マンディ!」
「──レイブンクロー!」
「ブラウン・ラベンダー!」
「──グリフィンドール!」
次々と新入生が組分けされていく。その様子をよくよく観察していると、2つ面白い発見があった。
一つは、寮の人数分布。組分けされる寮のうち一番数が少ないのはスリザリンだ。事実、4つの長テーブルのうちスリザリンのテーブルは結構疎らだ。マグル生まれで魔法界に疎い筈のハーマイオニーすら列車の中でこき下ろしていたのを見るに、どうやらスリザリンはあまり好かれていないらしい。
もう一つは、組分けにかかる時間だ。ミリセント・ブロストロードは被った瞬間にスリザリンに組分けされた一方でハーマイオニーは5分近く経ってようやくグリフィンドールに組分けされた。帽子も照魔鏡の如き千里眼を持ち合わせているわけでは無いらしい。
その後も組分けはつつがなく進んでいく。ネビルがなぜかグリフィンドールに組分けされたこと以外は特別変なことは起き無かった。
「ポッター・ハリー!」
大広間にざわざわと囁き声が響くがそれもすぐに収まり、時が止まったような静寂に満ちる。誰もが彼の一挙手一投足を見逃さないとばかりに視線を釘付けにする。
「グリフィンドール!」
グリフィンドールの席から割んばかりの大歓声が轟く。逆に他の寮は『英雄ポッター』を逃したことに落胆の声をあげていた。
それから10人ほどの生徒の組分けが済み、やっとソニアの番になった。
「スターリング・ソニア!」
僅かな緊張を滲ませながら前に出て帽子を被る。大きなとんがり帽子は、ソニアの小さな頭をすっぽりと覆ってしまった。同時にスッと頭の中がクリアになり、脳内で声が反響した。
「ふむ、ふむ。おう、いや⋯⋯なるほど。これは随分と難しい生徒が来たものだ。決して消えぬ正義の炎がある。深淵の如き智慧を持っている。目的のためならいかなる手段も厭わず、そしてその為ならどんな困難をも耐え忍ぶだろう。いや、難しい、難しい⋯⋯」
誰の話をしているのだろう。ソニアは思わずぽかんと口を開けた。
「いやいや。君には素晴らしい⋯⋯そう、誠に驚くべき才能が秘められている。まだまだ小さな蕾────いや、芽吹く前の種に過ぎないがね。どこの寮に行っても君はうまくやっていけるだろう。しかし、だからこそ悩みどころだ。もっともその種に相応しき土壌が何処か⋯⋯」
慣れない賞賛の嵐に、ソニアは居心地が悪そうに身じろぎをした。掛け値なしにこんなに誰かに褒められたことなんて初めての経験だった。
「ふむ⋯⋯。私が思うに、スリザリンなんてどうだろうか。あそこであれば、君はあらゆる苦楽を分かち合う無二の友を得る事ができるだろう」
友。甘美な言葉だ。しかし、先程のドラコの態度を見るにうまくやっていけるような気がしなかった。
「いや、そうでも無いさ。勘違いされることも多いが、あの寮は一度内に入ればとても住みやすい場所だ。
それと補足しておくが、私の予想が正しければ君は相応しき血の持ち主だ。そしてスリザリンであれば君は偉大な魔女になれる。歴史に名を残すような大偉業だって成し遂げられるだろう」
───正直に言って、ソニアはそんなものに微塵も興味が無かった。ただ、平穏無事に過ごせればそれで良かった。
誰かに疎まれることも、嫌われることもなく。友と肩を並べて歩き、下らない話で盛り上がって健やかに毎日を謳歌する。そんな、『普通の生活』が何よりも恋しかった。
「ふむ、なるほど。では、グ────────」
両親との仲
→壊滅的に悪いわけではないが、特別良くもない。育ててくれたことには感謝している。
魔法感知能力
→ソニアちゃんは魔法的なものに対する解析能力と感知力に長けています。一眼見れば大体どんな魔法が使われているか分かりますが、魔法に関する知識はまだまだ浅い為手を加えたり再現したりすることはできません。
動物好き&嫌われ体質
→蛇には割と好かれる。嬉しくない。
マーリン
→カメオ出演。今後登場する予定は特に無い。あっちと違って既に故人。
血統
→その内解説予定。
主人公の望み
→徐々に変わっていくと思われます。
主人公がその内モテだすのは置いておいて、恋愛展開をどうしようかなあと悩んでおります。特別好きな男性キャラもいないし、あまりオリキャラは出したく無いし⋯⋯。
まぁ、別に誰ともくっつかなくても問題無いんですけどね。大穴でハーマイオニーとかでしょうか(キマシタワー)。