どうも、ワッタンです。
お待たせしました、第五話です。
今回短めですけど、お読みいただけますと幸いです。
それでは、第五話をどうぞ!!
※今週はこの作品だけの更新です。ごめんね。
自分が帰ってきた道を逆走していく。
すでに日は静まり、女の子が一人で出歩くに時間ではない。
だけど必死に足を動かす。
スニーカーの紐が解けても構わずに。
(どこ、どこにいるの.....翔也)
愛おしい人の名前を思いながら。
今日のライブに翔也を呼んだのはある意味賭けだった。
翔也を呼んだ理由。
それは、翔也にまた音楽に向き合って欲しい、友希那と一緒に......三人で笑いながらセッションがしたい。
その為に、
自分に心がないと思われてでも、翔也を呼びたかった。
もう一度、前を向いて貰いたいが為に。
アタシも再び、友希那の隣を歩け始めたから。
──だけど。
そんな考えとは裏腹に、翔也は途中でライブ会場を抜け出すのをステージの上から見えてしまった。
その様子を見た時、アタシはライブを放ったらかしてでも、ステージの上から飛び降りて抱き締めに行きたかった。
その男の子にしては華奢な体をアタシで包み込んであげたかった。
でも行けなかった。
それほどまでに、観客席とステージ上の溝は深かった。
だから、アタシはライブが終わった時、直ぐに家へと直行した。
翔也に謝る為に、抱きしめる為に。
けど、
翔也は帰ってなかった。
それを母親から聞いた時、
アタシに最悪な考えが脳裏によぎった。
また居なくなろうとしてるのではないか。
あの時みたいに......
と。
そう考えた瞬間、アタシは荷物を家へと投げて走り出していた。
いつの間にか暖かいものが頬を流れていた。
だけど、アタシはそれを拭うこともせずにただ走り続ける。
考えていたことはただ一つ。
翔也を抱きしめること。
だから、あの場所で思わず見つけた時には叫んでしまっていた。
────────────────────
「リ.....サ?」
顔を上げると、そこには肩で息をしている彼女の姿が見えた。
──どうしてここに?
そう告げようと口を開きかけた、その瞬間。
俺の鼻先にくすぐる大好きな彼女の香り。
そして背中に手が回されていた。
何が起きたのかは直ぐには理解できなかった。
だけど、耳もとから聞こえる、「ごめんね」と聞こえる声。
そして、背中に回された手がまるで俺を離さないと言わんばかりに、
力が込まれるのを感じる。
そこでようやく俺は、リサに抱きしめられるということを理解した。
何で?とリサに尋ねようとした時、泣きながらリサが口を開いた。
「ごめんね、翔也。翔也に、.....翔也にライブに来て欲しいって言って、友希那の事を黙っててゴメンね.....」
「っ.....」
俺の口から声ならぬ声が上がる。
そして、また俺の醜い心が持ち上がる。
それはゆっくりと俺の脳内を支配する。
──どうせ、その言葉も嘘ナンダロ?
「アタシはね....友希那も翔也も同じくらい大好き。だからね、翔也。アタシは.....「....うるせえよ」っ.....!!」
言葉に出してしまうともう止められなくなる。
抱きしめられていた腕を無理やり解く。
そんなきれいごとをまくしたてて、ここ数年に対する俺への気持ちはすべて嘘ダッタンダロ?
「どうせ、どうせ!! リサは俺の事なんか....俺の事なんかどうでもいいんだろ!!」
その言葉を皮切りに、黒い感情があふれ出す。
それは、まるでダムが決壊してしまったかのように。
もう止まれない。
「リサは俺より友希那の方が好きだから友希那を選んだんだろ!!」
俺の叫び声が辺りに響く。
「俺を助けたのだって、友希那が悲しむかもしれないから.....『可哀想だから』とかいうお節介なんだろ。これまで俺が感じてきた数年間の愛は嘘の愛だったんだろ!!」
叫びながら泣いてしまう。
「俺を....俺を使って友希那と仲良くなって、自分だけ幸せになりたいんだろ!! 」
本来なら、それは閉じ込めておく感情。
他人に八つ当たりをするなんてもっての外。
そんな行為を俺は.....愛する人にやってしまっていた。
そんな罪悪感からリサの顔を見れず、視線を落としてしまう。
「俺なんか、俺なんかもう生きてる価値なん....「そんな事、言わないで」」
えっ.....?
不意に耳元でリサの声が聞こえ、暖かさに包まれる。
そして先ほども嗅いだ、大好きな匂い。
「.....なんで、そんな事が出来るんだよ、あんな事を言ったのにさ....」
流石に二度目となれば俺でも、直ぐに状況は把握できる。
俺はまたしても、リサに抱きしめられていた。
あんな事を言ったというのに。
「...........だから」
「えっ.....?」
「翔也の事が大事だから、あの時言ったでしょ? 翔也の事を守るって」
そう呟きながら彼女に背中を撫でられる。
まるで、俺を安心させるかのように。
「さっきも言ったけど、アタシは友希那も翔也も同じくらい大好き。 だから二人共に仲良くして欲しいんだ。.....そしていつかは翔也に音楽をまたしてもらいたいの。 だからアタシはまたベースを始めたんだ」
リサが言葉を発するたびに、俺の心が少しずつ軽くなるように感じる。
安心、希望、安堵。
そんな感情が俺の体を駆け巡り、俺の黒い心は消えてなくなる。
だからだろう、リサにも言ったことが無かった、俺の本心を呟いてしまったのは。
「......怖いんだ」
ぽつりそう呟く。
「何が?」
「....本当は、姉ちゃんと仲良くしたい」
するりと腕を持ち上げ、リサの首に回す。
「でも、姉ちゃん、──友希那が俺の事をどう思ってるのか分からなくて怖いんだ。 また昔みたいに仲良くしたいという感情は....俺だけが感じてて、友希那は俺のことが嫌いで憎いのかもしれないって思うと、怖くなるんだ」
あの親には今更自分から歩み寄りたいとは思わない。
だけど友希那だけは、たとえ周りから比べられても、見捨てられても、歩み寄りたい。
だって、たった一人の姉弟なのだから。
「出来るよ、翔也なら」
リサから抱きしめられる力が強くなる。
「きっと、友希那と仲直りできるよ。アタシが保障するよ」
「.....だといいいな」
「うん」
そう呟いた後も、俺とリサは暫く抱きしめ合っていた。
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「もうあんな事言っちゃだめだからね!! というかこんなに遅くなるなら連絡して!! 」
「ひたい、ひたいって。 りひゃあ、はにゃして」
慰められたと思ったら、リサに頬っぺたをつねられて怒られている。
でも今回の件は、百対ゼロで俺が悪い。
「本当に分かってる!?」
「はっかてるから、もうひません」
「.....なら許してあげる」
と言われ、リサが俺のほっぺたから手を離す。
「いててリサ、力強すぎるよ」
「翔也が悪いんだからね?」
「....うん、ゴメン。リサをいっぱい傷つけた、ほんとゴメン」
感情をコントロール出来なくて、思ってしまったことをすべてリサにぶつけてしまった。
きっと、リサに幻滅されただろう。
そんな感じでさっきとは別ベクトルで自己嫌悪している時だった。
「.....ん」
そんな言葉と共に手が差し出された。
「えと....これは?」
「あー、翔也に傷つけられちゃったからなー、慰めてもらわないとなー」
そんな事を言われ、ピンとくる。
リサがどうしてほしいかと。
ちらりとリサの表情をうかがう。
あの表情は、まだかまだかと待っているような期待してる目だ。
そんな光景に微笑む。
「....うん、分かった」
俺はその手をしっかりと握る。
「リサの手、あったかいね」
「翔也の手は冷たいね.....よし、帰ろうか。 お母さんも心配してるだろうし」
「うん、そうだな」
そして手をつないだままリサの隣を歩く。
「ねぇ、リサ」
「何?」
リサが首を傾げてくる。
「俺、音楽に向き合って見るよ、だって....」
あの時スタッフさんのギターを聞いて思った。
辛いこともあったけど、比べられたこともあったけど、
俺はそれ以上に、
──音楽が好きだからさ。好きなものはやっぱり嫌いになれない。
その俺の言葉にリサは、陽だまりのような温かさの笑顔を浮かべてくれた。