まばゆい陽光射し込む宇宙へ   作:ryanzi

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座標をたずさえ、そして穏やかに話せ

太古の面壁者のごとく、玄谷は自らの計画をクレセントハウス外部に露わにしなかった。

水滴インキュベーターはとくに気にかけなかったが、彼の真意には気づいていた。

太古の三体人と違い、インキュベーターは謀略を理解できたからだ。

気にかけなかったのは、それが成功するからであり、なおかつ少女に害がなかったからだ。

そこもまた、太古の三体人とは真逆だった。彼らは失敗するから気にかけなかったのだ。

だが、今は太古の三体人など気にする場合ではないだろう。

玄谷は今までと同じようにクレセントハウスにいた。だが、真理を知る前とは違っていた。

彼はクレセントハウス内で、ずっと智子と遠隔で計画の調整を続けていた。

そして、来たるべき日のためにずっと、ずっと計画を練り続けていた。

こうしている間にも、ウワサは撃破され、マギウスたちもいよいよ歯止めが効かなくなってきた。

彼女たちはついにあることを決定した。神浜市に住む魔法少女の殺戮だ。

マギウスが危惧したのは、いろはたちの行動が他の魔法少女たちにも伝染することであった。

攻撃開始はおよそ二時間後。そして、玄谷も智子(ソフォン)を通じてそれを知った。

もはや計画は完全に練られあげられたものになっていた。

玄谷は倉庫に向かい、拳銃を取り出した。有事のために備え、最低限の武器が用意されていた。

拳銃に弾を装填すると、達志に電話をかけた。計画のためだ。

 

「・・・実行するときが来たみたいだな。俺は何をすればいい?」

 

「小さいキュゥべえとかいうのがいるはずです。

それを連れて、マギウスのアジトに行ってください」

 

「なんだって?」

 

「場所は智子さんが上手い感じに教えてくれるはずです」

 

「本当だな。なんか右下にゲームのように丸い地図が表示されたぞ。

しかも、ご丁寧に経路に色まで付いてやがる。ナビかよ」

 

その時、可愛らしい声が割り込んできた。

 

「モッキュ!」

 

まるで小動物のような、というか実際小動物なのだろう。

これが話に聞いた小さなキュゥべえとやらの声だろうか?

その声には、まったく屈託がないように思えた。

 

「お前はまだ会ったこともなかったっけ?

ほら、声だけだけど玄谷に挨拶しな」

 

「モキュッ!」

 

なんと癒される声だろうか。

そして、同時に悲しくなった。

もし、今からのことが失敗すれば、可愛い声の動物を待っている未来は悲惨だ。

願わくば、達志と小さなキュゥべえはその時が来る前に寿命で死んでほしい。

その方が、彼らにとっては大きな救いなのだから。

 

「あはは・・・先輩、小さなキュゥべえ、その・・・もし」

 

だが、達志はそれを遮った。

 

「おっと、それ以上は言うな。俺はお前と智子とやらの判断を信じるさ」

 

「モキュ・・・」

 

「まあ、何だ。いつか酒の席の話題にもしようぜ。

それより、早く行かねえと。勝手に連れて行くことになるし」

 

そう言って、達志は電話を切った。

玄谷はたった一人、歴史の転換点と対峙することになった。

45億年前、一つの惑星が誕生した。

その星には長い間、煮えたぎった海と隕石と雷鳴しか存在しなかった。

だが、ある時、一つの有機生命体が誕生した。

そして、それは30億年以上の時間をかけて、地球人類に進化した。

その長い道のりが、今日で終わってしまうかもしれない。

玄谷はSNSアプリを開いて、話し相手を探した。

まだ時間に少しだけ余裕があるので、心を落ち着けたかった。

だが、その必要はなかった。どういうわけか木崎衣美里の方からかけてくれた。

魔法少女を知る前から、彼女とは知り合いだった。

二番目に玄谷のことをトトロと呼んだ人間でもあった。

 

「もしもし、トトロ?最近見ないけど、大丈夫ー?」

 

「大丈夫ですよ。まあ、今からちょっと一仕事ありますが、急ぎではないので」

 

「よかったー、なんか命を狙われてるって言ってたし・・・」

 

衣美里は本当に優しい少女であった。

ほとんどの魔法少女はすっかり玄谷のことを忘れてるだろう。

それでも、彼女だけは忘れてくれていなかった。

 

「・・・衣美里さん、少しいいですか?」

 

「うん?なーに?」

 

彼は息を深く吸って、達志と小さなキュゥべえに言えなかった言葉を言った。

 

「もし僕が間違ったことをしたら、どうか許してください」

 

「間違いなんて、誰だってするから大丈夫だよ!」

 

「・・・それもそうですよね」

 

彼は電話を切って、拳銃を自分の心臓があるだろう場所に銃を押し当て、叫んだ。

 

「低次元智子(ソフォン)式浄化システム、展開!」

 

それを認識できたのは、ほんの少数であった。

まず、智子だ。彼女は智子(ソフォン)を認識できる。

そもそも、その智子(ソフォン)を展開させたのは彼女なのだから。

水滴インキュベーターも同時にそれを認識していたが、気にしなかった。

それどころか、水滴インキュベーターは忖度したともいえる。

彼は命令もされていないのに、ホテルフェントホープ上空に移動したからだ。

最後に、美国織莉子である。彼女は数日前からそれを予知していた。

だが、智子からのメッセージを受け取り、行動は起こさなかった。

地球は低次元展開された智子(ソフォン)の膜によって包まれた。

だが、少数以外にそれを認識した者は本当にいなかった。

数秒の沈黙が続く。次の号令を下す勇気がどうしても起こらなかった。

こんな時、やちよだったらどうするのだろうか?

宇宙の真理を知る者である彼女だったら・・・

 

「やちよでも難しいと思うな。まあ、自分で考えてやってみなよ」

 

「そうですよ!リーダーはリーダー!あなたはあなたなんですから!」

 

背後から少女たちの声が聞こえた気がする。振り返ることはしなかった。

これは誰もいない、というオチに違いなかったから。

 

「ぼくだって苦労したさ。でも、それ以外に方法がないんだったらやるしかない」

 

「私にもできないわ。でも、それが唯一の道なら・・・」

 

さらに男女の声が聞こえてきた。これは智子が仕組んでいるのか?

いや、彼女だったら、もっとストレートに叱咤激励するはずだ。

つまり、これは幻聴ということになる。

だが、次は声だけでなく、感触もあった。誰かが肩に手を置いたのだ。

 

「前へ、とにかく何があろうと前へ進むんだ」

 

今度ばかりは振り向いた。だが、やはり誰もいなかった。

前へ!前へ!なにがあろうと前へ!だ。

もう、やるしかなかった。

 

智子(ソフォン)、低次元展開ッ!」

 

二つのモノリスが玄谷の前に現れた。

一方のモノリスに映し出されたのは、作戦会議を行うマギウスたち。

もう一方には何も映し出されてはいないが、インキュベーターの母星に繋がっている。

おそらく、それぞれの場所でも二つの球体が展開されているだろう。

展開が無事に済んだことを確認すると、彼は左腕を高々に上げた。

そこには、腕時計によく似た何かが巻かれていた。

 

「マギウスとインキュベーター文明に告げます。

現在、地球は智子(ソフォン)の低次元展開膜に包まれています。

この膜の下では、あらゆるソウルジェムの穢れが分解されます。

これは、あなたたちにとって悪夢の一つであることは理解できるはずです。

穢れは感情エネルギーに昇華することなく、分解されるのですから。

さらに言えば、インキュベーターの文明は既に智子(ソフォン)の監視下にあります。

もし他の惑星の感情を有する生命体にターゲットを変えたところで無駄でしょう。

智子(ソフォン)はただちにその惑星に低次元智子(ソフォン)式浄化システムを展開する予定です。

僕は今から両者に要求します。マギウスは今すぐ殺戮計画を中止してください。

インキュベーター文明は今後いかなる契約をするときも、政治的合意を行ってください。

マギウスもインキュベーター文明も、僕たち人類の生存権を侵害した。

もし、あなた方がこの罪を認めずに要求を無視するようなら、僕は最大の罪を犯します。

地球とインキュベーター文明の母星世界の座標を発信します。

僕の左腕に巻きつけられているものは、デッドマン装置とかつて呼ばれていたものです。

僕の心臓が止まれば、ただちに信号が世界中の重力波アンテナに送信されます。

あなた方のどちらも、ただちにこれを止めることはできないことはわかっています。

三十秒、三十秒の猶予が与えられます。よく考えてください。

もし、要求を受け入れるなら、浄化システムは分解モードから昇華モードに移行します。

その場合、以前より量は減りますが、智子(ソフォン)は自動的に穢れをエネルギーに変換します。

これにより、地球文明とインキュベーター文明も救われることになります。それでは・・・」

 

「受け入れるから、やめて!玄谷お兄さま!」

 

「・・・僕も受け入れるよ」

 

灯花と柊ねむは要求を即座に受け入れてくれた。

 

「・・・」

 

あとの一人は沈黙を貫いたままだが、玄谷は無視した。

あまり引き金を引きたくないというのもあったが、ここは多数決の原則だ。

 

「さて、インキュベーター文明の皆様、あと十五秒です。

言っておきますが、どのような策動も智子さんの監視下にあることをお忘れなく」

 

すると、くぐもった声が聞こえてきた。

智子(ソフォン)が即座に翻訳してくれるので、地球人でも理解はできる。

 

「受け入れよう。それが最善の道であろうな」

 

そして奇蹟は起きた。この日、人類は初めて救済された。

低次元智子(ソフォン)浄化システムは昇華モードに移行した。

もはや魔女化は起こらない。穢れは即座にエネルギーに変換されるからだ。

 

「・・・浄化システムは昇華モードに移行しました」

 

玄谷はデッドマン装置の終了ボタンを押した。

これで座標発信もされることがなくなった。

 

「地球文明とインキュベーター文明は今後も存続することでしょう。

あなた方の罪はこれで許されました。最後に・・・ありがとうと言わせてください」

 

「どうしてだ?」

 

インキュベーター文明の誰かがすかさず聞いて来た。

 

「僕に生きる道を与えてくれたからです。あるいは・・・、

あなた方と僕たちの双方に生きる道を与えてくれたからですよ」

 

その時、沈黙を貫いていたマギウスの一人が机を叩いて、その場を去っていった。

 

「・・・止めないと。玄谷兄さん、僕はアリナを止めてくる。

そうじゃないと、せっかく手に入れた生きる道が台無しだからね」

 

ねむもその場を立ち去った。

灯花はただ茫然として、何もできなかった。

その時、記憶が蘇った感覚が生じた。

これはどうにも形容できないのだが、忘れていたものを思い出したのだ。

正確に言えば、存在していないものを思い出したというべきか?

達志が、上手くやってくれたに違いない。

玄谷は安堵して、壁にもたれかかった。少なくとも、仕事は一つ終わった。

だが、玄谷にはまだもう一つだけ仕事が残っていた。

 

「・・・灯花、ワルプルギスは今日来るはずだよね?」

 

「・・・うん」

 

「そうか。だったら、話は早い。羽根たちを総動員してくれ。

僕と智子さんで、他の魔法少女たちも動員するから」

 

「・・・倒す気なの?」

 

「ああ、倒す気さ。君たちの協力があれば、もっと早く倒せる」

 

ワルプルギスの夜の討伐だ。これで、地球文明の完全な救済が為されることになる。

 

「正気か?あれは我らでも対処が難しいのだぞ?」

 

インキュベーター文明の支配者らしき人物が言った。

 

「ええ、でも上空にあれが浮かんでいるはずです」

 

玄谷は天井を指差して言った。

正確に言えば、クレセントハウスではなくフェントホープの上空だったが。

だが、その位置の正誤など関係なかった。

これが最後の仕事だ。玄谷のするべきことは、顛末を見届けること。

モノリスがふっと消え去る。彼は立ち上がって、地上に上がっていった。

三体好きかい?

  • うん、大好きSA!
  • まあまあSA!
  • あたしゃ知りませんよ
  • (よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
  • 全滅してやるぞ(嫌い)
  • 劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)
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