まばゆい陽光射し込む宇宙へ   作:ryanzi

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黎明幼稚症

神浜市の魔法少女は今までにない助けを得ることになった。

そう、大人たちの後援である。彼女たちは非常に驚いた。

魔法少女や魔女など、今まで信じてもらえないと思っていたからだ。

だが、各国政府機関はとっくに把握はしていたのだ。

そもそも、フランスなどは十五世紀から軍事運用をしていたぐらいだ。

中国やロシアといった管理社会的風潮を持つ国家は容易に把握していた。

それでもなお、国家はいくつかの理由から彼女たちに滅多に干渉はしなかった。

一つには、魔女化という厄介な要素もあったこと。

二つ目は、インキュベーターという異様な存在が何をするかわからかったこと。

そして、今まで智子から干渉を禁じられていたということ。

だが、彼女と玄谷という青年が魔女化とインキュベーターを封じたのだ。

そして、ついに許可も出たので、存分に援助ができた。

存分に、といっても、一般社会にはまだ隠し通さなければならなかったが。

まだ大きな衝撃を与えるのは間違いない。中世のような魔女狩りなどもってのほかだ。

そういうわけで、各国政府機関のエージェントはラフな格好で神浜市を闊歩していた。

そうすれば、観光客や地元民に紛れ込むことができるからだ。

また、魔法少女に関する国際会議(無論、極秘である)は里見メディカルセンターで行われた。

こういった世界規模での魔法少女支援に対し、里見グループは積極的に協力した。

里見灯花の父親が魔法少女に対する全面的支援を環いろはに約束したのも大きかった。

こうして、神浜市の魔法少女は今までにない安心感を得ることができた。

いや、神浜市だけではない。世界中で徐々に魔法少女の孤独感は癒されつつあった。

魔法少女と一般人が完全に共存できる未来も夢ではないかもしれない。

だが、その過程で色々な障害があるのもまた確かであった・・・。

 

「・・・外交窓口を一本化してほしいよ」

 

中華人民共和国から派遣された張紋浹はそうぼやいた。

彼がいるのは各国から派遣された連絡員のセーフティハウスに指定された調整屋。

もともと公安局出身であった彼は何度も魔法少女を目撃したことがある。

そして、陰ながらそういった魔法少女に支援をしていたのだ。

その功績が考慮され、智子から直接、連絡員に選ばれたのである。

しかし、彼と同じように、連絡員たちは同じ悩みを抱えることになった。

窓口が一本化されていないのだ。

 

「ジャンジャン、どうしたの?なんか悩んでるみたいだけど」

 

そこに、たまたま衣美里がやってきた。

 

「ああ、衣美里か・・・いや、君に言ってもしょうがないんだ」

 

「相談だったら、何だって乗るから安心してよ!

ジャンジャンだって、慣れない仕事だから、愚痴くらい言いたいでしょ!」

 

紋浹は少しためらったが、ここは彼女の好意に甘えることにした。

 

「じゃあ言わせてもらうけど・・・連絡窓口を一本化してほしいんだ」

 

「窓口を・・・ああ、そーいうことか!

確かに、みゃーこ先輩以外にもいるもんね」

 

「そういうことなんだ」

 

そう、窓口が一本化されていないのだ。

現在、神浜市にはリーダー格の魔法少女が四人いる。

一人は環いろは。もっとも話しやすいが、もっとも裏付けがないともいえる。

彼女の頼まれたら断れない性格は、外交上では信頼できない性格だ。

ただ、外来者にも関わらず、神浜市で信頼を得たという点は評価されている。

外交はからっきしだが、指導者にはある程度向いているというタイプだ。

マキャベリズムを基準にすれば、もっとも最悪な指導者でもあるのだが。

二人目は七海やちよ。彼女はいろはよりかは外交的に信頼はできる。

あと、大人に近いので、こちらの事情を慮ってくれる。

三人目は、都ひなの。彼女はやちよの次に信頼できる魔法少女だ。

中立である中央区の独自性を維持しているということからも評価が高い。

そして最後が・・・和泉十七夜だ。彼女はもっとも相手にしたくないタイプだ。

変身してはこちらの意図を読む上に、彼女の意志に反することは絶対に反対する。

たとえこちらがどう説得しようと、彼女は絶対に受け入れてくれないのだ。

こちらはいろはと同じように外交にはあまり向かない性格だ。

外交というのは、ある程度ジョークを交えながら、妥協点を探りあうものなのだ。

ところが、十七夜はとにかく結論を急ぎがちなので、人気ではない。

まあ、マキャベリズム的にはギリギリ及第点を取れる指導者ともいえるが。

そもそも、マキャベリズム的評価はあまりあてにならないともいえる。

あれを基準にして、合格点を取れる指導者など、現代ではあまりいないものだ。

ともかく、窓口がこんなにもあると、外交上面倒なのだ。

一方で交わした約束が、もう一方では反故にされたりなど・・・。

スペイン内戦でも、フランコ将軍は最初に外交窓口の一本化を提案したぐらい、重要な問題だ。

 

「・・・トトロは駄目なの?確かに大学生で忙しいと思うけど」

 

だが、紋浹は首を振った。

 

「聞いていないのかい?」

 

「えっ?何かあったの?」

 

「彼は国連からの圧力で特別休学が決定してしまった」

 

「ありゃま・・・うん?だったら時間はたっぷりあると思うけど・・・」

 

「彼は彼で、連絡員になったんだよ」

 

「・・・まさか」

 

「そう、彼はたとえ感情のない異星人のことだって思いやれるからね」

 

そう、ついに玄谷はもとの一般人としての生活に戻ることはできなくなった。

魔法少女社会学や宇宙社会学を知っている彼は重要な人材であった。

連絡員に対するオリエンテーションなどに引っ張りだこであった。

それに、彼は一度、インキュベーター文明と脅迫的な対話を成し遂げた。

その点も考慮され、かの文明との窓口にもなっている。

そして・・・彼は人類史上、もっとも悲愴な立場に立たされてもいた。

 

「・・・君は境界線システムを知っているかい?」

 

「ペリ・・・えっ?」

 

「知らないだろうね。あまり有名じゃないから。

死者の手、という名前でも呼ばれてるけど・・・。

昔、ソ連に存在した一種の自動報復核攻撃システムだよ。

敵国に攻撃されたとき、当直の士官がボタンを押すことで反撃するんだ」

 

衣美里が重要なことに気付いた。

 

「・・・あれ?そうなったら手遅れなんじゃ?

そのときには、ボタンを押す人の家族も友達も・・・」

 

「そう、灰になってるか放射能で手遅れになってるね。

そして、その状態でボタンを押すかどうか決断しなくてはいけないんだ。

もしボタンを押したなら、敵国さえも滅んで、人類の破滅は決定する」

 

そう言って、紋浹はスマホの画面を見せた。

そこには奇妙な形のスイッチが写っていた。

剣の柄のような形をしており、四つのボタンがあった。

一つはてっぺんに。後の三つは側面についていた。

 

「これは単に送信スイッチと呼ばれるものだけど、

これを持っている玄谷の地位の名称は長い。

重力波宇宙送信システム最終制御権保持者・・・。

さすがに長いから、最近は執剣者(ソードホルダー)って呼ばれてるけど。

これを押せば、インキュベーターの座標は全宇宙に発信される。

ちなみに、地球の座標は発信されないけど、どうせ彼らはやり返すだろうさ」

 

衣美里はごくりと息をのんだ。

暗黒森林理論のことは聞いている。

すでにやちよやマギウス、そして玄谷から説明を受けたからだ。

座標の発信はすなわち、その星系の破壊につながる。

あのインキュベーターですら、それを恐れているのだ。

彼女は今までの話のピースを繋げ、ようやく理解した。

玄谷は、核ミサイルのスイッチを押す立場にあるのだ。

 

「・・・とにかく、彼は今、君たちに構う余裕のない立場なんだ」

 

「トトロが・・・あれ?人選ミスのような気がするんだけど?」

 

彼女の知る玄谷は心優しい、小太りな青年だった。

とてもじゃないが、核ミサイルのボタンを持つにはふさわしくない。

 

「確かに何人かから反対意見は当然出たさ。私も不安だった。

そもそも、彼は変な一族に生まれた普通の学生にすぎないんだから。

本来ならば、どこかの中小国の兵士に任せるべきことだったんだよ。

ところがどっこい、シミュレートしてみると、彼の抑止力は八十パーセントぐらいだった。

インキュベーターも似たような結果は出していて、勝手なことは当分しないらしい。

それでなし崩し的に、彼が執剣者に選ばれてしまったんだ」

 

「えっと、しばらくは平穏ってこと・・・?」

 

「しばらくはね・・・それはそれで、別の問題を生み出してるけどさ」

 

彼はまた溜息をついた。

そこに、同じように疲れきった男性がやってきた。

彼は朴順。朝鮮民主主義人民共和国から派遣された連絡員だ。

かの国は唯一、智子に抗っていた国だったが、ついに屈した。

一般社会は突然の民主主義革命に驚愕することになった。

当然、その背景に彼女の姿があることは知らなかった。

そんな生まれ変わりつつある国から派遣された連絡員の顔は疲れ切っていた。

 

「パッくんも何か辛いことがあったの?」

 

「・・・僕は軍の出身なんだけどね、色々と大変なんだよ。

百年以内に、インキュベーター文明に電撃戦を挑むとか・・・」

 

「ああ、私の国の軍隊も似た調子になってるよ。

われわれはこの世紀のうちにインキュベーター世界を征服し、

第二の太陽系として開拓するとかなんとか・・・。

くそっ、こんな時にわが軍の偉大な歴史が足かせになってしまった。

奴ら、勝つ気でいるんだ。あんな圧倒的な文明に・・・」

 

一方で、インキュベーター文明との接触はもう一つの弊害をもたらしていた。

これは一つの例である。ポーランドの連絡員、ノヴォルコフは魔女狩りを観戦していた。

和泉十七夜の強さは圧倒的で、魔女はあっという間に倒された。

だが、ノヴォルコフの顔は暗かった。

 

「・・・口づけでも受けたか?」

 

「いや、そういうんじゃないんだ・・・ただ、私にとって、未来は暗いものになってしまった。

二次大戦前、私の国はソビエトに勝利した。得意の騎兵でね。でも、ナチスには負けた。

どうしてかわかるかい?技術だよ。単純な技術力の差だったんだ」

 

十七夜も、彼の心の一端を覗いたことで、彼の悲観を理解した。

 

「・・・なるほど。確かに魔法少女も魔女も高度な技術の産物だからな」

 

「そういうことだよ。地球はまさにかつての祖国になろうとしている。

第三世界の軍隊は、まるでそういうことを理解しちゃいないんだ。

それどころか、電撃戦を仕掛けようという始末で・・・。

電撃戦を仕掛けられるのはこちら側だというのをどうして理解できないんだ・・・」

 

あまりに無謀な勝利主義と、あまりに悲観的な敗北主義・・・。

これらを総称して黎明幼稚症という単語が生まれた。

人類は黎明を目の当たりにして、一方は舞い上がり、一方は圧倒されたのだ。

そして、この黎明幼稚症にはどんどんと症状が書き足されることになった。

三体好きかい?

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  • (よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
  • 全滅してやるぞ(嫌い)
  • 劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)
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