里見家と星ノ森家の関係は深い。
だからこそ、対星系外文明対策室を里見メディカルセンターに移転できたのだ。
なにしろ、室長が星ノ森海斗海将(異例すぎる昇進)なのだから。
研究のための設備も漸進的に整備できつつあり、順調であった。
何しろ、神浜市外ではインキュベーターの監視下に置かれる可能性がある。
院長も魔法少女のことを把握しているから、非常に仕事はやりやすかった。
「・・・それで、これが時の外のハバナとやらか」
海斗は小型反重力領域に固定された葉巻を眺めた。
「ああ、そうさ。吸っても減らないし、放置しても劣化しない代物だ。
加速器での実験結果で、完全に時間の流れから疎外されてることがわかった」
固定されていた葉巻を延は取り出し、吸い始めた。
本来は禁煙だが、もはやそのルールも無意味になりつつあった。
「・・・すごいけど、太陽系防衛に役立つのか?」
「民間に還元したほうがいいと思うよ」
対インキュベーター戦略で一歩リードしたのは日本だった。
神浜市だけが、インキュベーターから解放された唯一の地域だったからだ。
・・・各国も神浜市の被膜を研究し始めているので、唯一ではなくなるのだが。
「それにしても、魔法みたいだな」
「ぼくは科学だと思ってるんだけどね・・・。
アーサー・C・クラークの名言をぼくは信じている」
延は古典的なSFに精通しており、中でもアーサー・C・クラークを愛読していた。
彼の文章による宇宙は、壮麗で洗練されているからとのことだった。
海斗はロバート・A・ハインラインの宇宙の戦士が好みであるから、対照的であった。
それでも二人が上手くやれているのは、延の包み込むような貴族的特性が理由であろう。
「高度な科学は魔法と見分けがつかない、か。
それだと、魔法少女だって科学少女ってことになるぞ?」
「ああ、そう思ったほうがいいかもしれない」
こんな会話が繰り広げられているころ、一人の少年が色鉛筆で絵を描いていた。
その少年の髪の色は雪兎のように白く、瞳はセルリアンブルーだった。
彼の名は
智子、インキュベーター文明、地球文明の共同制作によるアンドロイドに生まれ変わったのだ。
地球文明からは主にロボット技術が急速に発展しつつある中国が積極的に参加した。
そのため名前も中国系だが、容姿もどこか中国の有閑階級を思わせるものだった。
彼自身は人間に近い姿を得ることに反対であったが、地球側の思惑があったのだ。
水滴インキュベーターは地球上のどの物体よりも硬く、地球すら貫けるくらいなのだ。
たとえ、特定の地球人の味方とはいえ、敵の産物であったことも間違いない。
・・・曲率推進と空間牽引を使えるという点は変わっていなかったが。
これにより、各国の研究機関は光速宇宙船の研究をようやく始めることができた。
それどころか、ワープ航法ですらフィクションの産物でないことも判明したのだ。
「水くん、今、どんな調子ですか?」
隣で本を読んでいるかこが訊いてきた。
二人の間に流れる時間はとても穏やかなものだった。
古書店の雰囲気も相まって、より時間が遅く思えた。
今の地球でもっとものんびりしているのは二人かもしれない。
「うん、もうすぐ完成なので待ってほしいな」
「はーい」
それでも、水滴の顔が憂鬱げなのがかこは気になった。
でも、絵を描く邪魔をするのも申し訳なかった。
数分後、彼は絵を完成させた。色鉛筆だが、よく描けていた。
ライ麦畑で、麦わら帽子を被っている緑髪の少女が駆け回っている絵だった。
「・・・わあ」
感嘆の息がかこから漏れた。
その様子を見て、水滴の表情も少し明るくなった。
「よかった、気に入ってもらえて」
そして、水滴も気付いた。
かこは憂鬱そうな自分を心配しているのだと。
心配をかけさせてしまったことで、罪悪感が芽生えた。
「・・・ボクの属していた種族の癖なんだ。
心配してもどうしようもない未来を心配してしまう」
かこは彼を慰めるように言った。
「大丈夫ですよ、浄化システムがあるんですから」
でも、すぐに彼女は気づいた。
それが逆に彼の悲しみを深めることになってしまったと。
「かなり大きな熱量がこの宇宙から奪われてしまったんだ。
まだ母星世界は原因に気づいていないけど、いずれ気づくだろうね。
元凶は、植民地世界とそれに賛同した隔離世界の一部だ」
かこは植民地世界についての説明を事前に聞いていた。
母星世界と違い、感情を有した豊かな文明であるらしい。
感情の有無の理由に関してだけは説明してくれなかったが。
そして、元凶という言葉から怒りが滲み出ていることが感じ取れた。
「・・・彼らは、自分たちだけ新しい宇宙に飛び立とうとしているんだ」
「新しい宇宙・・・?」
すると、インキュベーターは一枚の紙を取り出し、コンパスなしで真円を書いた。
そして、円の外側に向かって、四本の矢印を描いた。
「まず、この宇宙の終わりは君も知ってる通り、熱的死によるものなんだ。
でも、実のところ、もう一つの終わり方があるんだよ」
そう言って、もう一つの円を描き、今度は内側に向かって矢印を描いた。
「それを特異点的末日とボクたちの宇宙論者は呼んでいる。
最終的に宇宙の膨張は止まって、自らの重力によって収縮を始めるんだ。
最終的に一つの特異点になって、そこからまたビッグバンが起こる」
「ビッグバンが起こる・・・それって」
「そう、新しい宇宙の始まりだ。こっちはまだ希望がある。
でも、何か避難場所を造らないと古い宇宙と共に死ぬことになる」
その避難場所という言葉で、かこは植民地世界が何をしようとしているのか理解した。
「それじゃあ、植民地世界の人たちは避難場所に移ったってことですか?」
「そう。そして、問題は・・・その方法が実にまずいものだったということなんだ」
二つ目に書いた円の周囲に、小さな円をいくつも彼は書いた。
「小宇宙の創造だよ。彼らが実行してしまったのは」
「それって・・・宇宙を創造したってことですか?」
かこは仰天しながら、図を眺めた。
そして、植民地世界の技術力に圧倒された。
こんな文明が、宇宙にあるとは信じられなかった。
「ああ、小規模とはいえ、彼らはそれを成し遂げた。
さて、ここで問題。その宇宙を作るためのエネルギーはどこから持ってきたと思う?
ヒントをあげると、ボクたちの回収したエネルギーは彼らにもアクセス権が与えられていた。
まあ、宇宙に還元されるから、どの文明にもアクセス権はあったけど」
かこはそのヒントをもとに、一つの恐ろしい結論に至った。
それはあまりに、残酷と無慈悲を地で行くものだった。
回収したエネルギーは、どの文明でも使える。
そして、植民地世界は母星世界が地球に何をしてきたのか知っていた。
知っていたうえで、その血塗られたエネルギーを使ったというのだ。
「・・・でも、本当に植民地世界の人がやったんですか?」
「そういうだろうと思って、写真を持ってきたんだ。
宇宙の総質量の損失が確認できたから、空間牽引で行ってきたよ。
そうしたら・・・このザマだったよ。すまない」
差し出された写真には金色の字で彫られた石碑が写っていた。
その周囲には地球には馴染みのない建築様式の高層ビル。
そして、以前に水滴が話してくれた、彩られた巨大菌類。
これが植民地世界であった。だが、人が誰も写っていない。
石碑にちょっとだけ水滴(撮影者のほう)が反射して映っているのがわかるのみだ。
さて、石碑に彫られた文字はそれぞれ三種類の言語であった。
一番下には、中国語が彫られていた。どうして、その言語だったのかは不明だったが。
その後で、水滴は訊いてきた。
「日本語にすぐに訳したけど、読む勇気はあるかい?」
かこの答えは決まっていた。
彼女は、常に責任と共に生きてきた。
「ええ、見せてください」
かこはしばらく何も言えなかった。
もはや、神の領分に属するような話だった。
植民地世界は、人類と母星世界を突き放したのだ。
「・・・すまない。こんな話をしてしまって。
あれから色々と調査してみたけど、彼らの小宇宙にはどうやってもアクセスできない。
彼らは何がどうあっても、自分たちだけ生き残ろうとしているらしい。
つまり、ボクたちはこのまま宇宙と共に、最期を迎えるしかないってことなんだ。
・・・忘れよう。こんな話をしてしまってすまない。どうせ数百億年後の話なのに」
だが、水滴は肩をすくめて、続けてこう言った。
「・・・とはならないのが、君なんだろう?」
その声ではっとした。そうだ、水滴の言う通りだ。
かこはまだ諦めたくなかった。
このまま置いていかれるのだけは、ごめんだ。
確かに何百億年もあとの話だ。かこも水滴もいないだろう。
でも、地球文明はもしかしたら続いているかもしれない。
インキュベーター文明だって、続いているだろう。
それに植民地世界のこの行動は、なぜか彼らのためにならないような気がした。
どうしてなのかはわからなかった。とにかく、そんな気がしたのだ。
水滴もかこに協力すると言った。
感情が芽生える前だったら、かこの心を理解できなかっただろう。
だが、感情が芽生えてから、ようやく理解ができた。
理屈に合わないことをするのが、人間であるのだと。
三体好きかい?
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うん、大好きSA!
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まあまあSA!
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あたしゃ知りませんよ
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(よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
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全滅してやるぞ(嫌い)
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劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)