うん?ブライト博士?Friday?なんのことやら・・・
星ノ森玄谷は神浜市立大学の図書館でノートと睨めっこを続けていた。
その傍にはいくつかの天文学と社会学の書籍を添えて。
「・・・はあ、智子さんもよくこんなのを思いついたなあ」
いつものように埒が明かなくなったので、ノートを閉じる。
ノートには『宇宙社会学』とだけ書かれていた。
この宇宙社会学というのは、近所に住む女性に勧められたものだ。
彼女の名は三星智子といって、謎の多い女性だった。
祖父の話によると、曾祖父が生きていたころから姿が変わってないとのこと。
さらに、祖父が曾祖父から聞いた限り、先祖代々からご近所付き合いがあったらしい。
それだけでも人間かどうか疑いたくなる話だ。
だが、さらにとんでもない逸話が山のようにあるのだ。
上空を飛ぶヘリからすらりと着地したりなんて話は氷山の一角にすぎない。
星ノ森家はそんな智子をとくに敬遠することもなく、崇拝することもなかった。
まあ、お互い普通に程よく仲良くやっているといったところか。
それどころか、彼女が一族を盛り上げてくれたこともある。
そのきっかけは、明治のころに天文学の投資と研究をしろと智子に提案されたこと。
これにより、星ノ森家は天文学に多額の投資を行い、学者も輩出した。
これにより日本の天文学は進歩し、世間で星ノ森といえば天文学のパトロンと認識された。
それにより、他の分野で投資をする際にその名声を利用することができた。
まあ、学者の一族としての星ノ森は実利優先志向のせいで学会からは嫌われたが。
なお、祖父は人文学者になったが、やっぱり評判はよくなかった。
実利優先、技術は場当たり、話題性の追求、さらには研究費の使い込みと・・・。
それが星ノ森家出身の学者に共通する汚点だ。天文学であろうとなかろうと。
投資家としては人気だが、学者としては蛇蝎のごとく嫌われる。
そもそも、星ノ森家の本業は商売であって学問ではないのだ。
「・・・やはり、あの男の遺伝子も混ぜたのが失敗だったか」
智子がそう呟いたのが、祖父には聞こえたらしい。
幼い父親は祖父から話を聞いて、自分たちはクローン人間の末裔だと友人に冗談で言った。
すると、どこからともなくやってきた智子が刀を抜いてにっこりと微笑んだという。
それ以来、智子の正体と星ノ森家の出自に関する話題はタブーとなった。
関係ないが、父親は普通の投資家として生きている。その方が幸福だろう。
「あなたは宇宙社会学を研究しなさい。
そして、できる限り誠実な学者となるのです」
智子が玄谷にそう言ったのも頷ける。
というか、さすがに立ち上がらなくてはいけないだろう。
このままでは汚名だけで象牙の塔一本は建てれる勢いだ。
医学部の二葉教授からもゴミを見る目で見られるくらいである。
元来の人柄の良さで友人はできたからプラマイゼロだが。
(・・・それなのに、宇宙社会学か)
まったくもって皮肉な話であった。
誠実な学者になれと言われる一方で、研究しろと言われたものはぶっ飛んでいる。
「あら、またサブカルの研究なんてしてるのね」
同学年の七海やちよが話しかけてきた。
彼女は宇宙社会学を基本的にサブカルチャーとみなしている。
まあ、それが常識的な反応だ。
「僕だってやりたくはないんですよ。でも、放棄したら斬り殺される」
「智子さんのこと?」
彼女は隣の席に座ってきた。
「ええ、こうしている間にも智子さんは見ているかもしれません。
地獄耳と千里眼は、僕の故郷では智子さんのことを指すぐらいですから」
「前から思ってたけど、本当に人間なの?」
「おっと、その話題もタブーなんです。
彼女に関しては深く考えないのが生き延びるコツですよ」
「はあ・・・まるで魔法少・・・いえ、なんでもないわ。
とにかく、あなたは智子さんと二つのことを約束したんでしょ?
一つは誠実な学者になること、二つ目は宇宙社会学を研究すること。
前者の達成に集中することだけでも、偉大な進歩じゃない。
だって、それで日本の学問はようやくプラス百年進むんだから」
これは一種の皮肉である。
ある有識者が星ノ森のせいで学問が百年進んで百年遅れたと言ったことの引用だ。
「でも、智子さんのアドバイスが何かをもたらすのも確かです。
事実、それで星ノ森家はそれで盛り上がったんですから。
実際のところ、父親が上手く投資をできているのも智子さんのおかげです」
「与えられてばっかりじゃない」
「そうでもありませんよ。彼女の保護は星ノ森家がやっています。
霧峰村という近くの村は昔は智子さんを殺そうとしていたみたいです。
悪鬼だとか何とか難癖をつけてね。まあ、彼らからの保護をお礼にしていたというか・・・。
でも、実際に追い払っていたのは智子さんだったそうですけどね。
祖父が子供のころには、業を煮やした霧峰村が最高戦力を投入したとかしなかったとか。
巫とかいう少女たちがやってきたそうで、とんでもない力で戦ったそうですよ。
彼女たちが力を振るうたびに大地が避けたり、巨大な光線が放たれたり・・・。
その戦いを覚えているのは今では祖父だけですが、本当だと思います。
それに、結局は智子さんが返り討ちにしてしまったそうですし」
「・・・信じられないわね」
「ええ、ですが嘘を言う必要もないはずですから・・・」
「・・・まあいいわ。とりあえず、それを研究すれば玄谷くんも成功するってことでしょ?」
「僕としては成功する気はないんですけどねえ」
「少なくとも、もう少し頑張ったら面白いんじゃない?
私も前に見せてもらったけど、公理はしっかりしてるじゃない」
公理がしっかりしているのが用意周到だった。
それに、猜疑連鎖と技術爆発という概念も宇宙社会学を研究させる気にする。
これを研究したら面白いかも、という感情を煽り立ててくるのだ。
「そうね・・・第一公理と猜疑連鎖で何か組み立てれそう。
たとえば・・・いえ、なんでもないわ。あなたの研究なんだから、あなたがやりなさい。
あと、忠告するわ。友人というのはちゃんと選んだ方が賢明よ」
彼女はそそくさと立ち去った。
その理由は明白だった。彼がやってきたからだ。
彼というのは二年生の厚元達志のこと。
東京出身の彼は良く言えば物事をはっきりと言える人間。
悪く言えば・・・タブーすら簡単に言ってしまう人間だ。
その性格のおかげで市外から来た生徒からは人気がある反面、神浜市の生徒からは嫌われている。
まあ、確かに神浜市の東西格差や対立についてずけずけ言う人間は嫌われるだろう。
しかも、東京出身であるという事実がそれに拍車をかけていた。
東京ならではの普遍的価値観を押し付けられている感覚を神浜市出身者は感じるからだろう。
「モデルと話せるようで羨ましいよ、トトロくん」
トトロ、というのは達志から付けられた渾名だ。
小太りというか、安心感を与えてくれる雰囲気から由来するらしい。
達志とある意味反対に、玄谷はあらゆる生徒からは人気があった。
まあ、あらゆる教授から警戒されてもいるわけだが。
「少しだけ大人しくすれば、一言二言は口を効いてもらえますよ・・・たぶん」
「おいおい・・・っと、また例の社会学か」
「ええ、なーんにも結論は出ませんけどね」
「焦るな。お前はどっかのモデルさんと違って時間はたっぷりある。
そのたっぷりある時間で思案を巡らせればいい。
なーに、お前は俺なんかよりかは成功するタイプさ」
このような態度から、市外の後輩からは人気なのだ。
玄谷もそうした彼を気に入っていた。
不思議に思うのは、どういうわけか達志はやちよを良く知っている素振りを見せる。
それも直接知っている、というわけではなく、人から聞いたかのようだ。
達志のやちよに関する情報源は、どこから来ているのだろうか?
「そうですね、時間はたっぷりとある。
一応、課題もここで片付けておきましたから・・・。
さて、下宿先でもう少し考えてこようと思います」
「じゃあな、頑張れよ」
下宿先は北養区にある電波望遠鏡である。
ここの管理をやる引き換えに、下宿させてもらっているのだ。
ある意味で、パトロンの一族の特権だ。
玄谷は文系だが、そこら辺のことは訓練されてはいる。
帰路を急いでいると、黒いローブに身を包んだ少女たちが立ちはだかった。
一瞬、祖父が語ってくれた巫の話を思い出した。
その少女たちも、玄谷が現在進行形で感じている雰囲気を放っていたらしい。
つまり、相手はこちらに『殺意』という雰囲気を放っているということ。
「星ノ森玄谷さんですね?」
「そうですが・・・殺される心当たりがありません」
「おや、殺されることを察したんですね?」
「殺意を浴びるというのがどういうものか祖父に教えてもらったことがあるんです。
まさか、こんな形で本当に体験するとは思いませんでしたが」
こんな非常事態だというのに、心はやけに落ち着いていた。
人気が少ないこの場所は、誰かが助けてくれる確率は少ないだろうに。
それでも、何かに見守られているという感覚があった。
「どうして殺されるのかだけは聞きたいですね。
僕は他の家族と違って、横領も捏造も蹴落としもしていない」
「・・・あなたは、宇宙の真理に近づきすぎた。あの方はそうおっしゃられました」
「もう一ついいかい?答えてくれるとは思わないけど」
「どうぞ」
「あの方って誰ですか?これ以上は質問しないので安心してください」
「それは・・・」
だが、別の黒ローブの少女がそれを制止した。
「待って。あの方はこの男をかなり危険視していた。
下手なことはしないほうがいい。一息に殺したほうがいいわ。
もしあの方に何かあっては、私たちの解放が台無しになる」
「・・・ごめんなさい、答えられません」
だが、投げられた何発もの小石が少女たちに命中した。
その隙に、誰かが玄谷の裾を掴んで引っ張った。
「玄谷、逃げるぞ!」
助けてくれたのは達志だった。
「一般人に手を出そうとするなんて、どうかしてやがる!」
三体好きかい?
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うん、大好きSA!
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あたしゃ知りませんよ
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(よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
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劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)