「・・・お前の話の方がある意味信じられんな。
それに、巫・・・?だったか?そいつも物分かりがいいな」
達志は玄谷が話し終わると、肩をすくめた。
一般人が、魔法少女を追い返したというのだ。
それも、ただ睨むというだけで。
この小太りで優しい後輩に、そんな勇気があったとは。
それどころか、うまく平和的にも解決できたという。
「俺の知る魔法少女ってのは・・・もっと不条理で話の通じない人種なんだがよ」
彼はちらりと十七夜の方を見やった。
彼女の方はそんな視線をまったく無視していた。
十七夜は、最初に会った時と同じように玄谷をまじまじと見つめていた。
だが、彼女の表情には一種の感心が含まれていた。
なるほど、この男もなかなかの強さがあるのだろう。
それと同時に、彼女は別のことをしているようでもあった。
ただ近づいて、何もしていないように見えるのだが・・・。
「・・・ふむ、殺される心当たりは本当にないらしいな」
玄谷は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
だが、彼女が何かをしたということだけはわかった。
これが魔法少女の能力なのであろうか?
何をされたのかわからない・・・これは恐ろしいことだった。
もしかしたら、あの日会った巫も気づかぬうちに何かをしていたかもしれない。
だが、今となってはわからない。
「おっと、説明し忘れていたな。こいつの固有魔法は読心だ。
まあ、変身しないと使えないうえに、近づかないと駄目だ。
しかも、読みたい情報は、相手の心の中から・・・」
達志が言い終わらないうちに、彼女は鞭で床を叩いた。
それだけで、廃墟ビルの壁にひび割れが入った。
「ぺらぺらと喋る男は嫌われるぞ、達志?」
「ひゅう・・・まあ、この通りの強さだ」
こんなに強いのか、と玄谷は思った。
たった一振りで、しかも軽い一振りで、廃墟にダメージを与えてしまう。
・・・こんなのを相手に、果たして自分は睨むことができるのか?
玄谷はすぐにそんな考えを投げ捨てた。
とにかく、目をそらすな!相手がどれほど強くとも!
それで、最期を少しでも遅らせることはできるかもしれないのだから。
「それで奴らが貴様を殺そうとした理由はなんだった?」
どうやら、読心を使わなくてもよさそうなときは直接聞くようだ。
まあ、魔法を使うのもいちいち面倒だということなのだろうか。
「それは・・・」
その時、ある少女が現われたことで話は中断してしまった。
「・・・十七夜先輩に達志さん?」
ツインテールの少女で、工匠学舎の制服を着ている。
工匠学舎は工芸と職人の街である工匠区に位置しており、非常に技術のある工業学校だ。
工匠区のいくつかの工房に投資してきたのも、星ノ森家であった。
日本のメディチ家、というのが海外からの星ノ森家に対する評価だ。
そこにはいくらかの皮肉も交じっていたのだが。
事実、かつてのメディチ家もそこまで紳士的でもなかった。
いくつかの暴力と殺害のせいで、当主が街から追放されたこともある。
「じーざす・・・よりによって月咲か。今日は月夜は用事があるのか?」
達志の表情はこう語っていた。
こっちには十七夜がいるんだぞ。
それで玄谷は月咲と呼ばれた少女があの黒ローブの仲間だと察した。
こんな少女からも命を狙われるとは!被害妄想に陥りそうだ。
「こいつは天音月咲だ。まあ、強さは十七夜に劣るけどな」
達志は少女を指して、玄谷に紹介した。
「でも、うちは普通の人よりかは強いよ?
あと、月夜ちゃんは別の用事があるの」
彼女も変身して、和風のミニスカートといった格好に変身していた。
そして、手には竹笛を持っていた。おそらく、あれが武器なのだろう。
そうなると、少し不安になってくる。音波攻撃だ。
そんなのをされたら、二人がどう庇おうと攻撃は直接玄谷に届いてしまう。
どちらにせよ、できることは、あの山中での遭遇のときと変わらない。
敵の眼を見ろ。見ろ、視線を決してそらすな。
ある本の記述を思い出す。マオリ族の勇者にとって大切なのは自分の眼で相手を打ち負かすこと。
彼らの伝統舞踏のハカにも、その精神性が込められているらしい。
写真にも、まんまるに見開かれた舞者の眼が写っていた。
灼熱の怒りの炎と、氷のように冷たい殺気が噴き出していた。
玄谷の視線に、一瞬だけ月咲もひるんだ。
だが、すぐに余裕を取り戻した。一般人に何ができるというのだ?
彼女の表情はそれを物語っていた。
だが、そのとき、玄谷はようやく殺される心当たりにようやく気がついた。
宇宙の真理に近づきすぎただって?宇宙といえば、あのノートしかないじゃないか!
どうして、これの存在に思い当たらなかったのだろうか?
「・・・僕を殺したところで無駄でしょうね」
玄谷は相手の瞳を見据えながら、肩をすくめた。
そう、あれは玄谷の思いついたことではない。
人間かどうか疑わしい女性に教えてもらったのだ。
つまるところ、彼一人を殺したところで無意味なのだ。
「ようやく殺される心当たりに至ったというか・・・。
宇宙の真理に近づきすぎた、ですか。ようやく思い出しましたよ。
ですが、僕を殺しても本当に意味はないんです」
達志はそれを聞いて、驚愕すると同時に納得した。
どう考えても、あの宇宙社会学のことだった。
そして、玄谷の言わんとすることも察した。
確かに、彼一人を殺しても無駄だった。
「何しろ、それはある女性に教えてもらったんですから。
そして、その女性はとっくに宇宙の真理を知ってるでしょうね」
これに関しては出まかせだったが、そうかもしれないと思っていた。
あの智子のことだ。父親が彼女が宇宙から来たと確信しているくらいだ。
とっくに宇宙の真理とやらを知っているのかもしれない。
「あの方とやらが僕を殺そうとしたのは間違いでしたね。
僕を殺しても、智子さんは別の誰かにそれを教えるだけです。
まあ、完全な徒労というべきか・・・お疲れさまでした」
シニカルな笑みを月咲に向ける。
せめて、これで少しは時間稼ぎができるはずだ。
予想通り、彼女は戸惑っていた。
良心、玄谷を殺すことの無意味さ、命令・・・その三つが葛藤を起こしているようだ。
だが、最終的に彼女もまた玄谷の眼に視線を向ける。彼女はいったんは葛藤を乗り越えたのか。
玄谷の方がたじろぎそうになってしまうくらいに睨みつけていた。
「・・・関係ないよ。うちらの解放の邪魔をするんだったら、その智子さんという人も殺すだけ」
玄谷はどうにも『解放』という言葉に引っかかっていた。
『解放』?魔法少女は何かに囚われているということか?
だが、いったい何に?何が彼女たちを縛っている?
宇宙社会学が、いったい『解放』のどんな邪魔になるというのだろうか?
あと、彼女の肩をゆさぶってやりたくなる。
あれに喧嘩を売るのだけは、本当にやめといたほうがいい。
「一般人を殺して、解放だと⁉見損なったぞ!」
十七夜が声を荒げる。
彼女の瞳には、灼熱の怒りの炎が灯っていた。
まさに、マオリ族の戦士のようであった。
彼女の気迫を前に月咲も怯んではいるが、視線はそらしていなかった。
「・・・勝手に見損なってよ。うちらはこうでもしないと解放されないんだから」
「へえ、そりゃ面白いな」
達志は嘲笑いながら言った。
「こうやって解放された後、いつかは魔法少女のことが明るみに出るかもな。
それで、果たして世間の人はどう思うかね?一般人を殺して解放されたお前らを。
もしかしたら、暴徒化するかもな。そして、暴徒の手がお前の姉の服を剥ぎ・・・」
玄谷もわかっていた。次に何が起こるのかを。
これは間違いなく、逆鱗を踏もうとしているのだ。
彼女の攻撃が、玄谷にも十七夜にも向かないために。
「黙れ!このクズ!」
月咲は激情に身を任せながら、達志に急接近する。
そのまま笛を思い切り振るが、彼はあっさりとそれを避ける。
それどころか、隙を突いて月咲の腹部にストレートパンチを決めた。
そのまま彼女は廃墟の硬い床にどさりと倒れ込んだ。
「作戦通り、ってな。俺は東京で何度もこの方法で勝ったんだ」
達志の過去は意外と謎に包まれているが、ろくでもないものと誰もが予想していた。
顔に切り傷が多いし、噂では背中に何かが彫られた痕もあるとかないとか。
ともかく、問題はこれからのことだ。
彼が十七夜のもとに玄谷を連れてきたのは、安全のためだ。
彼女と一緒にいるところを見れば、誰も襲ってこないと踏んだためだ。
だが、実際にはこれだ。彼女たちは襲ってくる。
達志は柱に月咲を縛り付けた。目覚められて、動かれても困るからだ。
「・・・こうなりゃ、あそこしかないか。すっげえ気が乗らないんだけどな」
達志は大きな溜息をついた。
「あそこってどこですか?」
「調整屋って場所だよ。魔法少女の強化とかを担当してる。
そういった能力を持つ魔法少女もいるんだがな・・・
まあ、とにかくそこは中立というか、争いが禁止というか・・・」
達志の表情はあれに似ていた。
酢の物を食べる羽目になった兄の顔だ。
そこはかとなく嫌そうな顔をしていたものだ。
そんな彼も今では立派な士官クラスの自衛隊員らしい。
軍隊まで駄目にする気かとごく一部の有識者は警戒したそうだが。
「俺、あいつと仲が悪いんだけどなあ・・・」
「ほお?お前と仲のいい神浜市の人間が今までいたか?」
十七夜は目で言っていた。お前とは友達じゃない。
さっきまでの達志との親しさは彼女から消えてしまったようだった。
玄谷はあまり二人の関係に関してあまり追求しないことにした。
それより、その調整屋とかいう場所が問題だ。
「とにかく、ももこに連絡を取っておくとして・・・。
また駅前まで護衛を頼まれてくれるか、十七夜?」
「・・・まあいいだろう。先に行ってろ。私は玄谷と話がしたい」
彼女はしっしと手払いして、達志を追い払った。
そして、玄谷の前に向き合った。
「智子とは何者だ?」
答えは一つしかなかった。
「わかりません」
わからないのだ。本当に。
星ノ森家と智子のご近所づきあいは数百年以来だ。
だが、その数百年、誰も智子の正体を突き止められなかった。
いや、突き止める気すら起きなかったのだ。
不思議に思うことはあれど、今の関係で十分だったのだ。
「わからない、だと?」
「近所に数百年ぐらい前から住んでいるということだけはわかっています」
「数百年、か・・・魔法少女ではないな。魔法少女の生命は儚いからな」
彼女は右目のモノクルを示した。
「これはソウルジェムといって、魔法を使ったり精神的ダメージを受けると穢れる」
何か嫌な予感がする。
そうだ。智子が話してくれたおとぎ話だ。
願いと引き換えに、不思議な宝石を使って戦う少女のお話。
祖父はそれは巫の暗喩だとか言っていたが。
最終的に、おとぎ話は暗い末路を迎える。
宝石には穢れが溜まり、それを倒すには化け物の落とす黒玉が必要だ。
しかし、最終的に宝石に穢れが溜まりきって、少女も化け物になってしまう。
そして、別の宝石を使って戦う少女に倒されるのだ。
その少女も、宝石に穢れがたまり・・・。
「・・・穢れが完全にたまると、化け物にでもなるんですか?」
「ほう、知っていたのか?」
当たってほしくない予想だった。
「智子さんはおとぎ話を作るのが趣味だったんです。
そのおとぎ話のひとつが暗い結末でしてね・・・。
宝石を使って戦っていたら、化け物になってしまって倒されるという結末です」
「少なくとも、智子とやらは魔法少女の知識を持っていたわけだ。
その穢れを取る方法とやらも、おとぎ話の中にあったか?」
「ええ、黒玉という化け物の落とすものが必要でした」
「私たちは化け物のことを魔女と呼び、黒玉をグリーフシードという。
・・・念のため聞くが、少女に戦うようにけしかけた者がいるのではないか?」
「ええ、いますね。ですが、智子さんは彼らの目的について語ろうとしませんでした。
いつか話す日が来るとは言っていましたが・・・何のための・・・」
だが、急に単語を思い出せなくなった。
ああ、ほら、あれだ。消防士が仕事のために火をつけること。
これから毎日・・・それは違う。それは気の狂ったアニメだ。
マッチで火をつけて、それをポンプで消す・・・。
「マッチポンプ、と言いたいのだろう?」
「ええ、それです。何のためのマッチポンプなのかわからなかったんです」
「そうか・・・それは・・・」
「おーい、まだかー」
達志が呼んでいた。もう連絡を取り終えたのだろう。
長居する理由もない。いつ次の襲撃があるかわからない。
とにかくわからないことだらけだった。
だが、そのわからないことは今日初めて遭遇したわけではない。
ずっと以前から、智子はそれを知らせていたのだ。
こうなることをわかっていたのか?いや、さすがにそれはありえない。
わかるのは過去と現在で、未来は未だにわからないと明言していたのだから。
とにかく、どこかで一息ついて、整理する必要がある。
整理したら、それをもとに事態を打開するために行動する。
とにかく、敵の眼を見続けろ。どこにいるのかはわからないが。
三体好きかい?
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うん、大好きSA!
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まあまあSA!
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あたしゃ知りませんよ
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(よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
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全滅してやるぞ(嫌い)
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劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)