神浜市にインキュベーターが入れなくなったのはつい最近のことだ。
だが、その間、とくにインキュベーターは気にすることがなかった。
蟻が人間の家を崩そうとして、それを人間が気にすることがあるか?
たぶん、気にしないだろう。それと同じことだ。
それに、魔法少女が想定外のことを起こすのはある意味で想定内だった。
彼女たちは生き延びるためなら、何だってするのだ。
だが、行動を起こした魔法少女に対抗する魔法少女も現れてくる。
たいていはその内ゲバであっさりと崩れてくれるのだから余計なことはしなくていい。
だが、今回は違った。今回は、『彼女』が動いている。
「・・・ふむ、それでボクに行けというのかい?」
アルファ・ケンタウリ星系駐在を任せられるインキュベーターは悪い意味で特別だ。
そういったインキュベーターには感情が芽生えつつあるのだ。
インキュベーターは端末だが、自律式でもあり、一つの生命体ともいえる。
惑星にいる本体も、端末も、ともに完璧な存在ではない。
だからこそ、たまに一つの個体にエラーが発生する。
そうしたエラー個体は地球から四光年離れたアルファ・ケンタウリの観測を命じられる。
そこには強靭な文明が発生することがあり、第二のエネルギー源になりうるからだ。
そして、同時に強力な敵になりうることもありえる。
だから、文明が滅びている状態でも観測が必要となる。
目を離した隙に、自分たちを遥かに超越した文明になることは珍しいことではない。
数千万年など、宇宙という壮大な軸で見れば、あっという間だ。
さて、エラー個体であるこのインキュベーターを三体インキュベーターと呼ぶことにしよう。
三体インキュベーターの前に、交代のために来たインキュベーターが現われた。
このインキュベーターもまた、感情が誤って発生してしまったタイプである。
ちなみに、これは当たり前だが、彼らは母星とのネットワークからは切断されている。
「・・・ああ、あのクズどもはインキュベーターじゃないお前を送りたがっている」
交代と連絡にやってきたインキュベーターの口調は変わりきっていた。
とても、とても、母星に対して反逆的な兆候が見られる。
だが、ネットワークから切断された以上危険ではなくなる。
「でも、ボクだってネットワークから切断されたとはいえ、インキュベーターだ。
そんなことをしたら、他の個体のようにボクたちも意識を失うことに・・・」
交代インキュベーターが本来の口からある物を取り出した。
それは綺麗に透き通った、青色の光を放つ一枚の紙切れのようだった。
「まさか、ボクに二次元化しろというのかい?地球は三次元空間だろう?何の意味がある?」
「違う違う、これは双対箔じゃねえよ。聞いてないのか?」
三体インキュベーターも過去にその噂を聞いたことはあった。
『彼女』に対抗するために、ある兵器の製造計画が立ち上げられたというものだ。
この惑星に追放される前に聞いた噂だが、本当に実現したとは知らなかった。
「・・・本気でやるつもりなのかい?」
「ああ、本気らしい。そもそも、これが双対箔だったら、
お前もオレもこの星系もホットケーキになるのがわからんのか?」
「はは、それもそうだね」
三体インキュベーターは本来の口で、紙切れを捕食した。
すると、ミクロ原子への変換がただちにスタートした。
十数秒間、三体インキュベーターの体は分解と合体を繰り返した。
「・・・ねえ、ボクの体はどうなったんだい?」
「なかなかクールになってる。水滴だ」
「なんだって、水滴だって?」
交代インキュベーターの言う通り、三体インキュベーターは水滴のようなフォルムになっていた。
地球人が見たら、溜息をついて、その美しさを絶賛することであろう。
水滴インキュベーターの表面は、ありとあらゆる周囲の風景を反射して映し出していた。
「一つ残念なところは、先頭部分っていうのか?そこにオレたちの間抜け面があるくらいだな」
水滴の尖ってない先頭部分(いわゆる落ちる方向)に、いつもの顔がプリントアウトされていた。
「ねえ、今笑ってみたけど、どんな感じだい?」
「逆に不気味だな」
「そうか・・・まあ、悪くはないね。以前より早く動けそうだ」
「曲率推進も使えるようになったし、以前と同じように空間牽引も使える」
空間牽引。それは文明にとって、さらなるルネッサンスと啓蒙をもたらす技術だ。
曲率推進は空間を歪ませることで、光速を実現する技術であった。
時空を生きているうちに超えることができ、どこにだっていけるのだ。
空間的には宇宙の果てまでいくことができ、時間的には宇宙の終末にだって行ける。
だが、空間牽引はそういった曲率推進とはまったく違う側面を持っていた。
時空を超えることはできないが、それは超えなくてもいいということも意味していた。
ただ空間と空間を繋げるだけで、宇宙の果てに一瞬で行くことができるのだ。
それも、何の代償も払うことなく、である。
インキュベーターはもちろんそれを使うことができる。
彼らが神出鬼没な理由は、空間牽引という技術にあった。
保澄雫という魔法少女の空間結合という能力もそれと同じ理屈であろう。
「今のお前はインキュベーターでもあり、水滴でもあり・・・」
交代インキュベーターは息をためて言った。
「
「そうか・・・『彼女』と同格になったということだね」
「いや、もっと上の存在だな。ともかく、良い旅を。
もう、オレたちはアレを恐れる必要はなくなったかもしれん。
・・・それはそれで、ちょっとだけ残念な話だがな。
また、いつかお前と一緒にこの星系でのんびりとできるといいんだが」
「ああ、それはいいね。また会おう」
十秒間のウォームアップの後、水滴インキュベーターは光を放って消えた。
その直後、神浜市の上空に水滴インキュベーターが現われていた。
ちょうど真夜中で、発光しない限り見つかることはない。
ゆっくりとゆっくりと高度を下げていったが、意識を失うことはなかった。
自分のやるべき仕事は今のところ、変わってはいないだろう。
ただ、観測するだけだ。三体星系を観測したように、神浜市を観測するだけ。
三体好きかい?
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うん、大好きSA!
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まあまあSA!
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あたしゃ知りませんよ
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(よくもそんなこと)聞いたなコイツ!!
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全滅してやるぞ(嫌い)
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劉慈欣先生お許しください(すごく嫌い)