中央暦1639年10月6日6:50
エストシラント ムー大使館
「ムーゲ殿おはようございます」
「あぁおはよう」
外交官の朝は早い、今日も文明圏内外の国家の相手をしなくてはならない。
「すまないがコーヒーを頼む」
机に並べられた新聞や書類を一通り眺め仕事に取り掛かる。
如何やら若き皇帝は皇室の用事でパールネウスヘ趣いているらしい。
その時であった。
ドゴォォォン
朝の皇都に響く爆音に思わず外を見ると、皇都防衛隊陸軍基地のある方角から黒煙が立ち込めていた。
◇◆◇◆
「爆撃成功!爆撃成功!迎撃騎は未だ現れず!」
SM.79を中心としたイタリア空軍の航空隊は皇都防衛隊陸軍基地の滑走路を潰し航空戦力を封じ込めた。
「魔石が誘爆するぞッーーー‼逃げろッーー‼」」
鎮火に当たっていた作業員が諦めて逃げ出し始め、火の手が基地にまで回り爆発した。
これにより陸将メイガは戦死、皇都上空の制空権は完全に喪失した。
◇◆◇◆
一方、エストシラント港海軍基地も敵襲に逃げ惑う事しかできなかった。
「おいッ掃除夫ッ!お前もこれ持って火ィ消せ!!」
「ハッ!ハイッ‼」
(畜生!なんでこんなことにッ‼)
シルガイアも消火活動に駆り出されていた。
(バルスは大丈夫だろうか…)
火の手が上がり始めている海軍本部を見ながら友の身を案じる。
「あッ!」
海上から飛行機械が侵入し爆弾を本部に投下した。
「バルスッ!」
海軍本部は盛大に崩れ、その後イタリア艦隊による艦砲射撃により軍の施設は跡形もなく吹き飛んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
イタリア
「既に陸上部隊の陸揚げは終了しており、航空隊も皇都に対しての都市爆撃を開始しております」
「皇帝がいるだろうから反撃も激しいだろうが、戦車も持たぬ奴らがどう抗おうと無意味だな。皇都占領後の治安回復はグラツァーニ元帥に一任する。」
「はっ、お任せを」
○○○○
ロドルフォ・グラツィアーニ イタリア陸軍元帥 ロウリア帝国副王
彼は1920年代の北アフリカでの植民地統治で、反抗的な現地住民を収容所に入れその殆どが餓死or処刑という末路であったため敵からはフェザーンの屠殺者と渾名で恐れられた。
第二次エチオピア戦争においても石橋を叩きすぎた前任とは打って変わって毒ガスや戦略爆撃等の苛烈な攻勢でイタリアを勝利に導いた。
その後またもや3万人以上の現地人を反乱者として処刑した為屠殺者との渾名で恐れられた。
その苛烈さは先のロウリアとの戦いにおいても健在であり、ロウリア王国崩壊後指示に従わない諸侯領を爆撃で焼き払う他、反抗的な領主を航空機からのパラシュート無しスカイダイビングに招待したりした結果、屠殺者の渾名で恐れられている。
○○○○
「戦車を前面に押し立てぇ!蛮族を引き潰せぇ!」
M11/39が瓦礫を乗り越え、待ち構える皇国兵に向けて容赦なく機関銃と砲撃をお見舞いする。
「こちら第2警備隊!皇国本軍はまだか!」
「ワイバーンロードを早く遣せ!リントヴルムでも!ッこっちに気づいた!」
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パラディス城 会議室
突然の出来事で完全に機能不全に陥っており、今戦況がどうなっているのかすら把握していなかった。
「なんなのだ!どこの国が攻めて来たかすらも分からないのか!?」
宰相は空席が目立つ中第一外務局局長しか座っていない席を見ながら悲鳴に近い叫びをあげる
。
「エルト局長!あのような機械文明国家が存在したなんて聞いてないぞ!」
「それは…!何と申し上げたらよいか…」
「とにかく皇帝陛下には伝えている!このままだと皇都が陥落するのも時間の問題だ!我々は列強大使館の職員を保護しパールネウスヘ向かう。」
そういい宰相が準備を始めようと立ち上がる時だった。
「敵が最終防衛ラインを突破しました!」
「いかん!急ぐぞ皆!」
宰相達は列強の外交官やその家族と命からがらエストシラントから脱出した。
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第3外務局
イタリアの攻撃が始まってからのここの動きは速かった。
窓口対応していたライタを叩きのめし宣戦布告証書を取り出すと、中には降伏の仕方が書いてあったので急いで白旗を縫い合わせ屋上に掲げた。
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中央暦1639年10月10日3:00
エストシラント周辺及び属領を領土とした南フィルアデス帝国がここに建国された。
皇帝はヴィットーリオ・エマヌエーレ3世
副王ロドルフォ・グラツィアーニ
首相カイオス
「国民を見捨ておのれの保身の為に逃げた皇帝や宰相等の卑劣な者どもを許す訳にはいかない!我々は奴らと決別し南フィルアデス帝国としてイタリアと共に歩むことを決めたのである!」
「なかなか良い演説だったよ、カイオス殿」
実質的に国の支配者となった隣席のグラツァーニが笑みを浮かべていた。イタリアを理解し早期に降伏したカイオスはなし崩し的に首相へなってしまったのであった。
…因みにグラツァーニはその後、属領として再編入されるのを拒む抵抗組織を反乱者として処刑祭りを始めた。
またしても彼は屠殺者という渾名で恐れられる事となる。