神速にして迅速にして敏速の、ワイン好きな吸血鬼   作:夏祭

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原作突入

 あまりに唐突な導入で申し訳なく思うが、原作に突入した。

 四肢をもがれて力の大部分を削られた、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが偶然にも出くわしたした阿良々木暦の血を吸い、一命をとりとめた。忍野メメの助言を聞いて仮宿にした例の学習塾跡で、阿良々木がハートアンダーブレードのために、あの三人の吸血鬼退治の専門家。ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターと戦うことになったというところだ。厳密には一人の人間と二体の吸血鬼と呼ぶべきかもしれないが、些細な違いなので気にしないことにする。

 本来ならばもう少し俺のこれまでについて語っていくべきなのかもしれないが、しかし長々と語っていても仕方がないのでさっくりと説明しよう。

 

 

 

 俺はスーサイドマスターやら他の吸血鬼と親交を深め、いつものようにワインを作りながら、時に吸血鬼退治の専門家に襲撃されたりそれを撃退したり。葡萄畑の世話の合間に魔術を勉強してみたり。眷属なんてつくらず、気ままな独身の吸血鬼ライフを送っていた。

 当然長いこと生きていればハートアンダーブレードともかち合う。吸血鬼同士が出会ったら凄惨な殺し合いが始まると思われかもしれないが、実際のところはそういうわけでもない。縄張りで好き勝手に暴れまわれば癪に障った吸血鬼に襲われることはあるけれども、礼儀正しく挨拶しに行けば大抵のところは、こちらこそよろしく、と握手をして終わることが多い。そんな中で俺は言うわけだ。もしよければ自分の作ったワインを召し上がりませんか。どこそこの貴族や、なんとかという国の王家で御用達となっているワインなのです。厨房を貸してもらえればそれに見合った食事も作ります。云々。

 往々に友好を結べる。

 そんなわけで俺は各国で自分の保有している畑以外に興味がないし、彼女もまた好戦的な性格というわけでもないので、出会い頭にワインに興味はないかと話しかけみても、あくまで冷静に会話ができたし、ハートアンダーブレードとある程度の親交を結ぶこととなった。それから彼女はふらりと俺の畑に現れてはワインと食事をねだったが、戦おうとは言わなかった。ハートアンダーブレードが日本で『くらやみ』と遭遇し、初めて作った眷属が焼身自殺して落ち込んで来た時も、ワインと食事を出したら机ごと食べるような勢いで口にかき込んでいき、満足したのかその後は吹っ切れたようでどっかへ去っていったのだ。

 そんなわけで各地にワインを作りながら時を過ごし、折を見て日本に向かった。直江津に拠点を置き、色々と失敗をしつつも、片足を故障したバスケットプレイヤーを眷属にしたぐらいで大したことはしていない。

 

 

 

 どこで阿良々木とドラマツルギーが戦うかなんて覚えていなかったからどうしたものかと思ってさすらっていたら学習塾跡付近にいた忍野メメに見つかってしまった。

「怪異の王。神速にして迅速にして敏速の吸血鬼、ピノ・ノワール・カトラスまで日本にいるとは思わなかったよ。やれやれ。元気がいいねぇ、何かいいことでもあったのかい?」

 この世界ではハートアンダーブレードより俺が早く怪異として誕生していた。おかげで怪異の王という呼び名は俺の方についてしまったよ。

 あれ? そういや二つ名の方にワイン好きが入ってないのだけれど。

 そんな俺の気持ちをよそに怪異の専門家、忍野メメはひょうひょうとした態度こそとっていたが、こちらを観察するような目は冷静で真剣そのものだった。

「元気元気。『俺』だからな。」

 そんな俺たちのやり取りを見たハートアンダーブレードは、床から飛び上がって素っ頓狂な声を出した。

 阿良々木暦もハートアンダーブレード以外の吸血鬼を見て驚嘆という風な表情を浮かべている。

「貴様がどうしてここにおるのじゃ!?」

「ケッケッケッ。最近はこのあたりを拠点にしてるのさ。風の噂でお前さんが来たと聞いたもんでね。観光案内してやろうと思ったわけさ。それがまぁ、随分と可愛らしい姿になったもんだ」

「おのれ、このワイン馬鹿が! 貴様がおると知っておれば眷属なんぞ作らずともよかったからに!!」

 ガブリと俺に噛み付く吸血鬼幼女。はっはっは。痛くも痒くもない!

 俺の肌に牙が刺さらないのでエナジードレインが発動しないようだ。俺の最適化された肉体が牙を跳ね返しているばかりである。

 そんな幼女を無視して、険しい顔をしている男子に目を向けた。これが約七百年ぶりに見る物語シリーズの主人公、阿良々木暦か。不良になりきれなかった真面目くん、という印象を受けた。

「えっと、ピノって言ったっけ? あんたも吸血鬼なのか」

 阿良々木は遠慮がちに俺に尋ねた。

「ああ。ピノ・ノワール・カトラスだ。日本のアイスと同じ名前で覚えやすいだろ? ピノっちと呼んでくれ」

「ピノっち!? そんな『たまごっち』みたいな名前で良いのか? フランクすぎるだろ!」

「ケッケッケッ。『フランキっち』でも良いぜ」

「コーラが大好きそうな海賊みたいな名前! なんでそんなに『○○っち』ってつけたがるんだよ!?」

「静岡県出身のやつは自分の家のことを『うちっち』というからな」

「まさかの方言! というか静岡県出身なのか!? 外国人っぽいのに!!?」

「出身はおいしい葡萄畑があるヨーロッパの片田舎だ」

「やっぱり外国人じゃないか!」

 おおう。流れるような華麗なるツッコミ。

 阿良々木は肩で息をしていた。面白い子供だ。

「わかったよピノっち。僕の名前は阿良々木暦だ。あんた、キスショットの――」

「ガキが気安く『ピノっち』とか呼んでんじゃねーよ。カトラスさんと呼べ」

「全然フランキっちじゃなかった!」

 リズム感がいい。原作の通りで安心した。

 閑話休題。

「カトラス。それで、えっと。あんたはキスショットの仲間なのか?」

「ふむ。同族という意味では仲間だな。しかし友人と言うわけではない。強いていえば。あえて言うならば知り合いだ。顔を合わせれば一緒にワインを飲む程度の仲だと覚えておけばいい。お前にも街で顔を見れば立ち話をするくらいの知人がいるだろう?」

 言葉をかけたものの、そういえば阿良々木暦は現時点で友達はおらず、羽川翼がグレーなところなことを思い出した。案の定、彼は視線をそらして頬をかいている。

 まぁ、いいや。

「お前さんはこのロリの眷属のようだが、こいつの最近の趣味で合ってるか?」

 俺はあくまで事情を知らないという体で阿良々木に話しかけた。もっとも返答したのはハートアンダーブレードの方だが。

「違うわ無礼者! これはヴァンパイア・ハンターにやられたせいなのじゃ!」

「はぁ? ヴァンパイア・ハンター? そんなもんお前さんの敵じゃなかろうに」

「無論そうじゃ。しかし今回は油断した。三人がかりで来たのじゃが、結局両腕両足を奪われてしまっての。逃げ出すのが精一杯じゃった。情けない限りじゃ」

 普通に四肢を取られたぐらいじゃこんなに弱体化はしない。再生を封じられているのだったっけ?

 ムカついた、というようよりは落ち込んだ表情だ。

 俺は首を忍野メメの方に向ける。ハートアンダーブレードはこちらの視線に気づいたのか渋い顔をした。

「そやつはただのでしゃばりな小僧じゃ」

「でしゃばりね。それは僕からはもっとも縁遠い言葉だよ。むしろ引っ込み思案な部類でね。まぁいいさ。でしゃばるつもりはないけれど。一応名乗っておこうか。僕は忍野メメだ。怪異の専門家さ」

 そう言って忍野メメは火のついていないタバコを口に咥えた。

 寝転んだままである。説得力というか、緊張感もない男だな。このおっさんは。

 いや、歳で考えれば俺はおじいちゃん。

 しかし気持ちは二十代後半なので、ここは一つ、おっさんということで。

 忍野は俺の考えとは関係なしに言葉を続ける。

「なんなら僕が間に立ってあげてもいいよ」

 仲介人としてあちら、つまりドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターのもとへ出向き、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの四肢をかけて勝負をするよう調整するという話をした。味方じゃないだの自分は中立だのなんやかんや理由はつけているが、困っている子供を放っておけない、手をさし伸ばさなければ済まないとでも言わんばかりのお人好し。もとい根の優しい男なのだということは、はっきりとわかった。

 ひと通り喋った忍野に対し、阿良々木が声を上げる。

「待ってくれ忍野。カトラスが三人と戦うのは駄目なのか? さっき忍野はカトラスのことを怪異の王とか言ってたし、実際強いんだろ? だったらろくに戦ったこのない僕なんかよりずっと勝算があるんじゃないか?」

「そうは言ってもねぇ。彼らが望んでいるのはハートアンダーブレードの退治だ。あくまでキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの眷属である阿良々木君が彼らと勝負をすることに意味があるんだよ。カトラスが彼らと戦うとか、彼と阿良々木君がペアを組んで戦うというんなら、どう考えてもバランスが悪すぎる」

 忍野は阿良々木の言葉に気だるげに、しかしきっぱりと返答した。ぶっちゃけ俺だけで三人を殺すことは容易い。神速と名を冠しているのは伊達じゃないので、文字通り奴らをぶっちぎってやることは可能である。

 まぁ、答えは決まっているのだが。

「俺はただハートアンダーブレードの顔を見に来ただけだ。そもそもどうして俺がそんな面倒事のために手間を割かねばならないんだよ。自分の不始末なのだから自分で片付けるべきだ」

「なんだよそれ。顔見知りが困ってるんだったら協力するのが普通じゃないのか!」

 阿良々木は暗に俺がハートアンダーブレードの自業自得だと伝えたことに憤りを感じたのか語尾を強めて詰め寄った。なんだかんだと本当は義理堅い優しい子だものな。

 でも、おいちゃんは意地悪なのである。

「ハートアンダーブレードから『助けてくれ』なんて請われたわけでもないしな」

 俺の言葉にハートアンダーブレードは目を見開いたと思えば、次の瞬間には刃物みたいな殺意を含んで俺を睨みつけた。冷淡で冷静で冷血な眼だ。

「見くびるなよ、ワイン馬鹿が。儂はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードなのじゃぞ」

 弱体化したとしても、十歳くらいの子供の姿になっても傲慢な物言いだった。

 見せかけで、虚勢で、ハリボテの自信だった。

「安心しろよ。ラギーへの声援なら観客席から送ってやる」

「変な名前の略し方をするな。僕の名前は阿良々木暦だ」

「悪いな、噛んじまった」

「違う。わざとだ」

「かみまみた」

「わざとじゃない!?」

 さて。会場に行く前にワインとツマミを用意するか。

 

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