転生したら男の娘でしたので女装にハマりました 作:性癖をさらしていけ
学園の入学式当日、俺はがっつりと遅刻をし登校するのを諦めていた。学園に行く道すがらの店でシュークリームを買い、ちょうどよさげなベンチでシュークリームをくわえ一息をつく。視界の隅の方を小型の自立人形がちょこまかと走り抜けていくのが見えた。
この街は魔導技術で有名な街だ。あれらは製造時に刻み込まれた命令に忠実に動き続けるだけの道具だ。ある程度複雑な命令も受け付け、その範囲内であれば多少の判断力を持たせることも可能、しかしその命令の外側にあることは一切できない。学園長が作り上げた至高のゴーレムである。
他の技術者にはああいったものは作れないだろう。
非常に活気のある街ではあるが、この街も例に漏れず華やかな場所から外れた場所に行けば、使われなくなった建物や廃劇場、錆びついた螺旋階段などが存在している。しかしそういった場所は数少ない遠景のスポットでもある。
ベンチから立ち上がりひときわ大きな建物を目指す。
ここまでの道で朝食代わりのシュークリームをほとんど食べ終わってしまったが、まだわずかに残っている。
眼下に広がる街並みを眺めながらシュークリームをかじる。屋上にまで登ってきた瞬間、視界の端に奇妙なものが映った。それは一人の女の子だった。誰もいないだろうと思っていたほとんど確信をしていた。だから驚いて口にくわえたままのシュークリーム落としかけてしまった。建物の屋上の隅、手すりのない縁に腰をかけている。足をぶらぶらさせながら空っぽの目つきで彼方を眺めている。その姿からはまるで生気が感じられない。間違いなく生きているはずなのにまるで生を感じさせない。異様に精巧な人形を目の前にしたような不安と違和感がある。その横顔からはうまく感情が読み取れない。
色々な感情がごちゃごちゃに混ざり合っているせいでまるで灰色の空洞だけが広がっているように見えてしまう。自分と同じく制服を着ているのを見て彼女が学園の生徒であることを判断した。
「こんなところで何をしているんですか?」
興味が湧いたので話しかけることにした。ちなみに俺は今女装をしている。キャラ付けは清楚系お嬢様をベースにちょっとなヤンチャな所と不思議ちゃんなところを組み合わせた性格を心掛けている。
少女はこちらを見て少し驚いたようにこちらを見てきた。彼女の赤い視線と俺の琥珀色の視線が重なった。
その表情には生気が戻っていた。先ほどの人形のような違和感はなくなっていた。
黒色の髪が風に靡く。赤い瞳が陽の光を反射して僅かに揺れている。
「君、どうして女装しているの?」
キョトンとして小首をかしげる少女に俺は絶句した。え?この子なんて言った?助走?序奏?女装?いやいや、テフェリーは、俺の女装した姿を知っているから気づいただけだ。初見で女装だと言い当てた奴なんて一人もいない。聞き間違いに決まってるだろ。
「何のことでしょうか?」
「いやだから何で女装してるのかなって」
はい、ばれてました。任務失敗ですね。ありがとうございます。
「あ、ごめん。まず自己紹介だよね。ボクはアリス・ストレイド。バレッタ学園の2年生。よろしく、新入生君」
いや、ボクっ子だしちょっと不思議ちゃんだし、マイペースだし、可愛いし何だこの子。敗北感えぐいな。俺が打ちひしがれていると、アリスと名乗った少女は距離を縮めるために歩いてきた。
「君の名前を聞かせてくれない?」
「えっと、アイラ・グレイバーです。ストレイド先輩?」
男言葉が出なかったのは我ながら流石だと思う。正直驚いたが俺は相手の疑惑を肯定していない。巻き返せると思っている。
「女の子みたいな名前だね?」
「………先輩は何でそんなに私が男だと疑っているんですか?」
「?見ればわかるよ?」
心底不思議そうな顔をして小首をかしげる目の前の少女を見て少なくとも悪意はないのだろうなと感じた。
「………」
「あ!ごめん、約束があるんだった。また学園で会おうね!」
突如として話をぶった切って目の前から消えていく先輩を見て、嵐みたいな人だなと思った。マジでどうしよう。あの人が俺のことを言いふらしたらめんどくさいな。そう思い、俺は先輩を尾行することに決めた。
よくよく考えれば女子生徒の尾行ってだいぶやばいなと思いつつ、女装しているから問題ないと頭を切り替える。尾行なんて仕事柄やりなれているし、後ろめたくなんてない。だって女装しているから実質合法だし。
先輩は喫茶店に入っていった。完璧に学園にはいかず、さぼる気らしい。なんて不良学生なんだ。これが帝国の若者だなんて将来が思いやられるな。なお自分のことは考えない。
「まじですか、え?あれ皇女殿下だよね?帰ろうかな………」
先輩の待ち合わせの相手は皇女殿下だった。皇女の方は変装しているが彼女に変装技術を教えたのは俺だし、まだまだ完成度が低いから見ればわかる。一般人は騙せるがその道のプロは騙せないレベルだ。
エリス皇女は相変わらずだ。変装の上からでもわかる。おそらく一時的に染めているのであろう暗めの茶髪を揺らしニコニコとした笑顔を張り付ける彼女の仕草は男心を掴んで離さないだろうが仮面の下は真っ黒。マイペースな性格で、強かで腹黒い一面も持っている。そんな内面が笑顔からにじみ出ている。
流石にこの距離では二人の会話までは聞き取れない。魔術で聴覚を強化しても雑音と遮蔽物が邪魔だ。
そう言えばいくら変装をしているとはいえ、護衛がいないのは妙だ。後続の護衛はかなり優秀なため、たとえお忍びで城を抜け出すお転婆が相手でも見つからない様についていくものだ。ましてや、この街は帝都の外。ちょっと外出してきますわ、では済まされない距離だ。
「厄介ごとのにおいしますね。任務もありますし………一人になったところをサクッとやってしまうのが最適解でしょうか?」
そんなことを考えていると後ろから声を掛けられる。
「のう、そこの不審者。可愛い可愛い童の頼みを聞いてくれたりせんかの?」
振り返ったところにいたのは10歳ばかりの小柄な少女だった。華奢な体躯と鹿撃ち帽の下の人形のような精緻に整った白貌。宝石めいた黄金色の瞳に膝裏まで届く紅い髪が、厳めかしいぶかぶかの軍服と不思議な調和を再現している。
全体的に服装と体格がアンバランスすぎる。
だがそんなことはどうでもいい。それよりもこいつは聞き捨てならないことを言った。
「誰が不審者ですか!誰が!」
この俺が不審者?尾行していても美少女だったら許されんじゃないのか?確かに俺は男だけど。
「お主、本気で驚愕しておるんじゃな………ちょっと引くぞ」
「余計なお世話です」
大体、このちびっこ何処から現れやがった?ここは喫茶店の対面にある雑貨屋だが、超閑散としているため客が入ってくればわかるはずなんだけど。
「フフン!知りたいか?不思議じゃもんな?童が何で気づかれずにお主の背後にこれたのか」
面倒の匂いがする目の前の少女は得意気に薄い胸を張る。一度目線を切り、嘆息して自分と似たような色の瞳を見下ろした。
「大方、その帽子に仕掛けがあるのでしょう?」
「な!なんでわかったのじゃ!?」
「カマかけただけです」
「ひ、卑怯じゃぞ!」
「大人は卑怯なんです。いい社会勉強になりましたね、では子供は帰る時間ですよ」
再び、視線を喫茶店の方へと戻す。そこで自身の致命的なミスに気が付いた。二人がいなくなっているのだ。急いで視線を出口と周囲の通りに向ける。人ごみの中に二人の姿を探すが、見当たらなかった。そんなことがあり得るのか?俺がちびっこと話していた時間は僅か数分だぞ?その間に………。
「人探しなら童は得意じゃぞ?」
俺の困惑と焦燥を見透かしたようにのぞき込んでくる少女に軽い殺意を抱きつつ、メリットとデメリットを考える。あの時は焦って尾行をしたが、そこまでの価値があるとは思えなくなってきた。彼女一人が俺のことを女装した男だと言っても誰も信じない自信がある。ただ、皇女がいたのは気になる。
「………あなたのお名前を伺っても?」
「ウム!童の名はクロエじゃ!」
「ではクロエ。あなたはどの程度の時間で私の探し人を見つけられますか?」
「30秒もあれば十分じゃ」
「最後に、貴方の頼みごとの中身を伺ってもよろしいですか?」
「ウム、よいぞ!童の頼み事は1月ほど匿ってほしいということじゃ」
匿ってくれ、か。任務中、それも潜入捜査でなければ事情を詳しく聞いたのだろうが、あいにく今は油断できない任務の真っ最中だ。というわけで
「なるほど――――――――――却下です」
完璧な笑顔でそう返すしかなかった。