芦毛の誇り高き妹 作:室星奏
「……」
「……」
先ほどの一件が重なり、
周囲には俺と
何故こうなってしまったのか、十数分前の車内の出来事に遡る。
***
腕を掴まれ、隣の車両まで移動してきた俺は、再び近くの席に腰掛ける。幸いだったのか、この車両には人が2人しかおらず、そのどちらも携帯しか見ていなかったので、こちらに視線をやる人は誰一人としていなかった。
「な、なあ、いきなりどうした?」
「……兄は、私だけを見てくれれば良いのに」
「ん、よく聞こえないが」
「何でもない、ただ、あの子と関わるのは、止めたほうがいいかもしれない」
「……」
俺には
もし
俺は、
「ぁ」
「なあ、もし悩みとかあったら相談してくれよ? 俺はお前の兄貴なんだからな」
「……ありがと」
そして今に至る。
あの後、先ほど出会ったタマモクロスも同じ駅で降りたが、これと言った反応はしてこなかった(チラチラと見てくる事はあったものの)。
「おっ、来たか……いやあ、オグリキャップを生で相対する日が来るとはね」
「どうもっす。ほら、オグリも挨拶しとけ」
「……よろしく頼む」
俺以外の人と相対するときは、必ずと言っていいほどクールな
その挨拶を聞いた彼は「うんうん」と頷き、俺と
案内と言っても、具体的な業務内容と契約締結、そしてここトレセン学園の案内が大半を占めている為、そこまで堅苦しくはない。それも俺が、ここトレセン学園に対する嬉しい事の一つであろう。
「一応地方レースでそれ相応の活躍をしているからな。デビュー戦はすっ飛ばしてもいいというお達しだ。一応知名度向上って意味でも、都心のオープン戦かGⅢぐらいは最初に出たほうがいいかもしれねぇが」
「成程。思ってた以上に色々あるんすね、さすが都会。……オグリはどうだ? 何かやりたい所とかは」
「私は、兄に言われた物なら、何でも出る。それで勝利を収めるだけの話だ」
「……はっはっは。べったりだな」
しかし、
渡された資料をまとめて、俺は続ける。
「揶揄わないでください。……話は以上っすか」
「ん、あぁ、ここでの話はな。後はトレセン学園の案内だけだが……」
「それは二人で見て覚えるので大丈夫っすよ。地図とか頂ければ、勝手にやらせてもらうんで」
「お、そうか。了解だ」
そう告げて、彼はトレセン学園の地図を渡してくる。外観だけで分かり切ってはいた事だが、やはり相当広い。教室だけでも色んな校舎に配置されており、覚えていても迷いそうな感覚である。
彼曰く1年程在籍している生徒でも、主に使う部屋ぐらいしか覚えていないとかなんとか。それでいいのか、と思ったが、ウマ娘の目的という都合上、それで妥当なのかもしれない。
話が終わり、二人そろって廊下へと出る。
「さて、一先ずどこから見ていくか?」
「お、話終わったんか?」
「お前は……」
「もう名前忘れてもうたんか? タマモクロスや、忘れんでほしいわ」
駅で出会ったウマ娘が、再び声をかけてくる。その時、俺はふと
刹那、背後にいた
「なあオグリ、なんでそんな怖い顔するんだ?」
「……別に。何でやってくるんだろう……」
「ん? 今何か言うたか?」
「気のせいだろう」
スッと表情をいつもの感じに戻し、不愛想に接する。これから学園生活を共にする仲間になるんだし、もう少し仲良く接してもらいたい所なんだが……。
あ、そうだ。怒るかもしれないが、ここは一つ手を打つ事にしよう。
「……あっ、やべっ」
「? どうかしたか? 兄」
「いやぁ、理事長から二人で話があるから、あとできてってメールで来てたの忘れてたわ……」
「……成程。では、私も」
「や、二人だけって言われたし、それは不味いだろう。急いで戻るから、少しの間だけその子と居てやってくれ、せっかくの機会だろ?」
「――な?」「ほう?」
それだけ告げて、俺はそそくさと走り去っていく。後で叱られたら、取りあえず夕飯の量を増量させて、機嫌を直す事にしよう。
と、軽く下手な芝居はうったが、俺も理事長には話したい事も沢山あるし、このまま理事長室に向かってみる事にしよう。
***
「……行ってしもうたな。どうするん? オグ――」
「……なんで?」
背後から聞こえる彼女の声が聞こえない程、私の身体の中では様々な感情がひしめき合って、騒めきあっていた。
何で私を置いていったの? いや、兄の言う事だ、さっきの言葉に偽りなんてないだろう。それは長年の付き合いだからこそ、よくわかっている。
わかっているのに――。何時どんな時も、私達は一緒に過ごしていたじゃないか。という苦い感情が沸き上がり、どうにかなってしまいそうだ。
「聞いとるん?」
「ぁ」
肩をボンッと叩かれ、遂に正気へと戻る。不味い、さっきの私、何か不味い事でも言っただろうか? と、タマモクロスに聞くが、「何も?」と返してくれて、一先ず安堵する。
それでも、心の胸騒ぎは収まらない。今すぐにでも、兄を追いかけて傍に居続けたいが、それは許してくれないだろう。もどかしい。
「兄貴がいないと不安か?」
「……」
「何、そんな怖い顔するん? ウチ悪い事せえへんで。まあ兄貴さんもああ言うとったし、うちが案内したるさかい、ついてきいや」
「すまない」
これは私が悪いのか? 兄が悪いのか?
――正直、今の私には答えなんか出せないだろう。
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気づいたら日間にも載ってた! すごい!!