芦毛の誇り高き妹   作:室星奏

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04 私だけを

「……」

「……」

 

 先ほどの一件が重なり、(オグリ)との関係がちょっと複雑な物へとなっていた。トレセン学園の校門をくぐり、一先ず指定された場所へと足を運ぶ。

 周囲には俺と(オグリ)をジッと見つめるウマ娘たちが多数確認される。ジロジロみられると恥ずかしくなってくるから、さすがに止めてもらいたいのだが……。疑問に思ったのが、周囲のウマ娘が何やらヒソヒソ会話すると同時に、(オグリ)がキッと鋭い視線を浴びせて威嚇していた事だ。これでは幸先が思いやられる。

 何故こうなってしまったのか、十数分前の車内の出来事に遡る。

 

 ***

 

 腕を掴まれ、隣の車両まで移動してきた俺は、再び近くの席に腰掛ける。幸いだったのか、この車両には人が2人しかおらず、そのどちらも携帯しか見ていなかったので、こちらに視線をやる人は誰一人としていなかった。

 (オグリ)は、同じく横に腰掛けて、俺の手を強く握る。さすがの腕力というべきか、潰れるんじゃないかって程痛かった。

 

「な、なあ、いきなりどうした?」

「……兄は、私だけを見てくれれば良いのに」

「ん、よく聞こえないが」

「何でもない、ただ、あの子と関わるのは、止めたほうがいいかもしれない」

「……」

 

 俺には(オグリ)の言っている事がよく分からなかった。トレセン学園行きが決まってからずっと、(オグリ)はずっとこんな調子だった。具合悪いのか? と聞いても、問題ないとしか返答しない。兄だからというのもあるのだろうが、さすがに少し心配になってくる。

 もし(オグリ)に倒れられでもしたら、俺はもちろん今後出来るだろう周囲の仲間たちにも迷惑をかけるかもしれない。今後のウマ娘としての人生を歩み続けるのなら、それだけはできるだけ避けたい所である。

 

 俺は、(オグリ)の頭に握られてない片方の手を置いて、少し撫でる。

 

「ぁ」

「なあ、もし悩みとかあったら相談してくれよ? 俺はお前の兄貴なんだからな」

「……ありがと」

 

 (オグリ)の手を握る力がだんだんと弱まっていき、やがて完全に離れた。ようやく落ち着いてくれたので、少しホッと安堵する。まあ暫くは、会話が無言のまま続いてしまったのだが……。こればっかりは仕方がない、どうせ数時間もたてば、いつも通りの(オグリ)に戻るだろう。

 

 

 そして今に至る。

 あの後、先ほど出会ったタマモクロスも同じ駅で降りたが、これと言った反応はしてこなかった(チラチラと見てくる事はあったものの)。

 

「おっ、来たか……いやあ、オグリキャップを生で相対する日が来るとはね」

「どうもっす。ほら、オグリも挨拶しとけ」

「……よろしく頼む」

 

 俺以外の人と相対するときは、必ずと言っていいほどクールな(オグリ)へと変わる。この状態こそが、何時も皆が生で見ている(オグリ)そのものだろう。

 その挨拶を聞いた彼は「うんうん」と頷き、俺と(オグリ)を控室へと案内する。既に理事長へは話を通しているらしく、後は一通り案内すれば正式にトレーナー補佐として任命されるという仕組みらしい。

 案内と言っても、具体的な業務内容と契約締結、そしてここトレセン学園の案内が大半を占めている為、そこまで堅苦しくはない。それも俺が、ここトレセン学園に対する嬉しい事の一つであろう。

 

「一応地方レースでそれ相応の活躍をしているからな。デビュー戦はすっ飛ばしてもいいというお達しだ。一応知名度向上って意味でも、都心のオープン戦かGⅢぐらいは最初に出たほうがいいかもしれねぇが」

「成程。思ってた以上に色々あるんすね、さすが都会。……オグリはどうだ? 何かやりたい所とかは」

「私は、兄に言われた物なら、何でも出る。それで勝利を収めるだけの話だ」

「……はっはっは。べったりだな」

 

 (オグリ)の言葉を聞いた彼が、大きく高笑いしたのち、小声で俺にそうつぶやく。べったりという言い方はさすがに語弊があるのでやめていただきたい。妹という身分なら、そういう考えを持っても不思議じゃないだろう。

 しかし、(オグリ)がそういうのなら、レースとかの配分も俺がやった方が良さそうだ。なんだか事務作業ばかりだなとため息がつく。就活をやらされている気分だ。尤も俺は(オグリ)のサポートの為に大学を中退したため、そんな物一切合切やったことないのだが。

 

 渡された資料をまとめて、俺は続ける。

 

「揶揄わないでください。……話は以上っすか」

「ん、あぁ、ここでの話はな。後はトレセン学園の案内だけだが……」

「それは二人で見て覚えるので大丈夫っすよ。地図とか頂ければ、勝手にやらせてもらうんで」

「お、そうか。了解だ」

 

 そう告げて、彼はトレセン学園の地図を渡してくる。外観だけで分かり切ってはいた事だが、やはり相当広い。教室だけでも色んな校舎に配置されており、覚えていても迷いそうな感覚である。

 彼曰く1年程在籍している生徒でも、主に使う部屋ぐらいしか覚えていないとかなんとか。それでいいのか、と思ったが、ウマ娘の目的という都合上、それで妥当なのかもしれない。

 (オグリ)にも同じものをもう一つ渡し、自分のクラスと食堂、グラウンドの位置だけは覚えておけと指示する。俺が言うと(オグリ)はちゃんと覚えるんだよな。真面目なのか真面目じゃないのか。

 

 

 話が終わり、二人そろって廊下へと出る。

 

「さて、一先ずどこから見ていくか?」

「お、話終わったんか?」

「お前は……」

「もう名前忘れてもうたんか? タマモクロスや、忘れんでほしいわ」

 

 駅で出会ったウマ娘が、再び声をかけてくる。その時、俺はふと(オグリ)が電車内で放った言葉を思い出すが、さすがに交流無しってのは不味いだろうと、スルーする事にする。

 刹那、背後にいた(オグリ)からの視線が鋭くなる。また睨んでいるのか?

 

「なあオグリ、なんでそんな怖い顔するんだ?」

「……別に。何でやってくるんだろう……

「ん? 今何か言うたか?」

「気のせいだろう」

 

 スッと表情をいつもの感じに戻し、不愛想に接する。これから学園生活を共にする仲間になるんだし、もう少し仲良く接してもらいたい所なんだが……。

 あ、そうだ。怒るかもしれないが、ここは一つ手を打つ事にしよう。

 

「……あっ、やべっ」

「? どうかしたか? 兄」

「いやぁ、理事長から二人で話があるから、あとできてってメールで来てたの忘れてたわ……」

「……成程。では、私も」

「や、二人だけって言われたし、それは不味いだろう。急いで戻るから、少しの間だけその子と居てやってくれ、せっかくの機会だろ?」

「――な?」「ほう?」

 

 それだけ告げて、俺はそそくさと走り去っていく。後で叱られたら、取りあえず夕飯の量を増量させて、機嫌を直す事にしよう。(オグリ)は結局、食欲には弱いのだ。長年の付き合いだからこそ、それはよくわかっている。

 と、軽く下手な芝居はうったが、俺も理事長には話したい事も沢山あるし、このまま理事長室に向かってみる事にしよう。

 

 

 ***

 

 

「……行ってしもうたな。どうするん? オグ――」

「……なんで?」

 

 背後から聞こえる彼女の声が聞こえない程、私の身体の中では様々な感情がひしめき合って、騒めきあっていた。

 何で私を置いていったの? いや、兄の言う事だ、さっきの言葉に偽りなんてないだろう。それは長年の付き合いだからこそ、よくわかっている。

 わかっているのに――。何時どんな時も、私達は一緒に過ごしていたじゃないか。という苦い感情が沸き上がり、どうにかなってしまいそうだ。

 

「聞いとるん?」

「ぁ」

 

 肩をボンッと叩かれ、遂に正気へと戻る。不味い、さっきの私、何か不味い事でも言っただろうか? と、タマモクロスに聞くが、「何も?」と返してくれて、一先ず安堵する。

 それでも、心の胸騒ぎは収まらない。今すぐにでも、兄を追いかけて傍に居続けたいが、それは許してくれないだろう。もどかしい。

 

「兄貴がいないと不安か?」

「……」

「何、そんな怖い顔するん? ウチ悪い事せえへんで。まあ兄貴さんもああ言うとったし、うちが案内したるさかい、ついてきいや」

「すまない」

 

 これは私が悪いのか? 兄が悪いのか?

 ――正直、今の私には答えなんか出せないだろう。




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