芦毛の誇り高き妹   作:室星奏

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05 心を開くということ

「何や? あの兄貴さんの事好きなんか?」

「ブッ――ッ!?」

 

 その後私は彼女に案内され、トレセン学園の食堂へとやってきた。ちょうど正午少し過ぎ辺りの時間だったため、空間には甘い匂いが充満していた。

 その後誘われ、スイーツを幾つかごちそうになる事になったのだが、その時に突然予想できぬ言葉を吐きかけられる。思わず吹き出してしまった。

 それを知って、一体何になるというのか?

 

ごほっ……。べ、別にそういう訳では……」

「顔赤いし、声震えてんで」

「……」

 

 彼女は私の反応を見て面白おかしそうに笑う。『図星か』と言いながら目の前のケーキにフォークを刺す。私は何も言い返せない。

 兄に対して大きく心を開いていたのも、好意というものに少しだけ意識を持っていたのも事実だ。しかし、それを本当の意味で『好き』なんだと捉えて良いのか私にはわからなかった。

 兄に褒めてもらいたい、喜んでもらいたい、という浅はかな欲求はあれど、それ以上の関係を望んだ事は、一度もなかった。これは自分でも予想外だと思う。

 

「ええやないか。表ではクールビューティな女子が、裏は純粋な恋心を持つ乙女ときたもんや。ギャップっていうのはこういうもんか。あ、オグリキャップのキャップってそういう?」

「それはない。……ところで、それを聞いて、どうするつもりだ?」

「そっか。別にどうもせんよ。そんな怖い顔せんでも」

 

 ただ揶揄っているだけなのだろうか? それでも鬱陶しい事この上ないが。彼女の目的は一体何なのだろうか?

 

「誘ってくれたのには感謝するが、一体何の目的で?」

 

 心が幾多の疑問で埋め尽くされ、ついに聞いてはならないだろうことを聞いてしまう。

 やっぱり兄がいった通り、私は人付き合いというものが苦手なのだろうか? 何度も直せ直せ言われているのだが、こればっかりは苦手コンテンツの一つでしかない。

 ここトレセン学園に入ったら、少しは解消できるのだろうか? ――新たな疑問が沸き上がると同時に、彼女はフッと笑い、その質問に返答してくれた。

 

「新入生が出来たら、気になるもんやろ? しかも同じ芦毛ときたもんや。仲良くなりたいと思うのは不思議な事か?」

「……仲良く?」

「なんや、田舎にずっといて、他人と付き合うって事を知らんのか? 同じ芦毛どうし、良い関係築こうやっちゅー話や」

 

 思いもよらぬ回答だった。

 他人と仲良くなるという言葉、当然知らない訳がない。ただ私は、その関係を築こうともせず、かつ築く事すら世間は許してくれなかった。ただそれだけの事だ。

 幼い頃から周囲に罵倒され、誰かとなれ合う事も出来ず、ずっと強くなるために走るだけの日々。そんな人生を過ごしていたら、誰かと仲良くなる事なんて、やれという方が無理な話だ。

 そういう人生を辿ってきたからこそ、私に対して優しく接してくれた兄には、心を開けたのかもしれない。

 

「知らない訳がないし、不思議な事でもない。ただ――」

「ただ、なんや?」

「――……私に、それが許されるのか、どうか……」

「仲良くなるのに許されるも否かもある筈ないやろ。気にせんでええ。恋の悩みだって聞いてあげるさかい

「ごほっ――ッ!!」

「危なッ!? いきなり吹かんでほしいわ」

 

 自業自得じゃん、と突っ込もうとしたが私は何とか踏みとどまって静止する。

 一言揶揄わないと気が済まないのだろうか、この子は。でもなぜか、心の中では笑ってしまうような自分が存在していた。不思議な感覚。

 それは今までたった一度しか感じた事のないものであった。兄に心を開いた、あの時の夜だけ。

 

 ――彼女と共に過ごしたら、何か変わるのだろうか?

 

「……ケーキ、まだあるか?」

「いくら食べるつもりや!!」

 

 ようやく突っ込んでくれた。

 

 

 ***

 

 

「歓迎ッ! ようこそトレセン学園へ」

「直接会うのも話すのも初めてですか」

 

 (オグリ)と離れ、俺は一直線に理事長室へと向かう。特にアポとか取っていなかったが、この人はそんなのお構いなしのようであった。とても助かる。

 理事長というから、結構厳格な人物だと思ったのだが、予想に反して結構フレンドリーな人物で少し驚愕する。同時にこのような性格だからこそ、このような明るい学園が出来たんだろうな、と納得する。

 自己紹介は恐らくあの男から聞いている事だと推測し、俺は早速本題に入る。

 

「今日来たのは、ここトレセン学園内における(オグリ)の生活についてでして」

「承知。既にあの男から聞いている。なんでもかなり君にご執心のようだが!」

「ご執心……なんですかね。自分には自覚ないですが」

 

 妙に好かれているという実感は薄々だが感じてはいた。しかし、それは妹という子供特有の冗談言葉に過ぎないとしか思っていない。

 一種の一時性ブラコンというべきだろうか? あの(オグリ)の事だ、時期が過ぎれば普通に接するようになるだろう。大体の妹というのは、そういうものだ。

 

「夜も一緒はさすがに不味いので、何かあってもすぐ対応できるようにトレーナー寮と近い寮に住まわせるのがよろしいかと」

「受理。ふむ、なら栗東寮が一番良いだろう。そこは上手い事調整する。――話は以上かな!?」

「いえ、もう二点だけ……」

 

 これは私的なお願いだったので、願い出るか悩んだのだが、今の自分の技倆を鑑みても受理してもらった方が妥当の様に思えた。

 

(オグリ)の食事に関しては俺がやりますので、その時は厨房の一角をお貸りしてもいいですか?」

「受理。良く食べる子と聞くが、大丈夫か?」

「まあ慣れてますのでそこは、はい。後一つ――」

 

 

 

 

「トレーナーとしての技倆を積みたいので、他のトレーナーが管理しているウマ娘たちの所でも勉強させてもらえないでしょうか?」




お久しぶりです。
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