物を見ては真を写す   作:Iteration:6

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どうも初めまして。
少女が幻想郷中の秘境を訪ね、写真を撮ってはガールズトークをする、そんなお話しです。幻想郷を幻視できるよう目を眇めて執筆していく所存でございます。



妖怪の山


 川辺の草葉(くさば)(かげ)から、雲を貫く(おごそ)かな山を見た。木々は鮮やかに紅葉し風景を彩っている。清流の澄んだ空気が心地良い。此処には人間の痕跡がない。妖怪が怖くて誰も寄り付かないからだ。秘境とは正にこのような場所を呼ぶのだろう。神秘、まさに神が秘したような趣だ。

 

「綺麗な景色ですね霊夢さん」

「写真に収めたらとっとと帰るわよ。あんまり長居すると面倒な奴らに見つかるから」

 

 私、雲見 明香(くもみ めいか)は霊夢さんに付き添われながら妖怪の山の(ふもと)物見遊山(ものみゆさん)している。霊夢さんは刺々しい雰囲気だ。いつ妖怪に襲われるとも分からない場所で呑気(のんき)に写真を撮ろうとしているのが我慢ならないのだろう。

 

「もう少しゆっくりしていきたいのです。写真も何枚か撮っておきたくて」

「無理ね。妖怪の山の哨戒天狗(しょうかいてんぐ)は眼が良いのよ。勘だけど、千里眼で私たちが此処にいることはバレてる気がする」

「もう少し山の奥まで立ち入れないでしょうか?」

「ここから先は本格的に天狗たちの領域(テリトリー)。私が目を一瞬でも離せば、天狗が貴女を搔っ攫うでしょうね」

 

 霊夢さんの言葉には有無を言わさない迫力があった。やむを得ず、できる限り丁寧かつ迅速に見晴らしをカメラに写し、名残(なごり)惜しくもその場を後にするべく(きびす)を返す。

 

 

 

 

 

「これが約束の代金です。きっちり前金と同じだけ、お確かめください」

「ご丁寧にどうも。儲かる話ならいつでも歓迎よ、これからも気軽に頼って頂戴。とはいえあんたも物好きね。あんな草と木と妖怪しかないような場所に何の価値があるのかしら」

 

 長閑(のどか)で薄雲の(まば)らに浮かんだ秋模様の空の下で、霊夢さんは緑茶に口をつけて(くつろ)いでいる。早朝の博麗神社は閑散(かんさん)としているが、虫たちの音が鎮守(ちんじゅ)の森から流れていた。博麗神社は幻想郷を一望できるため、秋一面の幻想郷を見晴るかせる。こんな場所でお茶を呑みながらゆっくりできる霊夢さんを少し羨ましいと思った。ここはまるで仙境か何かのようだ。

 

「それに態々(わざわざ)あんたが博麗神社まで来なくても、代金なら私が人間の里まで受け取りに行くわよ? 見晴らしの悪い獣道を辿ってここまで来るなんて危険だし」

 

 霊夢さんの言葉に、それは結構ですとだけ答えた。博麗神社が好きですからと理由を口に出すと、変人扱いされてしまった。

 

「この寂れた神社が好きだなんて、よっぽどね」

「美しいじゃないですか」

「博麗神社が美しい?」

「博麗神社という建物が、ではありませんよ。勿論それもありますが、博麗神社という言葉が指し示す領域、土地、建造物、人、意味、それら全てが統合された概念の構造体を美しいと思うのです」

「ストップ。あんたが何を言ってるかサッパリ分からないわ」

 

 霊夢さんは両の手をひらひらとさせて肩を(すく)めて見せた。受け取り方によってはかなり大胆な告白でもあったのだが、彼女には気付かれなかったようだ。

 

「それで、あんたはどうして妖怪の山の写真を撮りたいだなんて頼みに来たの?」

「私の夢なんです。幻想郷中の人間が立ち入らない秘境に押し入るのが。写真を撮るのはその記念みたいなものです」

 

 風呂敷に包んでいたアルバムを霊夢さんの前に開いた。

 

「写真をとって一枚ずつ収めるんです。私が其処に居たことがあるという証として」

「何故そんなことを?」

 

 心底不思議そうに首を傾げた霊夢さんに、私はただ一言で答える。

 

「浪漫ですから」

「浪漫……」

「そうです。私は沢山の経験と情報を処理すればより優れた人間性と知性を得られるだろうと信じている類いの人間なんですよ」

「だから沢山の場所に行きたいってこと? 本でも読めば良いじゃない。情報と経験の塊よあれは」

「記憶と記録は違いますよ霊夢さん。確かに書物は私に経験と知識を与えてくれますが、体験は与えてくれないのです。知識は真実を覆い隠すためにあり、体験なき情報には実体がありません。私はこの手で掴める情報が欲しいのです」

「あんたと話してると頭が痛くなるわ」

「ならば全て忘れて下さいな、経験と情報を処理するということは、それらを覚えておくという意味ではありませんから」

 

 頭を掻いている霊夢さんは、私を奇妙なものを視る眼で見た。

 

「経験と情報を処理するということは、それらを集約して無数の情報を破棄する事を言うのです。寺子屋で学ぶ算数と一緒ですよ」

「算数と一緒?」

「1 + 1 = この数式の答えは何でしょうか?」

「2よ」

「そうです。1 + 1 = 2です。貴方は答案用紙に2と答えを書きます。ほら、途中の計算式も数式も破棄してたった一つの数字だけに集約したでしょう? これが情報を処理するという事ですよ」

「なるほど、まさに『処理』ね。確かに情報を捨ててるわ」

 

 僅かばかり理解の(きざ)しを見せた霊夢さんは、自ずから私の意見を再解釈してくれたようだった。

 

「つまりあんたは幻想郷中の秘境を巡って、非日常的な無数の価値ある情報・経験・体験を処理したがっている?」

(しわ)くちゃのお婆ちゃんになった時に想起できる美しい思い出を作っておきたいのです」

「若いわねぇ」

「若いですよ。子供ですから」

 

 にやにやとした霊夢さんに頬をつつかれた。

 

「で、次は何処に行くの? 場所によっては代金は高くつくわよ」

「はい! 次はですね、魔法の森に行ってみたいのです」

 

「ああ、それなら私の知り合いを紹介するわね。ちなみに紹介料はこれだけよ」

 

 算盤(そろばん)を叩いた霊夢さんは、その謎の計算の結果だけを私に突き付けた。私のお小遣い二月分はありそうなそれを見て、思わず言葉が漏れる。

 

「あの~ちょっとその計算の過程を」

「もう処理しちゃったから忘れたわ」

 

 (したた)かである。まったく彼女には敵わない。

 

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