物を見ては真を写す   作:Iteration:6

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幻想郷

「やっぱり何度見ても春の桜は美しいねぇ」

 

 博麗神社の境内にて、花開く桜を愛でる人影があった。

 

「それに花見で人が集まるのも良いことだわ。どうせならお賽銭を入れてくれても良いのにね」

 

 博麗霊夢は桜を見上げながら物憂げに言う。彼女の胸中には参拝客でごった返しの境内が夢想されていた。残念ながら現実では妖怪から神霊まで魑魅魍魎がごった返す有様だ。

 酒は何処だの、肴が其れだの、喧騒騒がしい花見の只中。そんな中、数少ない人間の花見客の一人である少女は、境内でごった返す魑魅魍魎を眺めていた。

 

「おめでたいですね」

 

 また、鳥居の外に広がる春の幻想郷を一望した少女は感動した。春が深まる幻想郷は際限なく美しくなっていく。その有様は非現実的でさえあった。何処までも牧歌的で穏やかな世界があった。

 

「なんて美しい風景、光景なのでしょうか。風が吹き光差すこれは正に風光明媚と言うやつなのですね」

「あ〜、私は思うんだけどさ」

 

 霊夢にとってこの少女は謎と怪奇そのものだった。人間で空も飛べないのに幻想郷を旅しているなど理解不能だった。その上で幻想郷が美しいだの思い出作りだのと訳の分からぬ事を宣うのだから堪らない。

 

「別にそんなに美しくはないでしょ」

「え?」

 

 呆然とした少女を見て霊夢は嘆息を漏らした。美に魅せられて地に足つかずの夢遊を続ける彼女に呆れているのだ。

 

「幻想郷はただあるがままにあるだけよ。それを見るものの心の中で勝手に浮かんでくるもの、それが美醜よ。だから……」

 

 少しばかり言い淀んでから霊夢は言う。

 

「この世界を美しいと思うなら、それはあんたの心が美しいってことよ」

「褒められてます?」

「一応ね」

「私も何度かそんな風に思ったことはあります。でも閻魔様曰く、美しいものを見たところで美しくなれるわけではないと」

「それならあんた、大丈夫よ」

 

 首を傾げる少女に霊夢は辟易した。いつの間にか閻魔と面識があることもそうだが、それ以上に、こんなにも賢しい癖して簡単なことに思い至らないところに。そこまで含めて抜けていて可愛らしいことだと、年相応な少女を思って霊夢は微笑む。

 

「美ってのは見るものではなく感じるものでしょう?」

 

 少女は博麗神社の鳥居を潜り、幻想郷にカメラを向けた。

 

「はい。感じます。美しいと」

「う〜ん、酔狂だわあんた」

 

 ならばそれも良いだろうと霊夢は考えた。花見酒に酔っ払う魑魅魍魎と、幻想郷に酔っ払う人間と、そこに何の違いがあるものだろうかと。

 

 

「世界には、貴女達もいますから」

 

 

 霊夢は刮目した。少女は霊夢達を見ながら確かにそう言ったのだ。あの人間嫌いで物に目を向けることにしか目がない彼女がだ。

 

「私は人間の醜さを許せませんでした。でもそれはきっと、私が何よりも人間の美しさを望んでいたからだと思います。多分、唯の気の迷いだと思いますけどね」

「そうね、普段のあんたからすればそんな考えが浮かぶなんて気の迷いでしかないのでしょうね。でも私は良いと思うわよ。人間なんて人生一生ずっとさ迷い歩いてるようなもんなんだから」

「そうですか……」

 

 幻想郷を一望できる展望を写真に収め、少女は境外で振り向いた。互いに向き合う霊夢と少女は、鳥居を挟んで見つめ合う。少女の目には博麗神社の宴会の様子もまた写っていた。

 

 桜吹雪が視界を遮り、二人の視線が切れてから、少女は参道の階段を下って神社から去った。霊夢は溜息を吐いてから呟く。

 

「焼き付くほどに見つめるなら、混ざっていけば良いのに」

 

 しかし、背を向けて去ったということは──

 

「宴会よりも神よりも、何よりも幻想郷が好きなのね。本当に──酔狂な奴」

 

 

 

 

 

 参道を一段降るその度に、幻想郷は姿を変えた。草木が戦ぎ、花が散り、春の型をした蝶が舞っている。片手には宴会から失敬してきた酒瓶を、もう片手には何処にだって付いてくるカメラを手にした少女は、酔っ払いながら適当に世界を目に写す。

 酒の酔いも手伝って踊り出してしまいたい心を抑えながら、一段ずつ、ゆっくりと少女は降って行く。

 

 ふと半ばごろで足を止め、振り向いた。

 

「居たのですか紫さん」

「ええ、ずっと見ていたわ」

「何か御用ですか?」

「貴女に心からの愛を伝えに参りましたわ」

 

 少女は目を丸くした。しかし、八雲紫の雰囲気は真剣そのものであった。

 

 

「Love does not consist in gazing at each other, but in looking together in the same direction.」

「私は──」

 

 

 紫は少女と額を重ね、目を瞑る。今昔千年を経た幻想郷が、二人の中で交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin. 2022/01/04




キャラ裏設定

○さ迷い歩くアイレコーダー
 雲見 明香(くもみ めいか)
 Kumomi Meika

 種族:人間
 能力:目に写ったものを見る・見せる程度の能力

 人間の里在住の少女です。幻想郷が大好きで度々旅に出ます。危機感は欠如気味で危険な場所にも赴くので周囲からは少し心配されてます。
 年齢の割に賢く、父親とは色々ありましたが死別しました。母子家庭ってことになりますね。

 能力は旅路の中で少しずつ磨き上げられていきました。勿論、美しい世界を見る事によってです。『もっと見たい、もっと良く見たい』という思いがそのまま形になったような力です。

 幻想郷を巡る一連の自身の行いが八雲紫に対する熱烈なlove callになることに最後まで気付かなかった人?誑しでもあります。





後書き
 四季を巡る幻想郷の旅路を描こうというのは執筆当初からの考えでした。季節感は薄くなってしまったかなぁとは思っています。また何かにつけて花との縁が多い物語になりました。
 主人公の名前然りですが、やはり季節を現すものとして花を見るという考えが私の頭の中に根付いていたからなのかもしれません。


読了、ありがとうございました。
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