俺のクソアニメ世界での日常   作:お暇

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紅髪の炎系ヒロインの元祖って誰なんだろう。


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バトルと勘違いの予定があるのでタグを2つ追加しました。


俺のクソアニメ世界での固有魔法

 リニアの外にはアニメで見た光景が広がっていた。

 

 リニアの出入口を内側から破壊したシェリルと、みかみんに因縁をつけたカマセ犬が、青空を優雅に舞う巨大な怪鳥に睨みを利かせている。

 つーか、密閉空間で固有魔法(ユニークマジック)をぶっぱするとかシェリルの奴イカれてんのか? イカれてたわ。

 

「さて、どんなもんか」

 

 最初こそ取り乱してしまったけど、よくよく考えてみればこの戦いは勝ちが分かってる勝負。それに、危ないのは外にいる奴らだけで車内は安全だ。焦る必要なんてどこにもなかったわ。

 当然、ここで外に出るという選択肢はない。俺の固有魔法(ユニークマジック)は戦闘向きじゃないし、訓練を受けていないド素人が戦場に出るなんて手の込んだ自殺みたいなもんだし。

 俺は安全な車内からSSSの第一話を見物させて貰うとしよう。

 

「あ、そうだ」

 

 固有魔法(ユニークマジック)と言えば、今こそアレをやる時じゃないか。俺が自分の固有魔法(ユニークマジック)の効果を知った時、いつか絶対やろうと思っていたアレを。

 イメージしろ。俺は定点カメラ。あいつらの後ろから会話と行動をじっと見つめるプレイヤー。

 むむむむむぅ~……ふん!

 

『てめぇは下がってろ。ここは俺がやる』

 

 お、いけた。 

 見よ、これが俺の固有魔法(ユニークマジック)『サードパーソンセンス(TPS)』だ!

 発動することで特定範囲内の任意の場所に『視点』を設置し、そこから相手の動きや会話を見聞きできる。まさに、ゲームのTPSと同じ視点を得るわけだ。

 俺が今『視点』を設置したのはちょうど怪鳥と二人の姿が見える位置。

 これで臨場感あふれる第一話を鑑賞できるってわけよ。

 

『来な。俺の炎で焼き鳥にしてやるよ!』

 

 カマセ犬が両手に炎を纏わせる。

 そうそう。カマセ犬の固有魔法(ユニークマジック)はシェリルと同じ炎だった。

 シェリルの異様さを際立たせると同時に、みかみんの強さも証明するとかカマセ犬の鑑だな、お前。

 

『食ら――ぐわぁー!』

「早えなおい」

 

 言ってるそばからやられてら。

 いくら相手が体当たりを仕掛けてきたからって、真正面から受けるやつがあるか。

 見ろ。あきれ顔のシェリルが盛大にため息をついたぞ。

 

『最初から期待なんてしてなかったけど、ここまで弱いなんて思わなかったわ』

 

 上空に舞い上がった怪鳥はぐるりと身をひるがえし、再び降下を始めた。今度はシェリルに体当たりをするつもりみたいだ。

 やれやれと首を振った後、シェリルは一歩前へ踏み出した。一歩、また一歩。彼女はゆったりとした足取りで怪鳥に迫る。

 

 あ、それ以上前に出ないでくれよ。魔法で設置した『視点』は設置した場所から動かせないんだ。それ以上前に行かれたら声が聞こえづらくなるじゃないか。

 

『すぐに終わらせてあげる』

 

 天にかざしたシェリルの右手が真っ赤に燃えて、彼女の目の前に巨大な火球が生み出される。

 カマセ犬の炎は手のひらに収まるサイズだったけど、シェリルのは人一人に匹敵する大きさだ。

 

「おお、すげぇ!」

 

 ギラギラと煌めく炎の色合いとか、普通の炎とは違いますよって感じがして素晴らしい。

 服や髪のなびき方も非常に滑らか。いいね。

 ただなびいているだけなのに、ここまで感動できるなんて俺の感受性も豊かになったもんだ。ひどい時は服も髪もカッチカチに固まって全然動かないんだよ、この世界。

 流石第一話なだけあってクオリティ高すぎる。今日の風景(さくが)は文句なしの過去一だ。

 いつもこんな感じだったらいいのになぁ。どうして作画崩壊は発生するんだろう。

 

『消えなさい』

 

 ゴウッ! と音を立てて放たれたシェリルの火球は、高速で迫る怪鳥を真正面からぶっ飛ばした!

 流石はみかみん一派のメイン火力だ。並大抵のワイルドが相手なら今の一撃で勝負が決まっていただろう。

 だけど、今回は相手が悪かったな。ヤツは話の都合で用意された、ヒロインには荷が重すぎる強敵だ。

 

『っ!?』

 

 こっからは後ろ姿しか見えないけどはっきりわかる。シェリルは今、かなり動揺している。

 見た目はお嬢様だけど中身は脳筋だから、自慢の炎が効かなくてびっくりしてんだろう。

 

『くっ……!』

 

 体勢を立て直した怪鳥が再びシェリルへと迫る。動揺していたせいか、反応が遅れたシェリルは炎を消して咄嗟に左へと跳ねた。

 え、ちょっと待って。怪鳥が真っすぐ『視点』に向かってきてるんだけど。迫力ヤバっ……。ちょっ、マジでヤバいヤバいヤバい!

 

 魔法解除!

 

「…………あっぶねえ」

 

 固有魔法(ユニークマジック)を解除したことで、俺の視界は車内に戻ってきた。

 別に直撃したからって俺自身に影響があるわけじゃないんだけど、やっぱり怖いもんは怖い。

 迫力ヤバすぎだろ。見てるだけでこれなんだから、実際に対峙した時の迫力はもっとヤバいに違いない。

 イレギュラーと戦うなんて無理だわ無理。

 

「危ない!」

「うわひぃっ!?」

 

 誰だ、いきなり後ろで大声を出した奴は! 変な声出ちまっただろ!

 慌てて振り返ると、いつの間にか向かい側の席にいた女子達がこっち側に集まってシェリルの戦いを見ていた。よくよく見れば、ここだけじゃなくて車内にいる新入生全員が窓際に集まってシェリルの戦いを観戦している。

 能力を使っていたせいで全然気が付かなかった。

 

「あ、ごめんなさい。急に大声出して」

「あ、いえ……」

 

 気まず……。多分俺、謝ってきた地味顔の女子と同じ顔してるわ。いやでも俺は悪くないし……。

 よ、よし。こういう時は空気をリセットだ。無理やり意識を変えて気恥ずかしさを押し流せ。

 今のなし。俺が叫んだのはシェリルを心配したからであって大声に驚いたからじゃない。俺は最初からずーっとシェリルの戦闘を見ていた。

 後ろの女子の存在にも気づいていた。ただ取るに足らない存在だからあえて無視していただけだ。そういう事だ。

 

 はい、リセット!

 

 意識を切り替えたところで改めてシェリルの方へ目を向けると、彼女は相変わらず怪鳥へ向かって炎を撃ち込んでいた。

 でも、怪鳥には当たらない。真正面はマズいと学習したのか、怪鳥はその巨体からは想像できないスピードでシェリルの上空を駆け回る。

 そうそう。こんな感じで徐々に「あれ、ヤバくね?」みたいな状況が出来上がってくんだよな。で、怪鳥の必殺技がさく裂して、いよいよシェリルがピンチになるわけだ。

 お、噂をすれば。

 

「あれなに!?」

「やべえよやべえよ」

 

 新入生達がざわざわと騒ぐ。

 多分、怪鳥の翼が光ってるのを見たせいだろう。あの状態で羽ばたくと、翠色に光る風の砲弾が打ち出されるんだっけか。

 さあ、対するシェリルは身構えて……ん、なんだ? 地面が急にのっぺりしたぞ。

 おいおい空気読めよ。今まで散々美麗作画を披露してただろ。どうして盛り上がるタイミングでそんな事をするんだ。お前、第一話でそんな手抜きしていいと……いや待て、あの作画は見覚えある。

 

「あ、予告だ」

 

 そうだ。この世界は元ネタに忠実だってことは身をもって知っている。作画崩壊が再現されているなら、犯行予告も同じように再現されていても不思議じゃない。

 シェリルの前後一直線がベタ塗りになってるってことは、つまり、今からあの部分がぶっ飛ぶわけか。

 怪鳥の速度がぐんぐん上がる。怪鳥の速度に追いつけなくなったのか、シェリルは攻撃を止めて怪鳥を視界に収めようと首をしきりに動かしている。

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 咆哮と共に怪鳥が大きく羽ばたいた次の瞬間、翼がひときわ大きく輝いた。

 怪鳥が一直線にシェリルへ迫る。シェリルは攻撃のチャンスと思ったのか、再び手に炎を纏わせた。

 でも、炎は放たれなかった。それよりも先に怪鳥の攻撃が始まったからだ。

 

 翠の閃光が青空を一気に駆け抜け、地上へ降り注ぐ砲弾が轟音と共に地表を引っぺがした。

 

「おお、綺麗ぃひぃいいい!?

「うわああっ!」

「危ない!」

 

 目に刺さる閃光が瞬いた後、爆破の衝撃でリニアが揺れる。

 爆発したのは百メートルくらい離れた場所だぞ。それでこの衝撃って、どんだけヤバい威力なんだ。

 

「シェリルはどこだ? ……いた」

 

 シェリルは横に跳んだおかげで直撃を避けたようだ。そして、背を向けた怪鳥をすぐに追いかける。

 ええ……。今死にかけたってのに、どうしてそこで前に出ることができるんだ。

 やっぱ主役っていうのは多少頭がイカれてないと務まらないんだなぁ。

 

 戦慄する俺をよそに戦況は進んでいく。

 

 タン、タンと連続で左右へ跳んで怪鳥の攻撃を避けるシェリルは炎で反撃するが、やはり怪鳥には当たらない。

 シェリルは痺れを切らしたのか、その場に立ち止まって両手に色濃い炎を纏わせた。

 

「連射だ!」

「がんばれシェリル様ー!」

「当たれ当たれ当たれ!」

 

 シェリルが放ったのは大量の炎の弾丸だった。点の攻撃では当たらないから面の攻撃に切り替えたわけか。

 見た目はいかにも強そうだ。現に今、あの攻撃を見た新入生達は「これで決まる」とシェリルに声援を送っている。

 でも……。

 

「そこはマズいんだよなぁ」

 

 既にシェリルのいる場所はベタ塗りになっている。

 今度の形は円形で、それがあちこちに散らばっている。ああ、なんとなく次の攻撃の予想がついた。

 動きを止め、浮遊状態となった怪鳥は再び翠色の輝きを纏った。

 

「ギャアアアアアアオ!!」 

 

 奇しくもそれはシェリルと同じ攻撃。砲弾の連射だった。

 シェリルは超人的なスピードで怪鳥の攻撃を避けながら、隙を見て炎を撃ち込んでいる。でも、狙いがいい加減で怪鳥に当たらない。

 

「危ない!」

「やべえよアレ」

「助けに行った方がいいのかな……」

「無理だろ。どうやって攻撃すんだよ」

 

 シェリルの不利な状況を目の当たりにしたせいか、新入生達が不安げな声を上げ始めた。

 大丈夫だって。シェリルが防戦一方になった所で我らが主人公みかみんが出てくるから。

 

「ねえ」

「……ん?」

 

 誰かに肩を叩かれたんで振り返ってみると、そこにはさっき気まずい雰囲気になった地味顔の女子がいた。

 

「どうしてわかったの?」

「わかったって、なにが?」

「シェリルさんが攻撃される前に、そこはマズいって言ってたからどうしてわかったんだろうと思って」

「あ~……」

 

 やべ、うっかり口に出てたか。

 なんて言い訳する? 予告のせいですなんて言えないし、かと言ってうまい言い訳が思いつかないし。

 しゃーない。嘘をつくことになるけど固有魔法(ユニークマジック)ってことにするか。 

 

「魔法でちょっとだけ見えたから」

「そっか。すごいね君」

「……どうも」

 

 すげぇフレンドリーだな、この女子。

 アニメ本編ではみかみんの周りしか描写されなかったから、どんなクラスメイトがいるかなんてほとんど知らない。

 だから、物語の外にいる人間とこうして言葉を交わすのはなんか新鮮だ。

 ファーストコンタクトは気まずい感じになっちゃったけど、折角できた縁だ。仲良くしておいて損はないだろう。

 俺達はみかみんとヒロインに振り回される仲間。仲良くしようや!

 

「お、来た」

 

 そうこうしている間に颯爽登場、我らが主人公! あの主人公にのみ許された全身黒ずくめの恰好は、みかみんで間違いない。

 リニアを飛び出したみかみんが、膝をついたシェリルの元へ走る。

 

「おい、見ろ!」

「マジかよあいつ。助けに行くのか」

「無謀だろ」

「死んじゃうよ!」

 

 みかみんの姿を見た新入生達がざわざわと騒ぎだした。

 まあ、事情を知らないヤツからすれば、勇敢と蛮勇をはき違えた馬鹿が無謀にも怪鳥へ挑むようにしか見えないか。

 

「どうしよう、止めに行ったほうがいいのかな」

 

 地味顔の女子が行こうか行くまいか悩んでいる。ずいぶんお人好しだな。今後の事を考えるとその性格は命取りになるぞ。

 しょうがない。同級生のよしみだ。ひとつ助言をしてやろう。

 

「あいつなら大丈夫」

「え?」

「大丈夫。見てて」

 

 何故なら、あいつは主人公だから。

 俺達養殖の有象無象とは違って、みかみんは幼少期にアンノウンに感染した天然物のヴァンガードだ。固有魔法(ユニークマジック)も自分の手足を動かす様に扱える。

 みかみんの固有魔法(ユニークマジック)は風だったかな? いや、本当は違うんだけど、序盤は思い込みか何かで風しか使ってなかったんだっけ。

 あの怪鳥も風を操って倒すんだよな、確か。

 

「あっ」

「ほらね」

 

 みかみんは怪鳥の放った風の弾丸を全部制御下において攻撃を無効化。更に風の砲弾へ自分の力を上乗せし、それを全部怪鳥目掛けて撃ち込んだ。

 シェリルの時とは打って変わって、その場でじっとしている怪鳥は砲弾を全て食らい墜落。あっさりやったぜ。

 第一話はこれで終了となります。お疲れさまでした。

 

「あいつ何者だ?」

「シェリル様でも勝てなかったワイルドをあっさり倒しちゃうなんて」

「よかったぁ。助かったぁ」

「くそっ、負けてらんねえ!」

 

 危機が去ったおかげで、車内は安堵の空気が流れている。窓際に集まっていた新入生達も各々自分の席に戻っていった。ふう、窮屈だったシートもこれで広々と使える。

 しかし、初めてワイルドを見たけどホントにヤバいな。あんな奴らと正面切って戦うなんて俺には無理だ。それを今日確信した。

 

 何が何でも戦闘回避。それを今後の方針としよう。

 

 ふう。ただ見てただけなのに精神的に疲れちまった。リニアもまだ動かないし、しばらく高級シートでリラックスするか。背もたれをぐいっと倒して――うおっ!?

 

「いでっ!?」

 

 どういう訳か、俺の体はすとんと見事にケツから床に落ちた。

 いってぇ。なんで座っている状態からスッ転ぶんですかね。ああくそっ、向かいの席にいる女子達が「何してんだこいつ……」って顔でこっち見てる。俺だって好きでスッ転んだわけじゃねえよ!

 ケツをさすりながら立ち上がった俺は再び座ろうとシートへ目を向けた。

 

「短っ!!」

 

 そこにあったのは、座面が異常に短くなったシートだった。

 座面これ何センチだ? 俺のケツが半分乗るくらいの幅しかないんだけど。

 周囲を見渡すと、どのシートも座面の幅が短くなっている。お前らどうして気づかないんだ。そんな短いシート絶対座りづらいだろ! 集団空気椅子大会でもやってんのか!?

 

「……ああ、そういう事か」

 

 おい。一話が終わった途端に作画崩すんじゃねえよ。


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