皆さん本当にクソアニメが好きなんですね。
【お知らせ】
内容更新しました。
主人公のチーム入りを短縮したので前話を削除しました。
理不尽。そう思わざるを得ない。
「いくぞ」
「うわぁー!?」
「後ろだ」
「きゃあー!」
「…………」
「げぼっ!!?」
お分かりいただけただろうか。
あのBBA、どういう訳か俺を攻撃する時だけ無言なんだよ。他のクラスメイトを攻撃する時は必ず何か言うのに。
差別はよくありませんよ。ちゃんと平等に扱って――ごばぁっ!? だから無言で殴るのはやめろぉ!
「よし、午前の授業はこれで終わりとする。午後は通常授業があるので担当の先生に迷惑をかけないように。以上、解散」
入学から早一ヵ月。今日も今日とて、BBAは涼しい顔で授業を終える。俺達は疲労困憊の顔で更衣室へ戻る。
正直、こんな痛い思いなんてしたくないけど、授業をサボってBBAの怒りを買いたくはない。
実際に仮病でサボろうとしたカマセ犬がお仕置きという名の半殺しを受けて担架で担ぎ込まれたのを見て、BBA組手をサボるのだけは絶対に止めようと誓った。
「ったくあの鬼教師。マジえぐいって」
俺の前を歩く男子がそうぼやくと、周囲にいたクラスメイト達が同調した。
「それな。まーだ頭痛ぇ」
「でも、なんか癖になんだよなぁ」
「おいおいおいおい。どちゃくそヤバい扉開き掛けてんよ~」
「んなことないって。白神もそう思うっしょ?」
たまたま近くを歩いていたせいか、クラスメイト達が俺にも話を振ってくる。
はっきり言ってクソだと思うけど、それをそのまま言ったりはしない。口は禍の元って言うし、巡り巡ってBBAの耳に届いたら、今以上の嫌がらせを受けることになりそうだ。
ここは、周りの雰囲気を崩さない程度に否定するか。
「いや、別に――」
「なになに、なんの話?」
返事をしたその時、甲高いアニメ声が俺の声を遮った。この声は地味顔の女子あらため
さっきまでのけだるい空気はどこへやら。突然現れた美少女にクラスメイト達は一気に元気を取り戻した。
「鬼教師のシゴキがだるいって話!」
「そうそう!」
「あはは。でも、先生だって私達の事を思ってああしてるんだろうし」
井上さんを見た男子達が我先にと前に出て、会話をしようと必死になっている。食いつきがスゴイな。まさに思春期って感じだ。
そして井上さん。あの訓練をそんな前向きに捉えられるなんて、どんだけポジティブなんだ。まあ、だからこそこの人気なんだろうけど。
「そうだ! せっかくだし一緒に学食いかね?」
「いいね! 俺、井上に奢るよ!」
「いい席知ってるから教えたげる!」
井上さんを置き去りにしてヒートアップしていく男子達。必死すぎて顔がすごいことになっているけど、言うのは止めておこう。俺も前世で経験があるからね。君たちもそうやってかわいい女子との会話を楽しむといい。希望が砕かれるその日までな!
さて、俺には関係ない話だろうしそろそろ行くか。早いトコ着替えて昼飯にしよう。
俺は屯するクラスメイト達をその場に残して一人で歩き出す。
「ごめん。実は私ちょっと白神君に話があって」
「え?」
突然聞こえた自分の名前に思わず振り返ると、その場にいた全員の視線が俺に向いていた。
「白神君、着替え終わったら教室で待ってて。話したいことがあるから!」
そう言い残し、井上さんは女子更衣室の方へ走っていった。
何だろう話って。俺、何かやっちゃいました? いや、やらかした覚えはないんだけど。むしろやらかしたのは井上さんの方だよ。
「おいおいおいおい。何やったんだお前ぇ」
俺と井上さんのやり取りに嫉妬したのか、クラスメイトの一人が俺にヘッドロックをかましてきた。
「い、いや、俺もさっぱり……」
「嘘つけ! 名前まで呼ばれてうらやまなんだけど!」
「名前くらいで何をそんなに」
「くらいぃ!? 名前くらいっておまっ……! それがどんだけ大事か分かってんのか!?」
ちょっ、落ち着けよ。お前、キレすぎて顔の作画崩れてるぞ。吊り上がった目じりがおでこにまで食い込んでやがる。
「これは許されませんねぇ」
「まさか、お前ら付き合ってんの?」
「一ヵ月でもう男女の仲に……っ!」
残りの奴らもじとーっとした目で俺を睨んでくる。
誰が付き合うだ。まったく、これだから思春期男子は。ちょーっと異性に名前を呼ばれたくらいで大騒ぎして。お前ら、本当の男女の仲を見て頭を冷やしな。
「男女の仲っていうのはああいうのを言うんだよ」
そう言って、俺はある方向を指さした。
「ねえマサト。お昼ご飯は何食べるの?」
「うーん、そうだなぁ」
「決まってないなら私に付き合いなさい! ちょっと気になってる食べ物があるの。一緒に食べましょう!」
「お、おい。くっつくなよ」
豊満な胸が変形するくらいぴったりとくっつくシェリル。そして、彼女の熱烈アピールにたじたじと言った様子のマサトこと
そう。彼の名は
SSSの主人公である彼のあだ名は、苗字から取ったものだったというわけさ。思い出せてすっきりしたよ。
「いいよなぁ御神代。
決闘。それはSSSの第三話くらいで起きた、みかみんとシェリルの決闘騒動のことだ。
みかみんに対抗意識を燃やしたシェリルが、雌雄を決するためにみかみんへ一対一の決闘を申し込み、敗北。それ以来、シェリルはみかみんにだけは心を開き、ああしてべったりするようになったという訳だ。
自分より強いって理由だけであそこまでべったりできるなんて、脳筋の思考回路はようわからん。
ちなみに、俺は二人の決闘を見ていない。BBA組手で疲れてベッドに倒れていたからね。
まあ、どちらにせよみかみん達のイベントに積極的に関わるつもりはないけど。
何故なら『みかみん一派』との関わりは極力減らすべきと考えているからだ。
歴史は繰り返されるというが、そうならないためにできることがある。それは、過去の失敗から学ぶことだ。
俺は前世では漫画やアニメ、ラノベや二次創作といったサブカルコンテンツにそこそこ目を通してきた男。
今の俺と同じような状況に陥った奴が主人公の作品をいくつも知っているし、そいつらが揃いも揃って同じように苦労したのも知っている。
最初のきっかけは些細なものだった。興味本位で主人公達の姿を見に行くとか、主人公達に声をかけるとか、その程度のレベル。たったそれだけの事で、彼らはものすごく苦労する羽目になった。
そういった多くの失敗を見てきた俺が、同じ轍を踏むわけがないだろう。
もはや俺に油断はない。みかみん達との関わりはできる限り排除する。適性試験でのフラグ回収を経験している以上、『お約束』が効果を発揮することを前提で行動する。
それが、過去の失敗から学ぶという事だ。
だから俺は今まで一度もみかみんと話をしたことがない。目を合わせたことすらない。シェリルも同様だ。
主人公達との関りがなければ、俺に苦労のおすそ分けが来ることはないだろう。
「……ま、ありゃ別格だよな。行こうぜ」
「おう」
「ああ」
「そうだな」
すん……と落ち着きを取り戻したクラスメイト達は揃って歩き出し、俺もその後に続いた。
汚れた体操着からいつもの制服へと着替え、更衣室を後にする。クラスメイト達はいつものように食堂へ行くというので途中で別れた。別れ際にスゲー顔で睨まれたけど。
校舎に入り、一年の教室へと続く廊下を歩く。皆昼飯を食べに出掛けたからか、それとも動く人の描写がない手抜き作画なのか、廊下に人影は一つもない。
そんな廊下を一人寂しく歩いていると、遠くからざわざわと騒ぎ声が聞こえてきた。これは……もしかして一年の教室か?
何事かと教室をのぞいてみると、クラスメイト達は教室の後ろにある掲示板の前に集まっていた。
「俺のチームメイトは、えーと……」
「あ、やった! 私達一緒のチームだ!」
「うわぁ~最悪ぅ」
チーム? って事は、BBAが前に言ってた実践訓練のチーム分けの話か。
『来週は訓練区域で実践訓練を行う予定だ。訓練は基本的にフォーマンセル、四人一組のチームで行う。チームの組み分けはこちらで決めて後日発表する』
実践訓練。チーム。その単語を聞いて俺の脳裏にある映像が浮かんだ。それはSSSの第四話だ。
内容はこうだ。最初チームで行動していたみかみん達だけど、シェリルが勝手に訓練区域を飛び出して、イレギュラーである熊ワイルドと遭遇する。みかみんとクラスメイト全員でシェリルを探しに行って、ピンチのシェリルを発見。そのまま全員で熊ワイルドに挑み見事勝利。シェリルはみかみんに完全に惚れると同時に、クラスメイト達にちょっとだけ心を開くのだった。
よかったな。で……それが何の役に立つ。
多分、いや、確実に次の実践訓練はイレギュラーのワイルドが出てくる。
シェリルがみかみんに向かって「どっちが多く倒すか勝負よ!」って宣言してるシーンは覚えているし、実際に宣言した姿も見た。間違いない。
百歩譲って普通のワイルドと戦うのは許容しよう。訓練場がある『丁』エリアのワイルドは体が大きくなっただけの野生動物で、まだ武器も通用するらしい。武器の扱いを習えば俺にも勝機はあるだろう。
でも、イレギュラーは無理だ。今回のイレギュラーである熊型のワイルドで、土の
だから次の実践訓練だけは参加を拒否……したいところだけど、拒否した場合は漏れなくBBAのお仕置きという名の半殺しが待っている。
BBAに対して反抗的だったカマセ犬が、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまうレベルの暴力。絶対に受けたくない。
唯一の例外があるとするなら病気やケガとか体に何らかの不調がある時だろうけど、あの
……いや、希望を捨てちゃ駄目だ。後でしっかり聞いておこう。
もし病欠が無理だった場合、俺がとれる選択肢は二つしかない。みんなで協力してイレギュラーに挑むか、俺一人でBBAに挑むか。地獄の二者択一だな。この選択はすぐには決められない。
とりあえず、今はチーム分けを見よう。
俺はクラスメイト達の合間から張り出された組み分け表を覗き見た。
「1チーム、2チーム、3チーム……あれ?」
4、5、6とじっくりチームの構成を見ていったけど、まだ俺の名前は出てこない。もしかして、一番最後か?
「7、8、あった。9チームだ……ゑ?」
な、なんか見覚えのある名前が並んでいるな。御神代とか、ローザリアとか。
え? あれ? ちょっとまって。こんな豪華な名前の奴ら、他にいたっけ? いや、いなかったよな。
マジで? マジであの二人なの? 主人公とメインヒロインと同じチームなの? これから何度もトラブルに出くわすチームイレギュラーの一員なの!?
いや、そもそもだ。主役達との関りを断ってきた俺が、どうしてこんなフラグ回収みたいな展開に陥っているんだ? これまで細心の注意を払ってみかみん達と関わらないよう立ち回ってきたのに!
俺はクラスメイト達をかき分けて張り紙の目の前に出た。そして、上から順番にもう一度、ゆっくりと組み分けを見直した。
◇
チーム名 9チーム
リーダー 御神代 真人
メンバー シェリル・ローグレス・ローザリア
井上 未来
白神 竜史
◇
「…………」
本当に驚いた時って声が出ないって聞いたことあるけど、あれってマジだったんだな。
もはや動く気力すら起こらない。その場に佇むだけの存在となった俺は、無慈悲な現実を見続けることしか出来なかった。
「白神君。ちょっといい?」
呆然とする俺の肩を誰かが叩いた。それにこの甲高いアニメ声はさっきも聞いたぞ。井上さんだ。
そういえば、井上さんも同じチームだった。
「チーム分け見たよね? チームの事で話があるからちょっと付き合ってくれない?」
そう言って、井上さんは屈託のない笑顔を見せた。
そうだ。俺だけじゃない。俺以外にも苦労を背負う羽目になった存在がここにもいる。俺は一人じゃない。そう思うと、自然と体が軽くなったような気がした。
「せっかくだからお昼食べながらにしようか」
「……そうだね。そうしよう」
動けるようになった俺は井上さんと一緒に教室を出て、売店で昼飯を買う。
井上さんは人目が少ない場所がいいと言うので、とりあえず中庭に出ることにした。
お、ちょうど目の前のベンチが空いている。ちょっと斜めになってるけど、ちょうど木陰だし昼飯を食べるには申し分ない環境だろう。
「ここに座ろう」
「うん」
俺達は揃ってベンチに腰掛けた。
「急にごめんね。訓練前に
「そ、そうなんだ」
めっちゃ早口じゃん。そんなに重要な話なの?
「それで話っていうのは……」
「同じチームにローザリアさんがいるでしょ。彼女の事なんだけど」
シェリル? 今更あいつの事でなんの話があるってんだ。
「シェリルさんって実力主義なの。だから、自分の考えるラインに届かない人にはとっても厳しい態度を取っちゃうんだ」
「ああ~……」
なるほど、その事ね。よく知ってるよ。脳筋だから腕っぷし以外の評価基準がないってのは。
そっか。俺はアニメのストーリーを一通り見てるからシェリルの性格をよく知ってるけど、この世界の人達からすればシェリルは高飛車なお嬢様にしか見えない。
井上さんは同じチームになるにあたって、その事を説明してチームがうまく回るようにフォローしようとしているのか。
「言いたいことは分かった。なんか言われても聞き流すようにするよ」
「ごめんね。私もできるだけフォローするから」
いやいや、井上さんが謝る事じゃないでしょ。
そう。全てはあの脳筋が悪い。今度の実践訓練でイレギュラーに遭遇するのも、毎度毎度トラブルが起きるのも、俺がBBAにボコられるのも、全部シェリル・ローグレス・ローザリアって奴の仕業なんだ。
それにしても井上さん、やけにシェリルの事に詳しいな。シェリルってまだみかみん以外の人には心を開いてないんじゃなかったっけ?
「井上さん。シェ……ローザリアさんの事よく知ってるんだね。いつの間に仲良くなったの?」
「あはは……実は私、まだシェリルさんに認めてもらえてなくって。あれだけ偉そうに言ったんだけど、本当は
……はい?
なんか今、聞こえちゃいけない名前が聞こえたような気がするんだけど。真人って、もしかしてみかみんの事か?
「真人君って、みか……御神代の事だよな」
「うん。実は私、真人君と幼馴染なんだ」
「お、幼馴染?」
「うん。小学三年生までご近所さんだったんだ。まさかこんな所で再会するなんて思わなかったよぉ」
は? いや、ちょっと待て。みかみんの幼馴染って――。
お前