遊戯王世界でテスタロッサとアリスとアウトレイジ   作:不知火勇翔

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無法秘伝 悪・即・斬

 不動遊星達が世界を救ってから一年。WRGPという大会が再び開催されることになり、ネオ童実野シティは浮き足立っていた。世界中からデユエリストが集まるこの大会に、前ワールドデュエルカーニバルの優勝者も来るとか、あの海馬瀬人が出場するという噂が、それを更に助長していた。

 そんな活気に湧くネオ童実野シティに、二人の子供がいた。

「…ドコだよ、ココ」

「ネットも何もかも使用不可。ナニコレ、どういうことなの?テスタ」

「知らねえよ」

 スーツをしっかり着こなす二人は、通勤ラッシュで人がごった返す駅前にいた。

 一人は真っ黒のスーツを着た少年で、ツンツンした白髪は彼の活発さを表していた。

 彼の名前は『テスタ・ロッサ』。デュエルマスターズの世界でアウトレイジという組織に身を置き、オラクルと戦い続けた勇敢な戦士だ。たまにカードとして切札勝太の手助けもしている。

 もう一人は、スーツにもドレスにも似た青い服を着ていて、被っている帽子も青。全体的に青い印象を与える少女だった。所々にフリルをあしらった高級そうな服が、彼女がどこかの令嬢であるかのように、その魅力を引き立てていた。

 名前は『アリス』。《侵入する電脳者(コードブレイカー)》の異名を持ち、若くしてアウトレイジの頭脳として活躍していた少女だ。テスタロッサと同じく、切札勝太の手助けもしている。

 テスタロッサはガシガシと頭をかくと、アリスの手を引き、歩き始めた。

「とりあえず歩くぞ先輩。情報収集だ」

「あっ、ちょっと、不用意に動いても…」

 立ち止まったテスタロッサはアリスを見て、言った。

「じゃあどうすんだよ」

「それは…その」

「何もかも分からないんだ。返って足を止める方が危険だと俺は思うぞ。とりあえずアッチ行ってみようぜ」

「でも、もし、あ、もう…」

 グイグイ腕を引っ張って歩くテスタロッサに、アリスは諦めてついて行くことにした。

 

 

 それから辺りを歩き回った彼らは、ある程度のことは知ることができた。

 まずこの世界にデュエマがないこと。ここがネオ童実野シティという名前だということ。そしてこの世界ではデュエマに代わって遊戯王というカードゲームがあること。そして、この街でこれから遊戯王の世界大会が行われること。

「なぁ先輩。世界大会に出てみようぜ」

「バカなの?今私達はこの世界に迷い込んでる立場なのよ?カードも無いし、ルールも知らない。100負けるわ」

「カードなら、先輩のポケットにあるだろ」

「え?」

 テスタロッサの目線に釣られてアリスは自分のポケットに手を突っ込む。そこには、40枚ぐらいのカードが入っていた。

「ずっと気になってたんだよ。先輩、カードなんて持ってたのかなってな」

 手元に持ったカードの束に目を落とし、アリスはカード一枚一枚を見て、そして目を見開いた。テスタロッサも遅れて気づく。

 そのカード全てが、同胞達、アウトレイジの仲間達だったのだ。

「どういうことだ?てか、皆も何してんだよ…」

 テスタが呟くが、アリスも首を傾げるだけで何も言わない。

 現時点では、あまりに情報が少なすぎる。

 

 

 

ある所に、1人の男がいた。

 彼は、気弱で平凡な男だった。

 彼は何も考えず就職し、社会の洗礼を受けた。社会という荒波に呑まれてボロボロになった彼は、本気で自殺を考えた。しかし彼には、友達がいた。両親がいた。そして何より、特別な人がいた。

 自殺しようとしていた彼を本気で止めに入った女性がいた。彼女は彼と面識などなく、たまたま近くを通っただけの女性だった。

 自殺に失敗した彼は、彼女に説教された。自分のことを何も知らず、自殺しようとしたという一点のみで説教されたのだから怒る所かもしれないが、彼が怒ることはなかった。それどころか、この瞬間が好ましく思えていた。

 家庭環境もあって、彼が両親に対して本気で話すことなどなかった。友達にも同様にして、本当の自分を見せることはしなかった。だからこそ彼女に怒られて、初めて自分が弱気になっていることに気づいた。

 気づいた所で勤め先に何か変化がある訳でなかったが、不当に評価されれば「何だと!」と怒るくらいの気概はもつようになった。

 それから数年して、彼は自殺を止めてくれた女性にプロポーズし、結婚した。

 子供は2人産まれ、順風満帆な日々を送った。

 妻となった女性は家にストレスを持ち込む性格をしていた。普通は面倒くさがって聞き流すのが一般的だが、彼は妻の愚痴を真剣に聞いた。正直妻の職場の人など1ミリだって興味もなかった彼だが、会ってもいないのに変な上司の名前を数人覚えてしまっていた。

 彼が定年を迎え、あわせて彼の妻も仕事を辞めた。老いて死ぬまで一緒に暮らすと誓い合った。幸せな日々を送る筈だった。だが、先に死んだのは2人の息子達だった。

 愛ばかり与えられた息子達はサテライトの住人に目を付けられていたらしく、サテライトがらみのゴタゴタに巻き込まれてそのまま…。

 失意に暮れる中、後を追うようにして妻も病気となり、少ししてこの世からいなくなった。

 彼は息子達が死んだ悲しみから立ち直れないまま、最愛の妻を失った。彼にとってこの世界は、抜け殻も同然だと考えるようになった。

 やることも目標も何もかもをなくした彼はある日、道端で1枚のカードを拾う。

 そのカードは『地縛神』というらしく、世界すら滅ぼせるカードのようだった。

 ふと手にした瞬間、力がみなぎってきた。感覚では、体だけ30年前に戻ったかのようだった。

 『地縛神』は言った。

 世界を滅ぼすには、シグナーと赤き竜という障害があるのだということ。それさえなんとかすれば、世界は簡単に手に入ること。それから過去が未来がと色々教えられたが、要するに最大の敵がシグナーということは分かった。

 彼は街に繰り出し、シグナーの情報を集めることにした。したのだが、まるで何かに引っ張られるように、2人の男女に意識が向いた。いや、向かされたと言うべき何かが起こり、彼はスーツ姿の男女2人を見た。

 鼻につく美男子と美少女。

 だが、それだけだ。それが何だというのか。

 しかし、理由もなく老人はその2人が気になった。

 デッキケースに入っている『地縛神』も、さっきから落ち着きがない。

 何かが、何かがおかしい。普通じゃない。

 そう思わされた。

 

 

 

「おい、そこのお前達、デュエルじゃ」

 いきなり声をかけられた二人は、ビクッと体を震わせた。

「ふむ。一応デッキは持っているようじゃな。肩慣らしには丁度いい。赤きシグナー達を皆殺しにする前の、前哨戦といこうか」

 二人に話しかけたのは、しわがれた老人だった。だが彼の圧は、歴戦の猛者であるテスタロッサですら驚かされるものだった。

「さぁ、構えなされ。デュエルじゃ」

 デュエルディスクという円盤を腕につけ、構える老人。黙り込む二人。それを自身に対する恐怖によるものだと理解した老人は、挑発した。

「ほれ、早ようせんかい。わしはデュエルをしたくない奴は基本殺すぞ?まさかデュエリストとしての気概すら持ち合わせぬ雑魚なのか?」

 それでも動かない二人。老人はそこで、二人の目が自分と同じくらい鋭いことに気づく。

「そんな目ができて、デュエルができん訳があるまい。……まさか、」

「遊戯王のルールを、教えてくれ」

 テスタロッサが真面目な表情で、問題外なことを言った。

 前代未聞の、これから命を懸け合う敵に遊戯王のルールを聞かれるという謎の状況。これには、何十年と生きた老人にとっても初めてのことだった。

「………」「………」「………」

 老人は気まぐれで話しかけたため、そこに戦う明確な理由など存在しない。老人にとっては、話しにならないと言って2人を殺せば終わる会話だった。

 だがしかし、2人の風格は別格だった。それこそ、戦場で何度も修羅場をくぐり抜けてきたかのような。ルールさえ知れば、化けるとさえ思える何かが、2人にはあった。倒しがいがありそうだとも、思えていた。

 老人もまた、決めるのはデュエルという鉄則を守る『デュエル脳』をしていたのだった。

「ルールやったら、ワイが教えたるでい!」

 アリスの手にあったカードの束から、声が発せられた(?)。とにかくカードの束から聞こえた声に、3人はそれぞれ違った反応を見せた。

 テスタは驚きながら口元に笑みを浮かべ、アリスは嫌そうな顔をし、老人は驚き目を丸くした。

 老人は『地縛神』と接触して今まで関わったことのない世界の知識を得ていた。殆どが赤き竜関係だが、その中にはカードに宿る精霊のこともあった。

 

 

「10分待ってやるわい」

 

 

 

10分後。

 

 

 テスタロッサとアリスはDホイールというバイク型デュエルディスクを持っていなかったため、老人はライディングデュエルができず、立ってデュエルすることになった。また、二人はデュエルディスクすらも持っていなかったため、老人は持っていた予備を貸すことにした。予備を持っていたのは、最近愛用しているデュエルディスクの調子が悪く、シグナーと対峙した時にマシントラブルなど起こしてはみっともないからだ。また、愛用しているデュエルディスクが一番デュエルに集中できるのがデュエリストというもの。予備でシグナーと戦うことはなるべく避ける必要があった。まだ予備を出して同情される方が100倍マシなくらい、デュエリストにとってデュエルディスクは重要なものなのだ。要するに、持っていたのは本当に偶然だった。普通は、あんなかさばる物を2つも持ち歩いたりはしない。

「先行はワシがもらう。ワシのターン…まずはフィールド魔法『死皇帝の陵墓』を発動!」

 

 

《死皇帝の陵墓》フィールド魔法

●お互いのプレイヤーは、

自分メインフェイズに以下の効果から1つを選択して発動できる。

(1):1000LPを払って発動できる。

1体のリリースを必要とする手札のモンスター1体の通常召喚を、

リリースなしで行う。

(2):2000LPを払って発動できる。

2体のリリースを必要とする手札のモンスター1体の通常召喚を、

リリースなしで行う。

 

 

「手札を一枚捨てて『使神官ーアスカル』を守備表示で特殊召喚」

 

 

《使神官-アスカトル》 効果モンスター

星5/地属性/魔法使い族/攻2300/守1500

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカード以外の手札を1枚捨てて発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。その後、手札・デッキから「赤蟻アスカトル」1体を特殊召喚できる。この効果を発動するターン、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 

「『使神官ーアスカル』の効果で、デッキから『赤蟻アスカトル』を特殊召喚」

 

 

《赤蟻アスカトル》

星3/地属性/昆虫族/チューナー/攻700/守1300

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地のレベル5モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターンのエンドフェイズに墓地へ送られる。

 

 

「フィールドのモンスター2体をリリース。今再び五千年の時を越え、冥府の扉が開く」

 老人の口上と共に、ガガガっと大地が揺れ始める。

「我らが魂を、新たなる世界の糧とするがいい!光臨せよ、『地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)』!」

 

 

《地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)》効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻2500/守2500

(1):「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

(2):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(3):相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。

(4):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(5):また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、このカードの効果以外の方法でフィールド上から離れた時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×800ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 現れたのは、巨大な黒いモンスターだった。ハチドリのような外見だが、その翼は飛行能力などなさそうな、言うなれば針金で翼を表したようなフォルムが印象的なモンスターだった。またその規格外の巨体が、圧倒的な王者の風格を醸し出していた。

「ふっ。お主らにはこれで充分か」

 未だに自分の手札にあるカードのテキストを熟読している二人を気にせず、満足そうに老人は言った。

 普段の老人なら地縛神を無視されることは無視できないことだったが、あの素人二人に地縛神の凄さは口では伝わらないだろうという、ある種の諦観が老人にはあった。

「俺達のターンだな。ドロー」

 デュエルディスクに刺さったデッキから一枚引いたテスタは、すぐにアリスに引いたカードを見せ、情報を共有する。二人は二言三言交わすと頷き合った。

「決まったか」

 老人が聞くと、テスタロッサは頷いた。

「あぁ、待たせたな。俺は手札から魔法カード『ミステリーキューブ』を発動。山札をシャッフルし、一番上のカードを確認する。それがクリーチャーなら場に出し、それ以外ならそのカードを墓地へ送る。シャッフルし、ドロー。俺が引いたのは、『武闘将軍カツキング』。俺はこのクリーチャーを特殊召喚」

 

 

《ミステリーキューブ》通常魔法。

自分の山札をシャッフルする。その後、上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せる。それがクリーチャーであれば、モンスターゾーンに出してもよい。クリーチャーでなければ、自分の墓地に置く。

《武闘将軍カツキング》エグザイル・クリーチャー

星8/火属性/ドラゴン属・アウトレイジMAX /攻3000/守2500

(1):∞(インフィニティ)パワーアタッカー(ダメージ計算時、このクリーチャーのパワーは無限大になる。ただし、戦闘ダメージは発生しない)

(2):このクリーチャーがバトルに勝った時、相手に1000ポイントのダメージを与える。

(3):ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《武闘》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からモンスターゾーンに出してもよい。

(4):自分の他の、名前に《武闘》とあるエグザイル・クリーチャーをモンスターゾーンに出すことはできない。

 

 

「なっ、なんなのじゃ?そのクリーチャーとやらは…」

 動揺を隠せないでいる老人に、テスタロッサは言った。

「俺だって、モンスターって何なんだよって言いてぇよ。俺は手札から魔法カード『狩人秘伝ハンターファイア』発動。クリーチャーをバトルさせる。カツキング、敵をやっちまえ」

「おう!」

 カツキングの元気のいい返事と共に、カツキングの常人では目で追えない圧倒的な動きで、老人の地縛神が細切れになる。

 流石は、∞パワーアタッカー。

 

 

《狩人秘伝ハンターファイア》速攻魔法

モンスターゾーンにある自分と相手のクリーチャーとをバトルさせる。

 

 

「バトルに勝利したためカツキングの効果発動。1000ポイントのダメージを与える」

「破壊された地縛神アスラピスクの効果発動!相手のフィールドのカード全てを破壊し、破壊した枚数×800ポイントのダメージを受けてもらう。そのクリーチャーとやらも破壊じゃ!」

「カツキングのドロンゴー発動。手札から2枚目のカツキングを特殊召喚。バトルフェイズ。カツキングでダイレクトアタック」

「ぐぁぁぁっ!!!」

老人LP4000→3000→0

 

 

 あまりにアッサリ勝ってしまったテスタロッサとアリス。テスタロッサは熱い戦いができると身構えていただけに、残念そうな表情をした。アリスの方は何も言わず、何だったの?、みたいな表情でカツキングに吹き飛ばされた老人を見た。

 2人の目の前で倒れ伏す老人は、それから1ミリも動かなくなった。二人は知らないまま挑んだデュエルだったが、そういうデュエルだったらしい。

「遊戯王って、負けたら死ぬんだな…」

「ていうか、結局コイツが誰か分からないまま死んだけど、死体とかどうするのよ」

 脈を計り、完全に死んでいるのを確認したアリスが聞いた。それにテスタは興味がなさそうに、

「考えるのは先輩の担当だろ」と言った。

 元々アウトレイジの敵であるオラクル教団の信徒だったテスタロッサは、途中からアウトレイジに鞍替えした。そのため前からアウトレイジだったアリスにとってテスタロッサは後輩で、テスタロッサにとってアリスは先輩だった。また、テスタロッサは考えるのが苦手なこともあって、昔から2人で動く時、考えることは色々と知っているアリスがしていた。それが今もズルズルと続いているのだった。

「むむ……とりあえず、この世界にも治安維持組織ぐらいはありそうだし、その人達の見える所に捨てに行くわよ」

「オッケー、分かった」

 そう言って、テスタロッサは老人の亡骸を抱え上げた。

 

 

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