遊戯王世界でテスタロッサとアリスとアウトレイジ 作:不知火勇翔
「どうして俺が…」
学業を優勢したとはいえ、ハノイの騎士から距離を置くというのは精神的な何かが磨り減っているような気がした。これは焦りなのだろうか。
俺の名前は『藤木遊作』。リンクブレインズという電脳空間ではプレイメイカーという名前で通っている。
今俺はデュエルアカデミーという所で、そこの生徒が準備したパーティーに参加している。
元々俺が通う高校とデュエルアカデミーという学校とは昔から付き合いがあったらしく、色々なイベントを毎年催しているらしい。そしてその一環として、交換留学という話が俺に回ってきた。
俺は教師うけがそこそこいいらしく、担任が俺に勧めてきたのだ。俺はその時断ったが、俺のデュエルディスクに入っているAI、名前はアイン(仮)というのだが、ソイツが勝手に申し込んでいた。俺が事態を把握した時には既に手遅れだった。
「いいじゃん。新たな発見があるかもよ?」
アインが何か言っている。
確かにそうだろう。明日にはこのデュエルアカデミーの近くで遊戯王の世界大会が行われる。実際に目で見て他人のデュエルから学ぶことは、バカにできない重要な経験だ。ハノイの騎士との戦いの助けになるかもしれない。
そう考え、来る意味はあって遠回りなだけだと割り切り、俺はこの時間を有意義に使うことにした。まず手始めに、並べられたホットドッグに手を伸ばす。
「ここでもホットドッグ食べるのね」
俺はホットドッグを口に入れたまま、声のした方向を見た。
「ふぉいふぇん」
「飲み込んでから話しなさい…」
呆れた表情で、『財前葵』が俺に話しかけてきた。
彼女は俺と同じ学校に通っていて、同じく交換留学生としてこのデュエルアカデミーに来ていた。リンクブレインズではブルーエンジェルとして活躍する人気者ではあるが、それを抜きにすれば兄を慕う普通の女子高生だ。
「君は食わないのか?」
俺はパーティーというものが苦手だった。だからこのパーティーが始まるとすぐに端へ移動し、特にすることもなかったため、他の人を観察していた。その中で、財前葵がまだ1つも食べ物に手をつけていないことに気づいていた。
「……?」
俺の言いたいことがイマイチ伝わらなかったらしい。彼女は首を傾げた。
「パーティーが始まってから、何も口にしていなかっただろう?」
「あぁ、見てたんだ。人と立って話すことが苦手なの。後で1人の時に食べるわ」
「そうか」
俺もこのホットドッグを持ち帰れるのなら、迷わず持って帰ってから食べていただろう。
ここの空気は、何というか、ギラギラしているとでも言えばいいだろうか。
ウチの高校から交換留学でこのデュエルアカデミーに来たのは俺と財前の2人だけだが、交換留学生は他にも4人ほどいた。彼らはデュエルアカデミアという所から来たらしく、赤や黄色の制服に身を包んでいて、パーティーが始まる前から目立っていた。そして、彼らがこのパーティーをギラつかせていた。今も「デュエルしようぜ!」などと歓迎パーティーの最中にも関わらずそんなことを言っている人もいる。
彼らのように初対面でグイグイいかない俺はその場の空気に呑まれていた。
正直、今からでも帰りたい。恐らく財前も、俺と同じ状態なのだろう。財前の目が、彼女の疲れを表していた。
「オ~イ、そんなトコにいないで、こっちで食えよ!ウマいぞ!」
赤い学生服に身を包んだ青年がこっちに手招きしてきた。
「いや、俺は…」
「いいじゃねぇか!こっち来いよ!」
やんわり断ろうとした俺だが、グイグイくるデュエルアカデミアの生徒の前では無力だった。肩を組まれ、そのままズルズルとパーティーの真ん中へ引き出された。
本当に、勘弁して欲しかった。
「ここにデュエリストはいるか!!!!」
扉を蹴破る音と共に、少年を小脇に抱えた男が1人乱入してきた。彼の後ろには、レンズに星がペイントされたゴーグルを頭につけていた。
「ふむ…………。そこのお前、そこの女、それから赤い奴、俺について来い」
乱入した男はパーティーの会場を見回し、俺と財前葵と、それからさっき俺を引っ張った赤い制服の人を指差した。
声が特徴的なその男は、芸能人なんて全く知らない俺でも分かった。彼は『海馬瀬人』。デュエルキングである武藤遊戯のライバルにして、あの究極モンスター《ブルーアイズホワイトドラゴン》を操るトップデュエリストだ。またデュエルアカデミーを運営するKCP(海馬コーポレーション)の社長でもある。
そして小脇に抱えられている少年は、確か前回のWDCの優勝者『九十九遊馬』だ。
海馬さんの後ろにいるゴーグルの少年は、よく知らない。年齢的に海馬さんのSPとかでもないだろうし、この面子と一緒にいるのだからかなりの実力者なのだろう。
そんなメンツからの呼び出し。しかも財前葵、ブルーエンジェルと一緒にだ。
俺は今更ながら、来なければよかった、と後悔するのだった。
「海馬さん、これで全部か?」
「あぁ、プリンとかいうモンスターが言うにはな」
「てか、早く下ろせってぇ!」
「貴様は大人しくしていろ。もうじき着く」
「お前名前は何ていうんだ?俺は遊戯十代。後でデュエルしようぜ!」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたね。俺の名前は榊遊矢。いいよ、俺のエンタメデュエルを見せてやる!」
「オッケー、」
「貴様ら、少し黙っていろ」
海馬さんがオカンしてる謎状況が繰り広げられていた。この中にいると、俺と後ろでドン引きしている財前葵の方がおかしいんじゃないかとさえ思えてくる。
色々と濃いメンツの珍道中は、俺の予想より早く終わった。
どうやら目的地についたらしく、大きな扉の前
で足を止めた海馬さんは、九十九遊馬を抱えたまま扉を開けて中に入った。続いてゴーグルの人、赤い人、俺と財前葵の順に入った。
「姫をどれだけ待たせる気?もう帰っちゃおうかと思ったわよ!」
「あぁぁ姫少し落ち着いて下さいクールダウン!海馬さんだって本気で、」
「知らないわよ!姫は沢山待たされたの!」
これから落ち着いた会話が始まると俺は勝手に思っていたが、どうやら更に濃いメンツが加わっただけだった。
もう渋滞していた。
「貴様、俺がノロマだと言いたいのか?」
「そうよ!姫はね、」「姫!!ウェイトウェイトォ!!」
「お、また面白そうな奴がきたな」
「お姫様かぁ」
「早く下ろせぇって、力強くね!?うっせえなアストラル!分かってるって!」
財前葵はというと、もう達観した目でこの惨状を眺めていた。会話に入る気力も起きず、最早観客のようなポジションをとっているようだ。
「揃ったわね。九十九遊馬に榊遊矢、それからプレイメイカーにブルーエンジェル。うん、これで全員ね!」
…………………………。
お姫様(?)の一言に、財前葵が「えっ!?」と想像通りの反応を見せる。身バレもそうだが、多分プレイメイカーがこんなに近くにいたことにも驚いているのだろう。
このメンツに連れられる時点で想像はしていた。だがしかし、それでも俺の心中は大慌てだった。とりあえず、しらを切ってみる。
「プレイメイカーっていうのは、最近リンクブレインズで暴れているとかいう…」
「あなたのことでしょ?」
効果はなかった。これは、完全にバレている。
「藤木くんが、プレイメイカー?」
財前葵の反応次第で今後の俺の行動が決まる。本当に、厄介な人に絡まれた。それにまだ呼び出された理由を聞いていない。まさか、まだ何かあるのだろうか。