メリークリスマス明けましておめでとうございます今年もどうぞよろしくお願い致します。
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「.........」
見る者の脳内を滅茶苦茶にかき混ぜるかの様な、視界に広がる混沌とした世界から目を覚ました少女。
「──ああ、もう」
つい先程まで、異世界からやってきた男──ナツキ・スバルと
先程の一般的な感性の持ち主なら誰しもが恐怖し、トラウマなんて生温い、一生悪い意味で心に残るであろう恐ろしい光景を見てしまったからか、その幼い体は不安そうに震えている。
精霊といえども、怖いものは怖い。恐怖という感情は、やはりいつの時代でも万人共通──
「もう一体全体どうしてやったらいいってんのかしらー!!!」
──という訳でもなかった。
◇
「もう! もうっ!! アイツと来たら! せっかくベティーが懇切丁寧に最初から説明してやったってのに!!」
このロズワール邸で、普段から一番物静かで騒ぎ声の一つもない
奥の方に設置されている、辺境貴族の屋敷らしい豪勢なベッドの上でぽすんぽすんと跳ねる、一人の影があった。
「思い返せば思い返すほどムカついてきたのよー!!!」
──その少女の名は、ベアトリス。
ロズワール邸の禁書庫の番人であり、何だかんだあれこれ言いつつもとりあえずスバルのことを第一に考えて
「はぁ、はぁ......けほっ、いいい一旦落ち着くかしら......」
改めて冷静さを取り戻しても尚怒りが残っていたのか、本能的に手に取ったお気に入りの本のカバーも、少し折れてしまっている。
目元を涙で潤し、癇癪を起こしている姿は、まるで年相応の子供のようで。
「......もう、もう.......」
自らの想いが通じてくれないからか、やけになったのか。
ベアトリスはただ一人、自分以外誰もいない禁書庫の中で、声高らかに宣言した。
「──スバルなんて知らないっ!!!」
ナツキ・スバルの苦難は、続く.......
◇
「────!!」
自分の絶叫で目を覚ます、という経験はこれ以上なく心臓に悪いものだ。
布団をはね飛ばして覚醒したスバルも、息を荒げながらそんな衝動を味わっていた。
「ひ、左手......ある、あるよな」
何かを掴もうとしたかのように、虚空に左手が伸ばされている。
千切れて、吹き飛んだはずの左半身は健在だ。右腕で抱くようにしてそれを確かめ、スバルは短い間に味わった喪失感の壮絶さに、空っぽの胃袋を嘔吐感に震わせた。
改めて、スバルは復活した左手を見る。
手の甲に傷跡はもちろんない。吹き飛んだ跡も、犬に噛まれた傷跡もだ。
「また、戻ってきちまった......いや、戻ってこれたって言うべき......か?」
傷跡の消失は、スバルが運命に敗北したことを意味する。
時間を逆行してきたのだ。あるいは、リベンジの機会を与えられたと言ってもいいが。
顔を上げ、スバルは自分が今、何時のどこにいるのかを意識した。
とにかく、まずは時間の確認を──そう思い至った時だ。
スバルがふと部屋の片隅に目をやった時に、
「──ひっ」
部屋の隅で、抱き合うようにしてスバルを見ていた双子。
その
スバルは
普段から少し毒のある言い方だが、その節々から優しさを感じられ、スバルが比較的好意を抱いていた、青い髪の少女。
時には笑い、スバルの冗談にもなんとなしに答えてくれ、色々な経験を通じて確かに打ち解けた筈の、青い髪の少女。
──そして昨日、いや前の世界で確かに、スバルをその手に持っていた鎖と武器で─────
「ぐ、うぅっ......! と、とにかく落ち着け、俺......レムがそんな事を、あんな酷いことをしてくる訳がねぇ......!」
ただ、冷静になる為に漏らしたはずの、何てことのない発言。
しかし、そうして落ち着こうとするにつれて、スバルの脳内で、前の晩での思いが蘇る。気付けば、あれだけリラックスしていたはずの体も、両手は尋常ではないほどに震え、心臓は周りにも聞こえてしまっているのではないか、と自覚するぐらいには鳴っている。
疑う。蘇る。疑う。蘇る。疑う。蘇る。疑う。蘇る。
しかし、世の中はスバルを中心にして動いている訳じゃない。明らかに普通ではないスバルの状態を見た二人のメイドが、ベッドの上で震えるスバルの元へ、一歩、一歩と近付いてくる。
「───」
ついに抑えきれずに、スバルが叫んでしまおうとした所、近くまで来た青髪の少女が、その口を開いた。
「あの......大丈夫、でしょうか。お客様......」
おずおずと、まるで少し人見知りな大人しい少女の様な優しい手が、スバルの少女より一回り大きい手に重ねられる。
「──あ、」
その瞬間、スバルは初めて、
自分でも訳の分からないまま、涙が頬を伝って落ちる。
そう、スバルがどれだけ疑おうとも、この少女と過ごしたあの日々は偽物ではなかったのだ。
その事について改めて気付かされたスバルは、青髪の少女──レムの手を、割れ物を扱うかのように、しっかりと握りしめる。
「何だ、その......疑って悪かった。やっぱり、俺はもう一度、レムを信じてみる事にするよ」
ニッと笑い、あの夜の襲撃の事など忘れて、レムに笑いかけるスバル。
これでいい。これがとりあえず、今の自分にできる精一杯の努力なのだ。
しかし改めて考えると、この世界では丸っきり初対面の相手な訳で。
スバルのその言葉を聞いた後、メイドの二人はまた即座に部屋の片隅に行き、お互いを抱き締めるようにして震える。
「ね、姉様姉様、不審者です。特に対面した覚えもないのに、手を握られました。かなりやばい人です。エミリア様の恩人とは言え、どうすればいいんでしょうか」
「レムレム、とりあえず一旦落ち着きなさい。まずはこの方、いやこいつの動向を見るのよ。次に手を出そうとして来たら、即座に対応するから安心してちょうだい」
「あー! やらかした! おもっくそ真正面からやらかしちゃったなこれ!! あれこれもう既に詰んだ感じ!?」
今更、スバルがどう取り繕うとも、もう遅い。
どうやら二人のスバルに対する最初の警戒心は、歴代のループの中でのマックス、そして友好度も最低レベルにまで陥ってしまったらしい。
こうなったら、もうスバルに出来ることは一つしか残されていない。
布団を蹴飛ばし、即座に姉妹の一歩手前辺りまで、驚異の身体能力で飛ぶ。そして、
「すみませんでしたぁぁぁ!!!」
日本古来の伝統の謝り方、最高峰の誠意の表し方。
かくして始まった、スバルのロズワール邸、三度目の初日。
三度目してどうやら、この屋敷のほぼ全員から、苦手意識を持たれてしまった上でのスタートである。
◇
──あの後、世にも珍しいエミリアからの本気のお叱りを受け、体もメンタル共々疲弊して疲れきってしまったスバルは、とある人物に会いに行く為に、屋敷内の廊下を歩いていた。
「んー、どこだろな、こっちか? いーやこっちは何となく違う気がするんだよなぁ......」
それぞれの部屋に繋がる特に代わり映えのない扉を見ては、考え、また歩き出す。
そう、何を隠そう、疲れたスバルを何だかんだ癒してくれるであろう、ツンツンしているのにいざという時にデレデレな少女、ベアトリスに会うためである。
「お、多分この扉だな。俺の秘められた野生の勘がそう言っているような気がする」
どこからその自信が湧いてくるのか。しかし今まで百発百中ということもあり、スバルの中では赤子の手を捻るかのように扉渡りを破っていく。
扉を開けると、懐かしい古本の匂いが漂う、スバルにとってもこの上なく落ち着く空間、禁書庫が開かれる。
内心、またいつもの様に罵られるんだろうな、と思いながらも、何故か口角が吊り上がったまま、あの少女との会話を楽しみにしている。
「いんや俺、ロリっ子に罵詈雑言を叩き付けられて喜ぶような変態ではないんだけどな......おーい! ベアトリスー!!」
そう元気よく声を発し、ゆっくりと一歩ずつ歩いていたスバルの視界に、ベアトリスが捉えられた。
しかし、どこか様子がおかしい。
「お、おい、ベアトリス? どうした?」
いつもなら、名前を呼ぶだけで生意気な口を効いてくるはずの少女は、ベッドに顔を押し付けたまま、動こうとしない。
最初は寝ているのか、とも思ったスバルだったが、足を止めてよく耳を済ませると、ベッドの方からすすり泣くかの様な、くぐもった声が聞こえてくる。
これはおかしい。
あのベアトリスが泣くだなんて、よっぽどの事だ。そう突発的に判断したスバルは、すすり泣くベアトリスの体をやや無理やり起こし、顔を見合わせる。
──いつも済ました顔をした少女の、初めての泣いた顔だった。
「おい、大丈夫か! 何があったんだ、ベアトリス!!」
刺激しない様に、しかし焦りの含んだ様子でベアトリスの体を揺らすスバル。
しかし、
「──む、」
「......む?」
「む"らく"う"ぅ~!!」
「おわぁーっ!?」
少女が泣きながら陰魔法を唱えると同時に、スバルの体から重力が消える。
「う " ぅ "え "~ん!!!」
「ちょっちょっちょっと待てぇーい!! いやほんとに待って!! そんなに振られたら腹ん中何にもないのにゲロる! リバースする!!」
ベアトリスが顔を歪めながら、手をあっちこっちに動かしてスバルを自由に動かし操作する。
「す "ばる" なん" て"知らない~!!」
「待て!! 一応言っとくけど状況的に泣きたいのはこっちの方だからなベティー!!」
「ずばるに名前よん"でも"らえた"ぁ~!!」
「あっこれダメだわ......俺、また吐くのか......」
これだけの災難続きでも、まさか全て自分が原因で引き起こされた行為だとは、スバルは知るよしもない......
◇
「......え~と、つまりどういうことですと? ベアトリス様?」
「すばるの手、あったかい......」
現在、禁書庫にたった二人。
目付きの悪い青年と、何も穢れを知らなさそうな美しい少女が二人、青年が少女を膝の上に乗せる形でようやく会話が成立している。
思えば、今までずっとスバルは何かあれば当たり前のようにベアトリスを頼っていた訳だが、よく考えてみればこの少女も一人の幼い子供なのだ。
そう、改めて再認識させられたスバルは。
「......いやあのさ、ベティーが泣いてた理由はよく分かんねぇけど、とりあえず......」
「な、なんなのよ......」
「お前、結構かわいい一面、あるんだな......」
「エル・ミーニャっ!!!!」
「いや割りとマジで洒落になんねぇよそれ!!」
最終的に茹で蛸の様に顔を赤らめた少女が、無力なスバルに陰魔法を無駄撃ちするという結果でスバルの三度目の初日の半分は終わった。
ベア子をデレさせていいのは四章以降です。
ベア子を可愛がっていいのは四章以降です。
皆さん肝に命じておきましょう。
ベアトリスと逃走√(短編)は
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いる(鋼の意思)
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いらない(超拒絶)
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作者の好きな様に
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そんな事より本編進めろ