「これは、本気でマズイことになったな...」
ポケットの中の財布にかろうじて入っている、ちょっとした買い物ぐらいは出来るであろう少ない小銭を手に取り、彼は途方に暮れていた。
「やっぱ、通貨とかその他諸々の価値観とかって地球とは全然違うんだろうなぁ...」
手の中にある十円玉──今では希少なものとなったギザ十を指で弾いて、少年は深いため息をこぼした。
群衆に紛れれば一瞬で見失いそうな、これといった特徴もない安物であろうグレーのジャージがやけに似合っている少年───
しかしスバルは、困惑の声を上げる事も、紛糾する事も無く。
自身を見つめる人々に向けて、軽く指を鳴らした。
何故なら。
「どうやら───異世界召喚もの、ということらしい」
少年は、
◇
「......挙句の果てに異世界召喚されて、高校中退確定か。......もはや意味わかんねぇな」
......ベティーがこっそりと潜んでいる、道の中心から外れた暗い裏路地より少し遠い所に、その男は立っていた。
短い黒髪に高くも低くもない、ごく平均的な身長。
無駄に体格がよく、少し鍛えていることが分かる、三白眼の鋭い目付きをした、いかにも安そうなグレーのジャージを着ている男。多分あれはユ◯クロ製かしら。
......そう!!我らが『Re:ゼロから始める異世界生活』の主人公、『ナツキ・スバル』その人なのよ!!!
「やったー!!!やったーなのよ!!!!ついに、ついにあの男の姿をこの目で直接捉えることが出来たかしら!!!!」
苦労して、あの小娘の後をバレない様にそそくさと着いていったかいがあったのよ!!途中で少しバレかけたけれど!!!
......年に合わず、その場でぴょんぴょんとはしたなくジャンプしてしまったのよ。......だ、誰も見てないかしら?
にしても、遠目から見てもやっぱりお世辞にもカッコいいとは言えない服のセンスと三白眼。そりゃ、周りの奴らも珍奇な物を見る目をぶつけるかしら。
.....とりあえずキリのない陰口はここまでにして、まずはあの男の動向を探るかしら。なにかよく分からないけれど、ずっとその場の目立つ道の中心で、ぶつぶつと喋っているのよ。
「現状がファンタジー異世界と仮定して、文明はお約束の中世風ってとこか。見たとこ機械類はないけど、地面の舗装の仕事ぶりは悪くない。......金はもちろん使えない」
......あれ?!あ、あの男、何故かここ、こっちに向かって歩み寄って来てるのよ??!
「......そういえばあの男は原作でも、裏路地付近に行ってチンピラ達に捕まってたかしら...?」
...か、完全に忘れていたのよ.....
えーっと、えぇーっと??ど、どうしよう?どうしようかしら?!?
ここ、こういう時に使える陰魔法って、何かあったかしら??!
◇
「ど、どうしよう...どうすればいいのよ...?」
たまたま移動した先にあった、いかにもな怪しい裏路地の付近に居た、なにやら困ってる風な少女に対してスバルは、まるで昔からの友人と話す時の様な距離の近さで、少女を脅かさない様に、軽い調子で話しかけた。
「......お、こんな所に、何か訳有りげっぽそうな気がしなくもない、髪がクルクルになってる可愛い幼女発見!......おーい、大丈夫か?そんないかにもな困ってる風の顔してたら、折角の可愛い顔が台無しだぜ?......あーいやいや!別に怪しい者ではなくて.....俺はただ、君の身を案じて...」
......少年は少し話しかけてから、何やら不思議そうな、それでいて少し怯えている様な少女を見て「あ、失敗した...」と、思った。
少年はそう察した途端、直ぐ様日本に昔から代々伝わる秘術『
「......す、すみませんでしたぁぁぁ!!!気軽に話し掛けた事は謝りますのでどうか、どうか警察だけはぁぁぁ!!!.....あいや、この世界の場合だと見回りの兵士とかか?.....って、そんな事はどうでもよくて!!「......んふふふっ!」.....え?」
まるで、綺麗な鈴が鳴ったかの様な、この薄暗い裏路地には到底似合わない、コロコロとした笑い声。
その声が、すぐに目の前の淡いクリーム色の上を長く伸ばし、縦ロールに巻いているのが特徴的な、フリルが多用された豪奢なドレスがやたらと似合う可愛い少女が発した声だと、スバルは直感的に理解した。
「うふふふふっ...くふふっ、あはははっ!!!」
自信を持って間違いなく、元の世界ではどの国を探しても見つからないと言える様な。
スバルの居るこの路地裏に、まるで一介の天使が舞い降りたかの如く、華奢で可憐で、大胆な格好をした美しい少女の笑い声だった。
そんな、見る者を魅了する可愛い少女の笑みを目の当たりにしたスバルは。
「───うん、やっぱ幼い子はこうでなくっちゃな!......いや本当.........異世界、マジサイコー!!!」
これから襲い掛かってくるであろう、幾つもの苦難が待っているとも知らずに。
異世界で出会った一人の少女のこぼした優しい笑みにつられて、まるで何かをやり切ったかの様な、とても小さな達成感を胸に感じたまま、目の前にいる小さな少女の頭を撫でて。
ナツキ・スバルは、屈託のない爽やかな笑顔を、この世界で最初に笑ってくれた少女に向けた。
「べ、ベティーの頭を....気安く......撫でないで欲しいのよーっ!!」
「あだーっ??!」
.....スバルの苦難は続く。
あれ...ベア子がデレてる...
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。