ついでにこの小説も今日で一周年を迎えます。
いつも見て下さる皆さんに感謝です。
「へい、ロリっ子! 暇だから遊びに来たぜ!」
「
通算何度目になるのかも分からない『扉渡り』を野生の勘が如く当たり前のように突破し、大胆にも右手に酒、左手にグラスカップを持ちながらずけずけと禁書庫へ入っていくスバル。
扉の前で木製の脚立に座り込みながら本を読む少女、ベアトリスは読書の時間での突然の妨害に既に苛立ちを隠せないが、それでもスバルは止まらずに歩み寄る。
これが禁書庫から出ることのない幼い少女への、スバルの精一杯の感謝の表れである。
「まぁいつもの様に話を聞け、ベティー。前にも言った気がするけど、そんなにツンツンしてると可愛い顔が台無しだぜ?」
「いったいどの属性魔法で吹っ飛ばされたいのかしら......」
「んまぁ、この辺りで無駄話は一旦終わりとして.....今日俺、実は一日フリーの日なんだよね」
「いつも無駄話しかしていない上に、やる事と言えばあの小娘の後を追いかけるかベティーの禁書庫に転がり込んでばかりなのよ......」
座り込むベアトリスの周りを延々と歩きながら、何気ない世間話に洒落混もうとするスバル。
その話に巻き込まれているベアトリスは半ば諦め状態で本を読み進めながら、これからスバルの口から開かれるであろう戯言に、耳を傾ける。
「単刀直入に言うんだが.....」
「嫌かしら」
「まだ何も言ってないんだけど!? あ、そうだベティー! 俺が今から言う話に耳を傾けてくれたら、久しぶりにあのお菓子あげちゃうぜ?」
「ベティーがそんなのに釣られる安い奴に見えるかしら?」
「......今ならなんとパックが付いてきまーす」
「......ま、まぁ話ぐらいなら聞いてやらんこともないのよ」
「さっすがベティー、話の分かる可愛い奴だぜ!」
「か、かわ.......」
思わずベアトリスの手を取り上下に振って、最後に二人でハイタッチ。ここまでは順調、と言わんばかりの余裕の笑みを浮かべるスバル。
後はスバルの計画を実行に移す為の、第一段階を済ませるだけである。
ここからの第一声が重要。これに失敗してしまえば
「改めて、単刀直入に言うんだが.......」
故に、スバルは類を見ないほど懇切丁寧に、慎重に目の前の少女へ──
「......何かしら」
「俺と一緒に一杯、お酒飲まない?」
「お前アホかしら?」
失敗した。
「何の捻りもないドシンプルな罵倒ありがとよ!! でも確かに今のは俺自身も客観的に見て何言い出してんだこいつとは思ったわ畜生!!」
「馬鹿もこれだけ進むと返って哀れに思えるかしら......まぁでも、ベティーはちょうど、暇していたのよ」
酒瓶とグラスを乱雑に机に置き、やけくそ気味に座るスバル相手に嘲笑の笑みを隠しもせずに見せながら、細く小さい手でグラスを手に取るベアトリス。
「だから、一日ぐらいなら......」
まるで、いつも使っている慣れ親しんだかの様な美しい仕草でグラスを傾け、スバルの分のワインも少量注ぎ込み。
「お前のその謎の魂胆に乗ってやってもいいのよ?」
目を細めつつ、少しばかり表情を和らげ、肘をつきながらこちらに微笑みかけ、グラスを渡そうとする少女の絵は、とても幼い美少女とは思えない程に美しく。
「......綺麗だ」
「ふふ、ベティーが美しくて綺麗だなんて、随分当たり前の事を言ってくれるのよ」
どうやらまだこの美しい少女の一歩先を行くには早いようだ、とスバルは内心思いつつもベアトリスから受け取った仄かに葡萄の香りがするグラスを手に取り。
カーテンさえも開いていない、昼間にも関わらず妖美な雰囲気の漂う室内で、軽快な音を立てて乾杯した。
「にゃ~......頭がふわふわして、もう飲めないかしらぁ、すばる~......」
「ついさっきまでの自信旺盛な完璧幼女は何処へ行ったんだ、ベティー......」
この様である。
スバルとしてはまず、ベアトリスをお酒で泥酔状態までに持っていくの自体がかなりの鬼門だと踏んでいたのだが、嬉しい誤算だった。
今もスバルの目の前の少女は、頬をほのかに赤らめ、嬉々とした目で此方に幸せそうな笑みを溢している。
「すばるぅ......」
「お、おう! どうしたベティー!」
潤った瞳を向けながら腕の裾を掴んでくる様は、端的に言ってかなり可愛らしい。
本来の目的すらも忘れてしまいそうなほどの、ベアトリスという名の少女の愛らしさを、スバルは改めてこの身で体感し、震えた。
「だっこ......」
「これはマジに宜しくないな、落ち着け菜月昴......俺にはエミリアたんという名のちょっと抜けている女神がいる筈だ......」
たった今、
「よし、今なら多分行けるぞこれ......」
そう。
そもそも、行き当たりばったり精神よろしくなスバルが、ここまで計画を練ってまで抜き出したい情報とは。ずばり、
「よっしゃ、早速呪いだとか何だとかを、ベアトリス先生から聞き出すとするか.......!」
あの夜、確かに何も分からないスバルに手を差し伸べ、体を治してくれたのは、紛れもない目の前にいるこの少女なのだ。
元来、スバルのベアトリスという少女に対してのイメージは、少しだけ魔法を扱える年頃の可愛い少女という認識だったのだが、最近はスバルの中での
──この愛くるしい縦ロールの少女は、恐らく魔法だけで言えばロズワールにも匹敵するのではないか、と。
「さぁ教えてくれ、ベティー! この世界にも、呪いってやつは存在するもんなのか? て言うかほぼほぼ百パーセントあるとは思うんだが、それはどうにかして対処できねぇのか!?」
「ふ、ふふふ......スバルったら、随分とおかしなことを聞きたがるのよ」
「......で、実際どうなんだ?」
何だか拍子抜けしてしまう程の暢気さだが、それも仕方ないと言えるだろう。この少女は今、大人でも即泥酔状態になりうるレベルの酒を飲んでいるのだから。
その所為だったのだろうか。
少女は頬を赤らめ微笑を浮かべながら、 とんでもない事を口に走った。
「呪いが全身を駆け巡る前に術式を破壊してやるだとか、そもそも呪いに掛からない様に予め保護魔法を掛けておくとか、色々出来んことはないのよ!! 何故ならベティーだから!!」
「うん、その点についてはマジで信用してるし最高レベルだとは思うわ、俺」
「ふふふ、もっともーっと褒めてもいいのよ......でも一番は......」
「一番は......?」
お前、もっと
「
ふふふ、と笑う少女のその顔が、一瞬だけ恐ろしい存在の様に思えた。
「.......えぇ?」
◇
未来。
それは、言葉で表すには簡単な物の様に見えて、最も深い物に位置する、不確定存在な言葉。
まだ起きていない、これから起こりうるであろう事柄に対して予め策を練る、と言うのはまさにスバルがこれまで行ってきた、数多くの事に通ずる。
しかし、その魔法の能力自体の限界値がどこまでなのかを知らないスバルには、その見える具体的な『未来』の範囲が、どの程度の物なのかは分からない。
強いて言うなれば、今スバルに分かる事は──
「ふふ、そもそも未来を見ることなんて、そうそうありゃしないったらないかしら......」
「わざわざ見てやる必要なんてない、ベティーが全て解決してしまえばいいのよ!!」
この世界でも向かう所敵なしと言えるレベルの、最高級のパートナーを見つけてしまったことぐらいだ。
「......やっぱお前、最高だよ、ベティー」
「誉め言葉として受け取っておくかしら?」
幼い手で持たれたグラスの中の葡萄酒が、僅かに音を立てて揺れた。
ついに二章も終盤に入っていきます......
オリベア子の言う未来は......何となく何の事かはバレていると思います。