Re:ゼロから始めるベアトリス生活   作:初代TK

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お久しぶりです。

......中々、話が進まないんですね、これが。


......屋敷でのイチャイチャ、書きたいんだけどなぁ......


サテラという少女

 

───眠りから覚める感覚は、水面から顔を出す感覚に似ているとスバルは思う。

 

 

 

瞼を開ければ傾いた陽光が瞳を焼き、眩しさに顔をしかめながら目を擦る。寝起きはいい方で、一度目覚めればすぐに意識が覚醒するのがスバルの体質だった。

 

 

「あ、目が覚めた?」

 

 

声は真上、起き上がろうとしたスバルの頭上から降ってきた。

 

 

「あ、まだ動かないでね? 頭も打ってるから、ちょっぴり安心できないの」

 

 

こちらの身を案じる声は優しく、スバルはその聞いた事のない声に惹かれたまま、もう一度頭を下げようとした所で、ふと違和感を感じた。

 

 

「ん?......ちょっと待て。......アンタ、誰?」

 

 

「起き上がるまで見守っていて、開口一番でそれとは...面白い子だね、キミ。なんて名前なんだい?」

 

「ちょっとパック、さっきまで気を失っていた人に、あまり無茶言うのはだめよ。呆けちゃってるじゃない」

 

 

聞いた事のない声、二名。そして、今スバルが一番気になっている、尊大な態度でちょっと辛辣だが、中身はツンでデレなあの縦ロール少女の声が聞こえない事に気付き、今度こそ瞳を開いた。

 

 

 

 

 

──時が止まる、というのはこういうことだろうか。

 

 

美しい少女だった。

 

編み込みの入った、腰まで届く銀髪の髪。

 

理知的な紫紺の瞳でこちらを見据えている。柔らかな面差しには艶と幼さが同居しており、どことなく感じさせる高貴さが危うげな魅力を生み出していた。

 

白を基調とした服装には華美な装飾はなく、シンプルさが逆にその存在感を際立たせる。

唯一目立つのは彼女の羽織る白いコート。

 

『鷹に似ている鳥』を象った刺繍が施されており、荘厳な印象を与えている。

 

 

だがその衣装すら、少女という存在を輝かせるための添え物に過ぎない。

 

 

「大丈夫だよ、リア。......この子、どうやら別の要因で呆けてるみたいだし?」

 

 

「......もう、茶化さないの。他の要因って、ここは私達とこの人以外には、誰もいないでしょ?」

 

少女から目が離せずぽかんとしていたスバルに、イタズラっぽそうな声をした何かが、スバルの今の心理と状態を、的確に突いてきた。

 

 

「......え、猫?」

 

 

毛並みは灰色で垂れた耳。スバルの知る知識では、アメリカンショートヘアという種類の猫が一番近い。

鼻の色がピンク色で、体調ほどもある尻尾の長さを除けばだが。

 

意地悪そうにスバルに声をかけてきた存在は、手のひらサイズの、喋る猫だった。

 

だがそんな冷静な分析をしていたスバルに、ふと感じていた違和感が蘇る。

 

 

「ねぇ、あなた。早速で悪いんだけど、私から徽章を盗んだ「......っあ!!そうだ!!」きゃ!?」

 

 

質問を投げ掛けてきた少女の問いを無視して、スバルは一つの疑問を、逆にその少女と猫に聞き返した。

 

 

「あいつ.........なぁ、あんた達! 金髪で、ちょっと辛辣そうな態度の、大胆な服装をした小さいロリを見なかったか!?」

 

 

「金髪で、ちょっと辛辣そうな態度の、大胆な服装をした小さい......ロリって言葉はちょっとよく分からないけど、それなら僕たちもちょうど、探していた所だよねぇ?」

 

 

「そうね。......その子が私の徽章を盗んじゃったし。多分、あなたもあの子が逃げる途中で危害を加えられて、倒されちゃったんじゃない?」

 

 

噛み合っているようで、噛み合っていない。スバルは、なんとなくそう感じた。やはり何かがおかしい。

 

 

「......あいつが、そんな事すんのか?......何より、俺を守ってくれたはずのあの子だ。そんな事がある訳が......」

 

 

 

思い返すのは、スバルが気を失う直前の、幼い身でスバルを守るように目の前に前に立ってくれた、強くて勇敢で、優しい少女の姿。

 

 

 

 

 

『──もういいのよ、スバル』

 

 

 

 

 

「......わりぃ、多分それ、人違いだわ。少なくとも、アンタ達が探してる、その金髪で辛辣な態度で大胆な格好した小さいロリは......」

 

 

見ていないと、そう断言しかけたスバルに、チンピラ達に追い詰められた時の、嫌な記憶が蘇る。

 

 

 

 

『ちょっとどけどけどけ! そこの奴ら、ホントに邪魔!』

 

 

『なんかすげー現場だけどゴメンな! アタシ忙しいんだ!

強く生きてくれ! 』

 

 

 

 

 

「......いや、ちょっと待ってくれ。そう諦めた様な顔すんなって、あんたら。......俺、多分そいつ知ってるわ。八重歯が目立つ金髪の子猫ちゃん! 体は君より低くて胸もぺちゃってたから二つ三つ年下! そんなところでいかがでしょ!......奥の方へ進んで行ったぜ、あいつなら。」

 

 

「やっぱり!......どう?私の目に狂いはなかったでしょう、パック?」

 

 

「情報聞くだけなら、そこら辺にいるホームレス達にでも聞けばいいんだけどね。リアは、どこまでもお人好しだから...」

 

「もう、違うわよパック。......これは、私が好きでやってる事なんだから。この人が無関係だという事は分かったし、もう行きましょ」

 

 

今のやり取りをみていたスバルは、急ぎ足でおくの方へ進んで行くこの少女が、とびきり突き抜けた善人だと言う事が分かった。

パックと呼ばれている猫が言った通り、情報を聞くだけなら、そこら辺の人でも恐らく答えてくれるであろう。

それをせずにスバルを助けたのは、自分本意な目論み通りの事だという事が、すぐに理解できた。

 

 

「そんな生き方、メチャクチャ損するばっかじゃねぇか」

 

言いながら立ち上がり、スバルは砂埃で汚れたジャージを叩いて走り出す。

 

あの損ばかりする優しい性格の持ち主の、探し物の手伝いをするために。

 

 

 

「───おい、ちょっと待ってくれよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ......順調に、上手く事が進んでいってるのよ」

 

 

屋根の上から、すぐ下を見下ろす様な視点で、スバルと小娘の様子を伺う。

 

 

「あれは......自己紹介の真っ最中かしら。......やっぱり、サテラって言われてるのよ、あの男......」

 

 

......可哀想な男なのよ。

 

 

それはそれとして、あの小娘に見つかりかけた時は全身が凍りかけたけれど、結果オーライ!って奴なのよ。スバルとも直接交流出来たのが、何よりも嬉しいかしら!

 

 

「......よ、おかしいな......」

 

 

「......どうしたの?スバル」

 

 

「......ん?」

 

 

スバルがぶつぶつ何かを呟いているのよ。なんて言っているのかしら?

 

 

「いや、サテラには関係ないんだが......いやなんか、気を失う直前にあの少女から、教えてもいない名前を呼ばれた気がして...」

 

 

「そう?不思議な事もあるのね」

 

 

それはそれは興味の無さそうな声量で、例の小娘がスバルの言う事に適当に相づちを打っていたけれど、ベティーにはそれが頭に入ってこなかった。

 

 

「......あ、しまったのよ。」

 

 

つい勢いで、あの時確かに『スバル』って言っちゃったかしら!!!?

 

 

「......んー、まぁ俺が、もしかしたら無意識の内に言っちゃってた、なんて事もあるかもしれないからな。多分気の所為だろ」

 

 

ほっ......とりあえず一安心なのよ。

 

 

「......これからは、もうちょっと自分の発言を見返してみるかしら......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、あっという間だったのよ。

 

 

ちょっと違う形でスバルは原作通り、あの小娘に惚れて、追いかけていって。

にーちゃと触れ合いつつも迷子の子供を保護して、果物屋のおっちゃんの所へ子供を届けてから、ホームレスの人から情報を聞き出して。

 

今ようやく、盗品蔵へ入っていこう、というところまでやってきたのよ。

 

 

「えーっと、どなたかご在宅ですかー......って、開いてるし」

 

そんなまるで気を使う気のない、ふざけた様子で盗品蔵の中を覗くスバル。

 

 

もうすぐ、一回目の死が訪れるとも知らずに。

 

 

「街灯ないとこんな不便なんだな......盗品蔵の中も、建物の存在理由考えたら当たり前だけど、後ろ暗さに比例して暗いな.........返事がないけど、俺が先に入るから君は外見張っててもらってていい?」

 

 

「大丈夫? 私が中に入った方がいいんじゃ......」

 

 

「万が一、奇襲でもされたときに君が真っ先にやられると全滅確定。俺がやられる分には回復も反撃も君なら自由。理に適った役割分担。頼まれてお願いプリーズ」

 

 

......スバルが自己犠牲満載なかっこいい事を言っているけど、ベティーが見るのはここまでなのよ。

 

 

「助けれるなら、助けたいけど......」

 

 

助けたら、原作崩壊が起きてしまう。ベティーは、原作が崩壊しない程度にスバルと関わっていくのが、一番いいと思っているのよ。

それは、ベティーの中では変わらない意識。

 

 

 

 

「......もし、この世界のスバルが、この発言を聞いていたなら......」

 

 

 

 

 

「.....っていろ」

 

 

 

 

「ベティーの事を......」

 

 

 

 

 

 

 

「俺が、必ず──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薄情な奴だと、罵るかしら?」

 

 

 

 

 

突如、世界は歪み、スバルの意識は暗い闇の中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた面して」

 

 

「は──?」

 

 

厳つい顔、白い刀傷の目立つ男に声をかけられ、思わず間抜けな反応が出てしまう。

 

 

「だーかーら、結局どうすんだよ。リンガ、食いたいんだろ? 自分で急にそう話しかけてきといて、急に目がイっちまうんだからビビったぜ。......で、どうすんだよ」

 

果物屋のいかつい主人の手には、ちょこんと可愛らしく赤い果実が乗せられている。

 

突き出されるリンゴに酷似した果物。それと中年の顔を見比べて、

 

 

「いや、だから俺、天魔不滅の一文無しだって」

 

「っだよ! じゃあ、ただの冷やかしじゃねぇか。なら行った行った! こっちゃ商売してんだ。冷やかしにゃ付き合ってられん」

 

おざなりな手振りでその場からどかされて、よろよろと店の横手へ抜ける。

 

そして彼──ナツキ・スバルはあたりを見回しながら、

 

 

「え? え? ───どゆこと?」

 

 

疑問と当惑に、誰へ向けたものでもない問いを吐き出すのが精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......無事、死に戻りに耐えてスバルと出会う前の路地裏に戻ってきた、私ことベティーは。

 

 

「うぅ......おえぇ......」

 

 

まるで時間を逆行するかのような、全身を駆け巡るぞわぞわとした気味の悪い感覚を体験した後に襲ってきた、猛烈な吐き気と激しい目眩に頑張って耐え.....おえぇ...耐えたかしら......

 

 

「う"ぅ"っ"......耐えた......ベティーは耐えたのよ......」

 

 

は、早く冷静を装わないとスバルがここへ来てしまう気がするのよ......

 

 

「お、おい......べ、ベティー?.........」

 

 

「ひゃう!? ス......だ、誰かしら?」

 

 

やや、やばいやばいのよ!?!もうスバルがここまで戻ってきてしまったかしら!?

 

 

「べ、ベティー......ずっと聞きたかったんだ! お前がチンピラ達に立ち向かった後、一体何があったのかを!」

 

 

......これは。

正しい反応を、しなきゃいけないかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......?お前、一体何を言っているのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......お前、一体何を言っているのかしら?」

 

 

スバルは一瞬、この少女の言っていることの意味が理解できなかった。

 

 

「──は?......え?」

 

 

目の前にいる少女は、この異世界の中でも際立って目立つ、派手な服装だ。髪の毛の縦ロールも、見間違うはずがない。

まさに寸分前、まるで友達のように話していた、ベティーという少女そのものだった。

 

 

 

それなのに。

 

 

「まずベティーはお前の名前、いや姿すら見た事もないのよ。冷やかしなら、さっさとあっちの方へ行くかしら?」

 

 

「なっ......ちょっと待てよ!」

 

極めて冷淡な声で、まるでこちらを見下す様な視線を向けてきながら、スバルの静止の声も聞かず、少女は路地裏の奥へと進んでいった。

 

 

「......そうだ.........」

 

 

もう奥の方へ進んでいった、少女の姿が見えなくなったころに、あまり回らない頭でスバルは一人の少女を思い浮かべた。

 

 

「サテラ......」

 

 

あの子が、サテラが。

まだあの恐ろしい盗品蔵に、一人残されているかもしれないのだ。

 

 

「──、急がねぇと!」

 

 

だが、そんな勢い付いていたスバルの前に、どこかで見たような3人の影が立ちはだかった。

 

 

 

「ひひっ、よう、兄ちゃん。......状況的に、なんとなく分かるよな?」

 

 

「......は?」

 

 

目の前に現れたのは、つい数時間前にあの少女によって倒されたと思われたはずの、薄汚く意地悪い、あの3人組だった。

 

 

「何だ?お前ら。......ベティーにボコされただけじゃあ飽き足らず、復活したら即狙いに来るってか?」

 

 

「は?何言ってんだ、お前。......それはそれとして、それが人に物を聞く時の態度か?てめぇ」

 

 

「今の言葉、そっくりそのままお返しするぜ、ほんと。......で、お前ら。そろそろどいてくんね?」

 

 

スバルはこの三人組を見るのも、もうニ度目だ。また襲ってきたとしても、今のアドレナリンどばどば状態でなおかつ、敵の攻撃パターンを把握しているスバルには、慢心している限り何をしても意味がないだろう。

 

 

「──もういいわ、ぶっ殺す」

 

 

スバルの言いように堪忍袋の緒が切れた痩せぎすの男が、スバルに襲いかかってくる。だが、ナイフを出されるならまだしも、相手は素手だ。普段から鍛えているスバルの方が、勝率は高い事は明らかだった。

 

 

「──おらあぁっ!!!」

 

渾身の掌底で男の顎を跳ね上げ、そのままがら空きの胴体に拳を打ち込む。男は壁に叩きつけられて轟沈。

 

そして、スバルは即座に男の懐に手を入れ、男の所持していたナイフを手に取った。

 

 

「はっはっは! さぁ、掛かれるもんならかかってこいや!キノコみてぇな頭した奴と無駄に大柄な奴!!」

 

「なっ!?ずりぃぞ!てめぇ!」

 

「......っ、くそっ!このままじゃ分が悪い。逃げるぞ!」

 

 

流石に男達も、ナイフを持ったスバルに無謀にも飛びかかる様な精神はなかったらしい。悪態を付きつつも、道の中心の方へきびきびと足を運んでいった。

 

 

 

「......ふっ、勝利!! この世に悪の栄えた試しなし!」

 

ガッツポーズを決めて、一人その場で勝利を祝うナツキ・スバル。残された男一人が死んでいないかだけ確認していたところで、路地裏に来た本来の目的を思い出す。

 

「っ、そうだ、サテラ! 早く、急がねぇと──」

 

 

 

ナツキ・スバルの冒険は続く。

 

 

 

 




とても終わる気がしない


次回は、すぐ更新されると思います。

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