次辺りで、一章が終わるかな?
......ベティー。本名は、ベアトリス。名乗る程の者ではないのよ。
チンピラ達を倒して、盗品蔵に来たのにサテラ......じゃなく、あの小娘がいない事に困惑の声を上げつつも、ロム爺とフェルトとじゃれあっているスバルを、屋根の上から見下ろしているのが今の私なのよ。
まごうことなきストーカー、笑いたきゃ笑えばいいかしら。
「......あぁ、やっぱり来てしまったかしら。こんな時間帯に盗品蔵に来る奴なんて、一人しか思い浮かばないのよ」
と、そんな事をベティーが思っている間に、盗品蔵の入り口付近に、一人の人影が見えたのよ。
起伏のはっきりとした豊満な体を惜しげもなく晒している、例のアイツが佇んでいるかしら......
「......じゃ、ベティーはここら辺でおいとまさせてもららうのよ......」
ひ、必要な犠牲って奴なのよ。スバルが死ぬのは、心が痛むけれど.....あ、机が投げられる音がしたのよ。今はロム爺vsエルザってところかしら。見ないけど......
「......っっる.....あぁぁーー!!!!」
あ、この声は確か、スバルがエルザに渾身の回し蹴りをしている声なのよ。......という事は、もうすぐかしら。
「......ふぅぅぅぅ.........」
時間が逆行する感覚を思い出すのよ、ベアトリス......一回喰らった感覚なんて、慣らしていけばすぐ──
「ぁ"」
あ、これ無理なのよ──
◇
「──兄ちゃん、ボーッとしてんなよ。リンガ、食うか?」
意識が覚醒した瞬間、スバルの目の前にあったのは赤く熟した果実だった。
リンゴにそっくりなそれを見て、ふと知恵の果実という単語がスバルの脳裏を過った。
食べることで楽園から追放される禁断の果実。
今それにかじりついたなら、このわけのわからない状況から救われるのだろうか。
むせ返る人混みに見慣れた情景。スバルは自分の頭を掻き毟って、
「もう、わけわっかんねぇ......」
それだけを呟き、こみ上げてきた吐き気に翻弄され、その場に崩れ落ちた。
◇
「......はぁ」
......ふ、この気味の悪い感覚にもだいぶ慣れてきたかしら。でも、できることならベティーは酔い止め薬を所望するのよ。
「......そろそろ、あの小娘に怒られて置いてかれたスバルが、こっちに来る頃かしら?」
いつも通り、屋根の上まで飛んで待機するのよ。
「......はぁ!はぁ、はぁ......い、居ない......?!」
......ん?
この男、一体誰を探しているのかしら?
「いつもならここの路地裏に、あいつが.....ベティーがいたはず......!」
「にゃ!?」
な、なななんで......なんでそこでベティーの名前が出てくるのかしら!?3回目は、あの
「へへっ、よう兄ちゃん。......抵抗しなきゃ、痛い目は見ないぜ?」
あ、いつもの通りの
「いい加減にしろよ! 性懲りもないにもほどがあんだろうが......相手してやる時間も心の余裕もねぇんだよ。今すぐ、そこを通しやがれ!」
お、おぉ......本気で恫喝してるスバルって、目付きも相まってほんとに怖いのよ。
でも三対一だから、ほぼ意味をなしていないかしら.....
「通せ、だってよ。気に入らねえ態度だな。命令すんのがどっちかわかってねえよ」
ここでも時間をとられて、結構イラついてるかしら、あの男。穏便にこの場を収めようとしているのよ。
「わかった、抵抗しない。持ち物は全部置いてく。それでいいだろ」
スバルの譲歩する態度に顔を会わせた男たちは、その場で揃って大笑いして、スバルに次々とカチンとくるワードをぶん投げているのよ。
「──あれ?」
......これは、スバルが袋の中に、ロム爺に食べられたはずのスナック菓子、もといお気に入りのコーンポタージュ味が、何故か存在していることに気が付いたみたいかしら?
「どけ......」
「あぁ?」
「色んな意味で、お前らに構ってる暇がなくなった。確かめ、ねぇと」
「お前、本当にふざけんなよ?」
「邪魔だ!俺はいかなきゃいけねぇところがあるんだよ!」
男を押し退けて路地を出ようとするスバルの後ろに、懐にナイフを仕込んだあの男がこっそりと立ちはだかる。
「──ぇ?」
目の前で、倒れるスバルの背中、腰の後ろにナイフが突き刺さっているのよ。あれは意識した瞬間、堪え難い激痛が全身を駆け巡ってしまうかしら。
「おい!刺しちまったのかよ!......あーこりゃだめだ。腹の中が傷付いちまってるから、死ぬぞオイ」
巨漢の男が、スバルの傷痕を確認してから諦めた様子で、他の二人を連れて路地裏を去って行く。
......もう我慢できないかしら!!!最後ぐらい看取らなきゃ、流石にスバルが救われないのよ!!
「スバル!!!!」
苦しそうにえずくスバルが、ベティーの声に反応してこちらを向く。
......その顔は、数秒後に死ぬ人間とは思えないぐらいの、とても嬉しそうな笑顔で。
「......ティー、よか"った"、な......」
最期に良いものを見れた様な満足げな顔で、スバルは3回目の死を迎えたのよ。
◇
意識が覚醒した時、スバルは闇の中にいた。
それが己の作った闇であると気付き、閉じていた瞼をそっと開く。眩しい朝日が、また瞳を焼いた。
「兄ちゃん、リンガいらねぇのか?」
聞き慣れた声色が、聞き慣れた問いかけをスバルに投げ掛けていた。
スバルは改めて、もう何度見たかも分からない傷面の店主に向き合った。
「俺のこの顔を見るのって何回目?」
「何回も何も新顔だろが。その目立つ格好と目つきなら忘れねえぜ?」
「目つきのことはうるせぇよ。ちなみに、今日って何月何日でしたっけ?」
「タンムズの月、十四日だ。もう歴の上じゃ今年も半分だよな」
「へぇ、ありがと。──なるほどなぁ。タンムズの月なぁ」
聞いても分からなかった。
「で、兄ちゃん、リンガは?」
黙り込むスバルに辛抱強く付き合ってくれた店主だが、リンゴ一つでこれだけ手間取る相手への愛想はそろそろ限界らしい。
そんな彼への返答を、スバルは腰に手を当てて胸を張り。
「悪いけど、天魔無窮の一文無し!」
「とっとと失せろ──!」
もうしばらくはあの店には寄れないな、とスバルは二つの意味で苦笑した。
◇
「......さて、こんだけ状況揃うと認めるしかねぇよな。まずは、見えた瞬間この情報が確定すると思われる、例のあの場所へ行くか」
体からは負傷の一切が消え、ジャージもほつれや血の跡などどこにも見当たらない。
手の中のビニール袋には、未開封のスナック菓子がスバルの小腹を癒すのを待っている。
そんな自分の今の状況を改めて確認しながら、スバルはもう見慣れた路地裏の近くへと足を運ぶ。
そこには。
「お、お腹がすいた.....のよ.....」
いつ何時の何周目でも見た覚えしかない、きらびやかな装飾を服の随所に着けている、金髪の縦ロールが特徴的なあの少女がいた。
「やっぱり居やがったか。......うん、馬鹿げた話だが、これでほぼ確定したようなもんだな......あ、おいベティー! とりあえず、俺のコンポタ味のスナック菓子、いる?」
「なんでベティーの名前を知っているかは置いといて、なにか美味しい物があるなら是非とも欲しいかしら!!名前も知らぬ誰かさん!!」
スバルが袋の中から手に取ったお菓子をぽい、と乱暴に投げると、わたわたと焦りながらそれを全身でキャッチする少女。
中に入っているスナック菓子を美味しそうに食べる少女の姿を見て、スバルは。
「......うん、やっぱ幼い子はこうでなくっちゃな。......前も言った気すんな、これ」
最初にこの世界で出会った少女にかけたような、いつかに言った言葉を。
死ぬ間際にスバルを心配してくれた少女に、無意識の内に投げ掛けていた。
「......そんなに物欲しそうな目でこっちを見てても、ベティーのお菓子はあげないのよ?」
「いやそれ元々俺のだからな!!!少しは感謝しろよ!?お前!!!」
......何周目でも、この尊大な態度は変わらないらしい。
大分、はしょっちゃいましたね。
評価感想、とてもありがたいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。