多分、次回で一章が終わります。本当です(強固な意思)
トンチンカンの三人組を、スバルが上手い事ナイフを剥ぎ取って脅して、道の中心の方へ追いやったとこまで話は進む。
二人並んで、路地裏を歩く。端から見れば、目付きの悪い男が、幼気な少女をお菓子で釣って誘拐しているようにしか見えない、完全な事案だ。
当たり前だが、そんなことはなく。
スバルが先導する形で、少女はその後を着いていく。
前とは違い、両者の間には沈黙が訪れていたが、気まずい感じの沈黙ではない。二人とも、そういう状況だと分かっていての沈黙だ。
ふと、スバルが思い出したかのように、少女に問いを投げ掛けた。
「なぁ、ベティー......お前ってさ、実はそのちんちくりんな幼女の見た目に反して、滅茶苦茶強かったりする?」
「ひ・と・こ・と多いかしら!!!見た目と実力はイコールではないのよ!!!......まぁ、ベティーが強いことなんて、当たり前かしら」
「......おぉ!やっぱお前強いんだな! 一目見た時に、なんかそんな気がしたんだよ!」
全くのハッタリである。
一周目でチンピラ達を蹴散らしたであろう記憶を掘り返し、スバルはかなり無理矢理な言い草で、改めてこの少女の力量を確認する。
そう、全ては、異世界に来てからスバルが一番最初にやりたかったこと。
「......お前、魔法とか使えるよな? こう、例えば......黒い煙が、どかーんと弾ける感じの魔法とか!」
「......えぇ、使えるのよ。むしろ、ベティーに使えない魔法を探す方が難しいかしら?」
「結構自信過剰なんだな、お前! いやまぁ確かに、こういう一見何の役にも立たなそうな、ただの癒し枠っぽいロリが実は超強いとかそういう展開はありがちだけど!!」
「だ・か・ら!!とりあえずその不名誉極まりないあだ名を勝手に付けるのはいい加減やめるかしら!? 流石のベティーでも怒るのよ!!」
「いやお前、いつも怒ってんじゃん。ツッコミ芸人みたいなさ...」
「むきゃー!!!なのよー!!!」
「その怒り方、マジ最高に異世界特有って感じがして、俺は嬉しいぜ!!」
死に戻る度激しく変わる周りの人間の自分に対する態度とは違い、どの世界でもあまり調子の変わらない少女に対してスバルは謎の安堵感を覚えるが、すぐに本来やりたかった事を思い出す。
「えーっと、それでですね.....どうか、俺にもそのすごい、バーン!ってなってドカーン!!ってなるみたいな、滅茶苦茶豪華な魔法を教えてくれませんかベティー先生!!!」
「そもそもベティーは先生でもないし、語彙力終わってるのよ、お前......まぁでも、別に教えてやらないこともないかしら?」
「おぉー!!っしゃ!!流石ベティー先生!!!ヒューヒュー!!かっこいいぜ!!!」
「ふん、ベティーがかっこよくて可愛いなんてこと、当たり前かしら!......でも、そう言われて悪い気はしないのよ」
「あ、これハイチューって言うお菓子なんだけど、いる?」
「さぁ早速魔法の練習をするのよ、スバル!!そのハイチューは、お礼として頂いておくかしら!!」
「お菓子に目がないのは、子供っぽいんだけどな......」
スバルの小さな呟きは、ハイチューを貰えた事に興奮している少女には、ついぞ聞こえなかった。およそ八十円ぐらいで買えるお菓子を生贄に、魔法を教えて貰えるなら安いものだ。ちなみに、スバルはハイチューを一つしか与えていない。
この男、今後も
「じゃ、早速やってみるのよ。 まず、必要な分のマナを用意してそれをどんな風に魔法を扱うのか、どんな感じの魔法がいいのかをイメージしてから、ゲートに働きかけて詠唱すれば使えるのよ。 スバルの場合はそもそも、ゲート自体が全く開いてないから、そこはベティーが壊れない様にこじ開けとくのよ」
「お、おぉ。マジでそれっぽい説明だなこれ。あとゲートって何?よく分からんけどありがたい事してくれてるってのは伝わってきたぜ」
「ゲートっていうのは、外界にある魔力を吸収する入口であって、魔法を発動する際の出口にもなるものなのよ。簡単に言うと、自分の体の中と外にマナを通す門みたいなものかしら」
「うん、全然分かんねぇ」
「今の時間を返すのよー!!!」
怒る少女にハイチューを渡す事で丸く納めたスバルは、また気になっていたとある事を少女に聞く。
「そう言えばさ、この世界の魔法とかってさ、やっぱ属性とかあんの?俺雷がいいんだけど」
「あるけど、雷はないのよ」
「ないのかぁー!でも属性概念があるならそれでOK! んで、属性はどんなのがありまして?」
「そこも説明してやるかしら。......火・水・風・土の四つのマナ属性があるのよ。『火』は熱量関係の属性。『水』は生命と癒しを司る属性。『風』は生き物の体の外に働きかける属性。最後に『土』は体の内側に働きかける属性。主な属性はこの四つに大別されていて、普通はその中の一つに適正があるのよ。......分かったかしら?」
「おう、基本だな。で、属性ってどうやって調べんの?」
「もちろん、ベティーぐらいの魔法使いになるともう触っただけでわかっちゃうかしら」
「マジかよ! きたよ待ってたよ、この展開を! 見てくれよ、そして教えてくれよ!」
躾のなってない犬みたいにはしゃぐスバルを若干引き気味な目で見ながら、少女はその掌をスバルの額へと当てた。
「よし、じゃあちょこっと失礼するのよ。 みょんみょんみょんみょん」
「うおおお!! 魔法っぽい効果音だ! 今、ファンタジックしてる! ちなみにそれ、言う必要あんの?」
「ないのよ」
「ないんだ!! でもそれっぽい雰囲気出てるし、何よりこんな可愛い子に不思議なオノマトペ囁かれるのすっごい至福! ありがたき幸せ!」
「......お前、いよいよやばいのよ。......属性が分かったかしら」
「きた、待ってました。何だろ、何になるかな。やっぱ俺の燃えるような情熱的な性質を反映して火? それとも実は誰よりも冷静沈着なクールガイな部分が出て水? あるいは草原を吹き抜ける涼やかで爽やかな気性が本質とばかりに風? いやいや、ここはどっしり悠然と頼れるナイスガイな兄貴分の素養を見込まれて土とか出ちゃったりして!」
「うん、『陰』なのよ」
「ALL却下!?」
耳を疑う診断結果に、思わず悪い病気を告知されたような反応になってしまったスバル。それを気にもせず少女は、言葉を続ける。
「もう完全に『陰』全振りなのよ。他の四つの属性との繋がりはかなり弱いかしら。逆にここまでの一点特化は珍しいものなのよ」
「ってか、『陰』ってなんだよ! 分類は四つじゃねぇの? カテゴリーエラーしちゃってるよ! 」
「話さなかったけれど、四つの属性の他に『陰』と『陽』って属性もあるにはあるのよ。該当者がほとんどいないから説明は省いただけかしら」
極々わずかな例外を引いた、ということらしい。
少女の釈明を聞かされて、スバルの空回っていた気持ちも落ち着いてくる。
そう、数少ない属性ということは、限りなく希少な属性ということだ。それはつまり、他とは違う特別な力。
「なんか実はすげぇ属性なんだろ。五千年に一度しか出なくて他より超強力みたいな!」
「そうね......『陰』属性の魔法だと有名なのは......相手の視界を塞いだり、音を遮断したり、動きを遅くしたりとか、そんなもんなのよ」
「デバフ特化!?」
デバフは敵を弱体化させるスキルの総称であり、補助職まっしぐらな特化性能である。
伝説級の破壊魔法が使えたりとか、天変地異を引き起こしたりの強力無比な魔法を期待したのだが、ぽつぽつと言いづらそうに妨害・能力低下系の効果を口にする少女。
わりと本当で申し訳なさそうなので、事実なのだろう。
「異世界召喚されて武力も知力もチートもなし......そして魔法属性はデバフ特化......」
「水を差すようで悪いけれど、魔法の才能も全然ないのよ。ベティーが十なら、スバルは三ぐらいが限界値かしら」
「さらに聞きたくなかった事実だよ! もはやこの世には神も仏もいねぇ!」
その場で大袈裟に頭を抱え、煩悶する。まさかの使い道にさっきまでの希望が萎むのを感じながら、しかし一度芽生えた期待は中々拭えない。
「使えるだけでもよしと考え......いやでも、デバフ特化する俺ってかっこいいか......?」
「かっこよさ重視は別として、覚えといて損をするようなものではないのよ。使いたいなら、教わったらいいのよ。幸い、『陰』系統なら専門家がちゃーんと
そう言った後に少女がふん、と胸を張る。その姿が魔法抜きに見ると、どうも背伸びをしたい子どものようで、スバルは少し笑った。
「お、なるほどなるほど! つまりベティーは、実は俺と同じ陰魔法専門だったって訳か! 初めてまともに接触した異世界人が同じ系統の魔法って、なんか運命感じるわ」
「......ふん、そんなにベティーを褒め称えても、出てくるのは初級魔法だけかしら。まだ慣れていないみたいだし......まずは『シャマク』を撃ってみるのよ」
「いやもう魔法が使えるだけで大満足だよ、本当な。んじゃ、出来ることなら早速!」
少女に言われた通りにスバルは、必要な分のマナという物を、よくラノベやアニメで見るような体全体を何かが駆け巡るような想像をした後、どんな風に魔法を扱うのか、という想像をしてみる。
スバル的には、少女が使っていたような黒い霧じゃなく、魔法で作られたドラゴン的なのを出したい所だが、最初からそんな大胆な大魔法は出来ないという事を、先程の少女の言い分で理解している。
とりあえずは少女が使っていたような、自信の周囲付近に黒い霧が発生するようなイメージを浮かべ、ゲートという所にマナが出ていく様に働きかけてから軽い気持ちで──
「あ、あれ......?急にゲートを開いちゃったから、なんだか魔法が暴発しそうな──」
「──シャマク!」
直後、「ぼふん」という間抜けな音と共に貧民街の裏路地の一角を、黒い霧が支配して行くのを見ていたのは、ごく少数だったと言う。
◇
そんなこんなで色々な事をしている内に、スバルは今までとは違い新たな仲間、ベティー少女を引き連れて、盗品蔵の真ん前まで着いた。
盗品蔵の扉をコンコンとノックすると、一見、何の意味もないかのような単語が扉の奥から発せられた。
「大ネズミに」
「毒」
「白鯨に」
「釣り針」
「我らが貴きドラゴン様に」
「クソったれ」
相手の短い問いに、間髪入れずにスバルが何周目かで金髪の少女から培った品のない返答を差し込んだ後に、不審そうに扉が開かれた。
「......何故合言葉を知っている? 小僧。......そちらの少女も......まさか、フェルトの友達か?」
「まあまあ、そこら辺は後で随時話すとして。こっちはとある交渉に来たんだ、爺さん」
相手の大柄な男──ロム爺が問いを投げ掛けるより先に、スバルが無理矢理言いくるめてロム爺に交渉を持ちかける。
「......一応聞いてやるが.........どういう理由でここへ来た?小僧」
怪しげに目を細くする彼に対してスバルは中指を立てて、警戒する彼に「ちっちっち」と舌打ちし、
「俺達の用件はたった一つ。───フェルトが盗んだ徽章を、こちらで買い取りたい」
これから来るであろうくすんだ目をした金髪の少女と、彼が惚れた透き通る銀髪が神秘的な、一人の美しい少女の姿。
そして、この場にいる全員を一切の躊躇無く殺戮してしまうような恐ろしい者の姿を思い浮かべながら、スバルは徽章の買い取りを老人に持ちかけた。
「......いや、別にベティーはその徽章なんて物に興味はないし、スバルの徽章取り返し仲間って訳でもないのよ」
「この雰囲気でそういう事言うのやめようよ! 折角なんか上手く行けそうな気がしたんだからさ!!」
「......交渉相手、という事なら入るがいいわい。ほれ、早く入らんと扉を閉めるぞ」
「あ、いいのねそこはオーケーしちゃうのね!! んじゃ、早速中に入ろうぜ、ベティー!......ほら、ハイチュー」
「じゃあ早速中に入るかしら! ほらスバル!さっさと徽章を取り返しておいしい物を食べまくるのよ!」
この時スバルは、内心もうちょっとお菓子を買っておけばよかったと、少々の後悔を覚えた。
地味に、スバルくんが強化されていた事に気が付きましたか?
ベア子なら、魔法を使う前のスバルのゲートを開く事など簡単だろう、思って入れちゃいました。
ここまで見て下さり、ありがとうございました。