キリアから覇王がどのような存在だったのかを聞き、自分の中に宿った覇王の邪悪な魂に不安を感じる…。
だが、それよりもフレイヤの自分への態度の豹変ぶりに軽く困惑してしまう。
そんな中、文句を垂れながら風呂場に向かうと、そこにはキリアがいて…?
「よければ、一緒に入りませんか?」
「……は?」
キリアの言葉を聞き、出た言葉は随分間抜けなもの。
いや…だってそりゃそうだろ。誰だって動揺する。
むしろこの言葉よりも、一枚のタオルを体に巻いているだけのキリアの姿に動揺する。
籠の中には彼女の白い鎧やらがあった。
さっきの様子を見る限り、キリアはルイン達と比べればそれなりに常識のある女性だと思ったんだが…こんなことを突然言い出すもんだから油断できない。
「な、何を言っているのかわからないんですが…」
「私と一緒にお風呂に入りましょうマスター殿。一度に入れば光熱費の節約になりますし」
あ、さっきの独り言聞かれていたのか…ってそうじゃない!
確かに、キリアが言っている事も一理あるが……やはりここは男として気が引ける。しかも等のキリア本人には恥じらいというものが無い様子だし…もしかして天然なのか?
しかし、キリアの表情は天使の(あ、いや、元から天使か)ごとき微笑を見せながら俺の返答を待っている様子。
この申し出を断ったら、恐らくこの笑顔はかなり残念そうなというか…がっかりした表情になるだろうな…。
10秒ほど悩んだ末、結論を俺はゆっくり口を開いて言った。
「…わかった」
―――――第21話:「光の心、闇の心」―――――
「マスター殿、痛くないですか?」
「…ああ、丁度いい」
今、キリアが俺の背中を洗ってくれている。
結局キリアと一緒に風呂に入ることにしたのだが…さっきから意識が行ったり来たりしていて気が気じゃない。
何故なら…俺が腰に一枚タオルを巻いているのにもかかわらず、キリア何もつけずに共に入浴しているからだ。いや、そりゃたしかに風呂にタオル入れるのはマナー違反だけどさ…。
それにしても…今まで彼女の姿はカードイラストやソリッドビジョンの格好しか見ていなかったから、全裸ってのは…何だかいろいろ新鮮だ。
俺の体が白い泡で包まれていく中、俺は自らの理性とか色んなものと戦っていた。
「マスター殿、次は前をお洗いします」
「ま、前!? 前はやめよう! 背中だけでいいから前はやめてくれ!」
「そうですか? では、次は頭を」
「あ、あぁ…頼む」
子供じゃないんだから1人で洗えるが…せっかくだから頭も洗ってもらおう。
頭が泡で包まれるのと、細い指で洗われている感触が伝わってくる。少しくすぐったいが気持ちいい。まるで美容院でシャンプーをしてもらっているようだ。
「はい、終わりました。マスター殿、お湯をかけますよ?」
「あぁ」
お湯を頭からかけられ、シャンプーの泡と共に全身の泡も一瞬で流された。
身体が洗い終わると、俺は湯船に入り、肩まで浸かる。
その間にキリアは自分の体を洗うようだ。
改めて見ると、キリアの肌は綺麗だな……って俺は何を考えているんだ…いかんいかん…。俺は背中を向け、なるべくキリアの洗ってる姿を見ないようにした。
「マスター殿? 何故背中を向けられているのですか?」
「何故って…何ででもだ。そのまま洗ってくれ」
「はぁ…」
目の前の壁だけを見つめながら室内に響くシャワーの音を聞く。
その中で綺麗な声でキリアが鼻歌を歌っていた。
「~♪ ~♪」
しばらくして鼻歌とシャワーの音が止んだ。どうやら洗い終えたらしい。
「失礼します」
「え…? ちょっ…おまっ…!」
ザブッという音と共に湯船の水かさが増え溢れ出した。
狭い風呂の中に二人も入れば当然だろう、そもそもこの風呂は複数人が入れるようになんかできてない…いや、ていうか! 俺が言いたいのはそんなことじゃない!
この状況はかなりヤバいんじゃないだろうか…だって同じ湯船の中に男と女が二人も入って…い、いかん!
「お…俺、先に上がるから!」
もう身体は洗い終わったし、風呂に入っている理由もない! それよりなによりもこんなことをされてはいよいよ俺も限界だった!
俺は湯船から出ようとする…が。
「あ、お待ち下さいマスター殿!」
浴槽の縁に足をかけたところで、またもキリアに呼び止められた。
「あの…お聞きしたい事があるのですが」
「な、なんでしょう?」
突然話しかけられて俺の声が裏返り、何故か敬語で応えてしまった。
「あの…お体が冷えるといけないのでお湯に入ってお話できませんか?」
「い、いや…でも…」
「私なら多少狭くても問題ありませんので」
いや…そういう問題じゃないんですよキリアさん…。
でも…キリアが改まって俺に話があるって言うくらいだし…。
「わ…わかった。でも後ろを向かせてもらうが…いいか?」
「構いません」
キリアがそう言ってくれたので、俺はキリアに背中を向けた状態でまた湯船に沈む。
二人分の風呂はやはり狭い…なるべく俺の背中にキリアの足が当たらぬよう、俺は膝を抱えて丸くなる。
「で…話ってなんだ?」
「あの子は…フレイヤはマスター殿に迷惑をかけていませんか?」
「フレイヤがか?」
「はい」
キリアの声色が少し心配そうな感じになる。
「あの子、普段は大人しいのですが…その…性格に少々問題がありまして…」
「…あー」
さすがフレイヤの先輩、よくわかっていらっしゃる。てかフレイヤはキリアが自分の性格知ってる事多分知らないんだろうな…。
でもあいつから先輩と呼ばれてるし、フレイヤの世話を焼くあたり、保護者に似た感情があるんだろうか。
キリアの問いには考えるまでもない、すぐに答えは頭の中で出た。
だが…俺は自分が思ってる事とは逆の事をキリアに言う。
「…べ、別にそんな事はないぜ。でもまぁ、はしゃぐのも程々にしろってフレイヤに言っといてくれないか?」
「ふふっ…わかりました」
俺の答えにキリアは何故か少し笑いながらそう答えてくれた。後ろを向いているから表情は見えないが、おそらく今のキリアは満面の笑みだと思う。
「マスター殿はお優しいのですね…なるほど、女神様が貴方にお仕えしていた理由がわかりました」
「あ…あぁ、ありがとう」
もしかして、キリアのやつ…さっきの俺とフレイヤのことに気づいてた…?
だから俺があいつの我儘に我慢してるってわかったから…それで「優しい」なんて…?
…前言撤回、やはり彼女は天然なんかじゃない。俺と風呂に入るのも、俺の独り言を聞いていたから一緒に入るのが得策だと判断したため。フレイヤのことも、あいつのことを全て知っているから俺の今の態度を褒めてくれたのか。
全てが理にかなった行動をし、俺とフレイヤのことも両方気にかけてくれる。それがこの、デュナミス・ヴァルキリアという精霊の本心なんだ。外見や服装だけじゃない、彼女は正真正銘の天使だ…心の底から、精神的にも聖人ってわけだ。
だけど…ならば何故、彼女は俺のところにフレイヤを預けたのだろう…?
そんなにフレイヤのことを気にかけるのであれば、自分の部屋にフレイヤを招けばいいのに…?
「…なぁ、キリ…―」
「それでは、お先に失礼しますね」
疑問に思ったそのことをキリアに問おうと俺は何気なく後ろを振り返ってしまった。
…が、その時ちょうどキリアが風呂からあがるために立ちあがったのだ。即ち…、
「っ…!!!?」
俺は息を呑んだ。
この至近距離で…見えてしまったのだ。彼女の大事なところまで何もかも…。
気が付けば、俺の鼻から出る液体で湯船は赤く染まり、意識は徐々に遠ざかっていった。
意識が途切れそうになる寸前、悲鳴を上げて慌てふためくキリアの姿が見えた気がした…。
………
……
…
「今宵の月は、血のように赤くて綺麗ねぇ…」
俺の意識が蘇った時、こんな言葉が聞こえてきた。
口調は少し違うようだけど、キリアの声に間違いないと判断した。
それと同時に俺自身の異変に気づいた。おかしいな、体が動かない…。
辛うじて頭だけは動くみたいだ。目を開け、周りを見回すと、見慣れたガランとした部屋が視界に入って来た…。そうか、ここはキリアの部屋で、俺はベッドの上に寝かされている状態か。部屋がガランとしているのは…当然か、この部屋はついさっきまで空き部屋だったんだものな。
よかった、服は着ているみたいだ…てか、もしかしてキリアが着せてくれたのか……微妙にショックだ…。
それにしても何だ…? 黒い霧のようなものが俺の体に纏わりつくように周囲を漂っている。視界は大丈夫なのだが、とても息苦しいし、体も重い…それになんだか頭もボーっと……。
「あら、気がついたの?」
「え…? おま……キリ…ア?」
キリアは窓縁に腰掛けるようにして座り、月を眺めていた。そして俺の意識が戻ったことに気が付くと、こちらに振り向く。
しかし…その時俺は感じた、こいつは違う…キリアじゃない…と。
確かに、彼女の容姿はキリアとかなり似ている…いや、瓜二つと言ってもいい。
しかし、キリアの髪の色が赤紫色なのに対し彼女のは銀色…月明かりを受けて鮮やかに煌めく。絹布のように純白だったキリアの肌だが、月明かりに照らされた彼女の肌は妖しい紫色だった。そして瞳の色も血のように赤い真紅に、服装も白と赤の鎧から黒と青を基調とした鎧に、金属質な純白の翼は黒光りする漆黒の翼に…。
そしてなによりも、彼女はキリアが決して見せる事はないであろう妖しく、冷たさも感じる笑顔を俺に見せた。
パッと見はキリアだが、極端な話何もかもがキリアとは正反対だった。
「半分正解、半分ハズレね」
俺の言葉に彼女はそんな風に答えた。
「半分って…お前は一体…?」
「私の名は〝ダーク・ヴァルキリア″よ、マスターさん。〝デュナミス・ヴァルキリア″と体は同じだけどね」
「ダーク……ヴァルキリア?」
「そ、まぁ『ダルキリア』とでも呼んで頂戴」
キリア似の女、ダルキリアが言った言葉が俺には最初よく理解できなかった。だけど、その後にダルキリアが言った「身体は同じ」という言葉でなんとなく理解できた。
「二重人格…」
この四文字が脳裏をよぎった。
一つの身体に二つの意識が宿る人物…かつて歴史に名を馳せたデュエリストも、多くがそうだったという。
「ま、似たようなものね」
ダルキリアはそう言い、窓際から俺の方に歩み寄る。そして俺の正面まで来ると、デッキを手渡す。俺のデッキだ。
俺はそのデッキを受け取り、一番上のカードをめくると『ダーク・ヴァルキリア』というカードがあった。おかしい、こんなカード俺は持ってなかったはずなのに…。
そう思っていると、ダルキリアの漆黒の翼が背中の中に吸い寄せられるように消え、そしてデッキを机の上に置くとダルキリアが突然ベッドの上に乗ってきた。
「マスターさんとこうして会うのは初めてね…」
四つんばいになり、妖しく微笑みながら俺の方へ近づいてくる。
ダルキリアが進むと同時に俺は後退する。
しかし、狭いベッドの上ではすぐに後ろの壁まで追い詰められてしまった。
ダルキリアの細い指が俺の胸に触れ、そのまま俺に体を預けてくる。胸の鼓動が高まり、体が硬直した。
視線を下にやるとダルキリアもこちらを見ていて、目が合った。
ダルキリアは笑い、そして俺の頬に手を添える。
冷たさ、妖しさを感じさせる微笑み…。
暖かくて慈悲の深さも感じられたキリアとは正反対だが…何故か美しい。
その微笑みが徐々に俺に近づいてくる…その動きが妙に遅く感じる…頭の回転が鈍くなる……。
って近い近い!これ以上近づいたら…!
「や…やめろっ!」
「きゃっ!」
思わずダルキリアを突き飛ばしてしまった。ダルキリアの顔が目と鼻の先まで迫ったところで、ハッと我に返ったのだ。
俺は立ち上がるとベッドから立ちあがり、ダルキリアとの距離を離す。
ダルキリアはベッドの上からすぐに起き上がり、俺の方を見ると再び微笑んだ。
妖艶な微笑み、美しさを感じるが同時に恐怖のようなものも感じ、少し体が震えた。
「ひどいじゃない。女性を乱暴に扱うなんて」
「お、お前が悪いんだろうが…! いきなり何してんだよ!」
「何って…私はただマスターさんと仲良くなろうと思っただけよ。いけないの?」
俺に問いながらゆっくりこちらに近づいてくるダルキリア。
なんかやばい…俺は物凄い危機感に襲われた。特に貞操の危機…。
俺は素早く部屋の入り口に行き、ドアノブに握る。
しかし…扉は開かない。なんで!? この部屋鍵とかないはずなのに!
「そんな事しても無駄よ」
「なに!?」
「ちょっとした結界を張らせてもらったの。そこからは誰も出ることもできないし誰も入ることはできないわ…♪」
ダルキリアはそう言い、ペロリと唇を舐める。
閉じ込められてしまった…このままでは捕まってしまう…!
俺はとにかくダルキリアから逃れるべく、窓のほうへ逃げた。
よし、窓の扉は開いている! 俺はそこから外へと出た。
「あらあら、仕方がないわね…」
………
……
…
この季節は少し寒いが…そんなことは気にせず屋根の上に逃げる。
だが、こんな事をしても無駄だった。所詮僅かに寿命を延ばすだけで、逃げ場が無い事には変わらない。
戻ろうとしても…既に俺の前にはダルキリアが漆黒の翼を広げて宙に浮き、空中で静止して俺の行く手を阻んでいた。
赤い月に照らされながら微笑み、こちらを見つめている。
状況的に、さしずめ俺は肉食動物に追い詰められた草食動物ってとこだった…。
「もう逃げられないわよマスターさん、キリアのように私とも仲良くしましょうよ?」
「お、お前の『仲良く』ってのは、なんか危ないって俺の本能が言っている!」
「ふーん…じゃあ根本的に変える必要があるわね。私がいないと生きていけない身体にしてあげようかしら?」
「ひぃ!? 嫌だぁ! 来るなぁ! キリア、元に戻ってくれぇ!」
突然恐ろしいことを言いだしたダルキリアに対し、俺は情けなく叫んでしまう。
「私はキリアでもあるってさっき言ったじゃない。悪いけど、私の意識がある間はキリアの意識は出て来れないわ。最初は少し痛いかもしれないけど、すぐに気持ち良くなるから…♪」
再び進行と後退のやり取りがあり、俺は屋根の一番端に来たところでバランスが崩れ、屋根の端で尻もちをついて追いつめられる。
もうダルキリアはすぐ目の前に立って、妖艶な笑みを浮かべながら俺を見下ろす。
叫ぼうにも恐怖で声は出ず、今は深夜、誰も助けはいない…。
ダルキリアの手が伸びてくる…もうだめだ! 俺は諦めて目を瞑った。
その時だった。
「よすんだキリア!!」
手を伸ばすダルキリアの背後から聞き慣れた声が聞こえた。
ダルキリアが後ろを振り返った。ダルキリアと同じ綺麗な銀色の髪は赤い月の光に照らされ、その手には赤いロッド。
見覚えがありすぎるその容姿…間違いない、ルインだった。
「主、怪我は無いか?」
「あ、あぁ…」
俺を身を案じ、ダルキリアの向こうから俺を気にかけてくれるルイン。これほどまでルインの存在が頼もしいと思えたのは、デミスの時以上かもしれない…。
俺の身が安全だとわかり、ルインはホッとした様子で笑みを浮かべる。
「キリア…お前…!」
だが、すぐにダルキリアの方を見て、怒りがこもった声と視線を送り、ロッドの先をダルキリアに向ける。
ダルキリアの方は…相変わらず笑っていた。焦っている様子もなく、ゆっくりとルインの方へと歩き出す。
「キリア…お前は主に何をしようとした? 事と次第によってはいくらお前でも容赦しないぞ!」
「別に、仲良くしてもらおうと思っただけよ女神様。ほらもう何もしないから、その物騒なものを私に向けないで」
そう言ってダルキリアは背中の翼を仕舞うと屋根の上に降り立ち、両手を横に広げて何もしないというアピールをする。
どうやら本当のようだった。よかった…危機は脱した。
ホッと息を撫でおろすと、ダルキリアの視線がルインからまた俺に向けられた。この夜最後の笑顔を俺に見せる。
その笑顔は、先程までのとは少し違って、恐怖は感じなかった。少し優しい感じがする。ただし、相変わらずどこか妖しくて…エロいけど。
「お邪魔が入っちゃったわねマスターさん。じゃ、またね♪」
そう言ってダルキリアはルインの横を通り過ぎ、家の中へ入る。
「キリア、一つ聞きたい事がある」
俺とルインも家の中に戻ると、ルインがダルキリアにそう言った。
ダルキリアはその声を聞くとピクッと反応し、視線をルインに向ける。
「…何でしょう女神様?」
「お前、何故…何故堕天使などに…!」
先ほどのような心配、安心、怒りの表情とは違い、ルインが今ダルキリアに見せている表情は…悲しみの表情だった。
その表情を見て、ダルキリアの身体が僅かに震える。その顔には先程の笑顔はもう無かった。
そして俺は、ルインの言い方からしてキリアは元は二重人格の堕天使などではなかったのだと悟った。
「…暗い話になるけどいいかしら?」
「かまわない」
ルインとキリアは古い友人らしい、だからルインもキリアの事が心配なんだろう。
そして二人の主である俺も、ダルキリアの…いや、キリアのことについては知る必要がある。
「…数十年前、デュエルモンスターズ界が覇王の支配下だった頃、私は天界を守る戦士の一人だった。だけどある日、覇王軍が天界に迫っているという情報が入り、私は前線に駆り出された。私や、私の仲間は必死に闘ったわ。だけど覇王軍は強力で徐々にこちらが不利になっていった…でもかろうじて天界への侵入は阻止できたわ。だけど…」
ダルキリアの顔がうつむく。
「…気が付いたら私は覇王軍の捕虜になっていた…そこで私は、ある恐ろしい実験を施された…」
「実験…?」
「…奴らは自分たちの部下を増やすために、闇世界のモンスターだけでなく、善良な普通のモンスターをも闇に堕とし、自分達の戦力にしようと考えたのよ」
「なんだって…!」
その言葉で俺はハッとした。
覇王が…覇王の力の影響で、キリアは闇の力を埋め込まれ、天使と堕天使…二つの力を持つ精霊になっちまったっていうのか…?
覇王の…せいで…。
そこでダルキリアの身体が力無く崩れ、ベッドの上にへたり込む。
俺はダルキリアの隣で肩を持ち、身体を支えてやる。肩を触ると、ダルキリアの身体はひどく震えていることがわかった…。
「お、おい…無理するな」
「…その実験で私に闇の力の一片が埋め込まれ、私の心と身体は闇に堕ちた…」
ダルキリアは辛そうだった…だが、それでも俺たちに話し続ける。
「でも覇王が倒され、覇王軍は散り散りになり、実験の途中段階で私も解放され、自由の身となった…。だけど、私の闇の力はキリアの中に残ったまま…半分は秩序と正義を司る天界の戦士、もう半分は欲望と嗜虐を貪る堕天使…それが私、〝ダーク・ヴァルキリア″というもう一つの人格を生み出してしまった。もし、あのまま実験が続いていたら…きっと完全に闇に堕ちていたでしょうね…」
ダルキリアを支えている俺の手に何かが落ちてきた。
涙…?
見るとダルキリアは泣いていた。
「今日みたいな日は…私が出てきやすいの…」
だからキリアはフレイヤと一緒の部屋になる事を拒んだのか…。
覇王の力がキリアをこんな風に…。
「そんな事が…」
ルインはダルキリアの側まで歩いていくと優しく抱きしめる。
「済まなかったな…お前の友人だというのに気付いてやれなくて…」
「いいんです女神様…女神様こそ終焉の王とあんな事があって…さぞかし辛かったでしょう…」
ルインとデミスが…?
さっき言っていた『二人の罪』ってやつと、何か関係があるのか…?
一体…二人の過去に何があったんだ?
「…昔の事などとうに忘れた。だからお前も忘れろ」
「はい…」
ルインに励まされ、ダルキリアは立ち上がり、部屋へと戻る。
「じゃあ…お休みなさいねマスターさん。今度は私ともお風呂入ってくれると嬉しいわ」
「なっ!? ば、ばか! 入るわけないだろ!」
「あらあら、まぁいいわ。また会いましょう」
そう言い、ダルキリアは部屋のドアを閉めた。
「主よ、私達も戻ろう」
「…ああ、そうだな」
覇王の力は俺の身近な人まで闇に堕とした…。
そう考えるだけで、何だか責任を感じてしまった。
「キリアがああなってしまったのは主のせいじゃない、だから気にするな…」
俺の気持ちを悟したのか、ルインが優しく呟いた。
正直、ルインとデミスの過去に何があったのか気にはなったがルインが『忘れた過去』と言っていたのだから無闇に詮索はしない方がいいのかな…。
それに…今夜はキリアの過去だけでいっぱいいっぱいだった。これ以上あんなに苦しい話は聞きたくない…。
「じゃ、お休み主」
「ああ、お休みルイン」
部屋に戻り時計を見ると、時計の針は夜中の2時を指していた。
ベッドの方を見るとフレイヤが寝息をたてて気持ち良さそうに寝ている。
…寝顔は可愛いよなコイツ。
正直かなり疲れていたのでベッドで寝たいという衝動に駆られたが…フレイヤが朝起きたら殺される事を思うと渋々床に布団を敷き、寝る事にした。
覇王…今日キリアとダルキリアから聞いた話で、だんだんとその全容を掴んできた。
だが…そんな邪悪な存在が何故俺の中に宿ったのか…そして今後何を目的としているのか…それはまだまだ謎だった。
これから俺は一体どうなってしまうのだろう…そんな不安を考えながら、俺は眠りの中に落ちていった…。
今回はちょっとエロいお話。
ダーク・ヴァルキリアはデュナミス・ヴァルキリアのダーク化した姿なんでしょうが、自分的にはこの小説に2人とも登場させてみたかったのでニ重人格という形にさせてもらいました。
次のダルキリアさんの登場は…ごめんなさい、目処が立ってませんw