遊戯王 ああっ破滅の女神さまっ   作:ダルクス

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寒い日が続くこの季節、寝坊をしてしまった遊煌は急いで学校に行く準備をするが、そんな時突然とある人物に命を狙われる。
その人物とは、デュエルモンスターズの世界から覇王の命を狙って来た暗殺者だった。


第25話:「戦いの嵐は突然に」

休みが明けて一週間の始めである月曜日、学生である俺は当然学校に行かなければならない。だが、まだまだ寒い日々が続くこの季節、目覚ましにセットした時間通りに起きるのはなかなか難儀なことだった。

つまり、なにが言いたいのかというと。

 

「う~ん…あと五分…」

 

と、テンプレとも言える寝言を呟きながら、耳元で鳴った目覚まし時計を止めると、そのままの姿勢のまままた俺の意識は眠りの中に落ちて行った。

 

それからどれくらい経っただろうか。

 

「いつまで寝てんの! 起きろオラァ!」

 

ドカッ

 

「ぐふぉ!?」

 

突然の怒声とわき腹に響く鈍痛で目が覚めた。

痛む腹を押さえつつ、声の主を見上げる。

 

「ふ…フレイヤ…?」

 

例の如くそこにはフレイヤが手を腰にあてたフレイヤが青筋をたてながらこちらを睨んでいた。

 

「アンタったらどれだけ寝たら気が済むのよ! お姉さま達、もう朝食作って待ってるのよ!」

 

「え…? マジで?」

 

と、俺は先ほど止めた目覚まし時計の時刻を見てみる。なんてこった…5分どころか20分も経ってた!

 

「やべっ! このままじゃ遅刻じゃんか!」

 

と、慌てて布団から飛び起きると…。

 

「…っ!?」

 

睨んでたフレイヤの表情が突然赤くなり、何故かうろたえ始めたので、何事かとその視線の先を追っていくと…。

 

「あ…いやこれは…―!」

 

「こっ…この!」

 

弁解の余地もなく、フレイヤの強烈なグーパンチが俺を襲う。

せ、せめて平手で…!

 

「この変態!! スケベ!! 最っ低!! 朝からなんてもん見せてんのよ!!」

 

「仕方ないだろ朝なんだから! 男はみんな朝はこうなの!」

 

「つべこべ言ってないでさっさと着替えなさい! 朝ごはんいらないならアンタの分は片付けちゃうから!」

 

「ま、待て待て! 食うよ!」

 

いくら時間がないと言っても朝飯だけはなんとしても食わなくてはならない。急いで食えばまだ間に合うし、学校へは走っていけばいい!

とにかくフレイヤを外に追い出し、俺は着替えを始める。

 

 

 

 

 

―――――第25話:「戦いの嵐は突然に」―――――

 

 

 

 

 

「急げ急げ…」

 

心の中で念じていたことが自然と口に出る。

パジャマを脱ぎ、ワイシャツを着てズボンを履いてネクタイを付けてブレザーを着る。ここまでで2分弱。そして靴下を履こうとしたときだ。

 

ポトッ

 

「いけね、落としちまった」

 

慌てるあまりに履こうとしていた靴下を落としてしまった。そして俺が靴下を拾おうと身体を屈めた…その時だった。

 

ガシャアンッ!!

 

ドスッ

 

「うおおっ!?」

 

突然部屋の窓ガラスが割れ、何かが俺の頭上を通過したと思うと、それは壁に突き刺さった。何事かと思い、その壁に刺さった物体を見てみる。楔のような形をした、黒い小ぶりのナイフのような鋭い刃物…くないだ!

 

「なんでこんなものが…」

 

もし靴下を拾おうと身体を屈めていなかったら、あれは今頃俺の頭に突き刺さっていたはずだ…。

 

「どうした主! 何事だ!?」

 

窓ガラスが割れたのと、俺の悲鳴を聞きつけたのか、ルイン達が俺の部屋に入って来た。

 

「どうなさいましたの、主様!?」

 

「これが…突然窓の外から…」

 

と、俺は壁に突き刺さったままのくないを指さす。

 

「これは…暗殺用のくない!?」

 

キリアが壁に刺さったくないを見て、声をあげる。

暗殺用だって…? 一体誰を…って、それは俺なわけだが…何故俺が? 俺何か誰かに恨みを買うようなことでもしたか?

キリアがくないの飛んできた方向を睨みつける。視線の先には、誰もいないように見えるが…?

 

「…っ! 来ます!!」

 

「皆さん、わたくしの影に!!」

 

殺気を感じたのか、キリアが叫び、皆はウェムコの影に隠れる。そしてその瞬間、窓の外から大量のくないが俺の部屋に降り注ぐ。

 

「くっ…≪インビジブル・サンクチュアリ≫!!」

 

ウェムコが両手を前方に突き出すと、光と風の見えない結界が前面に展開され、くないを全て弾く。弾かれたくないは壁や床、天井に突き刺さる。

そして、敵はくないによる攻撃が無駄だと判断したのか、降り注ぐくないの雨が止んだ。

 

「主今だ! デュエルディスクを!!」

 

「あぁ!」

 

俺はウェムコの影から出ると、机の上に置いてあるデッキとデュエルディスクに手を伸ばす。

 

 

 

「させない」

 

 

 

「…っ!?」

 

突然、俺のすぐ背後で何者かの声がしたかと思うと同時に、殺気を感じる。その気配に俺は反射的に伸ばした手を後ろに引っ込めた。次の瞬間、くないが今まさに俺が掴もうとしていたデュエルディスクの手前に突き刺さった。

 

「何者だ貴様!?」

 

「…」

 

ルインの問いに謎の襲撃者は何も答えない。ただ、俺はその姿に見覚えがあった。顔は赤いスカーフで覆われているが、短く切り揃えられた金色の髪に、青い瞳…そして全身を覆う白いアーマー。確かこいつは…。

 

「…D.D.…アサイラント…?」

 

「ほう…私の名を知っているのか」

 

やっぱりそうだ。こいつは実際のデュエルモンスターズの中でも存在するモンスターの1体…『D.D.アサイラント』だ。それと瓜二つの人物が今俺の目の前に立っている…ということはつまり、こいつもルイン達と同じカードの精霊…?

 

シュッ

 

「のわっ!?」

 

一瞬の出来事だった。アサイラントは静かに自分の懐からくないを1本取り出すと、それを有無を言わさず俺の首目がけて横一文字に振るう。

それを俺はとっさに避けたが、首を守ろうとガードした腕が切りつけられ、くないの刃が制服を切り裂き、俺の腕の皮膚を傷つける。そのせいで、うっすらとだが俺の腕から血が滴り落ちる。

なんてこった…こいつは本気で俺を殺そうとしている!

逃げようとする…が、また次の一撃が俺を襲う! 次の狙いもまた首…腕でガードする暇もない…!

 

ガキィンッ!!

 

だが、その一撃は俺まで届くことはなく、金属音を立てて何かに防がれる。

 

「ルイン…!」

 

ルインがロッドを構えて俺の前に立ちふさがる。手に構えたロッドでアサイラントの攻撃を止めている。

 

「やめろ!! お前は主になにか恨みでもあるのか!?」

 

「恨みなどない。私はただ、与えられた仕事は確実にこなす…それだけだ!」

 

ルインの問いにアサイラントは冷静に答え、そのまま剣を振るい、組み合ったロッドを弾いた。強い…こいつはルインと拮抗…いやもしかしたらそれ以上の実力を持っているかもしれない。

 

「このっ…!」

 

しかし、負けじとルインも再びロッドを振るい、アサイラントの動きを止めようとする。

 

「ウェムコ、今だ!」

 

「はい! ≪魔力の枷≫!!」

 

ルインが動きを止めている隙に、ウェムコが攻撃魔法で応戦する。しかしここは狭い部屋の中…あまり大規模な大技は使用できない。ウェムコは呪文を唱えるとロッドの先に魔力を溜め、それをアサイラントに放つ。どうやら動きを止めるための捕縛魔法のようだ。

攻撃は命中し、アサイラントの動きが一瞬止まる…が。

 

「甘いな…」

 

「…っ!?」

 

パリンッ

 

ガラスが割れるような音がしたかと思うと、アサイラントの動きを封じていた魔力の枷がすぐさまその効力を失ってしまった。

 

「そのアーマーはまさか…レアメタル!?」

 

その光景を見ていたキリアが声を上げた。

 

「流石は天界の戦士だな…その通り。このアーマーはレアメタル性の特殊魔法反射装甲となっている。私に魔法攻撃は通用しないぞ!」

 

「そんな…これじゃお姉さまやウェムコさんの攻撃が全く通用しない…!」

 

しかし俺は見逃さなかった。

この攻撃に気を取られ、奴に一瞬の隙ができたことに。その一瞬の隙をついて、俺は机の上のデュエルディスクを掴む。

 

「…!」

 

「よし! ディスクとデッキさえあればこっちのもの!」

 

これで俺も少なからず力になることができる。ルイン達と力を合わせれば、こんな奴すぐに…―

 

「主はフレイヤと一緒に逃げろ!」

 

しかし、ルインが俺と共に闘うことを許さないといった様子だった。

 

「え…でも俺も一緒に…!」

 

「ダメだ、奴の目的は主だ! 主なくては元も子もない!」

 

「主様、ここはわたくし達に任せてほしいですわ」

 

「で、でも…―!」

 

「…フレイヤ、マスター殿を連れて走れ!」

 

「は、はい! ほら行くわよ!」

 

フレイヤは俺の腕を引っ張ると、部屋を出るとそのまま走って外に出る。

 

「さぁ、貴様の相手は私達だ!」

 

「ふん、無駄なことを…」

 

………

……

 

俺とフレイヤは家の外に出てとにかく走った。あのD.D.アサイラント…何のために俺を殺そうとしてるんだ…?

俺が狙われる理由…その答えは一つしかなかった。奴は俺の中に眠る覇王の力が目当てなんだ。覇王の力は強大だと聞いている。おそらくはその力の強大さを恐れた何者かがあいつを仕向け、俺を亡き者にしようとしている…ということだろう。

くそっ…それなのに戦いをルイン達に任せっぱなしにして、俺は逃げることしかできないのか…!

 

ゲシッ

 

「いてっ! 何するんだよ!?」

 

走っている最中、フレイヤが俺の踝辺りを蹴ってきた。

 

「アンタなにボーっとしてんのよ! 考えてる暇があったらさっさと走りなさい! お姉さま達なら絶対に大丈夫だから!」

 

「フレイヤ…」

 

そうだ…ルイン達の実力は、あのデミスの一件で凄まじいことがわかっている。たかが一人の暗殺者相手に苦戦するはずはない。戦いの素人の俺がいても…きっと足手まといになってただけかもしれない。

なら…今の俺にできることは…フレイヤと共に逃げることしかない。

 

「そうだな…ありがとう、フレイヤ」

 

「か、勘違いしないでよね! アンタが死ぬとお姉さまが悲しむし……それに、一応私のマスターなんだから…」

 

途中から小声になったため、なんて言ったのかよく聞き取れなかったが、フレイヤのおかげで気合いが入った。このままできるだけ遠くへ走ろう。

 

………

……

 

どれくらい走っただろうか。俺とフレイヤは街外れの廃工場に身を潜めている。ここなら遮蔽物が多い分、身を潜めるにはうってつけだ。

 

「ここまで来れば、一安心だろ」

 

「…腕」

 

「へ?」

 

「腕、さっき怪我したでしょ? 出しなさいよ」

 

「あ、あぁ…」

 

そういえばさっき、アサイラントの一撃食らっちまって腕に切り傷を負ってるんだった。走るのに夢中で痛みも忘れてたよ。

俺が腕を出すと、フレイヤは破れたワイシャツの袖で傷口を縛り、簡単な止血をしてくれた。

 

「ありがとう、フレイヤ。うまいもんだな」

 

「ふん、この程度なんでもないわよ」

 

意外だった。こいつにもこんなことができるなんてな…。いつもは俺の部屋でわがまま言って好き放題やってくれてるけど、こういう意外な一面がある分、少し見直してしまった。

 

「アイツ…かなり強かったけど…ルイン達は大丈夫かな…」

 

「そんじょそこらのモンスターにやられるお姉さま達じゃないわ。きっと今頃逆にあいつをこてんぱんにしてるわよ」

 

 

 

「それはどうかな」

 

 

 

突然俺達の背後で声がした。

声のした方を振り向くと、そこにいたのはルイン達に足止めされているはずのアサイラントだった。

 

「お、お前…なんでここに…!」

 

「今頃お姉さま達が足止めしてる筈じゃ…まさか!」

 

「いや、あいつらなら今頃私の分身と遊んでいる頃だろう。まぁ、もうすぐ気付くだろうがな」

 

「分身だと!?」

 

………

……

 

遊煌とフレイヤを逃がした後、ルイン達は家の屋根の上でアサイラントと戦っていた。

 

「くらえ! ≪エンド・オブ…―!」

 

「待って下さいルインさん! 何か…様子がおかしいです」

 

ウェムコの言うとおり、アサイラントの動きが一瞬止まったかと思うと、身体が不規則に震えだした。そしてそのまま原型が無くなるように、液体状の金属となって全身が崩れる。後に残されたのは液体状に溶けた金属だけだった。

 

「これは一体…」

 

「しまった…これは物理分身! だとすると本体は…!」

 

……

………

 

「くっ…!」

 

じりじりと近寄るアサイラントに、俺達は壁際まで追い詰められてしまった。

 

「お前はもう逃げることはできない。観念したらどうだ」

 

「ふざけんな! 俺はまだ十分に生きちゃいないんだ! こんなところで死んでたまるか!」

 

と、粋がってはいるものの…この状況が俺にとって絶体絶命なことに変わりはなかった。

まともに戦ってこいつに勝てるはずもない…。ルイン達がここに来るまでにどれだけかかるのか…そもそも俺達がここにいることはあいつらは知るはずもない。来てくれるかどうかも絶望的だ…。そしてこちらにはフレイヤもいる。カードの能力値的にも、こいつが戦闘型のモンスターでないことはわかっている…つまり、俺のためにこいつまで危険な目に合ってしまうかもしれない。

だとするなら今の俺にできることは…ルイン達が来るまで時間を稼ぐことだ!

 

「…」

 

デュエルディスクを構え、無言でアサイラントの前に出る。

 

「なんの真似だ?」

 

「…お前が俺の命を付け狙ってるのはわかった。だが、そのために俺の精霊達まで巻き込んで、これ以上危険な目に合わせるわけにはいかない」

 

「それで?」

 

「俺とデュエルしろ、アサイラント。俺が負けたら、大人しく俺の命をくれてやる」

 

「そんな提案に、私が素直に応じると思っているのか?」

 

…やはりダメか?

相手は暗殺者…殺す相手とタイマンで勝負するっていうのは、暗殺者のやることじゃないっていうのか…?

 

 

 

「えぇ、応じるわ」

 

 

 

と、アサイラントの問いに答えたのは…なんとフレイヤだった。

フレイヤはディスクを構える俺の前に立ち、剣を構えるアサイラントの前に対峙する。

 

「フレイヤ…お前…!」

 

「いいから黙ってて…あなた、こいつが覇王の力を持ってるってわかってるから殺そうとするんでしょ? だったら、覇王とタイマンで勝負して、それで勝てば、いい宣伝材料になると思うんだけど…違うかしら?」

 

「…何が言いたい」

 

剣の構えを解くことなく、威圧するような口調で問いかける。

 

「ようするに、覇王の力を出していない状態でこいつを殺そうなんてしても、それは誰でもできること。でも覇王の力が十分の発揮される場面…たとえばデュエルでこいつを倒せば…あなたは覇王の力を超えた存在になったという証拠になるでしょ?」

 

なんてこった…フレイヤの奴、この暗殺者を挑発していやがる。一歩間違えれば自分が殺されるかもしれないのに…そんなリスクを冒してまで、俺のためにこいつを触発している…!

 

「…ふっ…フハハハハハ!!」

 

それを聞いていたアサイラントが、突然笑い出した。

 

「随分と面白いことを言うなぁ、天使の少女よ。いいだろう、私はあえてお前の口車に乗ってやる」

 

そう言うとアサイラントの手に握られている剣が消え、代わりに銀色のデュエルディスクが右手に装着される。ということはこいつは左利きだったのか!

 

「さぁ、始めようか」

 

アサイラントはやる気十分といった感じだ。俺も覚悟を決めよう…。ここで俺が時間を稼げれば、俺だけじゃなくフレイヤだって守ることができる。これは決して無駄なデュエルなんかにはさせない!

 

「ありがとう、フレイヤ」

 

俺の前に立つフレイヤの肩を掴む。…震えている? フレイヤのやつ、ひどく震えているじゃないか。

 

「あ…う、うん…負けたら承知しないんだから!」

 

そう言って俺の前から横に退く。…そうか、内心は怖かったんだな、お前。

なら…フレイヤが必死で繋げたこのチャンス、必ず物にしてみせる!

 

「…行くぞ」

 

「来い」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

「先攻は私だ、ドロー。私はモンスターをセット。そしてカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

■――――

■――――

アサイラント:手札4枚、LP4000

モンスター:伏せ1枚

魔法・罠:伏せ1枚

 

至って普通な1ターン目…ある意味では理想的ともいえる。まずは様子見というわけか。

 

「俺のターン!」

 

なら俺も、様子見といこう。

 

「俺は『儀式魔人プレサイダー』を召喚!」

 

【儀式魔人プレサイダー】 闇 悪魔族 ☆4 ATK/1800 DEF/1400

 

プレサイダーは攻撃力が主力的なうえに、墓地へ行っても次に儀式召喚する際にはリリースの1体とすることができる。もし『プレサイダー』が破壊されても、それは次のモンスターを召喚する糧になる!

 

「いけ『プレサイダー』! 守備モンスターに攻撃だ!」

 

『プレサイダー』は剣を構え、セットモンスターに切りかかる。

モンスターがリバースする…が、あのモンスターは…!

 

【異次元の戦士】 地 戦士族 ☆4 ATK/1200 DEF/1000

 

「『異次元の戦士』だと!?」

 

『プレサイダー』の剣は、『異次元の戦士』を切り裂く。…が、それで終わりではない。『異次元の戦士』が死に際に放った剣が『プレサイダー』を刺し貫いた。

 

「『異次元の戦士』が相手モンスターと戦闘を行った場合、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する」

 

アサイラントが効果を淡々と説明し、『プレサイダー』と『異次元の戦士』、その両方が次元の狭間に飲み込まれて消滅してしまう。

しまった…『プレサイダー』は墓地にいてこそ儀式召喚の素材にできるモンスターだ。除外されてしまってはその能力を活かすことができない。

しかもこれで俺のフィールドにモンスターがいなくなってしまった…次の奴のターンでダイレクトアタックを喰らったらマズいぞ…。

 

「くっ…俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

―――――

■■―――

遊煌:手札3枚 LP4000

モンスター:無し

魔法・罠:伏せ2枚

 

「私のターンだ、ドロー。私は魔法カード、『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する」

 

こんな序盤からドロー補強カード…? よほど手札が悪いのだろうか…。

 

「私は『異次元の偵察機』をゲームから除外する。そして『同族感電ウィルス』を召喚」

 

【同族感電ウィルス】 水 雷族 ☆4 ATK/1700 DEF/1000

 

フィールドに電気を纏った球体が無数に出現する。

 

「『同族感電ウィルス』で、プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

俺の周囲を『同族感電ウィルス』が囲む。そして球体部から電気を発し、それは徐々に別の球体へと電導していくと同時に増幅していく。そして増幅した電気は中心部にいる俺自身にへと放たれる!

 

「うわあああああああああっ!!」

 

遊煌:LP4000→2300

 

な…なんだ…? この攻撃は…。まるで本当に電撃を受けたかのように、俺の身体が痺れる…いや、それだけじゃない。この痛み…この衝撃…これは明らかにソリッドビジョンではない…!

 

「お、お前…何をした…?」

 

「何も。ただモンスターでダイレクトアタックしただけだが?」

 

「う、嘘つけ…この痛み…これはどう考えたって本物じゃないか…!」

 

「あぁ、言い忘れていたよ。私達カードの精霊とデュエルする際にはそれなりのルールがあってな、このデュエルはその名の通り『決闘』…つまり命を賭けてもらう」

 

「な…なんだと…!?」

 

「そんな…!」

 

アサイラントの言葉に俺も驚いたが、それ以上にフレイヤも驚いたという表情だ。

 

「もちろんお前だけではない、私にも実際のダメージは起こる。せいぜい無様に負けぬよう、頑張ることだな」

 

「ふ…ふざけるな! こんなのデュエルじゃない!! すぐにやめろ!! お前だって…ただじゃすまないんだぞ!!」

 

「残念だがそれはできない。そこの天使の少女が言ったのだぞ? お前に勝てば私の名も上がると。ならば、デュエルとついでにお前の命も貰おうではないか」

 

「わ、私のせい…!」

 

あいつにとっちゃこのデュエル、一石二鳥ってわけかよ…。

クソッ…! こんなところで死んでたまるか!

 

「私のせい…私のせいで……!」

 

フレイヤがさっきのアサイラントの言葉でショックを受けているようだ。当然だろう…捉えようによっちゃ自分が俺を殺すよう言ったようにも捉えられる。でも、俺は…!

 

「大丈夫だフレイヤ、自分を責めるな!」

 

「…!」

 

俺が声を張り上げると、フレイヤの混乱と後悔に満ちた顔がこちらを向く。

 

「俺はこんなところで死んだりしない! こいつに勝ってばいいだけの話だ! だから大丈夫だ!」

 

「アンタ…」

 

「むしろ感謝してるぜ、お前が必死で繋げてくれたこのチャンスに…だから絶対に勝つ!」

 

これ以上フレイヤに不安感を与えないよう、フレイヤを励ましつつも自分も奮い立たせる。

大丈夫だ…この程度、デミスの時の恐怖に比べたらなんでもない!

 

「…ふん、私のターンは終了だ。そしてこのエンドフェイズ時、ゲームから除外されていた『異次元の偵察機』を攻撃表示で特殊召喚する」

 

【異次元の偵察機】 闇 機械族 ☆2 ATK/800 DEF/1200

 

△△―――

■――――

アサイラント:手札4枚 LP4000

モンスター:『同族感電ウィルス』『異次元の偵察機』

魔法・罠:伏せ1枚

 

「俺のターン、ドロー!」

 

今、奴のフィールドには攻撃力たった800のモンスターが攻撃表示でいる。

そんなモンスターをわざわざ無防備で立たせとくほど甘い奴ではないとは思うが…しかし、こんなデュエルを長く続けてるわけにもいかない。リバースカードが気になるが…ここは攻める!!

 

「俺は『ダーク・ヴァルキリア』を召喚!」

 

【ダーク・ヴァルキリア】 闇 天使族 ☆4 ATK/1800 DEF/1050

 

フィールドに黒光りする漆黒の鎧を纏った堕天使が舞い降りる。

頼むぞダルキリア…このカードを俺のデッキに入れたのはお前なんだから、それだけの働きを期待してるぞ…!

 

「『ダーク・ヴァルキリア』で『異次元の偵察機』を攻撃!」

 

『同族感電ウィルス』には、手札のモンスター1体を除外し、そのモンスターと同種族のモンスターを破壊するという効果がある。もし奴の手札に天使族のモンスターがあったら…とは思うが、今は少しでも奴にダメージを与える事の方が先決だ!

 

「そんな攻撃を通すと思っているのか? トラップ発動! 『次元幽閉』!」

 

『異次元の偵察機』の前に十字の次元の裂け目が生まれ、『ダーク・ヴァルキリア』を呑み込もうと迫る。

 

「『次元幽閉』は、相手が攻撃宣言をした時、そのモンスターをゲームから除外する」

 

やはり奴は攻撃反応型のトラップを張っていたか。

だが、それを見落としていた俺じゃない!

 

「ならばトラップカード、『トラップスタン』を発動! このターントラップカードの効果を無効にする!」

 

「むっ…」

 

『トラップスタン』の発動により、『次元幽閉』はその効力を無くし次元の裂け目が消滅する。

 

「よし、このまま攻撃続行だ! いけぇ! ≪ナイトウィング・ダスト≫!!」

 

『ダーク・ヴァルキリア』の漆黒の翼から霧状の攻撃が放たれ、『異次元の偵察機』を呑み込む。

 

「…ふん」

 

アサイラント:LP4000→3000

 

ライフポイントが1000も減ったが、アサイラントはこの程度なんでもないといった表情だ。

 

「さらにリバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

△――――

■■―――

遊煌:手札3枚 LP2300

モンスター:『ダーク・ヴァルキリア』

魔法・罠:伏せ2枚

 

「私のターン、ドロー。私のフィールドにモンスターを残したのはお前のミスだ」

 

「なにっ…!」

 

「私とデュエルするのなら、私の場のカードを全て除去するほどの覚悟でなければ、私の相手にはならんぞ。『同族感電ウィルス』をリリース」

 

『同族感電ウィルス』がフィールドから姿を消した。

ということは…奴が今から行おうとしているのは…上級モンスターを召喚するアドバンス召喚!?

 

「『邪帝ガイウス』をアドバンス召喚」

 

【邪帝ガイウス】 闇 悪魔族 ☆6 ATK/2400 DEF/1000

 

フィールド姿を現したのは、漆黒の甲冑を纏った禍々しいオーラを放つ邪(よこしま)の帝王…。『ガイウス』は召喚されるなり、腕を胸の前で合わせ、掌の間に、その邪悪なオーラを固める。

 

「なんだ…!?」

 

「『邪帝ガイウス』は、アドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード1枚を除外する。それが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与える。私は『ダーク・ヴァルキリア』を除外する」

 

『ダーク・ヴァルキリア』は闇属性…効果が決まれば俺に1000ポイントのダメージのうえ、ダイレクトアタックを喰らえばライフがゼロ…そうはさせるか!

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動! 選択したモンスターの効果を、エンドフェイズ時まで無効にする! …ただし、エンドフェイズまで攻撃力は400ポイントアップする。俺は『ガイウス』を選択!」

 

『ガイウス』が動きを止め、闇のオーラの波動が止んだ。

 

邪帝ガイウス:ATK/2400→2800

 

攻撃力は上がってしまったが、これでなんとかこのターンはしのげる。

 

「…ふん、ならば魔法カード『使者蘇生』を発動。これにより、私の墓地のモンスターを特殊召喚する」

 

「墓地のモンスター…ということは!」

 

「さっきリリースした『同族感電ウィルス』が…!」

 

フレイヤの言うとおり、今の奴の墓地には『異次元の偵察機』と『同族感電ウィルス』の2体しかいない。どちらを復活させるのか…それは明らかだった。

 

「『同族感電ウイルス』、復活」

 

またも奴の場に電気を帯びた球体がいくつも出現する。

これで奴の場にはモンスターが2体…うち1体は上級モンスター…! 一つの効果を潰したと思ったら、また別の戦術で攻めて来る…このアサイラントって野郎、強い! しかも厄介なのは、奴は俺を本気で殺しに来てるってことだ!

 

「バトルだ。『ガイウス』で『ダーク・ヴァルキリア』を攻撃」

 

一度は止んだ闇のオーラも、攻撃となれば止める術はない。『ガイウス』が闇のオーラを固めた暗黒の球体を、腕を広げて放つ。暗黒の球体は、『ダーク・ヴァルキリア』の全身を呑み込み、そのまま消滅した。

 

「くっ…!」

 

遊煌:LP2300→1300

 

一気に1000もライフが削れ、俺の身体がズキンと大きく痛む。この痛みを奴も同じく感じてる筈なのに…なんであいつは平気なんだ…!

それよりも…マズいな、さっきから大きなダメージを受けまくっている。このままじゃ俺は…!

 

「場が空いたな。『同族感電ウィルス』でダイレクトアタック!」

 

またも俺の周囲を電気を帯びた球体が覆う。

 

「この攻撃を喰らったら…アンタ負けちゃうじゃない! なんとかしなさいよ!」

 

言われなくてもわかってるよ。何度も同じ攻撃を喰らう俺じゃない!

 

「トラップ発動! 『ピンポイント・ガード』! 相手の攻撃宣言時に、墓地のレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する! 俺は墓地の『ダーク・ヴァルキリア』を特殊召喚!」

 

墓地の『ダーク・ヴァルキリア』が守備態勢をとり、俺の場に復活する。

 

「ならばその復活したモンスターを片付けてやる」

 

俺を囲んでいた『同族感電ウィルス』が、今度は『ダーク・ヴァルキリア』の周囲にあつまり、放電する。しかし、『ダーク・ヴァルキリア』が破壊されることはない。

 

「残念だったな! 『ピンポイント・ガード』で特殊召喚したモンスターは、このターン戦闘及びカード効果では破壊されない!」

 

「…ふん、まぁいい。私のターンは終了だ」

 

邪帝ガイウス:ATK/2800→2400

 

ターン終了と同時に、『禁じられた聖杯』の効果は切れ、『ガイウス』の攻撃力は元に戻る。

 

△△―――

―――――

アサイラント:手札3枚 LP3000

モンスター:『邪帝ガイウス』『同族感電ウィルス』

魔法・罠:なし

 

「俺のターン…ドロー!」

 

よし、なんとか『ダーク・ヴァルキリア』をフィールドに残すことができた!

こいつさえ残っていれば…あとは!

 

「俺は『ダーク・ヴァルキリア』を再度召喚する!」

 

「再度召喚…?」

 

「『ダーク・ヴァルキリア』は、フィールドと墓地に存在する間は通常モンスターとして扱われるが、通常召喚扱いとしてもう一度召喚することにより、新たな効果を持つ効果モンスターとして扱われるのさ!」

 

再度召喚することにより、『ダーク・ヴァルキリア』が不気味に、怪しく輝きだす。

 

「再度召喚したことにより、『ダーク・ヴァルキリア』の封じられていた特殊能力が解放される! 天界の戦士が持つことは許されない、禁じられた魔法術がな!」

 

『ダーク・ヴァルキリア』が呪文を唱えると、怪しげな輝きがさらに増していく。

 

「その効果は、このカードに魔力カウンターを一つ置くことにやり、攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

ダーク・ヴァルキリア:ATK/1800→2100

 

「いくぞ! 『ダーク・ヴァルキリア』で『同族感電ウィルス』を攻撃! ≪レメゲトン・アロー≫!!」

 

『ダーク・ヴァルキリア』の手から黒い一対の弓と矢が出現し、それを構えると『同族感電ウィルス』のほぼ中心地に狙いを定め、矢を放った。

放たれた矢は『同族感電ウィルス』の中心で炸裂し、そのまま周囲の球体を巻き込みながら消滅していく。

 

アサイラント:LP3000→2700

 

「だが攻撃力は『邪帝ガイウス』よりも下、次の私のターンで戦闘破壊してくれる」

 

「残念だがそうはいかない。『ダーク・ヴァルキリア』には攻撃力のアップ意外にも、もう一つの効果がある! このカードに乗っている魔力カウンターを取り除くことにより、フィールドのモンスター1体を破壊する! 破壊するのはもちろん、『邪帝ガイウス』だ!」

 

『ダーク・ヴァルキリア』は翼を広げ、飛び立つと『ガイウス』の前に降り立つ。

 

「≪エビル・ミッドナイト≫!!」

 

広げた翼が怪しく光ったかと思うと、その闇の閃光に『ガイウス』の身体が融かされていくかのように消滅していき、やがて跡形もなく消えた。

 

「これでお前のフィールドにモンスターはいなくなったな。ここからが本番だ! ターンエンド!」

 

△――――

―――――

遊煌:手札3枚 LP1300

モンスター:『ダーク・ヴァルキリア』

魔法・罠:なし

 

「私のターン、ドロー。…私は、『D.D.アサイラント』を召喚」

 

【D.D.アサイラント】 地 戦士族 ATK/1700 DEF/1600

 

現れたのは…もはや語るまい。今目の前にいるアサイラントと容姿が瓜二つのモンスターだ。どうやら俺のルインやウェムコのカード同様、このカードが奴の本体と言っても過言ではないようだ。

 

「『D.D.アサイラント』で『ダーク・ヴァルキリア』を攻撃」

 

「なっ…!?」

 

攻撃の命を受けた『D.D.アサイラント』は剣を構えると、素早く、そして音もなく『ダーク・ヴァルキリア』の傍まで駆け寄る。そして構えた剣を『ダーク・ヴァルキリア』に突き立てるが、その前に『ダーク・ヴァルキリア』の翼から放たれた闇の霧が『D.D.アサイラント』を呑み込む。

 

アサイラント:LP2700→2600

 

「攻撃力の低いモンスターで攻撃して、それで勝手に自滅した…なんで?」

 

フレイヤが不思議そうな顔をする…が、これは『D.D.アサイラント』の効果を発動させるために、奴がわざと攻撃してきたものだ…!

 

「『D.D.アサイラント』の効果発動。このカードが戦闘によって破壊された場合、このカードを破壊したモンスターとこのカードをゲームから除外する」

 

『D.D.アサイラント』の放った剣が『ダーク・ヴァルキリア』を貫くと、両者とも次元の彼方に消えてしまった。

 

「お前…自分のライフが減るのを承知で…しかも自分自身を捨て駒にしたようなもんじゃないか…!」

 

「それがどうした。勝つためならば多少の犠牲は止むなしだ」

 

こいつ…本当に俺を殺すためだけに…このデュエルを…!

そう思うと…わけもなく怒りがこみ上げてきた。なんでだよ…デュエルっていうのは、こんな殺し合いの戦いをするものじゃないだろ! なのに…!

 

「まだ私のターンは終わりではない。さらに魔法カード、『悪夢の鉄檻』を発動」

 

鉄製の檻が、俺の周囲を囲んで張り巡らされる。

 

「このカードは発動後、2度目の相手ターンのエンドフェイズ時に破壊されるが、それまで互いにモンスターで攻撃することができない。私はこれでターンエンドだ」

 

―――――

□――――

アサイラント:手札2枚 LP2600

モンスター:なし

魔法・罠:『悪夢の鉄檻』

 

『悪夢の鉄檻』を発動させただけでターンエンドだと!?

これはチャンスだ、『悪夢の鉄檻』で互いに攻撃できないとはいえ、逆に考えれば、あの『鉄檻』さえ破壊してしまえば奴は無防備だということだ。

おそらく奴はこの2ターンの間に更なる反撃の手を揃えてくるはずだ。なんとしてもそれまでにこの『鉄檻』を破壊し、一気に攻める!

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ドローカード:『マンジュ・ゴッド』

 

…さすがにそう上手くはいかないか。

しかたない、ならいつでも攻撃に出られるよう、態勢を整えておこう。

 

「俺は『マンジュ・ゴッド』を召喚」

 

【マンジュ・ゴッド】 光 天使族 ☆4 ATK/1400 DEF/1000

 

「『マンジュ・ゴッド』が召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター、または儀式魔法1枚を手札に加える。俺は儀式魔法、『高等儀式術』を手札に加え、ターンエンドだ」

 

△――――

―――――

遊煌:手札4枚 LP1300

モンスター:『マンジュ・ゴッド』

魔法・罠:なし

『悪夢の鉄檻』:1ターン経過

 

「私のターン、ドロー。…私はモンスターをセット。そしてリバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

■――――

□■―――

アサイラント:手札1枚 LP2600

モンスター:伏せ1体

魔法・罠:『悪夢の鉄檻』、伏せ1枚

 

守備を固めてきたか…よし、防御に徹してるってことは、今は攻める手立てが無いってことだ。この隙になんとか…!

 

「俺のターン、ドロー!」

 

…今、俺の手札には『悪夢の鉄檻』を破壊するカードはない。

だけど、無いなら引き当てるまでだ!

 

「俺は『勝利の導き手フレイヤ』を召喚!」

 

【勝利の導き手フレイヤ】 光 天使族 ☆1 ATK/100 DEF/100

 

「フレイヤ、お前がキーだ。頼むぞ!」

 

と、俺の後ろでデュエルを見ているフレイヤの方を向く。

 

「な、なに言ってんのよバカ! いいからさっさとやりなさいよ!」

 

「言われるまでもないな。『フレイヤ』の効果により、自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする!」

 

マンジュ・ゴッド:ATK/1400→1800 DEF/1000→1400

勝利の導き手フレイヤ:ATK/100→500 DEF/100→500

 

だが、俺が狙っているのは攻撃力アップの効果ではない。

 

「魔法カード、『共振装置』を発動! 自分フィールド上に存在する同じ種族・属性のモンスター2体を選択し、選択したモンスター1体はもう1体のモンスターのレベルと同じになる! 俺は『フレイヤ』のレベルを『マンジュ・ゴッド』と同じレベル4にする!」

 

勝利の導き手フレイヤ:☆1→☆4

 

「私のレベルが4に…これで同じレベルのモンスターが2体になった…!」

 

フレイヤは自分のカードのレベルが上がったことに少し驚いているようだが、本番はこれからだ。

 

「俺は…同じレベルのモンスター2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

『フレイヤ』と『マンジュ・ゴッド』は光となって渦の中に吸い込まれ、その渦の中から新たなモンスターが姿を現す。

 

 

 

 

 

―天を舞い、清き心を癒す妖精よ―

 

―希望の道筋を煌めき示せ!―

 

 

 

 

 

「エクシーズ召喚! 煌びやかに舞え、『フェアリー・チア・ガール』!!」

 

【フェアリー・チア・ガール】 光 天使族 ★4 ATK/1900 DEF/1500 エクシーズ

 

渦の中から現れたのは、黄色いボンボンを持った蝶の羽根を持つかわいらしい妖精のチアガールだ。『フェアリー・チア・ガール』は召喚されると、俺のフィールドをひらひらと舞う。

 

「ほう、モンスターエクシーズを使うのか」

 

「あぁ、と言ってもつい最近手に入れたんだけどな。『フェアリー・チア・ガール』の効果を発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを一つ取り除き、デッキからカードを1枚ドローする! ≪リーディング・エール≫!!」

 

オーバーレイユニットになっている『フレイヤ』を取り除き、効果を発動する。『フェアリー・チア・ガール』がボンボンを振って俺の周囲を舞うと、デッキの一番上のカードが光り、俺はそのカードをドローする。

 

ドローカード:『光子化』

 

くっ…結局『悪夢の鉄檻』を破壊できるカードは引き当てられなかったか。

仕方ない。なら反撃の準備をするとしよう。

アサイラントの伏せカード…俺が『フェアリー・チア・ガール』を召喚しても発動させなかったな。ということあれは、召喚反応型のトラップカードじゃない可能性が高い。なら、限界まで動いてみせる!

 

「俺は儀式魔法、『エンド・オブ・ザ・ワールド』を発動! 手札のレベル8モンスター、『大天使クリスティア』をリリースし、『破滅の女神ルイン』を特殊召喚する!」

 

 

 

 

 

―破滅を司りし混沌のイデア―

 

  ―煌めく天の名の下に―

 

―邪討ち祓う矛先となれ!―

 

 

 

 

 

「儀式召喚! 光臨せよ、『破滅の女神ルイン』!!」

 

【破滅の女神ルイン】 光 天使族 ☆8 ATK/2300 DEF/2000 儀式

 

「そして魔法カード、『死者蘇生』を発動! 互いの墓地からモンスター1体を特殊召喚する! 俺は自分の墓地の『勝利の導き手フレイヤ』を守備表示で特殊召喚する! これで俺のフィールドの天使族の攻撃力・守備力はまたアップする! ≪勝利者達への揚歌≫!!」

 

『フレイヤ』がボンボンを振り上げて踊ると、俺の場のモンスター達の攻撃力が上昇する。

 

フェアリー・チア・ガール:ATK1900→2300 DEF/1500→1900

破滅の女神ルイン:ATK2300→2700 DEF2000→2400

勝利の導き手フレイヤ:ATK100→500 DEF100→500

 

「これで最後だ! リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

そして俺のターンのエンドフェイズ時に、『悪夢の鉄檻』はその効力を失い、消滅する。

結局こいつが発動している間は、解除する術が無くて攻撃できなかったが、この布陣は完璧な筈だ。

勝負は次のターン…それまで保ってくれよ!

 

△△□――

■――――

遊煌:手札0枚 LP1300

モンスター:『フェアリー・チア・ガール』『破滅の女神ルイン』『勝利の導き手フレイヤ』

魔法・罠:伏せ1枚

 

「…クッ…ハハハハハハハ!!」

 

「なっ…なにが可笑しい!?」

 

俺がエンド宣言すると同時に、アサイラントは突然笑い出した。

 

「いやなぁに…所詮お前はここまでのデュエリストだったということさ」

 

「なんだと!? どういうことだ!」

 

「私はこの2ターンで試したんだよ。覇王の力を持つデュエリストがどの程度なのかを。しかし…この程度のデュエリストだったとは…とんだ期待外れだ」

 

くっ…随分言ってくれるじゃないか。

だが、俺のフィールドには攻撃力2000超えのモンスターが2体いるし、たとえそれ以上の攻撃力を持つモンスターで攻撃しようとも、セットしてある『光子化』で攻撃を防ぐことができる。まだ勝負は次のターンまで持ち越せる筈だ…!

 

「デュエルにおいては、自分のデッキの能力を限界まで引き出せるようにしなければ、勝つことは難しいぞ…私のターン!」

 

この言いようからして…アサイラントは何か逆転の手段を用意しているのか…?

くっ…今になって不安感が押し寄せてきやがった…! 大丈夫だ…気持ちを強く持て俺!

 

「私はトラップカード、『異次元からの帰還』を発動! このカードはライフを半分払うことにより、ゲームから除外されている自分のモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 

アサイラント:LP2600→1300

 

「なにっ!?」

 

ゲームから除外されている奴のモンスターといったら…!

 

「来い、『異次元の戦士』、『D.D.アサイラント』」

 

空が割れ、次元の裂け目が出現すると、そこから『異次元の戦士』と『D.D.アサイラント』が降ってきて、アサイラントのフィールドに降り立つ。

こいつらの除外効果を使って俺のモンスターを除去するつもりか?

…いや、奴のライフポイント的にそんな余裕はないし、仮に攻撃してきたとしても、『光子化』で防ぐことができる。

一体何が狙いなんだ…?

 

「そして私は…この2体のモンスターをリリース!」

 

「モンスター2体をリリースだと…!? 最上級モンスターをアドバンス召喚するつもりか!」

 

『異次元の戦士』と『D.D.アサイラント』の姿が消え、1体の巨大なモンスターが虚空を割って出現する。

黒光りする雄々しき身体…全身に輝く紅い光球…翼を広げ、咆哮するそのモンスターに、俺は思わず戦慄を覚える。

 

「アドバンス召喚…『破壊竜ガンドラ』!!」

 

【破壊竜ガンドラ】 闇 ドラゴン族 ☆8 ATK/0 DEF/0

 

「は…破壊竜…ガンドラ…?」

 

突如として俺の目の前に現れた、猛々しき巨竜の姿に、俺もフレイヤも言葉を失う。

この圧倒的な威圧感でわかる…このモンスター、そうとうヤバいやつだ!!

 

「『破壊竜ガンドラ』は、自分のメインフェイズにライフポイントを半分支払うことにより、このカード以外のフィールドに存在するカードを全て破壊し、ゲームから除外する!」

 

「なっ…!? フィールドのカード全破壊のうえ、除外だと!?」

 

アサイラント:LP1300→650

 

『異次元からの帰還』の効果ですでに半分になったライフポイントが、さらに半分支払われる。

そして『ガンドラ』は一声空に向かって咆哮すると、全身の紅い光球が輝きだし、その眩いばかりの紅い閃光が廃工場内を紅く染める。

 

「全てを滅ぼせ、≪デストロイ・ギガ・レイズ≫!!」

 

全身の光球から放たれた紅い光は辺りにあるもの全てを貫く。

俺の場の『ルイン』、『フレイヤ』、『チア・ガール』、そして伏せてあった『光子化』だけでなく、アサイラントの場のセットモンスターをも貫いた。

そして、それらのカードは全て異次元の彼方へと吸い込まれるように消滅していった。

しかし、光はそれだけに留まらず、破壊光は周囲にある全ての物を貫いていく。俺も巻き添えを喰らわぬように腕で身体をガードするのに精いっぱいだ。

 

「きゃあああっ!!」

 

「フレイヤ…!? くっ…!」

 

破壊光が後ろでデュエルを見ていたフレイヤのすぐ傍まで迫ると、フレイヤの目の前の床を吹き飛ばす。その衝撃でフレイヤの身体は宙を舞い、後ろの壁に思い切り叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。

 

破壊光が止む…。

 

後に残ったのは…焼け野原と化した俺のフィールドと、元々ボロだった廃工場のさらに見るも無残な姿だけだった。

 

「私の場にセットしていた『光の追放者』も含め、これで除外したカードは5枚…『破壊竜ガンドラ』の攻撃力は、この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントアップする」

 

【光の追放者】 光 天使族 ☆3 ATK/100 DEF/2000

 

「なにっ…!? じゃあ5枚除外したってことは、それの300倍で…1500!?」

 

破壊竜ガンドラ:ATK/0→1500

 

「レベル8のモンスターにしては少々攻撃力が低いが、それでもお前を葬るには十分だ」

 

遊煌:LP1300

 

俺の場にはカードがない…手札もゼロ…対抗策は……あるはずがない。

…嘘だろ…俺、本当にこんなところで死んじまうのか…? ルイン達にも何も言えず…やりたいこと何もできずに…一人寂しく……。

 

「あ…あぁ……!」

 

それを悟った時、言いようのない恐怖感が俺を襲った。

嫌だ…怖い! 死にたくない!!

歯がガチガチと震え、今にも泣きだしそうで、その場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。

でも…恐怖で竦んでなのか、この実体化デュエルのルールなのかわからないが…足が動かない…逃げられない…!

 

「遊びは終わりだ。せめてもの慈悲だ、痛みを感じぬよう一撃で仕留めてやる」

 

『破壊竜ガンドラ』の口内から光が漏れる。

あのブレス攻撃で…俺を葬るつもりだ。

 

「さらばだ」

 

今にも『ガンドラ』の口から攻撃が放たれる。もうダメだ…!

俺は全てを覚悟し、目を瞑った。

 

その時だった。

 

ギィッ…

 

「…?」

 

ギシギシッ… ミシッ

 

床が…揺れている…?

いや、床だけじゃない。天井も、壁も、『ガンドラ』の攻撃を受けた場所から何か不吉な音がする。

そして、次の瞬間、まさに『ガンドラ』の口から攻撃が放たれる…その瞬間だった。

 

ガシャッンッ!! ガラガラッ!!

 

「何っ…!?」

 

「うおっ…!」

 

元々ボロだったこの廃工場が『ガンドラ』の攻撃で不安定になっていたのか、それとも実体化した『ガンドラ』の重量に耐えきれなかったのか、もしかしたらその両方の要因が重なったのかもしれない。俺とアサイラントが立っていた場所は、大きな音を立てて崩れ始めた。

そして俺とアサイラントの二人は、そのまま奈落の底へと落ちていった………。

 

………

……

 

「くそっ…! 主達はどこに行ったんだ!?」

 

アサイラントの分身と戦っていたルイン達は、今は街の上を飛び回り、遊煌とフレイヤの行方を追っていた。遊煌には、精霊であるルインの宿る『破滅の女神ルイン』のカードを持っている。その力の波長を辿って行けば居場所がわかるはずなのだが…よほど遠くにいるのか波長が弱く、居場所が掴みきれない。それだけでなく、つい先ほどからその力の波長もパッタリと途絶えてしまった。

 

「あのD.D.アサイラントとやら、かなりの手練れでした。もしかしたら…マスター殿はもう…」

 

空中から探している最中、キリアがそんな諦めめいたことを言いだした。

 

「そんなことはありません! きっと大丈夫ですわ! フレイヤちゃんだって一緒にいるのに…貴女がそんな事言ってどうするんですの!」

 

「す、すいません…そうですね、信じましょう」

 

「主…」

 

……

………

 

「うっ……いてて…ここは…?」

 

どれくらい気を失っていたのだろうか。体中に響く鈍痛で、俺は目が覚めた。

え~っと何が起こったんだっけ…頭の中を整理しながら今の状況を把握する。

たしかさっき、俺はアサイラントとデュエルしてて、あいつが召喚した『破壊竜ガンドラ』ってモンスターでトドメを刺されそうだったんだが、急に地面が崩落して…それで……デュエルは中断されたのか? すると、俺の命は助かったわけか?

 

「…ハハッ、我ながら運が良いんだか悪いんだか…」

 

痛みが響く身体を起こして立ちあがる。…大丈夫だ、身体は大したことない。

…で、問題はあのアサイラントだが、あいつはどこに行ったんだか…―

 

「…っ!?」

 

何気なく辺りを見回すと…いた。瓦礫に埋もれ、気を失っている様子だが、D.D.アサイラントは俺のすぐ傍にいた。

だがこの様子だと、すぐには目を覚ましそうにない。今の内に逃げるか…と思い、俺達が落ちてきた上を見上げると。

 

「…嘘だろ」

 

見上げた先にある穴は、思ったよりも遠いところにあった。高さにして約5メートル…とても手は届きそうにない。

どうやらこの穴は、工場内で加工する資材などを備蓄しておくための倉庫だったみたいだ。何を作っていたのかは知らないが、この大きさからして木材とか鉄骨とか…その辺だろう。

とにかく、現時点で素手でこの倉庫から出る方法はないようだ。

 

「…あれ? そういえば俺のデッキとデュエルディスクは…?」

 

デミスの時にルインから貰った力を使えば、デッキのモンスターを実体化させて、ここから出られると思ったが…さっきまで腕に付いていたはずのデュエルディスクがない。辺りを探してみるが……ない。どうやら崩落した時の衝撃で外れてしまったらしい。

 

「…マジかよ」

 

こうなれば…もう一人での脱出は不可能だ。

ならばと思い、アサイラントの方を見るが…こいつ起こした途端に俺を殺しにかかってきそうだなぁ…やっぱり起こすわけにはいかないか…。

 

「うっ…ううっ…」

 

うめき声を漏らしてアサイラントの身体が少し動く。マズいな…こいつすぐにも目を覚ましそうだ。

今はここから出る方法を考えるより、こいつから身を守るほうが先決か…そう思ったが、身を守るものなんて何もないし、隠れる場所もない。

今度こそ万事休すか…。

 

「なら…!」

 

俺は床に落ちている鉄パイプを握ると、それを両手で構える。

 

「向こうがそのつもりで来るのなら…こっちだって…!」

 

手が震える…わかっている、俺に人殺しなんて事、できる筈はない…でも、だからと言って…! このままおめおめ死ぬのも…嫌だ!

俺はアサイラントの眼前で、鉄パイプを振り上げる。

その時だった、アサイラントの顔を覆っているマスクがはらりと落ちた。

 

「え…? ちょっと待てよ…こいつもしかして……」

 

鉄パイプの構えを解き、近づいて顔をよ~く覗いてみる。

薄ピンク色の唇に、少し長いまつ毛…。

マスクのせいでくぐもった声に、短く切り揃えられた金髪と鋭い眼光のせいで、てっきり男だと思っていたが…こいつよく見てみると…。

 

「女…?」

 

その時、呻き声と共にアサイラントの目が開いた。意識が戻ってしまったようだ。

 

「うわわっ!」

 

慌てた拍子に床に尻もちをついてしまったが、その手に鉄パイプを握る。

 

「きっ、貴様何を…痛っ!?」

 

起きあがり、俺に掴みかかろうとするアサイラントだったが…急にその場に崩れ落ちる。

 

「…どうした?」

 

「う、うるさい…! なんでもない…!」

 

口ではそう言っているが、アサイラントは痛そうに自分の足を摩っている。

その姿を見て、俺は少し迷った。当然だろう、ついさっきまで俺の事を本気で殺そうとしていた相手なんだ。こんなことが正しいのかどうかなんてわからない…でも。

 

「足、見せてみろ」

 

俺はアサイラントの傍まで近寄り、しゃがんで目線を合わせる。

 

「さ、触るな! …っ!」

 

足に触ろうとした俺の手を払ったが、痛みが激しいのかまた足首あたりを摩る。

 

「いいから見せろ!」

 

多少強引だが、アサイラントの手をどかすと足のアーマーを脱がしていく。なるべく痛みを与えないように、ゆっくりと…。

アーマーを外し、その中の黒いスーツをめくると、赤黒く腫れあがった素の足首が露わになった。見るからに痛そうだ…。

おそらく、落ちた時に捻ったのだろう。これじゃまともに歩くこともできはしない。

 

「動くなよ、何か添え木になりそうな物を探してくる」

 

そう言うと、アサイラントはただ無言でじっとしている。俺の言う事を聞いてくれたのかどうかはわからないが、どっちにしろ今は俺を襲う気はないようだ。

俺は落ちてきた瓦礫の中から添え木になりそうな物を探す。

 

「ほら、こんなもんしかなかったけど、無いよりはマシだろ」

 

そう言い、ボロボロのベニヤ板を手で割って程良い長さにし、アサイラントの足に当て、制服のネクタイで縛る。

アサイラントは先ほどとは違い、かなり大人しくなった様子だ。

 

「幸い骨は折れてないみたいだから、無理に動かそうとしなければ大丈夫だろう」

 

「…何故だ」

 

「何が?」

 

「…何故私を助ける…? 私は…お前を殺そうとしたのに…」

 

言われてみれば…何でだろうな。別に助ける義理なんてないし、ましてや相手が俺の命を狙っている相手とくれば…。

 

「まぁその…うまく言えないんだけどさ…人を殺すにはそれなりの理由があるのかもしれないけど、人を助けるのに理由なんていらないだろ?」

 

「…」

 

一瞬の沈黙、そして…。

 

「…プッ」

 

「…?」

 

「プフッ…ハハハハハッ! なんだそれは」

 

「なっ…! わ…笑うことないだろ!」

 

俺としては当たり前のことを言ったつもりだったんだが、確かに考えてみるとすごく恥ずかしいセリフのように聞こえる…。

そう思うと、アサイラントの笑いも相まって恥ずかしく思えてきて、顔が赤くなる。

 

「…で、お前はこれからどうするんだ? 俺を…殺すのか?」

 

「…君を今ここで殺すことは簡単だ。しかし、ここを私一人の力で出るには、どうやら無理のようだ」

 

要はここにいる間は俺を殺さないという意味らしい。

それを聞いて安心した…さっきまでは殺伐としていた雰囲気だったから、少しの間だけでも俺の命が保障されたという事実は、俺にとって喜ばしいことだった。

 

「そうか…まぁ上で気絶しているフレイヤが目を覚まして、この状況を把握すればきっと助けてくれる。焦らなくてもここで大人しくしていれば必ず助かるさ」

 

そう言うと、俺は崩れた瓦礫を椅子代わりにし、アサイラントの向かいの壁に背中をくっつけて座る。

怪我をして動けないといっても、まだ油断するわけにはいかない…隙をついて攻撃してくるかもしれないから、俺の視線はアサイラントから離すことはない。

 

「…なにをさっきからチラチラ見ているんだ?」

 

俺の視線が気になったのか、アサイラントがそんな事を聞いてきた。

 

「え…? あぁいやその…」

 

「ふん、まぁ警戒するのは無理もない。私はお前の命を諦めたわけではないからな」

 

やっぱりそうか…アサイラントはどうあっても俺を殺すつもりでいるらしい…。

 

「…なぁ、さっきから少し引っかかってたんだが、なんでったってお前は俺を殺すことにそんなにこだわるんだ?」

 

「決まっているだろう。依頼されたからだ。私はそういう仕事をしているんだ」

 

「…本当にそれだけか?」

 

「…どういう意味だ?」

 

「俺を狙ったのは、もっと別の理由があったからなんじゃないかと思って…いくら自分の名が売れるからって、俺を殺すのにわざわざデュエルするか? ましてやお前は暗殺者…本来なら俺に必要以上の接触をしてはいけない筈だ」

 

暗殺者という職業がどのようなものか詳しくは知らない。しかし、一般にその名と存在が知られてはいけないということぐらいはわかる。なのにさっきのこいつの行動は…それとは真逆のことだった。

 

「…ふん、やはり感付いていたか。そうだ、私は君に…いや、覇王を打倒さねばならない理由がある」

 

やっぱりそうか、こいつもキリア同様に、覇王と何かしらの因縁がある人物だったのか…。

 

「その…理由ってのは一体どんなわけなんだ?」

 

「…私はな、幼少の頃から親に見捨てられ、たった一人で生きてきたのだ。その生きていくなかで、私は戦う術を身につけていった…物心ついたときに、私の周囲がたまたまそういう環境だったからな」

 

平和な世の中で生きてきた俺にとってはとても想像できないが…アサイラントの歩んできた人生はとても壮絶なものだったのだろう。

 

「そして私は、暗殺者としての力を身に付けた。…が、それと同時に、私のような存在をこれ以上増やしてはいけないと思い、仕事で入った金で私は施設を運営しようと思ったのだ」

 

「施設…? なんの?」

 

「孤児院だ、私のように親から見捨てられた…もしくはなんらかの理由で親を亡くした子供のためのな」

 

親を亡くした…その一言は、俺の心に大きく響いた。

 

「人を殺して得るという汚れた金でも、このような使い方ができれば少しでも罪滅ぼしになると思った…。私の仕事も、主に卑劣な組織を狙うことだけになり、孤児院の運営も順調だった。子供達は互いに血のつながりはなくとも、徐々に家族ともいえる絆で結ばれていった。…しかし…その時だ……」

 

アサイラントの手に力を込め、拳が固く握られる。

 

「奴が…覇王が私達の世界に君臨したのは…。覇王の力は世界各地に伸び、私達の施設も覇王軍の魔の手に曝された…私は戦った。だが…抵抗空しく、子供達は…」

 

「そうだったのか…」

 

アサイラントがここまで執拗に俺を狙った理由が、ようやく理解できた。

戦いの果てに失ってしまった大切なもの…その己の中に渦巻く復讐心を鎮めるために、アサイラントは俺を…。

そう考えると、少なからず責任を感じてしまう…俺は何も悪くない…俺も、アサイラントもそれはわかってる筈だ。だけど…このやるせない気持ちは…どうにもできなかった。

 

「だから私は殺さねばならない…君を、覇王を!」

 

その瞬間、アサイラントがくないを構えて俺の傍まで迫り、その首元にくないを当てる。

こいつ…怪我をしているのに、まだこんなに動くことができるのか!?

 

「悪く思うなよ、さっきも言ったが、君には何の恨みはない。だが…覇王にはある!」

 

首元に当てられるくないに込められる力が、強くなる。

 

「…殺される前に一つ、言っておきたいことがあるんだ」

 

「…何だ?」

 

アサイラントはくないを離さず、目線を離さずに問う。

 

「お前にも昔家族と呼べる人達がいたように、今の俺にも家族と呼べる人達がいる」

 

「…あの女神達のことか」

 

「ここで俺が死んだら、あいつらがどんな思いをするのか考えてほしい。…お前はそんな気持ちを、もう体験した筈だろ?」

 

「だから見逃せというのか…君を!」

 

「そうは言っていない。もしも俺の中覇王が完全に覚醒したら…その時は、自分で自分に始末をつける。だから、それまで待ってほしいんだ」

 

暗闇に長い静寂が訪れた。

アサイラントの表情は、先ほどの俺を殺そうとした、鋭い眼光のままだが…その瞳の奥で、俺の今の言葉を考えているようだった。

今ここで俺を殺し、復讐を果たすことは確かに簡単だ。しかし、そうした場合、後に残されるルイン達…彼女達はおそらく、今のアサイラントのような心境になるに違いない。そうなった場合…。

 

「……今の言葉は信じていいんだな?」

 

「あぁ」

 

「必ず自分でケリをつけると誓うか!?」

 

「誓う」

 

その言葉を聞いて、アサイラントのくないを握る手が震える。

そして…鋭い眼光は、何かを決心したような瞳に変わり、俺の喉元からくないが離される。

 

「…わかった、君の言葉を信じよう」

 

「ありがとう。…ふぅ」

 

その言葉を聞き、俺はホッと一息つく。

本当によかった…今朝こいつから命を狙われてからというもの、こちらとしてはまるで生きた心地がしなかったから尚更だ。兎にも角にも、もうこいつから命を狙われることは無いのだから、これで一安し…―

 

「だがもし君がケリをつけられないとわかったその時には…即刻君の首が飛ぶからな、覚悟しておけよ」

 

「うっ…は、はい…」

 

どうやら本当に安心できるのは、まだまだ先のようだ…。

 

………

……

 

「うっ…! あれ…?」

 

固い地面の感触で私は目を覚ました。どれくらい気を失ってたんだろう…?

確か私は、アサイラントの召喚したモンスターの攻撃で吹き飛ばされて、それで…―

 

「そうだ…アイツは!?」

 

周りを見回してみると、廃工場の内部はすっかり荒れ果てていた。おそらくあのモンスターの攻撃でなんだろうけど…どこを見てもアイツの姿はなかった。

 

「…何処に行ったのよ」

 

まさか…あのモンスターにやられて…!

と、その時、誰かの話声が聞こえてきた。声の元を辿っていくと…それは目の前の床に大きく空いた穴の中から聞こえてきた。

穴の横には、アイツとアサイラントのデュエルディスクとデッキが転がっている…まさか!

 

……

………

 

「ねぇちょっと! 大丈夫―!?」

 

突然上の方からフレイヤの声が聞こえてきた。見上げると、フレイヤが穴の上からフレイヤが顔を出してこちらを覗きこむ。よかった、どうやら目を覚ましたらしい。

 

「フレイヤか!?」

 

「他に誰がいるっていうのよ。アンタ無事なのー?」

 

「俺は大丈夫だ。だけどアサイラントが怪我をしてて…そっちに俺のデュエルディスク落ちてないかー?」

 

「えぇ、こっちにあるわよー」

 

「じゃあそいつをこっちに投げてくれ」

 

フライヤの顔が引っ込むと、今度は俺とアサイラントのデュエルディスクが穴の中に放り込まれてきた。俺はそれを両手でキャッチし、デッキの中身を確認する。…よかった、抜けているカードはないようだ。

 

「ありがとう。俺達はここから脱出するから、お前は外に出てルイン達を探してきてくれ」

 

「わかったわ」

 

フレイヤの走りさっていく音が聞こえる。外に出たようだ。

 

「お前もデッキの中のカードを確認しておけよ」

 

「あぁ」

 

アサイラントにもディスクとデッキを返す。

…さて、今度はこの穴からの脱出だな。ここから出るのに適したモンスターは…やっぱりドラゴン系だよな。

 

「こい、『ライトエンド・ドラゴン』!」

 

『ライトエンド・ドラゴン』のカードをディスクにセットし、召喚する。そして出てきたのは純白のドラゴン、こいつに乗れば脱出できる。

『ライトエンド』は身体を地面に伏せ、首を下ろすと俺に目で合図をする。「乗れ」と言っているらしい。

 

「よっ…と。ほら、お前も」

 

「あぁ」

 

『ライトエンド・ドラゴン』の首の根元辺りに跨ると、アサイラントに手を差し伸べる。アサイラントは俺の手を掴むと背中に回され、しっかりと抱きしめる。

 

「しっかり掴まっていろよ。飛べ! 『ライトエンド・ドラゴン』!」

 

俺が合図すると、『ライトエンド』は翼をはためかせ、宙に舞い、そのまま上へ上昇していく。

 

………

……

 

「あ、いたいた! お姉さま方ー!」

 

工場の外に出て、辺りを見回していると、空を飛び回るルイン達を見つけ、フレイヤは大声で彼女達を呼んだ。ルイン達はフレイヤの存在に気がついたらしく、彼女の元へと駆け寄る。

 

「フレイヤ! 無事だったのか…よかった」

 

キリアがフレイヤの姿を見て、ホッと安堵した表情を見せる。

 

「フレイヤ…主は無事なのか?」

 

次にルインが心底心配そうな表情でフレイヤに尋ねる。

 

「えぇ、なんとか」

 

「ではあのアサイラントはどうしたんですの?」

 

「それが…」

 

……

………

 

「よし、ご苦労だったな、ライトエンド」

 

無事脱出できた俺は、『ライトエンド・ドラゴン』をカードの中に戻した。

 

「足はまだ痛むのか?」

 

「いや、大人しくしていたら痛みは引いたよ。見た目ほど酷い怪我ではないようだ」

 

確かにアサイラントの足は若干引きずってはいるが、歩く分には問題無いようだった。腫れも引いているようだし、これなら思っていたよりも近いうちに治るだろう。

 

「そうか、だけど念のためにお前の世界での医者に診てもらえよ」

 

「あぁ」

 

しばらく暗い所にいたせいか、外の日差しが眩しい。いつの間にか夕方になっていた。

結局学校サボってしまったな…もし今日アリアが来てたとするなら…悪いことしちゃったかもな。

 

「主!」

「主様!」

「マスター殿!」

 

突然、俺を呼ぶ声が聞こえ、声のした方を見るとルイン達がこちらに走ってきた。

 

「大丈夫か主!? 怪我はないか!?」

 

「あ、あぁ。見ての通り、なんともない」

 

「そうか、よかった…」

 

俺の無事な姿を見て、ルインは心底安心したようだった。当然か、今の今までルイン達は…もしかしたら俺がアサイラントにやられてしまったのではないかと思ってたんだからな。

 

「…」

 

その様子をアサイラントは無言で見ていた。

 

「貴様っ…!」

 

アサイラントの視線に気づいたルイン達は攻撃の態勢をとる。

 

「よ、よせ! そいつにはもう戦う意思はない!」

 

「しかし主様! この者は主様の命を…!」

 

ウェムコの話の最中、アサイラントは虚空から剣を取り出し、それを構える。

 

「…っ!?」

 

一瞬ビビる俺だったが、アサイラントはその剣を何もない空間に振り下ろす。すると、振り下ろされた場所が何かの入口のように縦に裂ける。これは裂け目には見覚えがある…『次元の裂け目』だ。

 

「…君の名は?」

 

アサイラントが裂け目の中に自分の片足を入れ、今にもその中に入りそうだった時、ふと俺にそんなことを聞いてきた。そういえば名前を名乗ってなかったな…。

 

「ゆ、遊煌だ。天領遊煌」

 

「天領遊煌、君には借りができた。いずれこの借りは返すとしよう」

 

「そんな大げさな…」

 

「それともう一つ、覇王の命を狙っている者は私だけではない」

 

「…」

 

それはつまり…また近いうち、俺が襲撃を受けるかもしれない、安心するのはまだ早いってことか…。

 

「忠告はしたぞ。では…いずれまた、借りを返すために近いうちに会うとしよう」

 

そう言ってアサイラントは裂け目の中に姿を消し、それと同時に裂け目は閉じ、そこにはまた先ほどと同じ何もない空間へと戻った。

 

「結局なんだったのよ? アイツ」

 

虚空に消えたアサイラントを指さしながらフレイヤが呟いた。

 

「まぁ、それは帰ってから話すさ」

 

アサイラントの忠告…それは俺にとって一時の覚悟を与えてくれるものとなった。今日みたいに何の前触れもなく命を狙われるのは勘弁だが、それが前もってわかっているのであればいくらか身構えることぐらいはできる。

俺の命…それが果たしてどれほどの価値を持つのかはわからない。だけど、少なくとも俺を必要としてくれている人達が俺の周りにいり以上、ただ黙ってやられるわけにはいかない。それだけは確かだった。

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

遊煌「今日の最強カードは?」

 

 

 

 

 

『フェアリー・チア・ガール』

☆4 光 天使族 ATK/1900 DEF/1500

天使族レベル4モンスター×2

このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。デッキからカードを1枚ドローする。「フェアリー・チア・ガール」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 

 

 

遊煌「天使族のランク4エクシーズモンスターだ。エクシーズ素材が指定されてはいるが、天使族のレベル4モンスターは種類が多く、且つ『雲魔物』のような破壊されにくいモンスターや、『デュナミス・ヴァルキリア』や『ハープの精』のような天使族の通常モンスターを『レスキューラビット』で呼び出し、瞬時にエクシーズ召喚することができる」

 

遊煌「効果自体はドロー効果のみと若干地味だが、天使族デッキにおいては『光神テテュス』と組み合わせることにより強力なドロー加速コンボを狙うことができる」

 

遊煌「また、効果を使い終わった後もカオスエクシーズチェンジして『CXダーク・フェアリー・チア・ガール』を召喚することができる。こちらは高い攻撃力に加え新たにバーン効果が付与されてるぞ。『RUM-バリアンズ・フォース』で相手のエクシーズ素材も奪って新たな効果を発動させよう」

 

フレイヤ「惜しいわよねぇ…ランクが1だったら『共振装置』なんて使わなくても私を素材にして召喚できたのに」

 

遊煌「いや、いくら同じチアガールだからってお前に合わせるのはどうかと…」

 

フレイヤ「なんですって!?」

 

遊煌「な、なんでもない! それじゃまた次回!」




久々のデュエルとなりました。
毎回前半・後半に分けるのもアレなんで今回は一括で投下してみることにしました。
なので若干長いですが…読みずらいですかね?

何気に遊煌の初エクシーズも登場し、デュエルの内容にも拍車がかかってきました。
ここんところデュエルしてなかったからなおさらなのかなw
ちなみに、次回もデュエルする予定なのであしからず。
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