遊戯王 ああっ破滅の女神さまっ   作:ダルクス

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アサイラントの襲撃があった翌日、遊煌はまた普段通り学校へと登校する。
復帰したアリアとも会え、会話も弾むなか、突然転校生が転入してきた。
その転校生とは…あの…!


第26話:「転校生は暗殺者!?」

翌日、今度は普通に起床し、俺は学校へと向かった。

昨日は大変な目に遭った…まさか自分が暗殺されかけるなんて、思ってもみなかった。

 

「昨日は無断欠席しちまったなぁ…先生になんて言い訳しよう…」

 

まさか暗殺されかけたなんて言えるはずもないしな…。

先生への言い訳を考えながら、俺は教室のドアを開けた。

 

「あ、おはよ遊煌君」

 

「アリア!?」

 

教室に入ると、俺の隣の席にアリアが着席していた。

 

「来てたのか、もう身体の具合は大丈夫なのか?」

 

「うん。本当は昨日から来てたんだけどね…」

 

「あ…そうだったのか」

 

アリアのちょっと残念そうな顔を見て、俺は内心申し訳なく感じてしまう。

しまったなぁ…やっぱり昨日は行くべきだったな。

 

「遊煌君こそ昨日はどうしたの? 先生ちょっと怒ってたよ」

 

「うっ…やっぱりか。え、え~っとだな、昨日は……そ、そう! 寝坊してそのまま昼まで寝てて…ま、まいっちゃうよなぁ、ルイン達も起こしてくれれば」

 

「…ふーん、そうだったんだ。ダメだよ、ちゃんと起きないと」

 

「あぁ、今度からは気をつけるよ」

 

と、言い訳もアリアとの会話の中でなんとか思いついたところで、ホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任教師が入って来た。

てっきり俺を見るなり、昨日の事について問いただすのかと思いきや…。

 

「みんな、席についてるな。…え~、突然なんだがこの教室に新しい仲間が加わることになった」

 

ざわ…

    ざわ…

  ざわ…

 

先生の突然の宣言に、教室全体がざわつく。

新しい仲間…? それってつまり、この教室に転校生が来るってことか? 随分急な話だな…。

 

「それじゃ、入ってきなさい」

 

先生の呼びかけに応じ、その転校生が教室の中に入ってきた。

 

「男…いや、女の子?」

「かっこいいよね~」

「外人さんみたい」

 

入ってきた転校生を見て、クラスのみんなが口々に小声で感想を述べる。

転校生は黒板に名前を書くとこちらに向き直り、自己紹介をする。

 

「浅井 蘭です、よろしく頼む」

 

簡潔に名前と挨拶だけを述べたそいつは、俺は見覚えがあった。短く切り揃えられた金色の髪に青い瞳…。全身を覆うレアメタルのアーマーや、顔を隠す覆面等は無いものの、それはどう見ても昨日俺を暗殺しようと狙ってきたD.D.アサイラントだった。

 

 

 

 

 

―――――第26話:「転校生は暗殺者!?」――――

 

 

 

 

 

(なにやってんだ…? あいつ…)

 

奴のこの行動の真意もわからないが、なによりその容姿でバリバリ日本人の名前は無理があるだろう…と、俺は内心つっこんだ。

 

「それじゃあ浅井の席は…天領の後ろが空いてるな。よし、じゃあそこに座ってくれ」

 

「はい」

 

「え…」

 

浅井 蘭はすたすたと先生が指さした俺の後ろの席に歩いてくるが、俺は思わず苦い顔をした。

 

「さて、転校生を紹介したところだし、天領」

 

「は、はい!?」

 

不意に先生からの呼び出しをくらった俺は少し慌ててしまう。

 

「昨日休んだ理由を聞きたい。ホームルームが終わったらちょっと来い」

 

「はい…」

 

やっぱ先生…転校生が来たからって俺のことを忘れてるわけじゃなかったんだな…。

 

………

……

 

「ねぇねぇ、浅井さんてどこの学校から来たの?」

「本当に日本人なのー?」

「好きな男性のタイプは?」

「おい、デュエルしろよ」

「罵って下さい!」

 

1時間目の授業が終わると、浅井はすぐにクラスのみんなに取り囲まれ、質面攻めにあう。当然だろう、こんな突然に転校生だなんて、みんな気になるにきまってるものな。俺だってなんでこいつがここにいるのか、気になっているところだ。

 

「すまないが、どの質問にも答えることはできない」

 

「え~、なんで~?」

「ますます気になる~」

 

 

 

「すごい人気ね、あの転校生」

 

「人気なのはわかってるから…お前は俺の机の上に座るのをやめてくれないか?」

 

俺の机の上に足を組んで座っている小日向を見上げながら文句をこぼす。

ホームルームの後、先生に休んだ理由を執拗に追及された俺は朝からテンションがだだ下がりだった。

 

「細かいこと気にするんじゃないの。そう言えばアンタ、もしかしてあの転校生と知り合い?」

 

「へ…? な、なんでそんなこと聞くんだ?」

 

「ん~…なんかあの転校生見た時、アンタの顔が微妙に驚いてるように見えたから」

 

おいおいマジか…女ってのは鋭いな。

だけど、本当の事を言うわけにもいかないし、ここはやっぱり…。

 

「べ、別にそんなことねーよ…あいつとも初対面だし」

 

「へ~、本当に初対面なんだ」

 

と、今度は隣のアリアが便乗してきた。

 

「なんだよアリア? お前まで…」

 

「ん~ん、別に。ただ……それもまた嘘なんじゃないかなって思って…」

 

「え…?」

 

「ん、なんでもないなんでもない♪」

 

アリアが何か言ったような気がしたが、すぐに無垢な笑顔を向けられて話をはぐらかされてしまったため、俺はそれ以上関心を持たなかった。

 

 

 

「君達、そろそろ次の授業が始まるから席に戻った方がよくないか?」

 

「そうね~」

「またね、浅井さん」

 

転校生熱が冷めるまではこの調子かなぁ。

とりあえず、こいつとは一度話をしておきたい。昼休み頃には話ができるかな。

 

………

……

 

さて、昼休みだ。

すぐにでも話を聞きたいところだが、ここは人目につくからどこかに場所を移そう。

 

(ちょっと話がある。一緒に屋上に来てくれ)

 

(…わかった)

 

浅井の傍で小声で指示すると、浅井も了解したようだ。

俺達は誰にも気づかれぬように、無言で教室を出て屋上へと向かう。

 

 

 

「ねぇねぇ加護さん、浅井さん知らない?」

 

先ほど浅井に質問をしていた女子生徒の一人がアリアに話しかける。

 

「え、浅井さん? さぁ…さっきまでいたんだけど」

 

「そう…せっかくお昼誘ってみんなで一緒に食べようかなって思ってたのにな~」

 

そう言って女子生徒は他の生徒たちと共に昼食を食べ始める。

 

(そういえば遊煌君もいない…せっかく一緒にご飯食べようと思ってたのに…)

 

………

……

 

「なんでお前がここにいるんだ!?」

 

「今更だな」

 

長い間疑問だったことをようやくこの屋上でぶちまける。

 

「言っただろう? 借りは返すと」

 

「だからって…なにも学校にまで来ることないだろ。しかも昨日の今日でよく転入できたな…」

 

「まぁいろいろ、な」

 

と、浅井…もといアサイラントはニヤリと嗤う。

その『いろいろ』ってのが凄く怖いんですが…。

 

「それに、借り意外にも返す物がある。ほら」

 

そう言って浅井が制服のポケットから取りだしたのは、あの時怪我をしたアサイラントの足に巻いたネクタイだった。

 

「これは…あの時のか。こんなの別に返さなくてもいいのに…予備だってあるし」

 

現に今俺が付けているネクタイは予備のものだ。

 

「そうはいかない。これは君の物なんだからな」

 

…まぁ、そこまで言うんだったら…。

俺は浅井が差し出したネクタイを受け取ると、制服のポケットの中に入れた。

 

「一応、礼は言っておくよ。ありがとう」

 

「礼には及ばない」

 

「で、本当に借りを返すだけのためにこの学校に入ってきたのか?」

 

「いや、もちろんそれだけではない」

 

そう言うと、浅井の眼差しが突然鋭くなり、真剣さが増す。

 

「前も言ったが、覇王の魂を宿した君は私達の世界から様々な奴に狙われている。君は自分で始末をつけると言ったが、万が一の場合には私が覇王への復讐を遂げる。そのためには他の奴に横取りされるわけにもいかないし、邪魔をされるわけにもいかない。だから、君は私の目の届く場所にいた方がいい。そう判断したからこの学校に潜入したというわけだ」

 

なるほど…要するにこいつは、俺が他の誰かに取られないように学校では常に俺の身近にいるってわけか。

…聞こえはいいけど、取られるって命のことだからね? これ。

 

「つまりお前は、俺を殺すために他の奴から俺の命を守ると?」

 

「まぁ、状況的にはそういうことになる」

 

「はぁ…」

 

あまりに矛盾したその答えに、俺は身体の力が抜けてため息が出る。

 

「呆れたか? ふふん、まぁそうだろうな。自分でも矛盾しているとは思う」

 

「…まだ自覚がある分、お前って奴はマトモなのかもな」

 

「随分な言いようだな。…だが、どうやら私の考えは間違っていなかったようだぞ」

 

「え?」

 

浅井の意味深な発言の直後だった。

 

ヒュッ!

 

空を裂き、屋上の入口の陰から何か細長い物が飛び出し、それは一直線に俺に向かう。

 

「ふんっ!」

 

ガキィンッ!

 

だが、浅井の懐から出したくないにより、その細長い物体は弾かれ、コンクリートの床に突き刺さる。

突き刺さったそれをよく見てみると…槍? 鋭い矢じりの付いた、金属製の重量感ある槍だった。

 

「なんでこんな物が…」

 

「新しい刺客のようだな…出てこい!」

 

浅井の呼びかけに応じ、槍を放った張本人が屋上の出入り口の死角から出てきた。

丸いボディに2枚の翼…そいつは空中を飛行しながら俺達の前まで出て来る。

 

「こいつは…メカ・ハンター?」

 

『メカ・ハンター』はデュエルモンスターズの機械族モンスターの1体だ。それがこんなところにいるってことは…こいつもまたカードの精霊ってことか?

 

「どうやら、こいつが次なる君への刺客というわけのようだな」

 

「ピピピピッ…目標確認、攻撃行動ニ移ル」

 

耳障りな電子音と共にメカ・ハンターの頭部センサーが赤く輝くと、その丸い球体の中から細長いロボットアームが何本も出て来る。そのアームの先には、剣や鎌など、物騒な武器がたくさん付いている。

するとそれらの武器を構えると、メカ・ハンターは羽のスラスターから炎を噴き出しながら俺目がけて突進する。あまりの速さに逃げることに遅れた俺だったが、瞬時に浅井が俺の前に割って入り、その両手に構えたくないでメカ・ハンターの攻撃を受け止めると、両者ともそのまま鍔迫り合いながら動かなくなる。

 

「お前…!」

 

「この男は私の獲物だ…誰にも邪魔させん!」

 

大きく腕を振るってメカ・ハンターの攻撃を弾くと、そのままくないを振りかぶる。しかし、メカ・ハンターの狙いはあくまで俺。浅井の攻撃をかわし、そのまま無視するとまた一直線に俺の方へと迫る。

 

「くっ…!」

 

慌てて浅井が地面を蹴ってメカ・ハンターの前に立ちはだかり、動きを止める。

『ターゲットを捕まえるまで追いつづけるハンター』…不意にそんな言葉が脳裏をよぎった。メカ・ハンターのフレーバーテキストの一文だ。今のこいつはまさに俺を追うことだけを目的としたハンター…故にどれだけ逃げたとしても追いかけてくる。どうすれば…!

 

(このまま戦い続ければ、この男にも学校にも被害が出てしまう…ならば!)

 

浅井はメカ・ハンターの動きを止めている両腕を思いっきり振るうと、その衝撃でメカ・ハンターが後ろに吹き飛ばされる。しかし、すぐに空中で姿勢を立てなおすとまた武器を構える。

 

「待て! あくまでこの男を狙うというのであれば、まずはデュエルで私を倒せ!」

 

浅井のその言葉に、メカ・ハンターの動きが一瞬止まる。

 

「お、お前! 一体何言って…!」

 

「真っ向からの私の力では、こいつを止めることは難しい。かといって君にどうにかできるわけではない。ならば、私がデュエルでこいつを蹴散らす!」

 

「でも…お前達精霊のデュエルって命かけるんだろ! そんなのにお前が負けたら…!」

 

「私が負けると思っているのか?」

 

と、浅井は鋭い眼光を俺の方に向ける。

 

「安心しろ、私は強い」

 

そして、ニヤリと嗤った。

…そういうこと自分で言うか? 普通。

だがその笑顔を見ると、何故か心の内から頼もしく思えて、安心できるような気がしてきた。

 

「さぁ、どうする!? ここでデュエルを拒めば、私は何度でもお前の攻撃を阻止するぞ!」

 

メカ・ハンターは何か考えているようだが、やがてアームの武器を引っ込めるとまたも電子音混じりの機械音声を放つ。

 

「ピピピピピッ…優先ターゲットヲ変更。デュエルモードスタンバイ」

 

引っ込めたアームをまた展開すると、今度はアーム部分にデュエルディスクが装着されていいた。どうやらこのデュエルを受ける気になったようだ。

 

「機械のくせに話がわかるやつだ。それでは…始めよう」

 

浅井もまた、異次元の裂け目を発生させるとその中に手を入れ、デュエルディスクを取り出して右腕に装着する。

 

「いくぞ…」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

俺の命がかかったこのデュエル…いや、俺だけじゃない。浅井の命だってかかってる筈だ。だとしたらこのデュエル、何が何でも浅井には勝ってほしい。あいつ…かなり余裕こいてたけど大丈夫なのかな…?

頼もしいとは思えても、いざ始まってみると少し不安なものだった。

 

「先攻ハ私ノターンカラデス、ドロー」

 

先攻はまずメカ・ハンターの方からだ。メカ・ハンターは器用にアームを駆使してデッキからカードを引き、そして手札のカードをデュエルディスクにセットする。

 

「私ハ『ジェネクス・ニュートロン』ヲ攻撃表示デ召喚」

 

【ジェネクス・ニュートロン】 ☆4 光 機械族 ATK/1800 DEF/1200

 

「サラニ、永続魔法『機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)』ヲ発動。リバースカードヲ1枚セットシ、ターンエンドデス。ソシテコノエンドフェイズ時、『ジェネクス・ニュートロン』ノ効果発動」

 

『ジェネクス・ニュートロン』の身体が輝き、ワームホールのような空間が発生する。

 

「『ジェネクス・ニュートロン』ガ召喚ニ成功シタターンノエンドフェイズ時、デッキカラ機械族ノチューナーモンスター1体ヲ手札ニ加エマス。私ハチューナーモンスター、『A・ジェネクス・バードマン』ヲ手札ニ加エマス」

 

空間の中からカードが1枚出現し、それはメカ・ハンターの手札に加わった。

 

△――――

□■―――

メカ・ハンター:手札4枚 LP4000

モンスター:『ジェネクス・ニュートロン』

魔法・罠:『機甲部隊の最前線』、伏せ1枚

 

メカ・ハンターはチューナーモンスターをサーチしたか。

だとすると…モンスターを残しておくのは不味い。次のターンでシンクロ召喚に繋げられてしまうからな。

当然それを浅井もわかっている筈だ。

 

「私のターン、ドロー。私は『異次元の生還者』を召喚」

 

【異次元の生還者】 ☆4 闇 戦士族 ATK/1800 DEF/200

 

現れたのはボロ布を纏った金髪の青年だった。

 

「モンスターガ召喚サレタコノ瞬間、トラップカード発動」

 

メカ・ハンターがディスクのスイッチを押すと、リバースしていたカードが表になる。

 

「トラップカード、『隠れ兵』。相手ガモンスターヲ召喚シタ時、手札カラレベル4以下ノ闇属性モンスター1体ヲ特殊召喚シマス。ワタシハ『(アーリー)・ジェネクス・ドゥルダーク』ヲ召喚」

 

(アーリー)・ジェネクス・ドゥルダーク】 闇 機械族 ATK/1800 DEF/200

 

「新しいモンスターだと!?」

 

「『A・ジェネクス・ドゥルダーク』…あのモンスターは確か、1ターンに1度、このカードと同じ属性の相手モンスター1体を破壊する…だったか」

 

俺が驚いていると、浅井が淡々とカード効果を説明した。

どちらのモンスターも『異次元の生還者』と同じ攻撃力1800…狙うべきは当然『ドゥルダーク』の方だが、浅井はどうするつもりなんだ?

 

「私は装備魔法、『ビッグバン・シュート』を『異次元の生還者』に装備する」

 

突如『異次元の生還者』の右足が燃え上がり始める。

 

異次元の生還者:ATK/1800→2200

 

「『ビッグバン・シュート』を装備したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。いけ『生還者』! 『ドゥルダーク』に攻撃だ! ≪ディメンション・シュート≫!!」

 

『異次元の生還者』が上空へ高く舞い上がると、そのまま『ドゥルダーク』に向かって強烈な蹴りをお見舞いする。

 

「ピピッ…ジジジッ……」

メカ・ハンター:LP4000→3600

 

メカ・ハンターの電子音に僅かにノイズが入る。

よし、攻撃が利いている証拠だ。

 

「『機甲部隊の最前線』ノ効果発動。機械族モンスターガ戦闘ニヨッテ破壊サレ、ボチヘ送ラレタ場合、デッキカラソノモンスターノ攻撃力以下ノ同ジ属性ノ機械族モンスター1体ヲ特殊召喚シマス。私ハ闇属性機械族モンスター、『A・ジェネクス・ベルフレイム』ヲ特殊召喚」

 

【A・ジェネクス・ベルフレイム】 闇 機械族 ATK/1700 DEF/1000

 

くっ…結局奴のフィールドのモンスターの数は変わらない…次のターンでシンクロ召喚を許す形になってしまうか。

だが浅井はこの状況にちっとも慌てていない様子だった。流石というかなんというか…。

 

「私はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

△――――

□■―――

浅井:手札3枚 LP4000

モンスター:『異次元の生還者』

魔法・罠:『ビッグバン・シュート』、伏せ1枚

 

「私ノターン、ドロー。…リバースカードスキャン」

 

メカ・ハンターのセンサーが輝く。何をしているのかと疑問に思っていると…どうやら浅井のリバースカードを凝視しているようだ。まさか…リバースカードの透視をしているのか?

 

「リバースカードスキャン終了…攻撃反応型トラップカードデアル確率、74%」

 

確率…? こいつはリバースカードの透視ではなく、予想をしていたのか。

しかし、だからといってどうするつもりなんだ…?

 

「私ハ場ノ『ジェネクス・ニュートロン』ヲ手札ニ戻シ、手札カラ『A・ジェネクス・バードマン』ヲ特殊召喚」

 

【A・ジェネクス・バードマン】 闇 機械族 ☆3 ATK/1400 DEF/400 チューナー

 

『ニュートロン』の姿が消え、代わりに鳥の頭をしたモンスターが旋風と共に出現する。

 

「チューナーモンスターを特殊召喚だと!?」

 

「『A・ジェネクス・バードマン』ハ、場ノモンスター1体ヲ手札ニ戻スコトニヨリ、特殊召喚デキマス」

 

わざわざ通常召喚できるチューナーモンスターを特殊召喚したのは…おそらくまた『ジェネクス・ニュートロン』の効果を再利用するためか。だとするなら…奴が最優先で考えるのは、浅井のリバースカードを発動させなくさせることだとは思うが…!

 

「サラニ手札カラ、『A・ジェネクス・ケミストリ』ノ効果ヲ発動。属性ヲ一ツ宣言シ、手札ノコノカードヲ墓地ニ送ルコトニヨリ発動。自分フィールドノ『ジェネクス』ト名ノ付イタモンスター1体ノ属性ヲ、自分ガ指定シタ属性ニシマス。私ハ『A・ジェネクス・ベルフレイム』ノ属性ヲ地属性ニ変更」

 

【A・ジェネクス・ケミストリ】 闇 機械族 ☆2 ATK/200 DEF/500 チューナー

 

A・ジェネクス・ベルフレイム:闇属性→地属性

 

「ソシテレベル4、『A・ジェネクス・ベルフレイム』ニレベル3、『A・ジェネクス・バードマン』ヲチューニング」

 

『バードマン』が3つの星に姿を変えると、その星は『ベルフレイム』と重なり合い、光の中から新たなモンスターが姿を現す。

 

「シンクロ召喚、『A・ジェネクス・トライフォース』」

 

【A・ジェネクス・トライフォース】 闇 機械族 ☆7 ATK/2500 DEF/2100

 

光の中より出現したシンクロモンスター、『A・ジェネクス・トライフォース』はメカ・ハンターの前に降り立つ。

 

「コノ効果ニヨリ特殊召喚シタ『A・ジェネクス・バードマン』ハ、墓地ニ送ラレル場合ゲームカラ除外シマス。ソシテバトル、『A・ジェネクス・トライフォース』デ『異次元の生還者』ニ攻撃」

 

『トライフォース』は右手のガンランチャーを『生還者』の方に向ける。さらにそれと同時にガンランチャーの3つの銃口の内、茶色の銃口から波紋状の超音波のようなものが浅井のリバースカードに向けて照射される。

 

「これは…!」

 

「『A・ジェネクス・トライフォース』ガ地属性モンスターヲシンクロ素材とシタ場合、コノカードノ攻撃宣言時、相手ハダメージステップ終了時マデ魔法・トラップカードハ発動デキマセン」

 

「チッ… (伏せていた『次元幽閉』は読まれているか…!)」

 

三つの銃口から発射されたビームは一点に混ざり合い、『異次元の生還者』を呑み込み、そのまま消滅する。

 

「くっ…まだまだ」

浅井LP:4000→3700

 

「メインフェイズ2ヘ移行、私ハ『ジェネクス・ニュートロン』ヲ召喚。ソシテエンドフェイズ、『ジェネクス・ニュートロン』ノ効果ニヨリ、デッキカラ機械族ノチューナーモンスター、『A・ジェネクス・リモート』ヲ手札に加えます。ターンエンド」

 

△△―――

□――――

メカ・ハンター:手札3枚 LP3600

モンスター:『A・ジェネクス・トライフォース』、『ジェネクス・ニュートロン』

魔法・罠:『機甲部隊の最前線』

 

こいつ…浅井が攻撃反応型のトラップを伏せていると予測しているためか、『ジェネクス・ニュートロン』で攻撃してこない…! 慎重に攻めるのは…機械故に計算しているからか。

 

「私のターン、ドロー」

 

だが当の浅井はあまり気にしていない様子だった。

どうするつもりだ…? 奴の場には攻撃力2500のシンクロモンスター…おまけに戦闘で破壊しようものなら『機甲部隊の最前線』で次々にモンスターが沸いてくる…どうすれば…!

 

「どうした? そんな苦々しい顔をして」

 

「…!」

 

と、俺の心の内をまるで読んだかのように浅井が俺の顔を見てそう言った。

 

「この状況は私にとってかなり不味い…そう考えているな? 君は」

 

「…なんだよ、じゃあこの状況を瞬時にひっくり返せるとでも言うのかよ!」

 

「あぁ、ひっくり返せるさ」

 

そんな…あっさりと!

浅井…いや、アサイラントのデュエルの腕は、俺なんかよりもかなり上だということは、この前のデュエルを見てても明らかだった。だとするなら…どんな方法でこの状況を変えるのか、見させてもらおうじゃないか。

 

「私は、『同族感電ウィルス』を召喚!」

 

【同族感電ウィルス】 水 雷族 ☆4 ATK/1700 DEF/1000

 

『同族感電ウィルス』…そうか、そのカードがあったか!

 

「『同族感電ウィルス』は、手札のモンスター1体をゲームから除外することで、そのモンスターと同じ種族のモンスターを全て破壊する! 私は手札の『異次元の偵察機』を除外! 『異次元の偵察機』の種族は機械族…よってフィールドの全ての機械族モンスターは全て破壊だ!」

 

『同族感電ウィルス』が周囲に広がっていき、その球体から電撃が迸り、その電撃は他の球体へと電導していき、中央の『A・ジェネクス・トライフォース』と『ジェネクス・ニュートロン』目がけて電撃が浴びせられる。

 

「電磁照射! ≪スパーク・ショックウェーブ≫!!」

 

電撃を浴びせられた2体の機械族モンスターは、ショートしてしまったのか内部から煙や放電が起こり、やがて爆発し、消滅した。

 

「これでお前の場はガラ空き。『同族感電ウィルス』でダイレクトアタックだ!」

 

電気を帯びた球体がメカ・ハンターのいる場所まで移動し、その電撃を今度はメカ・ハンター自身に浴びせる。

 

「ギギギギギッ」

メカ・ハンター:LP3600→1900

 

声にならない悲鳴のような電子音をあげて、放電が止むとメカ・ハンターのボディが少し黒く焦げる。

 

「あいつ…本当にあの状況を簡単にひっくり返しちまった…」

 

俺は小声で呟く。

おそらく浅井はあの『同族感電ウィルス』と『異次元の偵察機』のカードを最初から手札に持っていたのだろう。相手がこうやって、エース級のモンスターを出すまで待っていたっていうわけだ…。そうして相手の手の内を読み、段々と追い詰めていく。同じだ…俺とデュエルした時と。

 

「さらにシンクロモンスターを破壊したこの瞬間、手札から速効魔法『グリード・グラード』を発動。自分のデッキからカードを2枚ドローする。…私はこれでターンエンド。そしてエンドフェイズ時、ゲームから除外した『異次元の偵察機』は攻撃表示で特殊召喚される」

 

【異次元の偵察機】 闇 機械族 ☆2 ATK/800 DEF/1200

 

△△―――

■――――

浅井:手札3枚 LP3700

モンスター:『同族感電ウィルス』、『異次元の偵察機』

魔法・罠:セット1枚

 

「私ノターン、ドロー」

 

モンスターを全滅させられて意気消沈かと思いきや、そこは機械、全く動じていないようだった。

 

「戦術変更、プランBニ移行。マズハ速効魔法、『サイクロン』ヲ発動。フィールドノ魔法・トラップカード1枚ヲ破壊シマス。私ハ貴女ノ場ノ伏セカードヲ破壊」

 

メカ・ハンターが『サイクロン』のカードを掲げると、そこから竜巻が発生し、浅井の場の伏せカードを呑み込む。

 

「チッ…『次元幽閉』が破壊されたか」

 

浅井は渋々伏せていた『次元幽閉』のカードを墓地に送った。

 

「サラニ私ハ『カードガンナー』ヲ召喚」

 

【カードガンナー】 地 機械族 ☆3 ATK/400 DEF/400

 

両手がキャノン砲となり、おもちゃのような成形色と外観のモンスターが、キャタピラをキュラキュラと鳴らしながら出現した。

『カードガンナー』だと? 『A・ジェネクス』じゃないのか? さっきこいつはプランBがどうとか言っていたが…先ほどと戦術を変えるということか?

 

「『カードガンナー』ノ効果発動。1ターンニ1度、デッキノ一番上カラカードヲ3枚マデ墓地ニ送ルコトガデキマス。ソシテ1枚ニツキ、エンドフェイズ時マデ攻撃力ガ500ポイントアップシマス」

 

つまり…最大で1900まで攻撃力を上げられるってことか。虎の子の『同族感電ウィルス』よりも攻撃力が上がってしまう…!

 

「私ハ3枚ノカードヲ墓地ニ送リマス」

 

墓地に送ったカード:

『リミッター解除』

『サイバー・ドラゴン』

『速効のかかし』

 

カードガンナー:ATK/400→1900

 

攻撃力が上がると同時に、『カードガンナー』の胸のメーターがMAXまで上昇する。

 

「『カードガンナー』デ『同族感電ウィルスに攻撃』」

 

『カードガンナー』が両腕のキャノンを『同族感電ウィルス』の球体群のほぼ中央に照準を定めると、キャノン砲から赤いビームが発射され、ビームは球体に反射しながらウィルス達を殲滅する。

 

「っ…!」

浅井:LP3700→3500

 

浅井が少し苦い顔をするが、ライフポイントは浅井の方が余裕がある。まだまだ大丈夫な筈だ。

 

「私ハカードヲ1枚セットシ、ターンエンド。ソシテコノエンド時、『カードガンナー』ノ攻撃力ハ元ニ戻リマス」

 

カードガンナー:ATK/1900→400

 

△――――

□■―――

メカ・ハンター:手札2枚 LP1900

モンスター:『カードガンナー』

魔法・罠:『機甲部隊の最前線』、伏せ1枚

 

「私のターン、ドロー」

 

『カードガンナー』…あのモンスターは確か、攻撃力アップの効果以外にも破壊され墓地に送られたときにデッキからカードを1枚ドローするという効果がある。今あいつの手札は1枚…そのカードはさっきサーチした『A・ジェネクス・リモート』だということがわかっている。『機甲部隊の最前線』もあるし、ここはできるだけ『カードガンナー』を墓地に送らず破壊し、アドバンテージの差を開いておきたいところなんだが…。

 

「私は『異次元の偵察機』をリリースし、『聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク』を召喚!」

 

聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】 光 戦士族 ☆6 ATK/2300 DEF/1800

 

『異次元の偵察機』の姿が消え、代わりに大ぶりの剣を持った光り輝く甲冑に身を包んだ騎士が出現した。

攻撃力2300! これならこのターンで決着をつけることができる!

 

「聖なる力を備えた高等騎士の力、その身で味わえ! 私は『イシュザーク』で『カードガンナー』に攻撃! ≪ブレイク・ダウン・ディストーション≫!!」

 

『イシュザーク』の持つ刀身が輝くと、それを構えて聖導騎士は疾走し、直上に飛び上がると『カードガンナー』目がけて剣を振り下ろす!

『イシュザーク』の攻撃力は2300、『カードガンナー』の攻撃力はたった400、ダメージ差は1900! ちょうどメカ・ハンターのライフポイントと同じだ! この攻撃が通れば…!

 

「リバースカード、『収縮』発動。コノカードハ対象ニシタモンスター1体ノ攻撃力ヲ半分ニシマス。対象は『聖導騎士イシュザーク』デス」

 

聖導騎士イシュザーク:ATK/2300→1150

 

『収縮』の効果により『イシュザーク』の体が縮み、攻撃力も落ちる。

くっ…やはり一筋縄ではいかないか。

 

「ふん…まぁそんなところだろうとは思っていたさ。攻撃続行!」

 

だが浅井はその程度のことは予測済みだったと言わんばかりに攻撃を再開する。小さくなったとはいえ、『カードガンナー』を破壊するには十分な威力のその剣は、真上から『カードガンナー』を真っ二つに切り裂いた。

 

「ギギギギギギッ…!」

メカ・ハンター:LP1900→1150

 

「ついでに言っておくが、『イシュザーク』は戦闘で破壊したモンスターをゲームから除外する効果がある。よって『カードガンナー』のドロー効果と『機甲部隊の最前線』の効果は発動しない」

 

流石浅井…転んではただでは起きない。トドメは刺せなかったが、アド差を広げることには成功したようだ。これなら勝てるぞ!

 

「(念には念を入れ…)私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

△――――

■――――

浅井:手札2枚 LP3500

モンスター:『聖導騎士イシュザーク』

魔法・罠:伏せ1枚

 

「私ノターン、ドロー。……」

 

メカ・ハンターの動きが止まった…? 何か引いたカードを見て、次に墓地、そして浅井の場を確認しているようだが…戦術とやらを考えているのか? あるいは…。

 

「コノターンデ私ガ勝利スル確率、84%」

 

「なにっ!?」

 

84って…結構な数値じゃないか。こいつは一体何を以てその数値を導き出してるんだか…。

 

「私ハ『A・ジェネクス・リモート』ヲ召喚」

 

【A・ジェネクス・リモート】 闇 機械族 ☆3 ATK/500 DEF/1800 チューナー

 

「チューナーモンスターを召喚した? ということは狙うは…シンクロ召喚か!」

 

「…いや、どうやら違うようだ」

 

「私ハ手札ヨリ魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』ヲ発動。フィールド・墓地カラ融合モンスターカードニヨッテ決メラレタモンスターヲゲームカラ除外シ、闇属性・機械族ノ融合モンスター1体ヲ、融合召喚扱イトシテ特殊召喚シマス。私ハ場ト墓地ノ『サイバー・ドラゴン』ヲ含ム機械族モンスター9体ヲ融合」

 

突如フィールドに赤い火花が散る黒い空間が出現し、そこにメカ・ハンターの場のモンスターと墓地に存在するモンスターが吸い込まれる。

 

融合素材モンスター:

『サイバー・ドラゴン』

『A・ジェネクス・ドゥルダーク』

『A・ジェネクス・ベルフレイム』

『A・ジェネクス・ケミストリ』

『A・ジェネクス・トライフォース』

『ジェネクス・ニュートロン』

『速効のかかし』

『カードガンナー』

『A・ジェネクス・リモート』

 

「機械族9体だと!?」

 

そんなに多くのモンスターの融合を必要とするモンスターが……いや、1体だけある。それはこの世界において幻とされているサイバー流というデュエル流派のみが扱うことを許されるモンスター…『サイバー・ドラゴン』。そしてその禍々しき姿故、伝承者でさえ使用することを躊躇うとまで言われている伝説のモンスター…!

 

「融合召喚、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』」

 

一瞬、空間内が圧縮されたかと思うと突如として一気に膨れ上がり、爆発する。

そしてその爆発の煙の中から…なにか細長い蛇のような胴体が出現する。

メタリックに黒光りしながら、それはとぐろを巻いていくつもの穴が空いた胴体を持ち上げる。

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】 闇 機械族 ☆9 ATK/? DEF/? 融合

 

「これが…サイバー流伝承者のみに与えられるという…邪竜、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』…!」

 

「攻撃力が決まっていない…?」

 

驚く俺とは対照的に、浅井の態度は実に淡々としたものだった。

 

「『キメラテック・オーバー・ドラゴン』ノ召喚ニ成功シタ時、私ノ場ノ他ノカードヲ全テ墓地ニ送リマス」

 

メカ・ハンターの場の『機甲部隊の最前線』が墓地に送られる。

 

「更ニ、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』ノ攻撃力ト守備力ハ、融合素材ニ使用シタ機械族モンスターノ数×800ポイントトナリマス。融合素材ニ使用シタモンスターノ数ハ9体、ヨッテ攻撃力ハ」

 

『キメラテック・オーバー・ドラゴン』の穴の空いた胴体からにょきにょきと頭部が生え、それは融合素材に使用したモンスターの数と同じ、10本の頭部が生え、雄たけびをあげる。

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン:ATK/?→7200

 

「攻撃力…7200だと…!? お、おい! お前…こんなの相手にしてもまだ大丈夫なんて言えるのかよ!」

 

「当たり前だ。私を倒すにはこの程度の攻撃力ではまだまだ足りないな」

 

こんな状況でも浅井はまだ余裕綽々といった様子だった。マジかよ…。

 

「バトルフェイズ、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』デ『聖導騎士イシュザーク』ニ攻撃」

 

『キメラテック・オーバー・ドラゴン』の9つの口の奥からそれぞれ赤いブレス攻撃が放たれ、それは1点に混ざり合い、『イシュザーク』へと向かう。

ダメだ…! あんな圧倒的な攻撃力で攻撃されたら…いくら浅井でも…!

 

「トラップ発動、『ライジング・エナジー』! 手札を1枚捨て、フィールドのモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで1500ポイントアップさせる! 私は『イシュザーク』の攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

聖導騎士イシュザーク:ATK/2300→3800

 

『キメラテック・オーバー・ドラゴン』の放った攻撃は『イシュザーク』に直撃した。が、『イシュザーク』はその攻撃をより輝きの増した刀身で受け止める。…が、限界が来たらしく、構えた剣は粉々に砕け、自身もブレス攻撃を浴びてしまい、消滅する。

 

「ぐっ…があああああっ…!」

浅井:LP3500→100

 

浅井自身も攻撃の余波を受けてしまい、後ろに吹き飛ばされそうになる。が、彼女は2本の足でしっかりと踏ん張り、攻撃の衝撃をものともせずにそこに立ち続ける。…が、攻撃を受けたことには変わりない。攻撃力7200の攻撃はやはり凄まじく、ライフポイントが一気に削らされてしまった。

 

「い…言わんこっちゃない! お前もう100しかライフポイントないじゃねぇか!」

 

「…余計な心配は無用だ。奴はこのターンで全ての手札を使いきった。もうこれ以上攻める手立てはない。そうだろ!」

 

「…私ハコレデ、ターンエンド」

 

△――――

□――――

メカ・ハンター:手札0枚 LP1150

モンスター:『キメラテック・オーバー・ドラゴン』

魔法・罠:なし

 

「私のターン…」

 

と、浅井はここでデッキの一番上のカードに指を置き、目を閉じる。

そして何かを感じ取ったのか、決心したようにデッキの一番上のカードを引く。

 

「…ドロー!」

 

浅井のライフポイントは残りたった100ポイントでフィールドには何もカードがない。このターンでなんとかしなければ敗北は確実…なのだが。

 

ドローしたカードを見て、浅井が笑った。

 

「この勝負…貰ったぞ! 私は墓地に存在する光属性モンスター、『聖導騎士イシュザーク』と、闇属性モンスター、『異次元の偵察機』を除外する!」

 

墓地の光と闇を除外!?

なんだこれは…? 俺の持つ『カオス・ソーサラー』の召喚条件に似ているが…これは…!

 

 

 

 

 

   ―一つの魂は光を誘い、一つの魂は闇を導く!―

 

―光と闇は一つとなり…混沌の力を得た超戦士を呼び起こす!―

 

 

 

 

浅井の墓地から…『イシュザーク』と『偵察機』の魂だろうか? 黄色と紫色の球体が飛び出し、それらは空を舞いながら交錯し合い、混ざり合った一点から光が溢れる。

光は同時に闇を作りだし、それら光と闇が混合する一点から1体のモンスターが出現する。

金色に輝く鎧を纏い、剣と楯を携えた戦士…それは浅井の場に降り立つと、兜の奥から鋭い眼光を『キメラテック・オーバー・ドラゴン』に向ける。

 

「出でよ! 『カオス・ソルジャー ―開闢の使者―』!!」

 

【カオス・ソルジャー ―開闢の使者―】 光 戦士族 ☆8 ATK/3000 DEF/2500

 

「カオス…ソルジャーだと…?」

 

『カオス・ソルジャー』…それは、デュエルモンスターズの中でも最強の部類に入る、言わば伝説とまで言われる幻のカードだ。今浅井が使っている『カオス・ソルジャー』は、オリジナルのものではなく、リメイクされたものだが、しかし、その能力値はオリジナルを超えるほどの超性能を誇るとまで言われている。

確かに…このモンスターから発せられるオーラ、ただ事じゃない…。

 

「『カオス・ソルジャー』の効果発動! 1ターンに1度、フィールドに存在するモンスターを除外する! 除外対象は…当然、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』!!」

 

「ナニィ…!」

 

『カオス・ソルジャー』が右手に携えている剣を構え、その切っ先を『キメラテック・オーバー・ドラゴン』に向ける。すると、剣の刀身部分が突如怪しく輝きだす。

 

「次元追放! ≪閉闢次元斬≫!!」

 

輝く剣を大きく振りかぶると、刀身から輝く闇が放たれる。放たれた闇は『キメラテック・オーバー・ドラゴン』の体を貫き、貫かれた個所から次元の歪みが生まれ、『オーバー・ドラゴン』の体はみるみる圧縮されながら吸い込まれていく。まるでブラック・ホールに吸い込まれていくかのように…。

やがて、塵も残さず『キメラテック・オーバー・ドラゴン』はフィールドから姿を消した。

 

「ギギギギギッ…! ダ、ダガ、除外効果ヲ使用シタ『カオス・ソルジャー ―開闢の使者―』ハ攻撃デキマセン!」

 

「あぁ、そうだな。だがお前は何か一つ忘れていないか? 私はこのターンまだ通常召喚を行っていない」

 

「ギッ…!?」

 

「私は『D.D.アサイラント』を召喚!」

 

【D.D.アサイラント】 地 戦士族 ☆4 ATK/1700 DEF/1600

 

「『D.D.アサイラント』でダイレクトアタックだ! ≪ディメンション・シグルブレイド≫!!」

 

『D.D.アサイラント』の持つ巨大な剣の紋様が輝いたかと思うと、唐突に『アサイラント』はその姿を消す。そして、次に姿を現したのは…メカ・ハンターの真後ろだった。

 

「…!?」

 

突然の事に判断が追いつかない様子のメカ・ハンターだが、時すでに遅し。その球体ボディに深々と『アサイラント』の剣が突き刺さっていた。

 

メカ・ハンター:LP1150→0

 

「ギッ…ギギッ…! ギギギギギギgigigigigigigigigigi……!!!?」

 

『アサイラント』の攻撃によって空いた腹部の穴から火花が散り、それはメカ・ハンターの全身に広がるとなにやら不穏な電子音を立てる。そしてあちこちから火花が散り、次の瞬間、メカ・ハンターの体は爆発四散した。

 

「ば…爆発しやがった」

 

辺り一面に飛び散るメカ・ハンターの内部メカと外装部品。それは俺のいる場所にまで飛来し、一際大きな部品が俺の真上に降ってきた。

 

「うわっ…と! な、なんじゃこりゃ…?」

 

思わず俺はその部品を両手でキャッチしてしまった。

それはメカ・ハンターのアーム部品だった。先ほどまでデュエルしていた時のらしく、腕部には半壊し、火花が散るデュエルディスクが接続されていた。

 

「まさに命がけか…精霊同士のデュエルってのは怖いもんだ…。そうだ、浅井! 大丈夫か!?」

 

「あぁ、私は大丈夫だ」

 

あれだけ手痛い猛攻を受けていたにも関わらず、浅井の体は頬に爆発の際の煤が少し付いているだけで他に怪我などは特にしていないようだった。

 

「よかった…。しかし、えらく派手に爆発したもんだな」

 

「人が来る前にここを離れよう。面倒はごめんだ」

 

と、早々にこの場を立ち去ろうとする浅井。まったく…デュエル中も思ったが、実に淡々とした奴だ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!? これどうするんだよ!」

 

と、俺は抱えているメカ・ハンターのアーム部品を片手でブラブラ下げて浅井に見せる。

 

「知るか、その辺に捨てておいたらどうだ?」

 

「そう言うなって。これ、まだデッキが装着されてるままだから、捨てるくらいなら」

 

と、俺はデュエルディスクにセットされたままになっているデッキとフィールドと墓地のカードを抜き取ると、アームを投げ捨てる。使ってた奴はアレだが、カード達には何の罪もない。どうせならと俺はそのカードを頂戴することにした。

 

「ふん、好きにしろ。もうじき昼休みが終わる。先に帰ってるぞ」

 

「あ! おいちょっと待てって!」

 

そそくさと屋上への階段を下りる浅井を、俺は慌てて背後から追いかけた。

 

………

……

 

「おい聞いたかさっきの爆発?」

「あぁ、なんだったんだろうな? 見に行ってみようぜ!」

 

屋上への階段を降り、渡り廊下を渡っていると、二人組の男子生徒がすれ違いざまに屋上ある方へ走り去り、そんな会話をしていたのが聞こえた。この分じゃ結構多くの生徒が爆発のこと知ってそうだな…。

 

「しかしお前って奴は凄いな、もしあそこで『カオス・ソルジャー』のカードを引けなけりゃ負けてたかもしれないんだろ? よくそんな状況で余裕な態度のまんまでいられたな…」

 

男子生徒が去った後、周りに誰もいないのを確認して俺は浅井にそんなことを聞いてみた。

 

「別に、どのような状況であっても相手に弱みを見せればそこに付け入る隙を与えてしまう。だから私は常に余裕な態度をとっているに過ぎない。デュエルに限った話ではないがな」

 

なるほど、確かに暗殺者っていう職柄上、そういうことがその世界で生きていくための鉄則だったりするのかな。

 

「なぁ…ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 

「なんだ?」

 

「あのメカ・ハンターのデッキに、俺達の世界じゃ結構希少なカードが入ってたんだよ。お前のデッキの『カオス・ソルジャー』もそうだけど…お前達精霊の世界のカード事情ってのはこの世界といくらか違う感じなのか?」

 

メカ・ハンターのデッキに入っていた『サイバー・ドラゴン』…あれはこの世界じゃサイバー流伝承者にしか与えられない幻のカードの筈だ。それに浅井の『カオス・ソルジャー』だって、そうそうこの世界で手に入るカードじゃない。それについて俺はずっと疑問に思っていた。

 

「うむ…そうだな。我々の世界ではお前達の世界では希少と言われているカードであっても所持している精霊は多数いる。例えば『青眼の白龍』や『ブラック・マジシャン・ガール』といったカードだな」

 

「ブルーアイズにブラマジガール!?」

 

『青眼の白龍』に『ブラック・マジシャン・ガール』…デュエリストであれば知らない者はいないだろう。伝説のデュエリスト、海馬瀬人と武藤遊戯のデッキに入っていたと言われている幻のカード達だ。まさかその二人以外にもそのカードを所持している者が精霊世界にいたなんて…。

 

「だが簡単に手に入るわけではない。物によって様々だが、そういった強力なカードを手にするにはそれ相応の試練や技量が必要なのだ」

 

つまり、この世界じゃ少数生産されたレアカードが、精霊世界じゃ己の身を以て手にするかどうかっていうことなのか。なんとも精霊世界らしい、ファンタジーな話だな。

 

「ってことは、お前も『カオス・ソルジャー』を手にするために何か試練に挑んだりしたのか?」

 

「…まぁ、そんなところだ。それよりも早く行くぞ、もうすぐ5時間目の授業が始まってしまう」

 

腕時計を見ると、授業開始2分前だった。ヤバいヤバい…いつかの時みたいにまた遅刻するわけにはいかないし、この話はここで切って俺達は小走りで教室に向かった。

 

だが、俺はどうしても気になっていることがあった。

 

それは俺の中に今だ眠る覇王の存在のこと…こいつの存在を消せなかった場合、浅井は俺の事を本気で殺しに来ると前に言っていた。

そして今日見た、あのいかなる状況であっても決して崩すことのない余裕な態度…加えて『カオス・ソルジャー ―開闢の使者―』という超強力カードの存在…。

もし俺がまた浅井と闘うことになった場合、俺は勝つことができるのだろうか…?

 

………

……

 

屋上の爆発は校舎内のほとんどの者に知れ渡り、警察や消防まで来る騒ぎとなったが、5時間目の授業は問題なく行われた。おそらくどれだけ調べたところで原因なんてわかるわけないし、ましてやその爆発の元がメカ・ハンターの精霊などと誰が予想できるだろうか。俺達もこれ以上面倒事に巻き込まれるわけにはいかないので、大人しく黙っていることにした。

 

(『A・ジェネクス』か…俺のデッキに使えるかな?)

 

俺はというと、先ほど頂いたメカ・ハンターのデッキの中身を机の下でこっそりと確認していた。

 

「遊煌君、ちゃんと授業受けなきゃ…って、どうしたのそのカード?」

 

ずっと下を向いていたせいか、隣の席のアリアが気になったらしく、先生に聞こえぬよう小声で声をかけてきた。

 

「え? あ…えっとこのカードは…その……ひ、拾ったんだ」

 

「へ~、そうなんだ。そういえばお昼休みはどこにいたの? 浅井さんもいなかったみたいだけど」

 

「え…それはその…―」

 

「そこ、何喋ってるの?」

 

俺達のボソボソ話が聞こえてしまったのか、今の授業担当の響先生に注意されてしまった。

 

「な、なんでもないです…」

 

「ちゃんと集中しなさい。それと、後ろで寝ている浅井さんも起こしてあげて」

 

「え? あ、はい」

 

先生に言われて初めて気がついたが、浅井の奴は俺の後ろの席で腕を組んだ姿勢のまま寝息をたてて寝ていた。

 

「おい、起きろよ」

 

浅井の腕を掴み、体を揺らす…が、その瞬間。

 

「…!」カッ

 

「え…? お、おい…―!」

 

俺が浅井の体に触れた瞬間、浅井はカッと目を覚ましたかと思うとそのまま俺の腕を掴み、そのまま羽交い絞めの姿勢をとって俺の動きを封じた。

 

「いててててて! お、おい浅井! やめろ! 俺だ俺!」

 

「浅井さん! それ以上いけない!」

 

「む…?」

 

アリアの言葉を聞いてようやく我に返ったらしく、すぐに浅井は力を緩めた。

 

「す、すまない! つい癖で…で、なんだ?」

 

「なんだじゃねぇよ…今授業中だぞ」

 

俺は捻られた腕を摩り、浅井は今の状況を寝ぼけた頭で理解する。

 

「すまない…」

 

「あとよだれ垂れてるぞ」

 

「あっ…」

 

慌てて袖でよだれを拭いて顔を赤らめる浅井を見て、教室全体が笑いで満たされた。

響先生はその光景をやれやれといった表情で教卓から見ていた。

 

「ほら皆、静かにしなさい。授業を再開します」

 

………

……

 

そんなこんなで今日一日の授業はなんとか終わった。

あの後警察の事情聴取やら消防の対応やらで学校の職員はいろいろ大変だったみたいだが、相変わらず俺達はそれらを無視して帰り仕度を進めていた。

しかし…少なからずその原因が自分だということを考えると、なんだか少し申し訳ないという気分にもなった。

 

「おい」

 

これ以上面倒事に巻き込まれる前にさっさと家に帰ってしまおうと若干急いで帰り支度をするが…後ろから浅井に呼び止められる。

 

「…何だ?」

 

「帰り道にまた刺客に襲われないとも限らない、私と一緒に帰れ」

 

ときたもんだ…。

いやまぁ、そりゃ俺の命を守って(いや…狙ってるのか?)くれるのはありがたいが、それだと俺の気持ちが全く休まらないんだけど…。

 

「帰りだけではない、これからは毎朝私が君の家に出向いてやる」

 

「いや、なにもそこまでしなくても…」

 

「何だ? 私と一緒にいるのが嫌だとでも言うのか君は?」

 

と、また鋭い眼光を向けられるもんだから俺は思わず黙ってしまう…。

これは…逆らったらここで殺されてしまうような気がした。

 

「あ、あの~…」

 

と、そんな俺達の会話を聞いていたのか、アリアが会話に割って入ってきた。

 

「あ、アリア…! どこから話聞いてた!?」

 

「え? どこって…浅井さんの『帰りだけじゃない』ってところからだけど?」

 

よかった…間違っても最初の『襲ってこないとも限らない』のとこからじゃなくて本当に良かった…。

 

「それよりも遊煌君、ズルいよ! この前私と一緒にまた学校行ったり帰ったりしようねって約束したのに…忘れてたの!?」

 

「い、いやそうじゃないよ…もちろん忘れてたわけじゃないけどさ…ここんところアリアは学校休みがちだったからなかなか一緒に行ける機会が無かったからさぁ」

 

「そ、それはそうだけど…でも私の方が先に約束してたんだから遊煌君は私と一緒に行こうよ!」

 

ときたもんだ。

いや…そりゃアリアとの約束も大事だが、今はそれ以上に俺自身のことや、周りのことが大切だ。俺と一緒にいたりなんかしたら、今度はアリアまで巻き込んでしまうかもしれないし…。

 

「ふむ…ではこうしよう。天領遊煌は私と彼女の三人で登下校を共にするというのは」

 

「え“っ!?」

 

「…まぁ、私はそれでも構わないけど。別に二人だけでって約束したわけじゃないし」

 

「え“ぇっ!?」

 

以外過ぎる浅井の意見とあっさりしたアリアの意見。俺は浅井に小声で聞いた。

 

「お、おい…そんなこと言って…もし俺と一緒にいるときに今日みたいに襲われて、アリアまで巻き込んだらどうするんだ…?」

 

「君は男だろう。男だったら彼女を守ってやればいいじゃないか」

 

簡単に言うけど…生憎こちとら貴女みたいに戦闘の訓練とか受けてるわけではないんですよ。

でも…浅井の言うことも一理ある。また今日みたいに浅井が俺を守り続けているというわけにもいかないだろうし、俺自身も強くならないと。

 

「はぁ…わかったよ。じゃあこれからは三人で一緒に登校して、一緒に下校しよう」

 

「そうこなくっちゃね♪」

 

その途端、アリアの表情がパァっと明るくなった。全く、現金な奴だな。

というわけで俺達三人はこれからの登下校は共にすることとなった。

 

………

……

 

「じゃ、また明日な」

 

そんなわけで浅井とアリアの二人と下校を共にした俺は、俺の家の前まで来た。浅井も襲撃を考えて一応の警戒はしていたようだったが、まさか1日にそう何度も襲撃に逢うわけもなく、それは杞憂に終わったようだ。

 

「あぁ。明日は何時に来ればいい?」

 

「本当に来るのか…? なら7時45分っていったところだな、その時間に来てくれ」

 

「7時45分だな、わかった」

 

「私もその時間に来るから。バイバイ、遊煌君」

 

「おう、また明日な」

 

二人に手を降り、俺は家の中に入った。

 

 

 

「私達も早く帰るとしよう。学生がいつまでも外に出ているわけにはいかないからな」

 

「…ねぇ、浅井さん」

 

遊煌の家から再び歩き出すと、アリアは不意に浅井に質問を投げかける。

 

「ん?」

 

「浅井さんは…遊煌君と知り合いなの? お昼休みも一緒にどこかに行ってたみたいだし、一緒に帰ろうなんて言うしさ」

 

「…いや? 昼休みは私は一人で昼食をとった。あの男は何も関係ない。それに下校に誘ったのも、席が近い者同士だから親睦を深めるために行ったに過ぎない。それがどうかしたのか?」

 

「…んーん、なんでもない。じゃあ私の家、こっちの方向だからバイバイ、浅井さん」

 

「ん、ではまた明日」

 

T字路でアリアは浅井とは違う方向に走って行き、浅井は反対の方向へと歩き始める。

 

(一瞬、あの娘から感じたこの違和感は何だ…あの娘も、ただの人間ではないということなのか…?)

 

振り返って見るが、そこにはもうアリアの姿はなかった。

 

(私の気にしすぎ…ならば良いのだがな)

 

………

……

 

「D.D.アサイラントが学校に来ただと!?」

 

夕食時、食卓を囲んでいるみんなに俺は今日あったことを話した。

 

「それで刺客に襲われたって…主様は大丈夫なんですの!?」

 

「あぁ、浅井が俺の代わりにデュエルしてくれたからな、俺は見ての通りさ」

 

「よかったですわぁ…」

 

アサイラントが学校に来たということに皆は少し動揺しているようだったが、今のところは何もないとわかると少し安心したようだった。

 

「しかし気になるのはアサイラントです。マスター殿、今は大丈夫だと仰いましたが、今後アサイラントにまた命を狙われると言う事態は無いと言いきれますか?」

 

「はっきりとは言えないけど…あいつも俺が正気を保っている今の間は手を出すつもりはないらしい」

 

「そうですか…」

 

それを聞いてキリアは少し安心した様子だった。

 

「ってなると…問題は覇王のことよ。アンタ、覇王と決着付けるって言っちゃったんでしょ? どうやって始末つけるつもり?」

 

「それは…」

 

あの時はつい勢いで言ってしまったが、実は覇王と決着をつける手段なんて考えちゃいなかった。

そもそも覇王の意識は俺の意識と同化し、しかも今は覇王の意識のみが休眠の状態だ。起こしかただってわからないし、もし無理に起こそうものなら…その瞬間に俺の身体が乗っ取られてしまうかもしれない。

どうすれば…。

 

「これは…一度わたくし達の世界に…デュエルモンスターズ界に行った方がよろしいかもしれませんわね」

 

ウェムコが呟く。

 

「デュエルモンスターズ界に? 俺がか?」

 

「えぇ、そこのラメイソンと呼ばれる土地に大きな魔導書院があります。そこにはデュエルモンスターズ界のあらゆる事情が記録されていますから、そこに行けば覇王のことについても何かわかるのではないでしょうか?」

 

魔導書院…ラメイソン…聞いたことがある名だった。確かデュエルモンスターズのカードでも、『魔導書院ラメイソン』というフィールド魔法があった。あのカードのイラストを見る限りかなり広大な書院らしいし、他に方法が無い今、どうやら俺が頼れるのはその魔導書院だけのようだ。

 

「ウェムコはラメイソンと何か関係があるのか?」

 

「はい。実はわたくし、この世界に召喚される前はそのラメイソンにおいて祀られていた神具の中で眠ってたんです。そこで、有事の際には度々そこの召喚魔導士によって呼び出されてたんですよ」

 

「へ~、そうだったのか。で、その魔導書院に行けば俺の中の覇王もどうにかなるのか?」

 

「それは正直わかりかねますが…ラメイソンには魔導書の他にも様々な能力を持った魔導士達がたくさんいます。きっと主様に良い知恵を貸してくれると思いますよ」

 

う~ん…このままにしていても解決策が見つかるわけでもないし、ここは一つその魔導書院とやらをあてにしてみるのも悪くはない。

 

「よしわかった、行こう。あ…でもどうやって行くんだ?」

 

「わたくし達には自分の力で次元を超えて世界を飛ぶ能力は持ち合わせていませんので…ここは一つ、アサイラントさんを頼ってみてはいかがでしょう?」

 

「浅井を?」

 

確かに…浅井はこの前俺を襲った時にも、自分からこの世界に来たようだったし、帰る時にも次元の裂け目を発生させ、その中に入って元の世界に帰っていった。

俺の命を狙っているといっても、覇王をどうにかできる可能性があるとするならあいつだって協力を惜しまない筈だ。よし、明日話を聞いてみよう。

 

「わかった、明日あいつに話を聞いてみるよ」

 

今日の様子からして、浅井自身は俺のことをそんなに悪くは思っていない筈だから、きっと強力してくれる筈だ。

 

「うぅ…ん…」

 

俺の隣で話を聞いていたルインが、突然頭を抱えてうなり声を上げた。

 

「どうしたルイン? 具合でも悪いのか?」

 

「いや…なんだか目眩がしてな…すまないが私は先に休ませてもらってもいいか?」

 

「あぁ…わかった。お大事にな」

 

もしかしたら、昨日に今日と立て続けに俺の身に危ないことが起こったからルインも疲れてしまったのかもしれない。というわけでルインは他のみんなよりも早め休みをとった。

 

「お姉さま! 私が添い寝を…むぐっ!?」

 

「今は自重しといてくれ」

 

良からぬ事を考えていたフレイヤの口を塞いで動きを静止させた。

 

………

……

 

「ルインの奴、もう寝たかな?」

 

自室に戻り、漫画を読みながらフレイヤが風呂から出るのを待っていると、ふと先ほどのルインのことが気になった。

不安だ…なんだこの言いようのない不安感は? その感覚に耐えられなくなった俺は、思わずデッキを手に取り、その中に入っているルインのカードをなんとなく眺めてみる。

特に変わった様子はない…なんでもない普通のカードのようだが…。

 

ユラリッ…

 

「…?」

 

一瞬、カードイラストに描かれているルインの背後の影…その影が少し揺らめいた気がしたんが…。

 

「……気のせいか」

 

半ば無理やり気のせいにして、俺はルインのカードをデッキの中にしまった。

 

………

……

 

「はぁ…はぁ…くっ…!」

 

明かりも付けずに、ルインは胸のあたりを苦しそうに押さえ、ベッドのに腰かけ、荒い呼吸をあげていた。

 

「デュエルモンスターズ界に戻る…そう聞いて喜んでいるというのか…!」

 

胸を押さえつける手に力が一層入る。

やがて、苦しみは段々と薄くなっていき、やがて胸の疼きは消えた。ルインは大きく深呼吸をすると、ベッドに倒れこんだ。

 

「この嫌な感覚…久しく感じていなかったというのに……私の中の“奴”もまた…」

 

半ば自分自身に問いかけるように、ルインは荒い呼吸のまま呟いた。

 

「させるものか…たとえ元の世界に戻ったとしても、“奴”だけは私が生きている限り絶対に世に出ることはできない。これ以上…主の身を危険に曝すことはさせない…!」

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

遊煌「今日の最強カードは?」

 

 

 

 

 

『カオス・ソルジャー ―開闢の使者―』

☆8 光 戦士族 ATK/3000 DEF/2500

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外した場合に特殊召喚できる。1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 

 

遊煌「儀式モンスターの『カオス・ソルジャー』のリメイクカードだ。戦士族の最上級モンスターだが、召喚条件がかなり緩いため、様々なデッキで活躍するパワーカードだ」

 

浅井「その緩すぎる召喚条件、強力な二つの効果、高攻撃力のため、長い間禁止カードに指定されていたが、今では制限カードに復帰した」

 

遊煌「そういや精霊世界でも禁止・制限カードってこの世界と同じなのか?」

 

浅井「…その強力なステータスのため、登場当初から復帰した現在にかけて、かなり多種多様なデッキに投入されている」

 

遊煌「あ、スルーしやがった…」

 

浅井「昔は闇属性と光属性の強力な下級モンスターを入れたカオスビートに入っていたが、今では主にカオスドラゴンデッキのパワーカードとして使われている」

 

遊煌「あとは闇属性主軸の『甲虫装機』や『BF』、光属性主軸の『ライトロード』や『代行天使』に投入されていたりと、活躍できる場が多いな」

 

浅井「この他にもメインデッキに投入できる高打点戦士族、かつ腐りにくいということで『ユーフォロイド・ファイター』のデッキに投入してみるのも面白い」

 

遊煌「弱点は言うとするなら…サーチ手段が少ないってことだな。本家『カオス・ソルジャー』は『センジュ・ゴッド』や『マンジュ・ゴッド』で、相方の『混沌帝龍 ―終焉の使者―』は『エクリプス・ワイバーン』でサーチできるが、こいつだけはこれといったサーチ手段が少ない」

 

浅井「まぁこのステータスでサーチ効果まであったらまた禁止に逆戻りだがな。さて効果の方だが、一方はモンスターを一方的に除外できる『カオス・ソーサラー』のような効果を持っている。『カオス・ソーサラー』と違って裏側モンスターも除外できるので、他のモンスターの攻撃をアシストすることができる」

 

遊煌「もう一方の効果は……あれ? どっかで見たことがあるような…?」

 

ルイン「おいこら! こんなカードを使われてしまったら…ますます私の立場がないではないか!」

 

浅井「賑やかなのが来てしまったな…では諸君、今日はここまでにしよう。さらばだ」

 

ルイン「私を無視するなー!!」




敵の力を取り入れてパワーアップするっていうのは、よくある展開ですよね。
遊戯王ではバトルシティ編での城之内とか、BLOO-Dを手に入れたエドとか、リミテッド・バリアンズフォースとホープレイVを手にした遊馬とか。
それに習ったというわけではないんですが、今回で遊煌もデッキ強化をするためのカードを手にしました。
それをどのように使っていくのか…今後をお楽しみに。

次回は残念ながらデュエルはしません。
しかし、ルインの過去が明らかになる重要な回となりますので、お楽しみに!
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