遊戯王 ああっ破滅の女神さまっ   作:ダルクス

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突然申し込まれたヒータとのデュエルに辛くも勝利した遊煌は、ドリアードにどこかに連れて行かれる。
そこで遊煌は、魔法学院の教員達からこの世界で起きている謎の現象について知る…。


第31話:「旅立ち」

ヒータとのデュエルをなんとか制した俺は、今ドリアードに連れられてデュエルモンスターズアカデミアの校舎内に入り、その長い木造廊下をドリアードの後を追って歩いていた。何故こんなところに連れてこられているのか……それは俺にもわからない。少なくともこの校舎内を案内してもらっているという雰囲気ではなさそうだ。ただ一言、さっきドリアードが「貴方に聞きたいことがあります」と俺に言い、そのまま連れられてこの長い廊下を歩いている。聞きたいこと…って一体なんなんだろう……? 先ほどの朗らかな雰囲気とは打って変わって、俺の前を歩くドリアードからは何か近寄りがたいものを感じる……。そのせいか、互いに言葉を交わそうとはしなかった。

 

 

 

 

 

―――――第31話:「旅立ち」―――――

 

 

 

 

 

長い廊下を経て、やがて俺達は大きな扉の前に到着した。

 

「私が再び呼びに来ますので、ここでしばらくお待ちください」

 

「あ……はい」

 

そう言うとドリアードは一人、扉を開けて中に入ってしまった。

扉の上にかけられている室名札を見てみる。「MEETING ROOM」……つまりは会議室だ。これでも現役高校生だからこれぐらいの英語は読める。ということは……ここに誰かを集めて話し合いでもするのだろうか? だけどさっきドリアードが中に入った時、この部屋の中には誰もいなかったみたいだけど……。

 

「お待たせしました」

 

その時、重い扉が開き、中からドリアードが姿を現した。

 

「中へどうぞ、皆さんお待ちです」

 

「皆さん……?」

 

ドリアードの他にも誰かいたのだろうか……? 疑問に思いながらも俺は会議室へと歩を進める。

中に入ると、長机に数人の魔法使いが座っていた。皆真剣な表情をしており、そしてそこにいる全員が先ほど見てきた魔法使い達よりも年が上に見える。どうやらこの学園の先生たちのようだ。

 

「えっ!? いつの間にこんなに……!?」

 

「私が意識拡散の魔法で教員へ召集をかけ、出現魔法で皆さんこの場所に集まりました。さ、遊煌さんはこちらに」

 

なるほど、流石は魔法使い族、魔法って便利だな。

面喰っている俺にドリアードは丁寧に説明をし、目の前の空いてる椅子を引いて俺を座らせるように促す。だがそこは長机の一番前の方の席、自然と教員魔法使い達の視線が俺へと集まる。

かなり緊張するが、いつまでもそこに突っ立っているわけにもいかないのでドリアードの促してくれた席に座ると、俺の隣にドリアードが座った。

 

「これで全員揃いましたね。では遊煌さん、さっそくですが貴方は何故この世界に来たのかを詳しく教えていただけますか?」

 

「え?」

 

「ここには我が校の名だたる賢人たちが集まっています。少なからず、貴方のお力になれるやもしれません」

 

「……わかりました」

 

一瞬戸惑った。右も左もわからないこの場所で、果たして俺の経緯を軽々しく話しても良いものかと。この世界に来る前にメカ・ハンターに襲われたり、次元の狭間を超える際に起こった次元震……何者かが俺を、俺達を狙っているのは確かだ。その一味がこの場にいないとも限らない。

しかし、このドリアードは信用に足る人物だと俺は確信していた。見知らぬ俺を介抱してくれて、あまつさえこのように情報を集める場まで与えてくれている。そしてなにより、今の俺には絶対的に情報が足りてなかった。この場で少しでもこの世界の情報と、そしてルイン達の手掛かりが掴めればと藁にも縋る思いであることには変わりない。

俺は先生方にこの世界に来た経緯を話した。

 

………………

…………

……

 

「つまり君はあの破滅の女神に選ばれしデュエリストだと?」

 

「はい」

 

「君の世界の危機を一度救ったと?」

 

「はい」

 

「自分の中に覇王の意識があると知り、この世界に来たと?」

 

「はい。本当はラメイソンという場所に行きたかったのですが次元震によってここに飛ばされて……」

 

「なるほど……」

 

全てを話し終え、復唱するかのような先生方の質問に淡々と答えると、先生方は皆腕を組み、難しい顔をして無言になってしまった。

 

「あの……多分離れ離れになった仲間もみんなラメイソンに向かってると思うんです。だから俺も早くみんなに合流しないと……」

 

「お気持ちは察しますが……。遊煌さん、最初に申し上げますが、貴方の目指しているラメイソンはこの国にあります」

 

俺の隣に座るドリアードが宥めるようにそう言った。

 

「国内にあるんですか!? それなら早く行ってみんなを待てば……!」

 

「ラメイソンはこの国の中枢都市ではありますが、しかしこの魔法族の里は国の外れにあります。ここから回り道をせずにラメイソンに向かうには古の森を抜けなければなりませんが、そこには多くの危険なモンスターが潜んでいます。貴方一人で行くにはとても……」

 

「それでも俺は行かなきゃならないんです!」

 

思わず立ち上がろうとした俺を、ドリアードは制止させる。

 

「待ってください、話はまだ終わってません。実は、今この国では……いえ、この世界ではとても不可解は現象が起きているのです」

 

「不可解な現象……?」

 

「ドリアード先生、その話は私が」

 

俺が聞き返すと、長机に座っていた教員の一人、黒衣の魔導士が立ちあがって話し始めた。

 

「覇王がこの世界から姿を消して十数年、平和な時は続いた。しかし、最近になって一部のモンスター達に妙な現象が起きているのだ」

 

「その現象って……なんですか?」

 

「うむ……それまでは温厚で、人に危害を加えることも滅多にしない大型のモンスターを中心に、突如そのモンスターが凶暴化するという現象だ」

 

「モンスターの凶暴化……?」

 

「そのモンスターの体色が暗黒に染まることから、我々は通称“ダーク化”と呼んでいる」

 

………………

…………

……

 

「なんか私達、すごい話し聞いちゃってるかも」

 

「ね、ねぇアウス……やっぱりやめようよ? 盗み聞きなんて、もし先生達にバレたら……」

 

扉の外で聞き耳を立てていたのは、アウスやエリアを中心とした5人の霊使い達だった。

 

「とか言いながらみんな聞き耳たててるのはどういうわけなのかしら?」

 

「あ、アタシは別にまたあの変態野郎がドリアード先生や他の先生に変なことしないか身に来ただけだし…」

 

「はわわ…でもあのお兄さん、覇王だって言ってますよ?」

 

「私達が見た時は、そんな風には見えませんでしたけどね…」

 

上から順にアウス、エリア、ヒータ、ウィン、ライナと重なりながら会議室の中の様子を聞く5人。静かに、悟られぬように、細心の注意を払いながら5人は話を聞き続けた。

 

……

…………

………………

 

「“ダーク化”……ですか?」

 

「うむ、すでに多くのモンスターが闇に染まり、凶暴化している。それもこの世界に古くから存在し、中には神として崇められているモンスターや強力な力を持ったモンスターばかりだ」

 

黒い魔術師の話を聞いて、俺にはダーク化について思い当たる節があった。

 

 

 

~~

 

『……奴らは自分たちの部下を増やすために、闇世界のモンスターだけでなく、善良な普通のモンスターをも闇に堕とし、自分達の戦力にしようと考えたのよ』

 

~~

 

 

 

キリア……。

彼女は元は穢れの無い、聖なる天界の戦士だったが、覇王軍に捕らえられて闇の力を植え付けられ、半分は光、半分は闇の人格を持つようになった。その研究は半ばで覇王軍が敗北したことにより、頓挫したと聞いていたが……もしもその後、誰かがその研究を引き継いでいたら……? その研究が完成し、この世界のモンスターを闇に染める力を持っていたとしたら……?

 

「……っ!」

 

まただ……またあの時と……浅井の時と同じだ……! 覇王のせいで平和だったこの世界でまた多くの人たちが脅かされている……。それは俺のせいじゃない……そんなことはわかってる! でも、俺の中に宿る覇王の意識……そのせいかわからないが、自然と俺も責任を感じてしまった……。

 

「先生方の話で分かったと思うが、そういうわけで今君を一人でラメイソンまで行かせるのは危険すぎるのじゃ」

 

長机の中央、ちょうど俺の目線の先に座っていた老人の魔法使いが口を開いた。黒衣の魔法使いと似た格好をしているが、おそらくはこの先生の師匠にあたる人なのだろうか? そしてこの貫禄と威厳、おそらくはこの学院の学院長だ。

 

「トルンカ学院長……しかしどうすれば?」

 

「古の森におるのはモンスターだけではなかろう?」

 

「では、あの男に協力を得ると?」

 

「左様、きっと良い知恵を貸してくれるはすじゃ」

 

何やら話が弾んでる様子だが、話の事情がわからない俺にはなんのことだかさっぱりだ。

 

「あの……何の話なのかよくわからないんですが……?」

 

「あぁ、済まない。実は、古の森にはモンスター以外にも君と同じく、異界からこの世界にやってきた人間が住んでいるんだ」

 

黒衣の魔術師が俺の方に向き直って丁寧に説明してくれた。

 

「俺と同じ世界から!?」

 

「うむ。その者はとても明晰な頭脳の持ち主での、時折この学院に立ち寄っては特別講義を開いてくれるのじゃ。もっとも、話が難しすぎて生徒の大半は居眠りしてしまうがな」

 

「学院長、人の事が言える立場ですか。貴方だってこの前いびきかいて寝てたくせに……もう少し学院長としての自覚を持って下さい」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、寄る年波には敵わんわい」

 

俺と同じ世界から来た人……この話が本当なら、その人には絶対に会いに行かないと!

 

「その人はなんという名前なんですか?」

 

「え~っと……何といいましたかな学院長?」

 

「うむ……そういえば名前が思い出せんのう……。誰か名前を知っておる者は?」

 

先生方は皆腕組みをして考えるが、誰も答えようとはしない。全員知らないということなのだろうか。

 

「済まないね、どうにも名前が思い出せない。しかし会いに行けば必ず君に力を貸してくれるだろう」

 

「はぁ……」

 

何回も講義に来てくれてるのに名前を覚えられないって……それってどういう意味なんだ? とにかく、これでまず第一の目的が決まった。その男の元に行って、力を貸してもらい、ルイン達を探す。そのためにはまず古の森を……。

 

「……そういえば、その男は古の森の中に住んでるんですよね? そこまで行くのにはどうしたら……」

 

「そうじゃのう、このご時世に学院の守りを疎かにして教員を向けるというのも難しい、果てさてどうしたものかの……」

 

学院長達がまた顎鬚を弄りながら考え込み始めた……その時だった。

 

「何をしてるんですか貴女達は!?」

 

突然背後からドリアードの大声が聞こえた。振り向くと、ドリアードが会議室のドアを開け、そこから5人の霊使い達が折り重なりながらなだれ込んできた。

 

「お前ら……!」

 

大方あのデュエルの後に俺とドリアード先生の後を付けて来たんだろうが……結構重要そうな話を盗み聞きしていたわけだが、大丈夫なんだろうか?

 

「あ、あはは……見つかっちゃったねぇ」

 

「もう! だからやめようって言ったのに!」

 

「ドリアード先生! 違うんだ! これはアウスの奴が……!」

 

「ちょっと! 私のせいにするわけ!?」

 

責任のなすりつけ合いが始まったが、言い争っている場合ではないようだ。

 

「言い訳は結構です! とにかく、教員の会議を無断で盗み聞きしていた行為は由々しきことです、5人には罰則を与えなければいけませんね!」

 

「「「「「「ええ~~~~~!!?」」」」」

 

5人は絶望的な顔と共に同じタイミングで悲鳴をあげた。

 

「まぁまぁドリアード先生、そこまで生徒に厳しくせずとも」

 

「学院長先生は少し生徒を甘やかしすぎですよ!」

 

「うぅむ……そうかの? ではこうするのはどうじゃ? 5人への罰則はワシが決めるというのは」

 

「……まぁ、そういうことでしたら」

 

その言葉でドリアード先生の怒りも収まったらしく、また静かに穏やかな態度に戻る。一方の霊使い達はビクビクしながら顎鬚を撫でながら考える学院長の方を怯えた目で見ていた。

 

「ふ~む、そうじゃな……よし決まった!」

 

ポンと手を叩き、学院長は5人の霊使いの方に向き直るとこう言った。

 

「アウス、エリア、ヒータ、ウィン、ライナの5人はこの青年と共に古の森に向かいあの男と合い、ラメイソンへの道中を共にする……というのはどうかの?」

 

 

 

「「「「「え……えええええ~~~~!!?」」」」」

 

 

 

5人がほぼ同時に叫び声をあげた。

 

「構わんかの? 遊煌君」

 

「え、えぇ……俺は別に構えいませんが、彼女達は大丈夫なんでしょうか……?」

 

と、ちらりと霊使い達の方を見る。確かに、こんな成りをしていてもデュエルモンスターズのモンスターなのには間違いない。しかし、この旅は俺の覇王の意識をどうにかすると同時に、散りぢりになった仲間たちを探す大事な旅でもある。それにこの5人を巻き込むというのは……いささか不本意だった。それに……こう言うのもなんだが、彼女らは決して強力な力を持った生徒というわけでもなさそうだし……付添い人が欲しいと言っても、現状で不安ばかりだった。

 

「安心しなさい、彼女らは確かにまだ半人前だが、この学院では成績は優秀じゃ。5人の力を合わせればそんじょそこいらのモンスターに負けるようなことありはせん。じゃろ?」

 

「学院長先生の言葉はありがたいですけど……」

 

「正直、私はまだ自分の実力に自信が持てません……先輩達の足手まといになるんじゃ……」

 

「怖いモンスターさんに食べられてしまいますよぅ~」

 

「そもそもあの変態と一緒にっていうのが気に入らないぜ」

 

「まだ言ってるのかよ……」

 

ヒータはともかく、アウス、ライナ、ウィンの3人はやはり不安があるそうだ。しかし、エリアはというと……?

 

「私……行きます!」

 

「お、おいエリア!?」

 

「私、どうしても確かめたいことがあるの。だから他の皆が行かなくても、私だけでも行く」

 

と、エリアだけは何か決意というか……もしくは他の目的があるらしく、他の霊使いとは違い肯定的な姿勢だった。すると、他の4人も顔を見合わせ裏でなにやら話をする。しばらくすると、渋々という表情だがまた先生方の方に向き直る。

 

「しゃあねぇ……行くよ、行きますよ」

 

「5人……いえ、6人で行けばきっと大丈夫ですっ! 多分……」

 

「エリア先輩だけを一人行かせるわけにはいきませんものね」

 

「それに、きっとお兄さんと二人きりにしたらいろんな意味で危ないものね♪」

 

最後のアウスだけ何か意味深な言い方だが、どうやらこれで意見がまとまったようだ。

 

「よろしい、話はこれでまとまったかの。遊煌君」

 

「は、はい!」

 

急に俺の名が呼ばれるものだから、少しドキッとしてしまった。

 

「今夜はこの学園の寮で休み、明日の朝出発しなされ」

 

「ありがとうございます、学園長先生」

 

「では、会議はこれにて」

 

学院長の号令と共に先生方は次々と姿消しの魔法で自分の姿を別の場所に移動させる。

 

「貴方達も、今日は授業を早退して結構ですよ。寮で明日の準備をしなさい」

 

ドリアード先生が霊使い達に言った。

 

「ほんと!? 早退していいんですかドリアード先生!?」

 

「よっしゃー! 儲けたぜ♪」

 

「こらこらアウスもヒータも、明日の準備しなきゃいけないんだから怠けてる暇なんてないわよ」

 

「わかってるわよ。エリアは本当に真面目ね~」

 

「はぁ……では先生、失礼します」

 

小さくため息をついて、エリアはドリアード先生に頭を下げると他の霊使いと共に会議室を出て行った。

 

「ではマナ、我々もそろそろ行くとしよう。もうすぐ午後の授業が始まってしまう」

 

「はい、お師匠様♪」

 

そして先ほどの黒衣の魔導師と、その隣に座っていた金髪の魔法使いも、どこからか取り出した自分の帽子を頭に被る。

 

「……あれ? えぇっ!?」

 

「ん? どうかしたかね?」

 

黒衣の魔術師が驚いた表情でこちらを見るが、俺はそれよりも遥かに驚いていた。帽子を被っていなかったとはいえ、何故今まで気がつかなかったのだろう……。

 

「ブブブ……ブラック・マジシャンに……! ブブブ……ブラック・マジシャン・ガールゥゥゥッ!?」

 

そう、今俺の目の前に立っているこの黒衣の魔術師とその弟子らしき女の子は、あの伝説のデュエリスト、武藤遊戯のエースモンスター、『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』だったのだ。

 

「ああ、いかにも私は『ブラック・マジシャン』とも呼ばれているが……」

 

「っていうか遊煌君今頃気がついたんですか? ちょっと鈍感すぎですよ」

 

「すいません、あの帽子が印象的だったものですから……。でも、あの遊戯さんのモンスターを自分の目で見れるなんて感動です!」

 

俺が遊戯さんの名前を出すと、ブラック・マジシャンは少し懐かしそうな顔をした。

 

「あぁ、ファラオのところから離れて大分経つからな……久々にその名を聞いたよ。改めて自己紹介しよう、マハードだ。『ブラック・マジシャン』とも呼ばれているが、今はこの学院で魔法学の教員を務めている」

 

「はいはーい! 『ブラック・マジシャン・ガール』もとい、マナといいまーす! 一応私も先生やってるんだよー」

 

「まだまだ私の補佐役程度だがな」

 

師匠からの手厳しい言葉を聞いて、マナ先生は「てへへ」と舌を出した。

 

「あ、そうだ! こんな機会めったにないから……!」

 

と、俺は手に持つの中をごそごそと探す。……が、しまった、今は手ごろな物を持ってない……。

 

「なんだね?」

 

「えちいお願いはダメですよ~?」

 

マナ先生が少しからかうような口調でそう言った。

 

「いえ、そういうわけではないんですけど……あの! サイン下さい!」

 

メモ帳の類を持ってきてなかったので鞄の中に入ってたデッキ内に入ってない余りのカードを二人に差し出した。

 

………………

…………

……

 

「さて、サイン貰ったはいいんだけど……」

 

ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールからカードにサインをもらった俺は、学院寮前まで来ていた。ドリアード先生の話によると、この寮に一つ空き部屋があるのでそこを使っても良いとのことだった。しかし、大きな学院の寮だというのに人はあまりいない様子だった。おそらく、今の時間はまだ授業中だから生徒の多くは授業を受けているのだろう。

……待てよ? そういえばさっきの霊使い達、今日は早退するとかなんとかさっき言ってたよな? ってことは……自然と寮の中で顔を合わせなくてはならないようだ。

 

「……まぁ、悪い子でもないみたいだし、旅の仲間になるんだから挨拶ぐらいしとくか」

 

さっきのヒータのことが頭の中でまだ引っ掛かってはいるが、考えていても仕方がない。俺は寮の中に入ることにした。

 

「確か、2階の空いてる部屋を使ってと言われたな……ここか?」

 

事前にドリアード先生に教えてもらった通り、2階に上がる。2階のフロアは6つの部屋が壁向かいに並んでおり、俺の使う部屋は一番奥の部屋とのことだ。

 

「……ん?」

 

ふと俺が使う隣や向かいの部屋が気になった。その部屋には、向かいには『LYNA』、隣には『ERIA』、その向かいには『HIITA』、そしてその隣と向かいには『WYNN』、『AUSSA』と書かれた木製のプレートがドアにかけられていた。一方、俺の使う部屋には何もかけられていない。偶然にもここはあの霊使い達の使うフロアだったらしい。

ちょうどいい、挨拶に行こうかと思っていたし、探す手間が省けた。だが、まずは自分の荷物を置いていくか。

空き部屋のドアを開けると、そこには自然と家具類が一式揃っていた。ベッドに勉強机にクローゼットに教科書等を入れておく本棚……空き部屋というよりも、まるで留守の部屋に入るような感じだった。家具類はともかく、教科書類は元から学院が用意したものなのだろうか? それとも……前に使っていた生徒の物……?

ともかく、それを考えるのは後だ。とりあえず俺は荷物をベッドの上に置くと、礼使い達の部屋に向かった。まずは向かいのライナの部屋から挨拶に行くかな。

コンコンと2階ドアをノックしてみる。しかし、何故か応答がない。仕方ない、ライナは後回しにしよう。次に隣のエリアの部屋もノックしてみる。……やはり応答がない。

 

「おかしいな……留守にしているのか?」

 

続くヒータとウィンの部屋もノックしてみるが、返事が無い。

 

「5人とも早退したんだから先に帰ってきている筈なんだけどなぁ……ん?」

 

首をかしげ疑問に思っていると、ウィンの部屋の向かいにあるアウスの部屋からなにやら話し声が聞こえる。しかも、結構大きな声で騒いでいる様子だ。

 

「なんだ、みんなそこにいたのか」

 

俺は先ほどと同じくアウスの部屋をノックする。……が、中の霊使い達はお喋りに夢中なのかノックに気がつかない様子だ。

 

「……ま、入っても大丈夫だろ」

 

一応ノックはしたし、これで俺が何か言われても非はあちらにある。俺はアウスの部屋のドアノブを握ると、軽くまわしてドアを開け、中に入る。

 

「こんちわ。挨拶しに……―……っ!?」

 

部屋に一歩入り、そこで俺は硬直してしまった。

何故かというと……。

 

「ホラホラヒータ、これなんてどう?」

 

「ばっ……! そんな紐みたいなの穿けるか!」

 

赤面するヒータの視線の先には、アウスが両手で端と端を掴む、紐のような下着があった。

そんなアウスに視線を送るのはヒータだけではない、ウィンもだった。ただし、ヒータとは違い少し目線は下に下がる。

 

「アウスちゃん……おっきいですぅ」

 

「んふふ~♪ でしょ? この中じゃ私が一番かな~♪」

 

と、アウスは頭に手を当てて自慢の胸囲を皆に見せびらかす。

 

「ウィン先輩も形は良いと思いますよ」

 

「ありがとです、ライナちゃん♪」

 

「わ、私は……」

 

エリアが視線を自分の真下へと向けると、どんよりと表情が曇り虚ろに自分の胸をぺたぺたと触る。

 

「あはは♪ どんまいエリア、そのうち大きくなるって♪」

 

「人ごとだと思って……!」

 

「こうなったら……アウス! お前のそのけしからんおっぱいをアタシ達にも分けろー!」

 

見せびらかすアウスに腹が立ったのか、同じく胸囲が残念なヒータも手をわきわきとさせるとアウスに飛びかかった。

 

「ちょっ、ちょっとヒータ! アンタどこ触ってるのよ!?」

 

どたばたと暴れる二人。そんな二人を止めようとエリアが制止に入った。

 

「もー! 二人とも止めなさいってば! ……って」

 

その時、混乱に乗じてエリアが最初に俺の存在に気がつき、次に他の4人も俺が部屋に来ていることに気がついた。

だが、5人が俺の存在に気がついても俺自身がその場から動くことができなかった。何故なら、この場に居る5人の少女は皆上半身裸で、身体には何も身につけていなかったからである。そんなある意味非現実的とも思えるような光景に呆然としてしまい、俺の脳は考えることと体を動かすことをすっかり忘れているようだった。

そして5人が俺に視線を向けられたその約1秒後、ようやく俺もそれに気がつき、ハッと我に返る。

 

「い、いや……! これはその……!」

 

手を上げて無抵抗であることを示すが、俺が弁解するよりも先に、5人の精霊使いの少女達は怒りと羞恥が入り混じった真っ赤な顔で俺にパンチや蹴りをお見舞いした。

 

………………

…………

……

 

「さーて、どうしたものかしら?」

 

5人からフルボッコにされ、しばらく気を失っていた俺が意識を取り戻し、初めて見たものは、ちゃんと服を着た5人の霊使い達がこちらを冷ややかに睨んでいる光景だった。対する俺は顔面青痣やたんこぶまみれで……とても痛かった。

どうやら5人はアウスの部屋で明日から旅に出る為の下着選びをしていたらしい。そこに何も知らずに来た俺がその光景を目撃し……といった経緯のようだ。

 

「わ、悪気はなかったんだ……ノックもしたし……」

 

無駄だろうな、とは思いつつも一応自分なりの言い訳をする。

 

「言い訳無用、そもそも悪気がないっていうのなら何で部屋の状況がわかったらすぐに出て行こうとしなかったの?」

 

「うっ、それは……」

 

弁解の余地がなかった。「予想外のことに放心してしまっていた」などという理由は言い訳にはならないだろう……。確かに、正直なことを言うと、目の前の女の子達の着替えに数秒間釘づけになってしまったというのもまた事実だ。そりゃ俺だってデュエリストである以前に一人の男なのだから。

 

「やっぱこいつの変態は死ななきゃ治らないみたいだな! 消し炭にしてやる!」

 

そう言うとヒータは怖い顔で掌に魔法で炎を灯し、それを俺に放とうとする。

 

「ちょっと待ってヒータ! そうやってすぐ暴力で解決しようとしないの!」

 

エリアがヒータの腕を押さえて止めてくれた。

 

「だけどさぁ、エリアだってこいつに裸見られたんだぞ? 嫌じゃないのか?」

 

「そ、そりゃ私だって嫌だけども……でも男の子ってそういうものなんでしょ?」

 

「で、でもえっちぃのはいけないと思うです!」

 

「確かに、一人二人ならまだしも、私や先輩達全員の裸を見たというのは……」

 

エリアがフォローしてくれているみたいだが、あいにく他の四人は大人しく許してくれる気はないようだ……。

 

「ふーむ……なるほど、ならやっぱり責任はとらなきゃいけないよね? おにーさん♪」

 

しばらく考え込んだ素振りを見せた後、アウスが不敵な笑みを浮かべながら俺の顔を覗きこんだ。

 

「責任……?」

 

「そ、年頃の女の子の裸を5人分も見ちゃったんだから、当然それ相応の対価を払わなくちゃね~♪」

 

な、なにか嫌な予感が……! これは本気で死を覚悟すべきか……もしくは二度と表立って出歩けないような状態にされるやもしれない……!

……よし、こうなったらさっきのヒータの時みたいにデュエルで許してもらおう!

 

「あ、言っとくけど『デュエルで解決しよう』なんて言っても無駄だからね」

 

げっ……なんてことだ、俺の心が読まれていたとでもいうのか!?

やっぱりこればっかりはデュエルでは解決できないか……なら、もうここはその仕打ちを甘んじて受けるしかない。

 

「わ、わかった! 俺にできることならなんでもする! だからこのことは……!」

 

「ん? 今何でもするって言ったわよね?」

 

俺の言葉に反応を示したアウスは、しめしめとした顔をしながらゆっくりと俺の前にニヤきえた顔を近づける。しまった……この言葉は禁句だったか!? どんな無理難題をふっかけられるというんだ……!?

 

「そうねぇ、じゃあ……」

 

俺は静かに自分の身体が震えるのを感じながら、思わず目を瞑ってアウスの言葉を待った。

 

「ラメイソンに着いたら美味しいお菓子をい~っぱい食べたいな♪」

 

「……え?」

 

固く身構えて瞑っていた目を開き、思わず間抜けな声を出してアウスの顔を見上げる。まさか……そんなことで許してくれるの……?

 

「あっ! アウスばっかりズルいぞ! アタシも頼むぞそれ」

 

「わ~い! お菓子いっぱい食べれるです~♪」

 

「じゃあ私も先輩方と同じにしようかなぁ……」

 

と、ヒータ、ウィン、ライナもまたアウスの案に乗っかったようだ。しかし、ただ一人エリアだけ何故か我慢した様子でプルプルと震えていた。やがて小さく手を上げながら、エリアは呟いた。

 

「わ、私も……それで!」

 

「あれ? エリアちゃんって最近ダイエットしてなかったっけ?」

 

ウィンが不思議そうな顔をしながらエリアに聞いた。

 

「だ、だってみんな食べるなら私も……!」

 

「食べたって私みたいにおっぱい大きくなるわけじゃないのにね~♪」

 

「な、なんだとぅ!?」

 

アウスの余計なひと言でエリアの顔が赤くなり、またアウスに掴みかかる。

お菓子……か。正直、この世界の通貨なんかは持ち合わせてはいないのだが……まぁなんとかなるだろう。俺が思い考えていた他のことをされるよりかはマシなので、その条件を呑むことにした。

 

「……わかったよ。ラメイソンに着いたらたらふく食わせてやるよ」

 

「やった~♪」

 

掴みかかるエリアを右手で押しのけながらアウスはガッツポーズをし、他の霊使いもそれで喜んでいる様子だった。なんだかんだいって、やっぱりまだまだ子供だな。

 

「じゃあ改めておにーさんに自己紹介しなきゃね。私はアウス、大地の精霊使いよ」

 

「私はエリア。水の精霊使いです」

 

「ヒータだ。火の精霊使いだぜ」

 

「う、ウィンです! 風の精霊使いです! よろしくおねがいしまひゅ……いたっ! あうっ、噛んじゃった……」

 

「え~っと、光の精霊使いのライナです。先輩方とは少し歳が離れてますが、一生懸命やってます!」

 

5人の霊使い達はそれぞれ自分の自己紹介を終えた。

 

「もう知ってるかもしれないが、俺の名は天領遊煌だ。気軽に遊煌って呼んでくれていい」

 

「ふーん、でも私達よりも年上みたいだし、呼び捨てってのはねぇ」

 

アウスがちょっと気まずそうな顔をしながらそう言った。

 

「そうか? 俺は別に呼び捨てでも構わないが……」

 

「アタシは呼び捨てで呼ばせてもらうぜ! 変態なんだから呼び捨てで上等だろ!」

 

「……もう好きに呼べよ」

 

やれやれといった感じだが、他の4人は俺をなんと呼ぶかで結構盛り上がっている様子だ。

 

「じゃあ、私はシンプルに『おにーさん』で!」

 

「なら私は『遊煌さん』で」

 

「わ、私は……『遊煌おにーちゃん』で」

 

「私は『遊煌先輩』で呼びますね。先輩って付けて呼ぶのがなんだか慣れてて」

 

と、アウス、エリア、ウィン、ライナのそれぞれ俺に対する呼び方が決まったようだ。ものの見事にバラバラで、なんとも判別がつきやすい。

 

「じゃあそういうわけで、これからよろしくね、おにーさん♪」

 

「ああ、明日から旅の仲間になるんだもんな。よろしく」

 

この際だから先ほど起きた事件……いや、事故を含めて仲間内での蟠りは無しでいきたい。お互いに自己紹介が済んだ今、俺達の間の障害はなくなった様子だ。これなら明日からの旅も問題なく進みそうだ。

 

「さて、じゃあ自己紹介も済んだし私達は荷造りの続きしよっか」

 

「そうね、まだ下着選びの途中だったし」

 

「そっか、好きにしろよ」

 

そう言うと5人は急にジトー……っとした目で俺の方を見る。

 

「……おにーさん、わからないかなぁ?」

 

「え?」

 

 

 

「「「「「出てけって言ってるの!!」」」」」

 

 

 

5人は足蹴りにして俺を部屋の外へと締めだした。

 

「……そういうことね」

 

逆さになって壁に背中をつきながら、俺は先ほどの言葉の意味をようやく理解した。

 

………………

…………

……

 

やることも済んだ俺は一人部屋へと戻る。その部屋の窓から何気なく外を風景を見てみる。大きな校舎があり、その向こうには森が広がっているようだ。すると、校舎の中から続々と生徒が外へと出てくる。どうやら今日の授業が終わったようだ。授業が済んだ生徒は次々にこの寮の中へと入っていき、一気にドアの外が騒がしくなり、賑やかな雰囲気になる。

 

そんな中、唐突に俺の部屋のドアがノックされた。

 

「誰だろう……?」

 

大方ドリアード先生あたりがまた俺に用事でもあって部屋まで来たのかもしれない。

 

「遊煌さん、ちょっとお話があるのですが入ってもよろしいですか?」

 

短いノックの後、ドアの外から声が聞こえた。俺の考えとは違い、その声の主はエリアだった。

 

「エリアか? ちょっと待ってろ、今開ける」

 

俺は窓際から離れ、ドアを開ける。やはりそこには、あの水霊使いエリアが立っていた。俺はエリアを部屋へと招き入れる。エリアの目は何故か先ほどまでとは違い、とても真剣なもののように見える。

話があるのなら、さっき俺がいるときにすればよかったのに……あえて今俺に話をしにきたということは、他の霊使いに聞かれたくない内容なんだろうか……?

 

「どうしたんだエリア? 俺に何か用か?」

 

「いえ、大したことではないのですが……あの、遊煌さんがこの旅になにを目的にしているのかを改めて聞きたくって……?」

 

「旅の目的? そりゃもちろん俺の中にいる覇王をどうにかするためにだよ。ラメイソンに行けばその手立てが見つかるかもしれないんだ。さっき会議を盗み聞きしてる時に聞いただろ?」

 

「はい……」

 

どうにもエリアの様子がなにかおかしい……。なんというか、頼みごとがあるのに申し訳ないという気持ちがあるために言い出せないような感じだ。

 

「まぁ、その旅の途中で離れ離れになった仲間も探せればいいと思ってるんだけどさ」

 

「仲間、ですか……」

 

『仲間』、というワードを出すと何故かエリアは俯いてしまった。

 

「もしかして……エリアにもこの旅に参加するのに何か目的みたいなのがあるのか?」

 

「……っ!?」

 

ギクリとした表情をエリアがした。どうやら図星のようだ。

さっきの会議の時、学院長のあの無茶な提案を、エリアが突然承諾したから何かあるなとは思っていたんだ。

 

「もしよかったら、話してくれないか?」

 

同じ旅の仲間になるんだし、この際互いに知っておかなければならないこともある。そう思い俺は話を切り出した。

 

「実は……私達精霊使いは全員で6人いるんです」

 

「6人?」

 

「大地の声を聞く地霊使いアウス、清らかな水に真実を見る水霊使いエリア、逆巻く火で万物を焼く火霊使いヒータ、荒れる風を穏やかに鎮める風霊使いウィン、光照らす道しるべを射す光霊使いライナ。そして……深黒に染めし闇を操る、闇霊使いダルクが」

 

そう言われてみれば……確かに霊使いシリーズの中には、『闇霊使いダルク』という闇属性の霊使いが存在することを思い出した。

 

「その闇霊使いダルクは……いったいどうしたんだ? この学院では姿を見ないようだけど……」

 

「ダルクは私達と同級生でした。いつも無愛想で、あまり私達とは関わり合おうとはしていませんでしたけど。でも、そんなある日……突然ダルクがいなくなってしまったんです。ちょうどこの部屋は、ダルクが使っていた部屋でした……」

 

と、エリアは視線をこの部屋の床の方に向ける。

だからか、この部屋には何故かつい最近まで人が暮らしていたような感覚があった。そして霊使い達用のフロアにこんな空き部屋があることにも、全てに納得した。

 

「つまり、ダルクを探すためにも旅への参加を?」

 

「それもありますけど、一つ気になることが……」

 

エリアの表情が険しくなり、一拍置いて次の言葉を紡ぐ。

 

「ダルクがいなくなったちょうど次の日から……モンスターのダーク化による事件が起き始めたんです」

 

「えっ、それって……!」

 

もしや……いや、でもただの偶然か……?

確かに闇霊使いダルクというカードには、相手の闇属性モンスターを操る能力が備わってはいる。この世界に存在するモンスター達が実際のカードにおける能力を受け継いでいるというのならば、この世界のダルクにも闇を操ることはできるのかもしれない。だけど、元々闇属性でないモンスターを闇に染め上げ、そのまま操るなんて能力は無いし、まだまだ半人前の霊使いにそんなことができるとは到底思えない。

俺の考えすぎだろうか……? だが少なからず、エリアも俺と同じ考えでいるようだ。

 

「ただの偶然かもしれないですけど……それでも、私は確かめたいんです! ダルクを探して、そしてダルク本人の口から“この事件とは関係ない”と言ってほしい……私の勝手なわがままかもしれませんけど……」

 

「わがままなんかじゃないさ。それは仲間を大事に思えるエリアの良いところだと思う。俺だって離ればなれになった仲間のことが大切だし、それだけに心配だ」

 

俺はベッドに腰かけ、俯いたエリアの目線に合わせると、エリアはこちらを向いた。

 

「わかった、一緒に探そう」

 

「え……? いいんですか!?」

 

それを聞いた瞬間、エリアの表情がパッと明るくなった。

 

「この広い世界で4人探すのも5人探すのも大して変わりはしないさ。一緒にダルクを探して、そして本人の口から真実を聞こう」

 

「ありがとう……遊煌さん……!」

 

「うわっ……ととっ!?」

 

エリアは嬉しさのあまり、思わず俺に抱きつく。抱きつかれた俺は反動で後ろに倒れてしまい、ベッドの上に寝転ぶような形になり、その俺の腰辺りにエリアが抱きつく。

 

「お、おいおい! そのくらいにしてもらわないと……―」

 

 

 

「エリアちゃ~ん、ここ~?」

 

 

 

その時、突然部屋のドアが開かれ、ウィンが中に入ってきた。エリアも俺もあわてて離れて、エリアは壁側を向き、俺はベッドの上に正座して反対側の壁側を向く。双方ともに突然のことだったので顔が真っ赤で息が荒い。

 

「二人ともどうしたんですぅ?」

 

「あっ……あははっ、ウィンじゃなーい! こんなところでなにやってるの?」

 

必死に作り笑いを浮かべてごまかし、ウィンの方に駆け寄るエリア。

 

「エリアちゃん顔が赤いですけど……なにかありましたか? おにいちゃんも……」

 

「えっ!? いや全然全く何も無いぞあははははは!」

 

かくいう俺もカクカクとウィンの方を向いて早口で喋って乾いた愛想笑いをするのに精いっぱいだった。

 

「そうですか……? あ、もうすぐご飯だから呼びに行けってアウスちゃんが」

 

「わ、わかったわ。すぐ行くから先に行っててね」

 

「はいです~」

 

そう言ってウィンは扉を閉めて他の霊使いの元へと戻って行った。ふぅ……助かった。ここで来てくれたのがウィンでよかった。ウィン以外の人が来たら、きっとこの状況はごまかせなかっただろう。

……いや、何もやましいことは無いのは事実なんだが。

 

「そ、それじゃ遊煌さん」

 

「あぁ……飯、食いに行こうか」

 

そんなこんなで、なんだか少しギクシャクとしながら俺達は部屋を出て食堂へと向かった。考えてみれば、ここに来てからまだ何も食べてないからな……腹が減っていることは事実だ。よし、今は余計なことは忘れて、腹いっぱい飯を食うことにしよう。

 

………………

…………

……

 

「あ~、食った食った」

 

食事が終わり、自分の部屋へと戻ってきた俺はそのままベッドの上に倒れこむ。今日はいろいろあって疲れた……異世界への出発、異次元内ではぐれた仲間、デュエルモンスターズアカデミアに流れ着いてからのヒータとのデュエル、そして話されたこの世界で起こってる謎の現象……今日一日だけでこれだけのことがあった。まるでもう何日も経ったかのような気分だ。

このまま寝てしまおうか……とも思ったが、そういえばこの寮には浴場があるということを、さっき食事の席で霊使い達から聞いた。別に入らなくても問題ないんだが、明日から何日かかるともわからない旅を、しかも女の子達と一緒に出るとなると……。

 

「せっかくだから入ってくるか」

 

入浴すれば疲れもいくらかとれるかもしれない。そう思った俺はベッドから起き、ドアの方に歩いていくが……ドアの外からまだ人の声が聞こえていることに気がついた。

 

「……もう少し時間たってからにするか」

 

この時間帯は生徒の食事が終わる時間帯、つまりはおそらく一番風呂が込む時間帯だ。疲れを癒すのに他の人と一緒だと疲れが癒せないかもしれない。そう思った俺は、もう少し時間を空けてから入ることにした。とりあえず生徒の就寝時間になったらこっそり入りに行くことにしよう。

 

「それまでデッキの調整でもしておくかな」

 

適当にデッキをシャッフルし、5枚ドローする。この5枚は言わずもがな手札という想定だ。初手でどれだけ動けるかというのを考えながらそれを何度も繰り返す。そうしているうちに1枚、また1枚と余分なカードが目立ってくるようになる。そういったカードを別のカードが入っているストレージボックスを鞄から出し、入れ替えてみる。そんなことを何度も何度も繰り返していくうちに、夜はだんだんと更けていった……。

 

………………

…………

……

 

「……そろそろいいかな?」

 

あれから何時間か経つ頃には、もうドアの外から生徒達の会話は聞こえてこない。おそらくは各自の部屋で就寝していることだろう。今のうちに俺は静かに部屋を出ると、なるべく音を立てないように歩いていく。このフロアは霊使い達のフロア……おそらく明日に備えてもうみんな寝ているはずだ。起こすわけにはいかない。抜き足差し足……俺は蝋燭に照らされている廊下を進み、階段を下りて行く。

浴場があるのは1階だと聞いている。そして、一部の職員もこの寮で寝泊まりしているらしく、その職員の部屋のあるフロアもこの1階だ。俺は先生達の部屋をドアにあるプレートで確かめていきながら進んでいく。浴場はこの廊下の一番奥にあるらしい。

風呂か……こんな夜更けに風呂に入ると思いだす。あの日、キリアと一緒に風呂に入ってしまった日のことを……。

故意ではなかったにしろ、あの時はさすがに緊張した。ほとんど初対面の、それもあんな美人と一緒に入浴してしまったのだから。

 

「……まさかドリアード先生あたり入ってきたりしないよな……?」

 

嫌な予感(とほんの少しの淡い希望)を察知しつつも、俺は浴場まで辿りつく。よし、誰も入っていない。そうだよな、そんなこと滅多にあることじゃないのに何を考えてたんだ俺は……。

と、浴場の戸に手をかけた時だった。

 

「話し声……?」

 

しんと静まり返ったフロアで、どこからか誰かの話し声が聞こえた。まだ誰か起きているのだろうか? と疑問に思い、出所はどこなのか辺りを見回す。普通ならばその程度のことを気に留める必要もないのだが、問題はその声に俺は聞き覚えがあるということだ。その声は……おそらくはドリアード先生のものだと俺は気がついた。

先生がこんな時間に誰と話を……? どうしても気になった俺は、壁伝いに耳を当てながら歩いていき、その出所を探す。そしてそれは、どうも浴場前の部屋からの声だということがわかった。

その部屋のドアプレートを見てみると、「Doriado」と書かれており、ドアの隙間からは明かりが漏れている。やはりドリアード先生の声のようだ。俺はドア越しに耳を当て、その会話の内容を聞いてみる。

 

「……―……はい、明日には彼らはラメイソンに向け出発します……―……しかし! ……えぇ、その通りです」

 

なんだ……? 俺達のことを言っているのか? くそっ、よく聞き取れないな……。諦めずにもっと扉に耳をくっつけて聞いてみる。

 

 

 

「……―です。はい……―なんとしても、彼らよりも先に女神の行方を捜さなければ」

 

 

 

「っ!?」

 

「女神」というワードを聞いた瞬間、俺は押し殺していた声をほんの少しだけ出してしまった。

 

「誰? そこに誰かいるんですか?」

 

ま、マズい……! 気付かれた! 足音と共にドリアード先生が近づいてくるのが聞こえる! ど、どこかに隠れないと!

 

ドアが開かれる音が聞こえた。

 

「……誰もいない?」

 

開けられたドアからドリアード先生が顔を覗かせ、周囲を見回す。

 

「気のせいだったのかしら……念のため人払いの魔法をかけた方がよさそうね」

 

そう呟くとドリアード先生はドアを閉め、ドアの向こうで何かぶつぶつと呪文のようなものを唱え始める。

 

「……なんとか見つからずに済んだか」

 

ここのドアは外側に開かれる仕組みになっている。なので咄嗟にドアの開かれる裏側へと身を隠すことで事なきを得た。

 

「ふぅ……まさかこんな古典的な方法でバレずに済むとはな……しかし、ドリアード先生は誰と何を話していたんだ……?」

 

小声で呟きながら、俺はドアから離れてとりあえず浴場へと向かう。

だがどうしても気になる……こんな夜更けに、しかも人払いの魔法をかけてまで……それに、全部は聞けなかったが話している内容に「女神」というワードが出てきた……。この単語の意味が、俺の知っている「破滅の女神ルイン」のことなのか……あるいは別の意図があるのか……どちらにしろ、もうそれを知る術は無い。念のためドリアード先生の部屋の前までもう一度行こうと試みたが、人払いの術とやらが効いているのかどうしても行くことができない。

もし、あの会話の内容が行方不明の俺の仲間達のことに関する話だとするのなら……なぜドリアード先生が……? もしやドリアード先生は、なにかを知っているのではないだろうか……?

 

「……考えすぎだよな」

 

無理矢理自分を納得させるようにそう呟くと、俺は浴場の中へ入っていった。

 

………………

…………

……

 

そんなわけでそれ以上のハプニングもこれといって起こるわけでもなく、俺は風呂上がりの通路を一人静かに歩いていた。

風呂の中でいろいろと考えていたが、これといって答えが出せるわけでもないので深くは考えないようにした。とにかく、明日から何日かかるともわからない旅に出るんだ。今日は早めに休んでおかないと……でもやっぱり気になる。そのせいか、疲れているはずなのに妙に眠気が覚めてしまった。

こうなったら無理矢理にでも寝てしまおうと思い、自分の部屋の前まで来ると、俺はドアを開けた。

 

 

 

「よーし! じゃあ私は『水の精霊アクエリア』で攻撃!」

 

「うわ~ん! また負けちゃいました……」

 

ウィン:LP0

 

「エリア先輩の勝ちですか。では、今度は私が相手です!」

 

「ライナ、頑張れよー!」

 

「私達貴女に賭けてるんだからね」

 

「ちょっと! 誰も私の応援してくれてないの!?」

 

 

 

……あまりにも予想外の光景に俺は思わず無言になってしまった。そしてその光景の意味がよく理解できないまま、床の上でカードを広げて楽しそうにデュエル大会を繰り広げている霊使い達に声をかけた。

 

「あのー……君達、なにやってるの?」

 

「あ、遊煌先輩! ごめんなさい、遊煌先輩が戻ってから始めるつもりだったんですが」

 

自分の手にデッキを握りしめながらライナは俺に申し訳なさそうな顔を向けながらそう言った。

 

「いや、そうじゃなくて……なんで俺の部屋でデュエル大会なんかしてるわけ!?」

 

「いや~、早めに寝ようかと思ってたんだけど緊張しちゃって全然寝れなくってさ。だからおにーさん誘ってデュエルでもしようかと思ったんだけど、お風呂入りに行っちゃってるみたいだしさ、仕方ないから帰ってくるまで私達でデュエルしてたってわけ」

 

と、アウスは俗に言う「てへぺろ☆」な表情をしながら嬉々として答えた。

 

「だからって……なにも俺の部屋でやらなくても……エリアまで……」

 

このメンバーの中では比較的真面目な性格のエリアまでこの場に駆り出されていることに、俺は意外に思いつつ少しぼやいた。

 

「い、いえ! 私はみんなには『遊煌さんの迷惑になるから』と止めたんですが……私以外みんな行くっていうし……私一人で寝るの寂しいし……」

 

と、慌てながら弁解し、だんだんとエリアの声が小さくなってくる。さっきの会議の時もそうだったが、どうにもエリアは真面目な性格故にこうやって周りに流されやすいところがあるらしい。先ほど俺に悩みを打ち明けていた時とは大違いだな。

 

「さぁさぁ、おにーさん参戦だから戦績はリセットだよ! もう一回最初から始めよ!」

 

「えー、アウス先輩、私せっかくいいところまで勝ち進んでたのに……」

 

「でもまぁ、これで人数が偶数になったから組み分けしやすくなったわけだよな」

 

俺の意見など無視して、霊使い達はどんどん話を進めていく。

 

「ちょっと待て、俺はデュエルするなんて一言も言ってないぞ!?」

 

「えー、いいじゃんおにーさん、減るもんじゃないし。この部屋でおにーさんの参加をずっと待ってたんだよ?」

 

「俺はそんなこと一言も頼んでないんだが……」

 

「いいじゃねぇかよ、男のくせに小せぇことばっか言ってんなよな~」

 

ついにヒータまで好き放題言ってくる始末だ。

……ええい! こうなったらなるようになれだ!

 

「わかったよ……でも、俺が眠くなるまでだぞ?」

 

「わーい♪ 私、遊煌おにいちゃんと一回デュエルしてみたかったんですぅ♪」

 

「よーし、となるとまた最初からね」

 

「はぁ……私の連勝記録が……」

 

というわけで霊使い達とデュエルすることになってしまったようだ。まぁ正直、さっきのドリアード先生のことがあったからいろいろと考え込んでしまっていたからデュエルは結構ありがたいことだった。気が紛れるからな。

 

「じゃあ最初に俺とデュエルしたい奴は誰だ?」

 

「はいはーい! ウィンがやりまーす♪」

 

ウィンがにへらと笑いながら自分のデッキを握って俺の前に座る。俺もあぐらをかいて床に座り、デッキを取り出す。

 

「お、ウィンが相手か。よし、手加減しないからな?」

 

「望むところですっ!」

 

両手を握ってふんす!と気合を入れたウィンと対峙し、俺は互いに交換してシャッフルしたデッキを手渡した。

 

「始めるぞ」

 

「はい!」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

………………

…………

……

 

翌日、早朝。

アカデミアの校門前に俺と霊使い達は並び、先生方も見送りのためにここに集まっている。大方、簡単な壮行会をここで行ってくれるみたいなんだが、当の俺達はというと……。

 

「ふわぁ~~~……」

 

寝ぼけ眼で重い瞼が下がりそうになるのを堪えつつ、一人が欠伸をするとつられて他のとこからも欠伸が出る。そう、結局昨夜はみんな緊張して全然眠れなくて一晩中デュエル大会をしていたのだった。しかし眠気はずっと覚めているというわけでもなく、朝方になってから急に睡魔が襲って来たのだ。しかしそのタイミングで寝てしまうと寝坊することになるだろうと、結局出発の時間まで一睡もせず、今に至るというわけだ。

 

「あの……皆さん大丈夫ですか? なんだか眠そうですけど……」

 

先生方からの送別の話が終わると、ドリアード先生が小声で俺達にそう聞いてきた。

 

「だ、大丈夫ですよ! 大丈夫! 歩いているうちに眠気も覚めてきますよ……ははっ」

 

「そうですか? ならいいんですが……」

 

やれやれ……誤魔化すのも一苦労だ。俺がそうやって誤魔化している間も、他の霊使いは焦点の合わない目で必死に意識を保とうとしていた。

しかし、ドリアード先生か……。昨夜の一件以来気になってしょうがない。今のところ怪しい素振りはないようだが……。

 

「では、ワシからの言葉は以上じゃ」

 

ああ! 眠気と考え事のせいでいつのまにか学院長の話まで終わっていた! いかんいかん……シャキっとしなければ!

 

「最後は私からです」

 

先生方からのお言葉の最後はドリアード先生からだ。みんなも自分達が一番お世話になっている先生の言葉だけはなんとか聞こうと眠気を堪えて耳を傾ける。

 

「皆さん、どんな困難にも正面から立ち向かい、皆で協力して乗り越えて下さい。そしてまたこの場所で、ここにいる全員が集まれるよう祈っています。これは少ないですが、私からの餞別です」

 

と、ドリアード先生は懐から小さな包みを取り出し、それを霊使い達に配る。

 

「これって……お金じゃありませんか!? 先生!」

 

エリアが驚いた声を出す。エリアだけでなく、他の霊使いも驚いたような声を出して眠気などどこかに吹っ飛んでしまった様子だ。見た感じズシッとした質感のその包みは、中にこの世界での通貨が入っているのだろうか。中からは金属同士が擦れ合う音が聞こえる。

 

「ふわぁ、こんなに……」

 

「マジかよ……」

 

「い、いくら私でも……無償で貰うっていうのも何か悪いわねぇ」

 

「先生、私達は自分のお小遣いぐらいは持っています! こんなに頂くわけには……」

 

申し訳なくなったのか、ライナが袋を返そうとするが、ドリアード先生は首を振ってそれを拒んだ。

 

「道中何が起こるかわかりません。備えあれば憂いなしです。私からの気持ちとして、受け取っては頂けませんか?」

 

「先生……!」

 

それを聞いて霊使い達は感極まってしまったのか、皆涙目になりながら全員ドリアード先生に寄り添う。ドリアード先生は彼女らを手を広げて抱き、「よしよし」と一人ひとり頭を撫でる。

……ヤバい、なんだかつられてこっちまでグッとくるものがある。俺は潤みそうな目を必死に眠気として誤魔化すために、欠伸をするフリをする。

 

「さぁさぁ皆さん、大丈夫ですから。それと、遊煌さんにも」

 

名残惜しそうながらも霊使い達がドリアード先生の元を離れると、先生が今度は俺の方に歩み寄り、俺にも何かを手渡そうとする。まずは他の霊使い同様にお金の入った袋。だが、俺にはさらに何かあるようだ。

 

「これも受け取っていただけますか?」

 

「……これは?」

 

ドリアード先生が俺に差し出したのは、2枚のカードだった。

 

「役に立つかどうかはわかりませんが、私からのお守りです。きっとご加護があると思います」

 

「いえ、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 

その2枚のカードは……なるほど、“このカード”か。あのドリアードだもんな、納得だ。俺はそのカードを自分の腰に付けているデッキケースに入れた。それを見て、ドリアード先生は嬉しそうにほほ笑んだ。

その微笑みを見て俺は確信した。そうだよ……どうやら俺は何か思い違いをしていたようだ。この優しそうなドリアード先生が裏で怪しいことなんてしているはずがない。昨日見たアレも、きっと何かの間違いだ。

 

「遊煌君、これはワシからなんじゃが」

 

今度は学院長先生が俺に何かを手渡す。封筒のようだ。

 

「これをラメイソンの賢者に渡してはくれぬか? わしから詳しいことを綴ってある。きっと問題を解決してくれる手助けをしてくれるはずじゃ」

 

「わかりました。学院長先生、ドリアード先生、他の先生方も、いろいろお世話になりました。ここまでしていただいて、本当に感謝しきれません」

 

俺は集まる先生方の前で深々と頭を下げた。

 

「またいつでも来たまえ。その時はぜひ、私の授業を受けてもらおう」

 

「お師匠様の授業は眠くなると評判ですからね~。遊煌君、覚悟しておいたほうがいいですよ~」

 

と、ブラック・マジシャンことマハード先生の提案に対し、ブラック・マジシャン・ガールことマナ先生が俺の方を見ていたずらっぽく微笑む。

 

「こらマナ、余計なことを言んじゃない」

 

「てへへ、ごめんなさ~い♪」

 

「ははっ、そうですね……無事に帰れた時には、考えておきます」

 

それは半ば、自分自身への暗示でもあった。全ての問題を解決した時、みんなでこの場所に集まる……そういう意味を含めて。

 

「では皆さん、そろそろ……」

 

名残惜しそうにドリアード先生はみんなにそう告げる。それを聞いて、霊使い達は口々に別れの言葉を告げる。

 

「それじゃ先生、行ってきます」

 

いつものごとく、エリアは真面目に。

 

「心配しなくても、ちゃちゃちゃっと行ってパパパっと帰ってきますよ」

 

アウスは心配させないようにか、軽い雰囲気で。

 

「えとえと、私もみんなとまたドリアード先生の授業受けたいです! だから……待っててくださいっ!」

 

ウィンは口下手ながらも一生懸命に。

 

「先生、このお金はいつか必ずお返しします。だからその時が来るまで、私が先輩方を可能な限りサポートします!」

 

ライナは先輩である他の霊使いを助けると約束し。

 

「えっ、貰えるんじゃないの!? あ……ええと、先生……こういうの言うのはちょっと恥ずかしいんだけど……あ、アタシ達はドリアード先生が大好きだから! 大好きな先生残しておっ死んじまうなんてことは絶対しないから、安心して待っててくれ」

 

最後にヒータは、ちょっとボケたがいつもの熱いノリでドリアード先生に約束した。

 

「皆さん……どうか無事で、そして必ず帰ってきてくださいね」

 

 

 

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 

 

霊使いの中に混じって俺も返事をし、とうとう俺達は一歩、学院の外に歩を進めた。そこからずんずんと俺を先頭にして歩いていく。後ろの霊使い達は、時折振りかえっては去りゆく先生方に手を振る。そして先生達もまた、俺達の姿が完全に見えなくなるまで、何度も何度も手を振っていた……。

 

さぁ、いよいよこの古の森の中に入る。まず最初の目的地はこの森の中に住んでいるという、俺と同じ世界から来たという男に会わなければ。

一体どんな人物なんだろうか……?

 

…………………

…………

……

 

「……行ってしまいましたね、ドリアード先生」

 

「はい……」

 

遊煌と霊使い達の姿が見えなくなると、マナの声でドリアードは振っていた手を下げ、同時に少し表情が曇る。

 

「なぁに、心配することはない。若いうちには色々なことを体験するべきじゃ」

 

「学院長の言うとおりです。ドリアード先生、気を落とすことはありません。あの子たちならどんな困難でも解決できると、私は信じています」

 

マハードの言葉にドリアードは少し元気を取り戻す。

 

「そうですね……あの子達なら、変えてくれるかもしれませんね」

 

「何かとは……何を?」

 

「さぁ……でも、“何か”をですよ。私はそう信じています」

 

ドリアードの言葉の意味がよくわからないらしく、マハードはマナと顔を見合わせる。

 

「さぁ、我々は今日の授業の準備をしましょうか」

 

「え、えぇ……」

 

見送ったとしても今日は休日と言うわけでは無い。授業の準備をするために、先生達は校舎内へと戻って行った。

 

 

 

(この世界の命運……あなた方に託しますよ。霊使い達……そして、遊煌さん)

 

校舎内へと戻る最中、ドリアードはそんなことを思っていた。




今回から文体を少し変えてみました。
ZEXALも最終回を迎え、いよいよARC-Vが来週から放送となりますね。
破滅の女神さま内でのデュエルは今まで通り先攻ドローはアリとなりますが。
今回はデュエル無しの話となりましたが、代わりに新たに出会った霊使い達との触れ合いについて掘り下げてみました。
そして旅を共にすることとなりましたが、次回からは本格的に霊使い達との旅編が始まります。
お楽しみに!
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