誰か助けてくれる人はいないのか…そんなフレイヤの悲痛な叫びがこだまする中、とあるモンスターと出会う。
「ハァ……ハァ……」
どれくらい道なき道を進んだだろう? この道中、何度もモンスターに襲われかけ、その度に命からがら逃げ出して窮地を脱してきたが……もう体力の限界だった。おそらく、次に襲われたら最後……もう逃げのびるほどの体力も残っていない。どこかで休みたいのだけど、同じ場所にじっとしていればそれこそモンスターの餌食になりやすい。
どうしよう……そろそろこの場所に飛ばされてもう丸一日、不眠不休でさ迷っている私は限界だった。大分歩いたし、どこかに休める人里でもないだろうか……?
「あそこからなら……周囲を見渡せるかも!」
目の前に見えたのは小高い丘だった。はやる気持ちで疲れも忘れて私は小走りでその場所に向かう。そびえたつ木々を抜け、その丘の上まで一気に駆けのぼる。高いところから見渡せば、人里がどこかにあるかわかると思ったからだ。
しかし、現実はそう甘くは無かった。
「なに……これ……?」
私が見た光景は、私の期待を軽々しく裏切るかのような光景だった。
「見渡すばかり森、森、森……森ばっかりじゃないの……」
そこから見えたのは人の気配などは全くなく、無限に続くかと思うくらいに広大な樹海が目の前には広がっていた。
「もう……何なのよこれはーーーーー!!!」
堪らず私はその場所から大声で叫んだ。
私、勝利の導き手フレイヤ。現在進行形で絶賛遭難中。
―――――第32話:「フレイヤの受難」―――――
「と、とにかく……なにか食べ物を見つけないと……あと水も……歩き回って喉乾いた……」
この際人里に着くということは一旦置いておいて、当面の目標は食料の確保だ。何せ丸一日歩きまわっているというのに、食べ物一つ確保できないでいた。というのも、食べ物や飲み水がありそうな場所には決まって凶暴なモンスターがいたのでフレイヤは何も飲まず食わず、おまけに不眠不休で一晩歩きまわるはめになってしまったのだ。
「あぁもう! それもこれも全部アイツのせいよ!」
~~
『フレイヤ! 手を!』
~~
フレイヤはあの時のことを……次元のトンネルを抜ける際に巨大な次元震が起きた時のことを思い出していた。
「あの時、アイツは一番身近にいた私に手を伸ばした……気がした。いや、でも残ったのは私とアイツ二人だけだったし、残った者同士で手を繋ごうとするのは当然か……」
よほど不満が溜まっているのか、それとも一人黙って歩いていると心細くなってしまうのか、フレイヤはぽつりぽつりと独り言を呟く。
「そうよ! そもそも、もしあの場にお姉さまがいたらアイツは迷わずお姉さまの方に手を伸ばしていたはずだし、私だってアイツよりも先にお姉さまを……っていうか、あの時アイツがさっさと私の手を掴んでいればこんなことには……もう! 覚えておきなさいよ!」
仲間と離れ離れになった時のことを思い出すと、自然に怒りが込み上がってきて、皮肉にもそれはフレイヤの体を動かす原動力にもなった。
とにかく、フレイヤは遊煌に会ったらとりあえず一発かますということを考えながら、ずんずんと森の中を進んでいった。
………………
…………
……
「あぁ~……もうダメ……歩けない……」
歩き疲れたフレイヤは近くの木の根元に座り込む。ここもいつモンスターに襲われるかわからない以上、同じ場所に留まるのは危険だが、今のフレイヤはもう限界だった。怒りのエネルギーも尽きかけ、座りこむと大きくため息をついて上を見上げる。少しでもいい、休息が必要だ。
「ああ……そよ風が気持ちいいわ……」
眠気も限界だったため、木々の間から心地よく吹く風に癒されながらも、フレイヤは寝てしまわないようすぐに開けるつもりで目を閉じた。しかし、そのまま意識は眠りにつこうとしている。完全に意識が途切れてしまう……その時だった。
…………。
「……っ!?」
何かが……いや、誰かが近くにいる……? 呼吸の音か、それとも体を動かす動作の音が聞こえたのかはわからないが、とにかく何故かフレイヤは自分の近くに誰かがいる気配をはっきりと感じ取った。
「もしかして……人!?」
フレイヤはハッと目を覚まして、周囲を見回す。
「どこ!? 誰かいるの!?」
返事は無い……が、フレイヤは自分の近くに誰かがいることは確かだと悟った。
注意深く辺りを見回す……とその時、木の陰になにか草のようなものがぴょこりと動いた。明らかに風や、小動物が動いたような感じではない。フレイヤは四つん這いになりながら、おそるおそると静かにそこまで近寄る。
「え……?」
そこにいたのは、ただの草ではなかった。木の陰に隠れていたのは、人の姿をしているが、髪の毛が草のようになり、足が木の根のようになっているモンスターだった。しかし、モンスターといっても危険な感じはしない。そのモンスターはフレイヤの視線に気がつくと、驚いた表情をして慌てて木の根元に隠れてしまった。
「ま、待って!」
フレイヤは慌ててそのモンスターを追いかける。敵意はないとするなら、何かこの森から出る方法でも教えてくれるかもしれない。縋るような気持ちで隠れた木の根元を覗く。
そこには、先ほどのモンスターが小さく縮こまっていた。フレイヤは極力相手を刺激しないように、優しく声をかける。
「えっと……こ、こんにちは。私は……その……フレイヤっていうの。貴女の名前は?」
疲労が溜まっているが、なんとか笑顔を作りながらそのモンスターに話しかける。すると、こちらの気持ちが通じたのか、おそるおそる顔をこちらに向け、そして応えてくれた。
「……メリアス」
「え?」
「メリアス……『メリアスの木霊』」
このモンスターの名前は『メリアスの木霊』というらしい。フレイヤは相手が名乗ってくれてホッと胸を撫で下ろした。どうやら意思の疎通はできるようだ。
「よかった……会話ができる……」
安心したら途端に体の力が抜けてしまい、フレイヤはその場にへたれこんでしまう。
「フレイヤは……どうしてここにいるの?」
その様子を見て完全にフレイヤ側にも敵意がないということがわかったのか、木の根からふわふわと浮き出てメリアスはフレイヤにそんな質問をしてきた。
「そんなのこっちが聞きたいわ……次元の壁を抜けて出たらこの森のど真ん中にいたのよ」
「大変だったね……」
フレイヤのこの疲れきった様子を見て、メリアスは少しばかり同情してくれているようだった。
「ああ……でもよかったわ……モンスターでも話し相手がいて。ねぇ、この森から出る方法を知らない!?」
この森に住んでいるモンスターであれば、あるいはここからの出口も知っているかもしれない。そう思い、メリアスに聞いてみる。
「ごめんなさい……私、この森から出たことがないから出口がどこにあるか知らないの……」
申し訳なさそうにメリアスはしゅんとしながら小声で言う。
「そ、そう……」
淡い希望を抱いていたが、それを聞いて落胆してしまう。これで完全に万事休すか……せっかく一人で森の中をさまよい続けて、ようやく話し相手が見つかったのに……。
「で、でもこの森に住んでいる人がいるから、その人なら出口を知っているかも」
落胆したフレイヤを少しでも元気づけるためにか、メリアスがふとそんなことを言った。
「ほんと!? こんな森に住んでいる人がいるの!?」
「うん、この先に湖があるから、そこを越えた先にいるよ。案内してあげる」
本当に助かった。モンスターでなく、人が住んでいるなら、きっと出口を教えてもらえるはずだ。それでなくても食べ物と寝床くらいは与えてくれるだろう。潰えたと思った希望がまた沸き上がって、少しも動けなかったフレイヤだが、もう一度立ち上がってその人の住む場所を目指すことにした。
そして、そんな元気になったフレイヤの様子が嬉しいのか、メリアスもまた元気に宙を飛びまわり、フレイヤの先を飛んで先導してくれた。
………………
…………
……
「あ、見えた! 湖だよ!」
しばらく森の中を歩くと、突然に視界が開け、その先には巨大な湖が広がっていた。湖畔の周辺には高い木々がなく、高い日差しが降り注ぎ、湖面はキラキラと輝いている。近づいてみると、水はとても澄んでいて綺麗だということが分かる。
「この湖に来たらもう少しだよ、頑張って」
「ま、待って……私もう喉カラカラで……こんなに綺麗な水なら……飲んでも大丈夫だよね?」
と、メリアスの答えを聞く間もなく、既に水分不足で限界状態だったフレイヤは両手に水を掬い、それを口に運び、一気に飲み干す。
「あ、冷たくておいしい!」
どうやら体に害はないようだ。それがわかると、少し行儀が悪いが、今はそんなことを言ってはいられない。今度は直接湖面に口を付けて水をがぶがぶと飲み始める。
「ちょっ、ちょっと! フレイヤ!」
「あぁ~……生き返るわぁ~」
文字通り、なんとか命を繋いだ私はどっと疲れが出たらしく、湖畔の草むらに大の字になって寝転がる。
「ダメだよフレイヤ! 早く起きて!」
「なに慌ててるのよメリアス……こちとら昨夜は全然寝てないんだから、ここでちょっと休憩していっても罰は当たらないでしょ……」
何故か慌てているメリアスをよそに、もうすでにフレイヤは目を閉じて意識は半分寝にかかっている。
「ダメだよ! その湖には……―!」
メリアスが何かを言いかけた……その時だった。
突如湖面の下に何かがゆらりと動いた。そして次の瞬間、突如として長い触手が飛び出し、フレイヤの体に巻き付く。
「なっ!? なななな……なによこれ!?」
突然のことに眠りかけていた意識は完全に覚め、フレイヤは触手から逃れようとじたばたともがくがその度に湖の中から新たな触手が1本、また1本とフレイヤの細い腕や足に絡みつき、動きを封じる。
「うえ~!? き、気持ち悪い……!このっ! 離しなさ……きゃっ!?」
ぬめぬめとした感触に嫌悪感を抱きつつ、フレイヤの体は宙吊りにされてしまう。
「ばっ……! バカバカっ! スカートが……!」
宙吊りにされることでスカートがめくれてしまい、霰もない姿を見せてしまう。フレイヤは必死に手で押さえようとするが、触手に拘束されて動かすことができない。
すると、眼下の湖面からその触手の主が姿を見せる。
赤い二つの目を光らせ、髑髏を逆さにしたような鼠色のそのモンスターは、頭部にある口は大きく広げてフレイヤを威嚇する。
「ひっ……! き、キモっ! なによこいつ!?」
「この湖の主、スカル・クラーケンよ! この湖に入りこもうとした者はみんなあいつに……!」
「く、クラーケン!? イカってこと!? なんで湖にイカがいるのよ!」
おかしいと思っていた、何故この湖がこんなにも綺麗なのか。こいつが自分の住みやすいように邪魔者を片っ端から排除し、そして日の光が入りやすいように背の高い木々はこの触手でなぎ倒していたからだ。そんな考えがフレイヤの脳内をめぐった。
メリアスはおどおどとしてどうしていいのかわからない様子だ。一方のスカル・クラーケンは触手を動かしてフレイヤの体を弄ぶ。太い触手で四肢を拘束し、細い触手でめくれた服やスカートの中に侵入し、直にフレイヤの肌の感触を味わう。
「ふひっ!? ひはははははっ! はぅっ……! そ、そんなとこ触ったら……!」
くすぐられたり弄られたり、嬲られたり。スカル・クラーケンはフレイヤの体をおもちゃにして遊んでいる様子だ。
「ちょっ、ちょっと! アンタも見てないで助けてよ!」
「ひえええっ!? で、でも……」
だが案の定、メリアスは怯えてしまって助けるどころではない。それに、メリアスの方がスカル・クラーケンとは比較にならないほど体がとても小さいのだ。とてもこのスカル・クラーケンを相手にして無事で済みそうにはない。下手をしたら巻き込まれてしまう。
「わ、わかった! じゃあアンタがその男のところに先に行って助けを呼んできて!」
「う、うん! 待っててね!」
それを聞くとメリアスは全速力で飛び、あっという間に森の中へ姿を消してしまった。
それまでは自分がこの仕打ちになんとか耐えないと……!
「ひっ!?」
だがその時、今までとは明らかに違う触手の動きをスカル・クラーケンはし始めた。フレイヤは巻き付く触手でその感触を感じ取った。
「やっ……! やだっ! どこ触って……あんっ!」
思わず変な声が出てしまう。クラーケンの触手はフレイヤの足を這い、めくれたスカートの中に入り込み、そしてその中の……。
「ちょっ……ちょっと待ちなさいよ! そ、そこは……! そこだけは……!」
だんだんと涙目になるフレイヤ。
もうダメだ……自分はこんなイカ風情に弄ばれて……辱められて……そしてきっと最後は……!
「いやっ……やだ……やだよ……! 誰か助けてーーー!!!!」
「『サイバー・ドラゴン』! ≪エヴォリューション・バースト≫だ!」
その時、森の奥から黄色い閃光が瞬き、一直線にフレイヤの方へと迫る。いや、正確にはフレイヤが吊るされている触手へとだ。閃光は触手を焼き切り、宙づりにされていたフレイヤは下へと落下する。
「きゃあああっ!?」
「頼む、『マシュマロン』!」
今度は『マシュマロン』が出現し、『マシュマロン』は見かけの割に素早い動きで宙を舞い、落下するフレイヤをその柔らかい体で受け止め、岸へと引き返し、そこでフレイヤを降ろした。
「あ、アンタ……!」
「待たせてゴメン、フレイヤ」
そう言ってその人物は森の奥からフレイヤに歩み寄る。
デュエルディスクにセットした『マシュマロン』を外すと、実体化していた『マシュマロン』がカードの中へと戻る。そう、モンスターを召喚し、フレイヤを助けたのは、彼女のマスターである天領遊煌だった。
「あ、アンタねぇ! い、今までどこにいたのよ!」
「ご、ごめんごめん! あの後、なんとかみんなを探そうとしてたんだけど……―」
「ばかばかっ! 私なんて昨日から何も飲まず食わず寝ずで歩き回ってたってのに……!」
フレイヤはポコポコと遊煌の胸あたりを叩く。しかし、だんだんとその叩く力が弱くなっていき、最後には遊煌の胸に自分の顔を埋めて泣きだしてしまった。
「お、おい……!」
「早く助けに来なさいよね……すごく……すごく怖かったんだから……ばかぁぁぁ……! うえぇぇぇ~ん!」
今まで溜めこんできたものが一気に溢れ出てしまったかのように、フレイヤはその場に崩れると大声で大号泣し始めてしまった。
「ちょっ、ちょっと待てフレイヤ! こんなとこで泣かれても俺困る……―!」
その時、運悪く遊煌の背後の草むらががさがさと音を立て、そこからメリアスと霊使い達が姿を現した。
「お、おにーさんが泣きわめく着衣の乱れた女の子を襲ってる!?」
「ちがーーーーーう!!!」
フレイヤの泣き声もかき消すほどに、遊煌の絶叫が森中に木霊した。
………………
…………
……
「ちょっと熱いけど我慢しろよ」
「うん……」
湖畔から少し離れた森の中。俺達はそこで休憩していた。傍ではフレイヤがあのスカル・クラーケンに襲われ、服や体が湖の水やイカの粘液やなんかでぬるぬるになってしまっていたため、炎を操るヒータの魔法で乾かすことになった。
その間に俺は霊使い達から受けたあらぬ誤解を解くために、俺とフレイヤとの関係について簡単に説明をした。
「なんにしても、遊煌さんのお仲間が見つかってよかったです」
「ほんとよね。次元のトンネルの中でバラバラになったって聞いていたから、こんなところで会えるなんてほとんど奇跡よね」
「お前らな……さっき俺に言っていたこととまるっきり真逆じゃないか?」
「まぁまぁ、昨日の今日で仲間の一人がさっそく見つかってよかったじゃないですか、先輩」
「そうだけどさ……」
むすっとして俺は応える。だとしても解せないものが俺の中にはあったからだ。
「ところでさっきのスカル・クラーケン、足を焼き切っただけでトドメは刺してないけどよかったのか?」
フレイヤの服を魔法で乾かしながらヒータが俺に尋ねる。
「まぁフレイヤもこうして無事なわけだし、そこまでする必要はないだろ。足だけ奪っておけば当分は悪さできないだろうしな。イカなんだから、しばらくしたらまた自然に生えてくるだろうし、それまではせいぜい反省してもらおうじゃないか」
あのスカル・クラーケンも、今頃は湖の底で大人しくしている頃だろう。当分悪さはできないはずだ。
「ありがとうございます、遊煌さん。あのスカル・クラーケンには森の住人も大変迷惑をしていて……これで皆が平等にあの湖の水を使うことができます」
メリアスが小さな頭をぺこりと下げてお礼を言う。
「お礼を言いたいのはこっちの方だよ。フレイヤの傍にいてくれて、ありがとうな」
本当に運が良かった。てっきり全員探し出すまで相当時間がかかると思っていたのだが、これは幸先が良い。あとはルインとウェムコとキリア……そして、エリアの探す闇霊使いダルクの4人……それでもまだ、この広い世界で4人も探さなくちゃならないのか……。
「よしっ……と。上手くいったな」
「あ、ありがとう……」
ヒータの魔法がうまくいったようで、フレイヤの服も体も、すっかり乾ききっていた。
「それにしてもアンタ、よく私の居場所がわかったわね。もしかして、メリアスが助けを呼びに行ったのがわかったの?」
と、フレイヤは自分の傍で空中に浮いている妖精、『メリアスの木霊』を見ながらそう言った。だが、それに対してメリアスは首を横に振りながらこう言った。
「いえ、私が助けを呼びに行った時、ちょうどこの人が猛スピードで森の中を走って私と行き違いになりました。なんだか凄く焦った表情をしていましたけど……」
「私達と一緒にいたときも、遊煌さんが『ただならない気配を感じる』と言ってあの湖の方に駆けて行くのを見ました」
エリアがそう証言すると、他の霊使い達も「うんうん」と首を縦に振る。
「え……な、なんで私が襲われてることがわかったの!?」
「……ちょうどその時に、俺のデッキにある『勝利の導き手フレイヤ』のカードが何かを俺に教えてくれている気がしたんだよ。波動というか、脈動というか……そういうものがデッキの中から『危険が迫ってる』って警告してくれて、その気配の元を辿って行ったらお前が襲われていたんだ。」
今にして思うとそれは、以前デミスが俺達の世界で禁術『エンド・オブ・ザ・ワールド』を発動させようとした時に、『マアト』の力を借りて会得したドロー術……≪心眼の引き札(オース・サイン・ドロー)≫の、表を見ずに裏側からカードの脈動を読み取ることができる能力がまだ俺の中に残っていたからわかったのかもしれない。
「へぇ~、そうなんだ。で、でもさ……そんな曖昧なもの信じてつっ走ったってことは、私のこと……そんなに心配してくれたんだね」
それを聞いて俺はなんだか恥ずかしくなってそっぽを向き、対照的にフレイヤはとても嬉しそうな笑顔を溢す。
「あ、当たり前だろ……あんなことがあった後じゃ」
「うん、ありがと♪」
俺にこんな笑顔を向けるなんて珍しい……。フレイヤは何故かとても嬉しそうにしながら、今まで俺が見たこともないような笑顔を向けてお礼を言う。それを見ていた周囲の霊使い達やメリアスも、何故かニヤニヤしながら互いに顔を見合わせている。
「そういやお前はあの後、どうしていたんだ?」
それは純粋にフレイヤのことを心配して聞いてみたつもりだった。しかし、それを聞くとさっきまで笑顔だったフレイヤの顔がだんだん曇っていき、やがてすっかり落ち込んだ様子でぽつりぽつりと話し始める。
「……歩き回っていたのよ……ずっとこの森の中を……。次元トンネルを抜けたら一面森ばっかのところに放り出されて……あちこちに凶暴なモンスターがいるし……食べ物も水も寝床も確保できないまま歩き回って……」
「あの……フレイヤさん?」
フレイヤのあまりの落ち込みぶりに、エリアは心配して声をかける。
「アンタはいいわよね……ちゃんと人の住んでいるところに落ちて……そこでそこそこ歓迎されて……あまつさえこんなにかわいい女の子達と一緒にいられて……あーあー! さぞ楽しかったでしょうね!」
落ち込んでいたと思ったら今度は怒りだした。全く……さっきまで泣きまくっていたり、喜んでいたのに、喜怒哀楽の激しい奴だ。
「た、楽しいわけあるか! お前や、ルイン達のことが心配で夜も眠れなかったんだぞ!」
嘘はついてない。ずっと心配していたし、昨晩は寝ていないし。
「そ、そうなの? それなら……まぁ……いいんだけど……」
と、フレイヤから怒りの表情が消え今度もまた何故かちょっと嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな表情を浮かべながら俺から目線を逸らしてしまった。
(ちょろいわね……)
(ちょろいね)
(ちょろいな……)
(ちょろい……ですっ)
(ちょろすぎます)
そんなフレイヤの様子を見て霊使い達はなんともいえない表情を浮かべていた。
「まぁまぁ、さてそれじゃ一休みしたところでさっそく出発するとしましょうか」
「あ、そうそう! ごたごたで忘れていたけど、メリアスの話だとこの森に人が住んでいるみたいよ!」
と、フレイヤが慌てて思い出したことを口走った。
「知っているよ。俺達はその人に会いに行くためにこの森に入ったんだからな」
「あ……そうなの?」
俺がそう言うとフレイヤはきょとんとした表情を見せる。目的が同じと知って、慌てて言ったことがとんだ取り越し苦労だと悟ったようだ。
「湖の近くと言っていましたから、もうすぐですね」
「じゃあ私がそこまで案内してあげる!」
そう言ってメリアスが俺達の先頭に立って案内をしてくれようとしている。友好的な森の住人が一人でもこちら側に付いてくれるのはありがたい、フレイヤに感謝しなくちゃな。
「ありがとう、フレイヤ」
「な、なによいきなり! 気持ち悪いわね! いいからさっさと行くわよ、ほら」
すっかり元気を取り戻した様子で、フレイヤは俺の手を引っ張る。俺の気のせいかもしれないが、心なしか以前よりもフレイヤとの心の距離が縮まった……そんな気がした。
今回は普段あまりないフレイヤにスポットを当てて書いてみました。
そしてちょっとえっちな描写も…w
なにはともあれ、これで一人合流しました。
さて、森に住む男の正体とは…?