家に残されたルインは、1人でいるのに飽きてしまい、外に出たいと思い始める。
しかし外に出れば主に怒られてしまう…そんな時に目に入ったのが、主の忘れたジャージの袋だった。
「……暇だ」
壁にかけてある時計という物を見ると、長い針が30を、短い針が8と9の間を指している。
今、主は家にはいない。主は学校というところに行っているらしく、私は一人で家の留守番をしている。
あれほど夢中になっていたテレビだが、さすがに長い間見ていると目が疲れてきて、今はもう電源を切ってある。
暇で暇で仕方がないが…外に出るわけにはいかない。何故なら今朝、主は私にこう言ったからだ。
~~
『いいか? 俺は学校に行ってくるけど、俺が帰ってくるまで家で大人しくしてろよ? この前みたいに迷子になっても知らないからな』
『わかっている。私は外に出なければいいのだろう?』
『わかっているならそれでいい。じゃ、行ってくるからな』
『行ってらっしゃい、主』
~~
…と、主と約束したからな。
主が行っている“学校”という所もどんな所なのか行ってみたいが、外に出たら怒られるしな…。
「はぁ……ん? あれは…」
深いため息をついて、私はふとソファーの方を見た。
そこには妙な白い袋がぽつんと置いてあった。
「なんだこれは? …これは確か、ジャージとかいう主の衣服…」
袋の中身を見てみると、この前の買い物の時に主が私に着せたジャージという衣服が入っていた。
確か今日、学校で使うと聞いていたのだが…。
「ふむ、主が忘れていったのか。…そうだ!」
その時、頭の中である考えが閃いた。
「よ、よし! これが無ければ主は困るだろう。ならば、私が学校に行って届けてやろうではないか。こ、これは非常時だからな! 非常時だから仕方ないのだ!」
独り言のように何度も自分の中で『非常時』という言葉を言い聞かせる。このジャージが無ければ主は困るのだから、もしこれを私が主の元に届ければ、主はきっと怒らず、むしろ私を褒めるはずだ。故に、外に出たことを咎められることはないだろう。
「そうと決まれば…さっそく!」
―――――第5話:「女神様の学校見学」―――――
「あ~……しまったなぁ」
ホームルーム終了後、俺は持ってきた持ち物を何度も確認してみたが…やはり無い。
家に忘れてきたのか…。
「どうしたの?」
俺の隣の席に座るアリアが心配そうに尋ねてくる。
「いや…今日体育があるのにジャージを忘れてな…」
「ありゃりゃ…じゃ私のを貸してあげようか?」
一瞬、本気にしてしまいそうになってしまったが…アリアが俺をからかっているのだとすぐに悟り、俺は無言でアリアの方に冷たい視線を送る。
「じょーだんだよじょーだん、あはは♪ 他のクラスの子から借りてくれば?」
「…いよいよとなったらそうするかな」
キーンコーン…
授業開始を告げるチャイムが鳴り、一時間目の授業担当の教師が教室に入ってくる。
「きりーつ、礼」
オハヨーゴザイマース
クラス委員が号令をかけると、クラスのみんなは起立し、先生に挨拶をする。
「はい、おはよう。さて、今日は教科書の38ページを…-」
授業が始まると、窓際に座っている俺はふと何気なく外の景色を見た。
いつもと変わらぬ窓際から見えるその景色…だが、
「……っ!?」
今日は違う。
なぜなら…その景色の中にはあり得ないものが混ざっていたからだ。
(る…ルイン!? なんでこんなところに!?)
そこにはこの場にいるはずのない人物、ルインの姿があった。
あんなところでなにをやってんだか…俺を探しているのか、辺りをキョロキョロしている。
…仕方ない。
「あの~…先生」
「ん? どうした?」
「え~っと…ちょっとトイレ行ってきていいですか?」
先生は一瞬ちょっと嫌そうな顔をするが。
「早く行ってきなさい」
「ありがとうございますっ!」
教室を出ると同時に、俺は全速力で走りだし、一目散に昇降口の方に向かった。
………
……
…
外に出ると、ルインはすぐに見つかった。
「あ! 主! よかった、今主を探そうと…―…わっ!?」
俺の姿を見つけて手を振っているルインを無視し、俺はルインの手を引いてグランド近くにある今は使われていない運動部の古い更衣室に連れていく。
「ルイン!!」
「な、何だ主?」
「何だじゃない! お前、なんでこんなところにいるんだ!? 家で大人しくしていろって言っただろ!」
「そ、そんな怒鳴らなくったっていいじゃないか…わ、私はこれを届けに来たんだ」
怒鳴り口調でルインに問いただす俺に対し、ルインは手に持っていた白い袋を俺に差し出す。
「これは…」
それは俺が今朝持ってくるのを忘れたジャージだった。
「もしかして…これを俺に届けに?」
「あ、あぁ…済まない、約束を破ってしまって…」
少ししゅんとなってしまっているルインの姿を見ると、俺の怒りは治まってしまった。
「そ、そうだったのか…それだけならまぁいい。今は授業中で誰もいないから、今のうちに早く帰るんだぞ?」
「あ、いやそれが…」
「どうした?」
ルインからジャージを受け取りそう告げるが、ルインは何か言いたそうだ。
「その…帰り道がわからないんだ…」
「…はぁ? わからないってことはないだろ。じゃあお前はどうやってここまで来たんだよ?」
突然素っ頓狂な事を言い出したルインに対し、俺はそう詰め寄る。
「主は、私のカードを今持っているだろ? あのカードには私の力の一部が封じ込まれているから、その力の足跡を辿ってここまで来たんだ」
「でも辿って来たなら道を覚えてないのか?」
「覚えてない…」
おいおいマジか…。
ルインは少し申し訳ないという顔をしながら即答で返す。全く…破滅の女神様がそんなんでどうするんだ…。
「はぁ…じゃあ仕方ない。今日の授業が終わるまで、ここで大人しく待っていろよ?」
「え?」
「授業が終わったら一緒に帰ってやるから。あと、昼休みになったらまた様子見に来るけど、そこら辺ウロウロするんじゃないぞ? じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってくれある…―!」
バタンッ
まだルインは何か言いたそうだったが、一方的に扉を閉めさせてもらった。
ルインには悪いが、何か問題が起きてからでは遅いからな。
さて…トイレと言って教室を出てからかれこれ10分は経っている、そろそろ教室に戻らなくちゃ怪しまれるな。
頼むぞルイン、そこを動くんじゃないぞ。
………
……
…
主が出て行ってから少し経った。
「はぁ…つまらないなぁ…」
せっかく退屈しのぎになると思ってたのに…これじゃ家にいるのとなんら変わらないではないか!
窓の外から見える大きな建物…学校というらしいが、あそこの中がどういう風になっているのか是非見てみたい。
「よし…行ってみよう」
少しくらいならいいだろう。…だがこの格好のままでは建物の中に入ったとしても、誰かに見つかれば即刻追い出されてしまうかもしれない…。
「何か変装できる物はないものか……おっ!」
ちょうどいいことに、この部屋には主の持ってるジャージと似たような服があったので、それを一着拝借することにした。
「ちょっとキツいな…」
上のサイズは良いのだが、下に履いた紺色の衣服は少し小さいみたいで、お尻に食い込んでくる。
しかし多少のことには我慢しなければならない。これでどう見てもこの学校の一員だ。
「よし、まずは主のところに行ってみるとしよう」
………
……
…
長い廊下を進んでいくと、大きな部屋がいくつもあった。
その部屋の一つを扉を少し開けて覗いてみると、大きな黒い板に白い文字を書いている人が一人いる。どんな事が書かれているかはよく分からないが…なんだか難しい事がいっぱい書いてある。
その文字を、主と同じ格好をした男や少し違う格好をしている女が真剣に聞き、紙に書き写している。
「…これが主の言っていた“授業”というやつか?」
なんだか思ってたよりも面白そうではないな…。
見つかればまた主に迷惑をかけてしまうので、そぉ~っと気づかれない様に扉を閉めて、再び廊下を歩きだす。
「さて…主はどこに行ったんだ?」
さっきの部屋には主はいなかった。ここから先、似たような部屋がいくつも続いているが、はてさてどうしたものか…。
「…そうだ! 私としたことがうっかりしていた! さっきみたいにカードに残された力の足跡を辿ればいいではないか」
よし、これで主のいるところに辿り着け…―
「ん? ちょっとそこの貴女」
「っ!」ビクッ
カードの力をトレースし、廊下の端まで来て階段に差し掛かったとき、後ろから女の声がしたのでビクッとしてしまう。
落ちつけ…私は今はこの学校の者なんだ…変装をしているからバレるはずがない…!
ここは冷静に対処しなければ…!
「あ……え~っと…私はこの学校の者で…―」
「貴女ここの生徒じゃないわね、こんな所で何をしてるの?」
一瞬でバレた!?
おかしいな…変装は完ぺきなはずなのに…。
「わ、私はその…」
ど、どうしよう…。
………
……
…
~昼休み~
やっと昼休みか…さて、購買でパンでも買ってルインに持っていってやるかな。
「あ…あの……あのさぁ…」
「ん? どうしたアリア?」
「そ…その……今日は私…」
「?」
何だかアリアの様子がおかしいような…体調でも悪いのか?
「大丈夫か?」と声をかけようとした時、突然教室のドアが開いた。
そして教室に入ってきた人物を見て俺は驚愕した。
ガラッ
「主!」
「る、ルイン!?」
「え…? お姉さん!? なんでこんなとこに…?」
突如教室に入ってきたルインを見て、俺とアリアだけでなく、教室内の生徒は騒然とする。
「お前…大人しくしてろって…―! って、その格好は…」
ルインが身につけているのはいつもの女神の服装ではなく、女子用の体育着に…少しサイズの小さそうなブルマだった。
「すまない主、話は後だ! すぐに私と一緒に来てくれ!」グイッ
「お、おい!?」
なんでそんな恰好をしているのかと問い詰める暇も無く、俺はルインに引っ張られるままに教室の外へと連れ出される。
「おい見たかよあの人? すげぇ美人じゃん」
「ああ、誰なんだろうな…」
「…行っちゃった…。はぁ~あ…せっかく今日は一緒にお昼食べようと思ってたのになぁ…」
………
……
…
~屋上~
「何だってんだよ!?」
俺が連れて来られたのは屋上だった。
ルインは俺の手を離し、申し訳なさそうな顔をしながら屋上の奥を指さす。
「じ、実はあの人が…」
「来たわね」
屋上にいる人物は、俺がよく知る人物だった。
「ひ、響先生…」
その人物は国語教師の響みどり先生だった。
「あの女に『貴女の保護者を呼んできなさい』って言われたのだ…」
「ここなら人目につかないでしょ? あなたのお姉さん…だっけ? その人をさっき廊下で保護したのよ」
全く…外には出るなとあれほど言ったのに…。
「そうだったんですか。じゃあ俺達はこれで…」
「待ちなさい」
何食わぬ顔で屋上を出ようとしたとき、突然背後から先生に呼び止められた。
何だか嫌な予感がするが…。
「私は教師として、学校内に入った部外者をこのまま見逃すわけにはいきません」
「…どうするんですか?」
「悪いけど、校長先生に報告させてもらうわ。貴方と貴方のお姉さんも一緒に職員室に来てもらうわよ」
くっ…このまま連れてかれたら、俺とルインの関係がバレてしまうかもしれない…! いや、それだけでなく、ルインがカードの精霊だということもバレてしまうかも…!そうなったら……。
…やはり面倒を起こすわけにはいかない。
「…わかりました先生。なら、俺とデュエルしましょう!」
「デュエル?」
「先生が勝ったら俺達は大人しく職員室に行きます。でも、俺が勝ったらこの事は無かったことにしてもらいます」
俺の提案に響先生が乗ってきてくれるかと思ったが…?
「あなたねぇ…本気でそんなこと言ってるの?」
うっ…やっぱり承諾できないか、こんな申し出…。
「本気で私とデュエルしたいのかって聞いてるのよ?」
…えっ?
「と、当然です! デュエルで勝ってチャラにできるんなら、俺だって本気になります!」
「いい心がけね。でも、その程度の本気で私に勝てると思わないことね」
「じゃあ…!」
「デュエルディスクを取ってくるわ、そこで待っていなさい」
そう言って響先生は屋上を出て行った。
「よかった…デュエルに持ち込めば、まだチャンスはある」
「ああ、これ以上面倒なことになる前に、ここでカタをつけるぞ!」
響先生の実力がどれほどのものかは知らないが…それでも、ここで食い止めなければルインの存在が危うくなってしまうんだ!
なんとしてもこのデュエル…勝たなければ!
………
……
…
「久しぶりのデュエルね。でもあの子たちは知らないでしょね…まさか私が元デュエルアカデミアの教師だなんて」
みどりは自分の国語研究室に戻ると、机の中から二つのデュエルディスクを取り出す。
「ふふっ♪ 私ったら年甲斐もなくワクワクしてきちゃった♪」
今回からは少し原作(主に漫画オリジナル)のキャラを出してみたいなと思い、漫画版GXの響みどり先生に登場していただきました。
ちなみに、この小説の世界観はアニメの世界観を順守しているので、漫画オリジナルのキャラはほぼオリキャラと同じ扱いということでお願いします。
今後も漫画やアニメの遊戯王キャラ、果てはゲームオリジナルのキャラまで出そうかと思っているので、今後もよろしく!