空賊と空   作:フライングピッグ

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二話

 今俺達がいるのは帝国と王国、州国を結ぶ海の真ん中。戦争が終わりあぶれて空賊となった軍人達が集い始めた群島。一般人は勿論軍でさえも立ち寄らない魔の三角地帯。通称、空賊海を王国よりに漂っている。

 

 俺は親鳥の航空飛行母艦から離れエンジンの交換作業をしている愛機コルセア――1d型――からサクラがストックしているゼロ一一型を借り、二万三千フィートで巡航し一人獲物を探している。しょうがないことかもしれないがコックピットが狭い。

 獲物としては、現在王国よりの空域にいるので王国駆逐艦辺りか。巡洋艦でもいいが対空装備が駆逐艦より多く強力なので多少面倒になるがその分金になる。

 

 『ヴァルター、定期連絡をよこせ』

 

 ブレントの声が魔導式無線から流れる。

 おっと、もうそんな時間経ったか。平和な空を飛ぶのは楽しいからついつい時間を忘れる。はあ、腕時計を見てみるとたしかに定期連絡の時間だ。

 

 『すまん、あまりにも長閑でな。次は大丈夫だ』

 『頼むぞ。で、今の所獲物はいないか』

 『いねえな。綺麗なもんだ、空は青く澄み雲は雄大に流れる。ずっと飛んでいたいもんだ』

 『はあ、多少楽しんでもいいが獲物は見逃すなよ』

 『任せろよ』

 

 無線を切りゆっくりと息を吐く、空をのんびり飛ぶってのはやっぱり最高だ。

 ここいらは島も所々あるため雲から見える島々を見るのも良い。

 ま、少し物足りねえが。

 

 獲物を探して三時間、そろそろ帰ろうかと無線を開く。

 

 『此方ヴァルター、管制塔聞こえるか』

 『……此方管制塔、見つかったか』

 『いや、今日は見つからない日だな。今から帰る』

 

 それから現在地や親鳥の場所を聞き、操縦桿を傾ける。

 

 『了解した。方位240へ針路を取る。その後……』

 

 機体を傾け針路を変えようとした所、左斜下方の雲の切れ目から光が反射した。

 

 『待て、なにか見つけた。確かめる』

 『了解』

 

 機体を横にし光が見えた場所へと機首を向け、高度を下げながら接近する。

 光は見えた後すぐに雲に隠れたため、行く方向を推測して操縦桿を操る。緩やかに高度を落としながら速度を上げていくと、見えてきたのは艦ではなく大型の飛行艇。おいおい、しかも民間機じゃねえか。

 

 「なんだよ、島巡りの観光艇じゃねえか。しかも帝国のかよ」

 

 しかしこんなところまで何のようだ? 観光するには危ない所まで来てるぞ。迷いでもしたか?

 更に近寄って横につき、物珍しそうにはしゃいでこっちを見ている老若男女に手を振りバレルロールなどをしてサービスしてからコックピット横へと進み、手を振りながらオープンチャンネルで呼びかける。まだ五年だっつのに平和ボケしてんなぁ。

 

 『おい、ここまで来るのは行程に入っているのか。王国の空域に近い、空賊海にも近いている』

 

 俺を呆然と見ていた機長へと呼びかけると、慌てた様子で無線へと出た。

 

 『すまん、少し迷っている。ネストベズに行くつもりが、そんなとこまで来たのか。申し訳ないがネストベズへの空路を教えてくれないか』

 『勿論構わねえよ。暇だったから丁度いい』

 『有り難い。しかし、どこかで見た顔だな』

 

 見た? ということは元軍人か?

 

 『なんだ、あんた軍人か? 俺も軍人だったからそこで見たのかもな』

 『ああ、軍で見たのか。どこの隊だった?』

 『第二航空師団、101飛行隊だ』

 『……ポズニナの鷹がいた所か』

 

 随分と懐かしいのを聞いたな。

 

 『そういやいたな』

 『そういえば鷹は戦争終盤何してたんだ? 前線から急に消えたが』

 

 終盤ね、色々あったな。

 上官を殴ったり面倒な所に左遷させられたり。

 

 『知らないね。上官を殴ってどっかに消えちまった』

 『そうか。鷹とは一度話をしてみたかった』

 『……そういうあんたはどこにいたんだ?』

 『第五航空師団だ』

 『中央じゃねえか。迷うはずだ』

 

 そのまま、他愛ない話をしながら先導するように帝国近郊のネストベズへと向かい、丁度いい所で切り上げ空母へと戻ることにする。

 

 『このまま真っすぐ行け、そうすると見える』

 『ああ、感謝する。空賊ってのは案内もしてくれるのか?』

 『今回はサービスだ。次からは身ぐるみ剥ぐからな』

 『ははは、それは怖い。次から気をつける』

 『ああ、そうしろ。じゃあな』

 

 無線を閉じ、親鳥へと無線をつなぐと怒声が聞こえてげんなりする。

 

 『おい! 定期連絡をせずに何をしていた!』

 『管制塔になんでブレントがいるんだよ』

 『お前が無線を無視するからだろうが! 何かを見つけたと行って無線が切れたから全員心配したんだぞ! クロフォード! 捜索の準備を取り消せ!』

 

 捜索の準備までしてもらってたか。悪い事したな。

 

 『すまなかった。島巡りの観光艇を案内してた』

 『だとしても定期連絡はしろ! かえって来たら分かっているな!』

 『お手柔らかに頼む。痔になっちまうからよ』

 『すぅ、はぁ……良いから帰ってこい!!』

 

 あちゃあ、更に怒らせちまったか。

 帰った時のことを考えて若干憂鬱になりつつも空母へ戻る。

 見えてきた飛行空母は着水時――着水を想定していない空母もあるが――のことも考えられており、空母がそのまま宙に浮いているように見えるだろう。

 しかし、後ろに付いている四基の大型プロペラ――収納可能――と巨体を浮かせるために必要な浮力エンジン、空石へと魔力を送るためのパイプが甲板前方下部から突き出していて更に無骨になっている。

 浮力エンジンとは言わずもがな空に浮くためのものであり、大気中の魔力を吸収し空石というエンジンの核へそれを送り燃料とする。そのため、横には浮力エンジンに魔力を送り込むためのパイプが側面に出ている。何がどうなって空石から燃料を作り出しているかはエンジニアや科学者でもないので細かいことはわからない。艦とつく物には必ず付いている。

 推力エンジンはそのままの通り、重油を使う特殊なエンジンを使って四基の大型プロペラを回し前へと進む。

 大きさは全長681m、最大幅162mとかなり大きい。

 ここまでのものを持っているのは空賊の中でも姐さん――艦長――だけだろう。

 どうやって手に入れたのやら。

 

 

 

 飛行甲板へと速度を調節しながら、暴風の中で戦闘機をおとなしくさせながら所定の位置に降り立ち、ゼロの降着装置がロックされたのを確認すればエンジンを切り翼を折りたたむ。その間に戦闘機はいくつかあるエレベータの一つへと運ばれ、エレベータから格納庫へと戻りキャノピーを開いて降りると、消灯時間以外いつもは騒がしい格納庫は静まリ帰っており、整備士達は黙って作業をしつつ格納庫の中央で待っているブレントをチラチラと見ていた。

 

 それほどまでの怒気を発するブレントに怒られるのは恐ろしいがしょうがないと、大人しく説教を受けようと足を踏み出すと、横から衝撃を受けて倒れかけた。

 元凶を見てみると飛行服を着たサクラだった。危ないから止めてくれ。

 

 「ミグラああああ! 心配したよぅ! 何してたのさ!」

 

 ブレントは怒りの表情で近づいてきていたが、サクラの行動によって固まった。

 

 「すまん。観光艇を案内してた」

 

 首筋にグリグリと額を擦りつけてくるサクラを放り、固まっていたグラントが向かってくる。

 大人しく頭を下げると、頭に激痛が走る。めっちゃ痛い。

 

 「長々と説教はせん。次から気をつけろ」

 「うっす」

 「殴ることないじゃん」

 

 サクラがそう言うものの、俺に非があると分かっているためかボソッとしたものだった。

 満足げに頷いたブレントは踵を返し格納庫を出ていった。 

 

 と、格納庫の騒ぎがぶり返すと、俺の愛機のエンジンを取り替えていてくれているツナギを着た褐色肌の黒髪美少女――シャロルから声がかかる。

 

 「痛そうだったね。あたしは絶対怒られたくない」

 「痛いぞ。ブレントを怒らすなよ」

 「だね。で、エンジンだけど順調だよ。でも他のも見ながらだからもう少しかかるよ」

 「ああ、急がなくていい。大事に扱ってくれよ?」

 「誰に言ってるの。あたしは天才整備士だよ?」

 「そうだった。任せた」

 

 全く、獲物はいないし人を助けたら怒られるわで参った。

 飯食って寝るか。

 

 飯を食いシャワーも浴びた後寝ようかとも思ったのだが、妙に寝られなかったので腕にくっついていたサクラを引き剥がしてデッキへと来ていた。

 そこは唯一窓がなく風を感じられるのでたまに来る。

 寒いから絶対に厚着をするが。 

 

 夜の空は目が暗さに慣れれば綺麗なもので、月からの光を返す雲や海が見れて絶景だ。

 懐から煙草を取り出して口に咥え火を灯し煙を肺に充満させる。

 

 「はぁー……101飛行隊、ね」

 

 俺が所属してた隊。こうなった原因の一端。

 再び肺に満たした煙を吐き出し昔を思い出す。

 

 

 

 戦争終盤、一部の上の連中は勝つのは既定路線でどうやって自分の功績を増やすかとそればかりに腐心していた。その時の俺は大尉で中隊を率いていて、昼の出撃が終わり暫くは攻勢が無いのでゆっくりしようとベッドに向かっている途中、部下に呼び止められた。

 

 「ミグラ大尉! お時間よろしいでしょうか!」

 

 振り返ると情報通で有名な部下がいて、不安げな表情を浮かべ俺を見ていたのを覚えている。

 

 「いつもの馬鹿笑いはどうした。そんなお前は久しぶりに見るぞ」

 「上の作戦が不穏なもので」

 「……暫くは地上部隊と航空艦で海峡に追い詰めた奴らを叩くだけだ。それの何が不安だ」

 「それが、作戦を変更するらしいのです。空軍北方司令官のゴリ押しで」

 「詳しく聞かせろ」

 

 それはまずい、かなりまずい。

 もしも地上部隊を止めて俺たち空軍が全面に出されるとするのならば、かなりの対空砲火に見舞われるのは間違いない。

 

 部下の部屋へと移動し話を聞くと、地上部隊はそのまま首都を目指して進撃させ俺たち空軍が船で後退する敵を叩くとのこと。馬鹿にもほどがある。

 対空砲も制圧してくれるのだから地上部隊と連携して叩いたほうが良いのは馬鹿でもわかる。しかも敵は空軍も送り込んでくる可能性が高く爆撃隊を援護するにも限度があるため爆撃隊にも結構な犠牲が生じる。

 

 「これはどこで聞いた」

 「将校二人が愚痴っているのを偶然聞きまして」

 「……クソ」

 

 石油精製所をうちの馬鹿司令官が爆撃させてもいるものだから黒煙も立ち上っているだろう。爆撃隊には更にマイナスだ。

 ため息を吐いて立ち上がり出口へと足を向けた。

 

 「大尉」

 「明日はそのスーサイド作戦のミーティングだろうな。早く寝ておけ」

 

 翌日、部下が知らせてくれたとおりに作戦が変更され、空軍主体で撤退する敵を叩くこととなった。俺たちに変更を知らせた将校さえも頭を抱えていた。

 

 作戦当日、その日は曇りであったため爆撃隊や航空戦艦も地上の敵や、撤退する船が見えづらく砲撃や爆撃は当たらず、雲から下に降りることになると今度は殿軍の対空砲がこれでもかと火を吹いた。

 それでも命令どおりに敵を爆撃機を護衛していれば、敵航空隊と航空艦がやってきて俺達の出番となったわけだが敵の数が多く、戦闘が終わる頃には多数の戦闘機が損失し俺の中隊員は十二人から五人へと数を減らした。

 爆撃隊や航空艦の被害も大きく、貴重な航空戦艦も一隻落ちた。

 

 それだけの被害を出しておきながら包囲されていた敵の主力の大部分が撤退に成功。此方の海軍もまごついていて到着が遅れ補足できなかった。

 戦史に残る大失敗だ。

 

 

 そして、この作戦をゴリ押した当の司令官が慰問にやってきたので、思い切り殴り飛ばして銃殺にされかけた。されなかった理由としては、当時俺は二つ名を貰っていたのもある。

 まあ、銃殺されない代わりに銃殺する側、逃亡兵狩りの飛行隊に左遷されたのだが。

 

 

 とっくに煙草の火が消えていることにも気が付いて、煙草を握り消してポケットにツッコミ二本目の煙草に火を灯した。と、その時横から声がかかる。

 

 「みーぐら! 何してんの?」

 

 サクラだった、ピンクの寝間着に俺のコートを羽織ってニコニコと俺を見上げていた。毎回足音がしない。

 そう言えば、サクラとも長い付き合いか。確か、まだ幼い頃に虐められていたサクラをよく助けていた。前世の記憶もある俺としては放ってはおけなかったから。

 それから懐かれて十代前半までずっと一緒にいるようになったのだが、サクラの両親が別れ母方の実家がある皇国へと引っ越していった。

 

 そして戦争中も、皇国から単身でやってきてどこから嗅ぎつけたか俺の隊の所属になった。

 それからずっと一緒に戦っている仲だ。こんな所にまで着いてきたし。

 

 「ケルクの事を思い出してた」

 「あー、あの馬鹿司令がやらかしたやつ! ミグラったらあの馬鹿司令をいきなり殴るもんだからびっくりしたよ! 僕もついでに蹴ったけど」

 「それで俺と一緒に左遷させられたよな」

 「ミグラを一人にはできなかったし!」

 

 そう言いながら俺の腕を抱きしめるサクラをいつものように振り払うことはなく、その腕に感じる温もりを受け入れる。

 

 「なんでそうなのかねぇお前は」

 「えへへぇ ずっと付いていくって決めたから!」

 「馬鹿だねぇ」

 「ミグラ馬鹿ですので!」

 

 アホ、そう言って笑いあった後、煙草を吸い終わるまで雑談に興じて部屋へと戻った。

 サクラがベッドに入ってくるのを叩き出して強制的に一人で寝かせた。


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