一応前後編です。
side Tohma
「ありがとうございました!」
ワクワクした気分が抑えきれず、意気揚々と行きつけの酒屋を出る。
今日は良い日だ。
試飲会でレアなワインも飲めたし、それを買うこともできた。
つまみも自分一人だから適当にチーズと生ハムでもコンビニ辺りで買えば十分。
(体調も戻ったし、楽しみだ)
試飲をしたから多少歩くが、今はそれも負担にならない。
皆と遊ぶ時とは違った上がり方をしたテンションを抱えながら、意気揚々と帰路を進む。
「あれ、トウマ先輩?」
と、数歩進んだところで後ろから唐突に声をかけられた。
振り返ると、そこにはちょうどコンビニから出てきた鷹嶺さんがいた。
「あ、鷹嶺さん」
「こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
「そうだね。鷹嶺さんは何を?」
「私はこれから晩御飯の買い物を。先輩は? 何かお持ちのようですけど」
「あ、これ?」
そういって僕は提げていたエコバッグ(保冷機能あり)を掲げてみせた。
「さっき行きつけの酒屋でワインを買ってね」
「へぇ、ワイン……そういえば先輩、少し頬が赤いですね? もしかして飲んでます?」
「うん。丁度試飲会もしててね。そこで気に入ったのを買ったんだ」
「なるほど。それはさぞ美味しかったんですね」
「そうだね、値段を考えるとお得じゃないかな?」
「ふむふむ」
そういうと鷹嶺さんは何か考え込み始めた。
視線がさっきから僕とワインを行ったり来たりしている。
「ねぇ、先輩。私もご相伴に預かっちゃ駄目ですか?」
「え?」
「先輩がそこまで言うのなら、きっととても美味しいと思うんですよ。せっかくいいお酒に出会ったんですから、是非とも私も味わいたいなと思いまして」
そこまで言われて少し考えた。
確かに、お酒に限らず美味しいものは誰かと分け合ったほうが美味しい。
だけど、既に飲んでるから帰りに送っていくのが難しい。
(ま、頑張って歩けばいいか。あまり飲みすぎないよう注意しないと……)
「わかった。良いよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべる鷹嶺さん。その笑顔を見られるだけで承諾した甲斐があるというものだ。
「それじゃあ、いきましょ」
と思ったのもつかの間、鷹嶺さんに腕を掴まれるとそのまま引っ張られた。
急なことでバランスを崩しかけるも直ぐについていく。
「えっ、あの、鷹嶺さん? 行くって何処へ?」
「スーパーですよ? だって、おつまみとか要りますよね?」
「いや、それならそこのコンビ「ダメです」ニでも……ダメですか」
「ダメです。折角なんですし、私がもっと良いの料理します。ほら、行きましょう?」
「あ、ちょっと?!」
そうして僕らはちょうど帰り道にあるスーパーへと向かった。
誰かと一緒に買い物に行くのは久しぶりで。
たまにはこういうのも悪くないかと思う。
「先輩、ついでに晩御飯も作っちゃますよ。何食べたいです?」
「晩御飯も? まあ、鷹嶺さんがいいならいいけど。それならハンバーグがいいかなぁ。最近食べてないし」
「わかりました! 腕によりをかけて作りますね!」
「ははは、鷹嶺さんの腕は知ってるから気負わなくていいよ」
だからこんな美人とホームドラマ的な会話をしてるからといって睨まないでください、周りの男性陣。
スーパーでは終始視線が痛かった。
そんなこんなで買い物も終わり、スーパーを後にする。
そのとき買い物した袋をどちらが持つかで一悶着(鷹嶺さんは自分で持つというし、こっちとしてはそんなわけにはいけないし)はあった。
結果、二人で左右の持ち手を持つというどこの新婚だよ、という状態となったのはご愛嬌。
「あ、トウマ先輩!」
「こんやっぴー、トウマ先輩!」
スーパーの出口から出た瞬間、今度は後ろから声をかけられた。
聞き覚えのあるそれに振り向くと、予想通りの姿。
ぼたんさんと常闇さんが、二人して並んで立っていた。
「二人とも、どうしたの?」
「今日はトワ先輩と二人で買い物していたんです。ちょっとヘッドホン関係を新調したくて」
「先輩こそどうしたんですか? それにルイと一緒だなんて」
「ああ、実はね……」
そういって手に持ったワインの入った袋を掲げながら経緯を説明する。
「先輩の家でワインを……」
で、偶然鷹嶺さんにあっただけでしてね?
「ルイルイと一緒に買い物してそのまま……」
だから2人ともそんなすっごい真顔で見ないでくださいお願いします。
「……(^^♪」
鷹嶺さんもフフンって感じでどや顔しない。
そもそも僕の部屋にしれっと入り込んでることの多い2人が何を言ってるのか。
まあ、常闇さんとかはそのまま部屋の掃除とか手伝ってくれることもあるから助かっているといえば助かってるけど。
そういうと2人はまるで示し合わせたかのように同時に顔を背けた。
「先輩?」
今度は鷹嶺さんの目が鋭く二人を捉えた。瞳の色が青から金色に輝いている。
感情が昂ったときになるこの瞳も久しぶりにみた。
「あ、そうだ。トワたちも先輩のところに一緒に行ったらいいんですよ!」
「おお!流石トワ先輩! 名案ですね!!」
おっと、急に風向きが変わったぞ?
「まあ、材料は4人分はなんとかありそうですけど……」
困ったようにこっちをみる鷹嶺さん。
そして期待と不安の入り混じった表情を向けるぼたんさんに常闇さん。
しょうがないか。断る理由もないし。
「飲み物足りなさそうだから、追加で買いに行こうか」
「そうですね」
「「やった!!」」
ぼたんさんと常闇さんのハイタッチの音が響く。
やれやれ。でもこんなに嬉しそうにされたら悪い気はしない。
そして、笑顔を浮かべているけどどことなく残念そうな鷹嶺さんにそっと近づく。
「別の機会にまた一緒に飲もうか」
そしてそのまま彼女に小さく語りかけた。彼女がそれを望んでくれているかはわからないけど、そうだったらいいなと思いながら。
「……っ……約束ですよ?」
満面の笑みを浮かべる鷹嶺さん。それを見て間違っていなかったと内心安堵した。
「さ、そうと決まれば早く行きましょう?」
そういって僕の酒を持った腕をぼたんさんが両腕で抱きしめてきた。
「そのスーパーの袋、私が持ちますよ」
同時に反対の手から袋がとられ、その腕を常闇さんに抱え込まれる。
突然両腕に伝わるやわらかい感触に酔いとは違った意味で頬が熱くなる。
「あ~トワ先輩にぼたん先輩、ずるいですよ?」
「いいじゃ~ん、さっきまで一緒だったんでしょ?」
「今は先輩に譲りな~」
「もぅ、ま、いいですけど。料理中は先輩を独り占めしますし」
女三人集まれば姦しいとはよくいったもので。三人とも僕を間に挟んできゃいきゃいとしゃべっている。
しれっと僕が料理を手伝う流れになっているのには驚いたけど(そのつもりではあったけど)、それをもってころころと表情のかわる彼女たちを見られるのは悪くないと思えた。
……to be continued