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バレンタインデー。
一般的には女性が親愛の情を向ける男性にチョコレートを渡す日とも、地域によっては男女関係なく親しい相手に贈り物を渡す日ともされる。
そしてご多分に漏れずCAGCもバレンタイン特集のCMなどが2週間ほど前から飛び交い、どことなく浮ついたムードが漂っていた。
そんな中、僕はと言うと……
「……」
せっせとこの日を狙って作ったものをラッピングしていた。
作ったのは琥珀糖。今回はちょっと凝ってワインを使った宝石のようなものを作ってみた。
今年は色んな人にお世話になったから、何かお礼をしたいと思い一念発起したのが先週。
思ったより大変な手順とバイトが急に忙しくなったことで時間の確保が難しくなったため、ラッピングに夜通しかけることになってしまった。
すでに窓の外は明るくなっている。
(でも、苦労した甲斐があった)
眠いし疲れているが、達成感が上回っていてなんとも言えない気分だ。
徹夜明けのふわふわした気分のまま、ラッピングした琥珀糖が崩れないように緩衝材とともに箱の中に入れる。
今日は平日だからきっと皆も何かしら講座を取っているだろうから、一先ずキャンパスに向かってそこで渡す方がいいだろう。
何人かは住所を知ってるから郵送もできなくはないが、やはりこういうのは手渡ししたいもの。
キャンパスに向かうべくスマホと財布を胸ポケットに放り込む。
DING GONG!!
ちょうどその時部屋のドアベルがなった。
腕時計を確認すると時計の針は8時を示している。来客が来るにしては早い時間だ。
不思議に思いながらも玄関へと向かい、ドアを開ける。
「おはよう、後輩くん。元気してた?」
そこにいたのは、茶色のロングストレートヘアに横跳ねの髪、リボンのついた星とダイヤの髪飾りを左右につけた朗らかな笑顔を浮かべる女性。
ときのそら先輩だ。
両手を後ろに組んで、若干こちらを見上げるように立っている。
「あ、はい。おはようございます」
「む。どうしたの? なんか元気ないね」
「いや、まさかときの先輩が来られるとは思ってなかったので。というか、どうやってここに?」
予想外の状況に固まっている僕を不思議そうに見つめながら、一歩近寄ってくるときの先輩。
相変わらずの距離感の近さに思わず少し仰け反りながらも答える。
確か先輩に住所を教えた覚えはないのだけど。
「あ、それならロボ子ちゃんが教えてくれたよ?」
「ロボ子先輩……」
何を勝手に教えてるんだろうか。
いや、別にときの先輩だから悪用されないだろうし構わないといえば構わないのだが。
「まあ、それはそれとして……はい!」
ときの先輩が後ろに回していた手をこちらに向けた。
その手には星やダイヤのマークのラッピングで包装された小さい箱が握られている。
「えっと、先輩。これは……」
「やだな〜、バレンタインデーのチョコに決まってるじゃない」
恐る恐る受け取り、真意を確かめるように先輩の顔を見つめると、彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「……もしかして後輩くん、チョコ嫌いだった?」
「いや、そんなことないです!! ただ……」
「ただ?」
「先輩からいただけるとは思ってなくて」
「むっ!」
ムニ〜〜
僕の言葉に眉を顰めた先輩のその細い両手の指に頬をつまむと思いっきり左右に引っ張られた。
痛くはない。痛くはないのだが、先輩の予想外の行動に戸惑ってしまう。
「ふぇ、ふぇんふぁい?」
さっきまでとは打って変わった不満げな先輩の表情に目をパチクリさせていると、先輩は頬を引っ張っていた指を離して僕の額をツンっと突つく。
「後輩君が私の事どう思ってるか知らないけど、いつも色んなこと手伝ってもらってること、私もちゃんと感謝してるんだよ?」
「先輩……ありがとうございます」
「うん、よろしい!」
僕の感謝の言葉に満足したのか、先輩が満足気な笑みを浮かべた。
「じゃあ、私は用事があるから……」
「あ、先輩! ちょっとまってください」
先輩にそう呼びかけるとドアストッパーを掛けて部屋へと戻る。
そして、バッグに詰めたものの中から1つ取り出し、すぐに先輩の待つ玄関へと向かった。
「僕からも先輩へのバレンタインプレゼントです」
渡すのは、ときの先輩がいつも付けている髪飾りとリボンを小さくしたものを袋につけた琥珀糖。
「え、私に?」
「はい。今年お世話になった皆に渡そうと思ってさっきまで準備してたんです」
「あ、ありがとう」
驚きを隠せない様子で僕からのプレゼントを受け取ってくれる先輩。
「これって琥珀糖? トウマ君が作ったの?」
「はい。レシピ見て頑張りました」
本当に大変だった。思った以上に手間がかかるし、壊れやすいので形を保つのにも気を遣ったし。
「なんていうか、トウマ君らしいね」
何故か先輩は苦笑している。
「でも、ありがとう。大事にいただくね。それじゃあ、私は用事があるから」
そういうと先輩は階段の方へと向かって歩き始めた。
その姿が見えなくなるまで待ってから改めて移動のための準備を始めるために部屋へと戻った。
「……もう、トウマ君不意打ちすぎるよ」
さて、寝てないためイマイチ頭が回っていないままキャンパスに向かって、いつもの道を歩く。
ちょっと探して見つからなかったら学食で仮眠をとってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら正門が視界に入るところについたとき、
「あ、来た来た」
「遅いですよ、先輩。わためもかなたんも皆待ってたんですよ?」
「トワなんてソワソワしてたもんね」
「ちょっ、それはすいちゃんもでしょ!?」
「ハハッ、トワ顔真っ赤だゾ」
星街先輩、常闇さん、角巻さん、天音さん、桐生さんが正門の前で待っていた。
5人ともかなりの美人で有名人だからか道行く学生の視線がかなり集まっている。
「おはようございます、みんな僕を待ってたって……何かありましたっけ?」
5人のうち4人は同じ合唱部にいるし、星街先輩、天音さん、桐生さんはシェアハウスしているから割と一緒にいる場面は見るのだが、正門で見かけるのは割とレアケースかもしれない。
特に天音さんは偶にとんでもない寝坊をするときもあるため尚更である。
「……トウマ先輩、マジで言ってます?」
「まあ、トウマ君なら有りうるかもとは思ってたけど……」
なんだろう、常闇さんと星街先輩の呆れたような視線が突き刺さる。
「トウマ先輩、はい、わためからのバレンタインデーのプレゼントです」
「受け取ってください!」
「ドウゾ!!」
角巻さんと天音さん、桐生さんがいつの間にか目の前に来て、その手に持った綺麗にラッピングされた箱を手渡してくれた。
一瞬何事かと思うが、先ほどのときの先輩とのやり取りを思い出した。
「3人ともありがとう!」
3人のような美人にもらえるとは一男としては嬉しい限りである。
さっきのときの先輩のときといい、今日は良いことづくしだ。
「あ、ちょっとちょっと!?」
「わためにかなたんもちょっと待ってよ!?」
3人にお礼を言っていると星街先輩と常闇さんが慌てて駆け寄ってくる。
「はい、トウマ君。私からもどうぞ?」
「トウマ先輩、私もです!」
立て続けに2人からももらってしまった。
嬉しいし、光栄なことなんだけど、正直驚いている。
「トウマ先輩、すいちゃんなんか昨日頑張って作ってたんですよ?」
「ばっ!? かなたん!?!? かなたんもトウマ君のために真剣に選んでたじゃん!!」
「あ、言わないでくださいよ!」
「それをいうならトワちもわためもココちんも、先輩のために入念に選んだんですよ!」
「わため、そういうことは言わなくていいから!?」
「そういうのは隠しておくのがカッコいいダロ!?」
……なんかかなり嬉しい言葉が聞こえた。
僕のためにわざわざ作ったり、選んでくれたというのがこんなにも心に響くとは。
「皆、ありがとうございます。それじゃあ、僕からも」
鞄の中から皆をイメージしたマークをつけた琥珀糖の袋を取り出す。
星街先輩には星とマイク
「えっ……!?」
常闇さんには彼女が飼っているペットのビビをイメージしたもの
「は……?」
天音さんには彼女の特徴的な輪っかと天使の羽
「はい……?」
桐生さんにはちっちゃいドラゴンをイメージしたもの
「oh……」
角巻さんにはひつじ
「えぇ……!?」
なんだろうか、みんな予想外といった表情を浮かべている。
「普段皆にお世話になってますから、僕から皆へのバレンタインプレゼントです」
「「「「「!!」」」」」
何故かすごく驚かれた。確かに男性がバレンタインにあげる側なのは珍しいかもしれないけど。
「え~と、トウマ先輩? これ、先輩が作ったんですか?」
「そうだよ」
「すっごい綺麗、先輩、やば……」
「トウマ君、器用だとは思ってたけど……」
「流石、トウマ先輩ですネ!」
「うん、すごいです!」
とりあえず悪印象ではなさそうで安心した。
僕がほっと胸を撫で下ろしていると、5人が顔を突き合わせてヒソヒソと話し始めた。
「……どう思う?」
「いや~あれは……」
「ですよね~」
「じゃあ、素?」
「だとしたら……」
……何だろう。こっちをちらちら見てくるのは。
「オホン。ありがとう、トウマ君。大切に頂くね」
「大事に食べますね!」
星街先輩と常闇さんの言葉に合わせて他の皆もウンウンと頷いていた。
「あ、皆、そろそろ行かないと時間に遅れるゾ」
「ココありがとう! じゃあ、トウマ先輩。私達はこれで」
「後で感想聞かせてくださいね!」
そう言って星街先輩、常闇さん、天音さん、角巻さんはサークル棟のある方へと走っていった。
「桐生さんはこれからどうするの?」
「アタシもこれから桐生会で集まる約束があるのデ」
「そっか、なら僕も他の皆を探しに行くから」
「ハイ、トウマパイセンもお気をつけて」
ヒラヒラとこちらに手を振る桐生さんとも別れ、僕は講義棟の方へと足を向けた。
side choco
講義棟、トウマの所属する研究室の入り口前。
そわそわとあたりを見渡す一人の女性がいた。
誰もがうらやむほどのスタイル、陽光にきらめく長い金髪と2本の角。
CGAC有数の才女、癒月ちょこ。
真新しい紙袋を胸に抱えて、廊下の先へと視線を何度も向けている。
(トウマ様遅いな……確か今日はゼミがあるから来るはずなんですけど)
腕時計をちらりと見るといつもなら彼がゼミに来る時間になっていた。
珍しいなと思いつつ、ふと窓の方へと視線を向けた。
「……あっ」
そこから見える正門。そこに先輩、後輩たちと談笑する彼の姿は見えた。
いつものような穏やかな笑みを浮かべ、周りの皆と話している。
彼らしいと思いつつ、思わず手に力が入ってしまう。
でも、今あそこにいるのならもうすぐ彼もこちらに来る。
それを確信すると、彼を待つべくちょこは窓から離れて研究室のドアを開けて中へと入っていった。
side out……
side Iroha
「う~ん、トウマ先輩はどこでござるかなぁ」
CGAC講義棟の一室。その入り口から中を覗いて目的の人物が見つからなくて直ぐ離れるを繰り返す少女。
クリーム色の髪を木の葉のようなデザインのリボンでポニーテールにまとめた少女、風真いろは。
その手には小さく可愛らしいデザインのビニールとリボンでラッピングされたものを持っている。
昨日確認した限りでは今日も講義があると言っていたからきっといると思うのだけど。
「う~ん、これはもしかして寝坊でござろうか。でも先輩に限ってそんなことあるでござるかな」
割と時間前行動を心がけてると聞いたことがあったので、いろはは首をかしげる。
そのままフラフラと講義室を覗きながら歩いていると
「あ」
ふと講義棟の正面入り口から正門の方へと視線を向ける。
正門のあたりに諸先輩方と一緒にいるトウマ先輩の姿が見えた。
同時に互いに何かを渡し、渡される姿も。
「……うん、私もまけないでござるよ」
そう小さくつぶやくと、先輩方と別れた彼に向って小走りで近づいて行った。
……to be contine
ちょっと間が空きすぎたので、一旦投下します。
癒月ちょこさん、および風真いろはさんについてはこれの続きでピックアップします。