ホロホロしちゃっていいじゃない!   作:てんりょう

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※注意※

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第16話-3 歌・姫・再・会

前回までのあらすじ

 

AZKi「ドーナツたべたい!!あ、財布忘れちゃった……」

 

トウマ「奢りますよ」

 

狼、狐、獅子「(スニーキング開始)」

 

 

 

 

side Tohma

 

ひょんなことからドーナツを奢ることになってしまったが、せっかくなので休憩がてら話をすることにした。

奢る時にやけに神妙な顔をしているのが気になったのだ。

 

「実はちょっとだけ嘘というか語弊があって……う〜ん、この希望ドーナツ美味しい〜!!」

 

話を聞くと厳密には最近来たというより近々この街に越してくる、が正確だったらしい。

下見も兼ねて街を散策しようとしていたそうだ。

ただ、一人での外出に許可が降りなかった。

だからお付きを撒いてしまおうと考えたらしい。

 

「それで、あんな人数に追われるってことは結構なお嬢様なんですか?」

 

「う〜ん、そんなところかな」

 

曖昧に笑いながら再びドーナツへと齧り付いて誤魔化す彼女。

危ない話ではなさそうだが……

 

「なんというか……お転婆ですね」

 

「あ〜、ひど〜い。私、これでも清楚でお淑やかってことで評判なんだよ? あ、コーヒーも美味しい!!ドーナツにぴったり!!」

 

「清楚でお淑やかならそもそもお付きを撒かないと思うんですけどね」

 

「まあ、それは……ねぇ?」

 

ねぇじゃないが。

ドーナツをもぐもぐしながら視線を逸らす彼女の姿に思わず内心ツッコむ。

好奇心旺盛なのは良いことだけど、もう少し手心を咥えてあげてほしい。

とはいえ、僕がどうこうできる案件でもない。

なるようになるかと自分用として買った友情ドーナツを食べようと口へ運び、

 

「じ〜」

 

「……なんです?」

 

目の前からのじっと見つめてくる視線に手を止めざるを得なくなった。

紫の瞳がまっすぐ僕を、いや僕の持つドーナツへと向けられている。

 

「美味しそうだな〜って」

 

「……太りますよ?」

 

「うぐっ?!」

 

ドーナツまるまる一個食べてこの上もう一個とか乙女的にどうなんだろうか。

だが、視線がチラチラッとドーナツに向いては逸れ、向いては逸れと興味を隠せないようだ。

しょうがない。袖すり合うも他生の縁というし。

手に持ったドーナツを半分に千切ると片方を彼女に差し出した。

 

「どうぞ」

 

「え……いいの?」

 

「流石にそんな顔をされて渡さないのもちょっと気が引けるので。気にせずどうぞ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……う~ん、これもおいしい!!」

 

ばつの悪そうな表情を浮かべながらも受け取った彼女の顔が、ドーナツの味でふにゃりと綻んだ。

うん。

やっぱり誰かの笑顔は見てて気分がいい。

特においしいものを食べる姿は最高だ。

 

「さて、お腹も満たされたところで」

 

「うん?」

 

「次、どこか行きたいところはありますか?」

 

「う~ん、次、か……」

 

もぐもぐとドーナツを食べながら僕のスマホでマップを開き、それを見ながら悩む彼女。

それを横目で見ながらコーヒーを静かに飲みながら待つ。

しばらくうんうんと唸っていた彼女だが。

 

「じゃあ、どこか静かで広いところって心当たりある?」

 

「静かに広いところ、ねえ」

 

さっきまでキラキラとこの街を見ていた表情とは違う。

まっすぐに、しかし真剣なそれ。

 

「ふむ……静かで広い場所、ですか」

 

彼女からスマホを受け取り、さっとマップをチェックする。

一か所心当たりがある。

ただちょっと距離が遠い。

 

「少し距離がありますけど……大丈夫ですか?」

 

「うん」

 

「なら行きますか」

 

そういって二人で席を立った。

バスを乗り継ぎ、多少の距離を歩きながら目的地へと向かう。

たどり着いたのはヨットハーバー。

既に時間は夕方だ。

ここからは広い水平線が見え、夕陽がちょうど沈んでいく様子が見える。

 

「わぁ~綺麗……」

 

「このあたりはあんまり人も来ないし、静かだと思いますよ。ただ一人ではあんまり来ない方がいいですけどね」

 

「あはは、そこは注意するね」

 

ウッキウキで先を歩く彼女についていきながら、なんで広くて静かな場所を案内してほしいといわれたのか考える。

夕方になるかもしれない状況にも関わらず男と2人でそんなところに行きたいとか、誤解されてしまうと思うのだけど。

いや変なことするつもりは欠片もないけど。

それに……

 

「ねえ、今日はありがとうね」

 

「気にしなくていいですよ。僕も楽しかったですし」

 

これは本当だ。

普段意識してないところを意識できたのは良かったし、彼女の明るい性格もあって話題は尽きなかったのも助かった。

 

「もう夕方になっちゃった。早かったなあ」

 

「……」

 

こちらに背を向けている彼女の表情はここからは見えない。

でも声音から本当に楽しかったのだと、楽しんでもらえたのだとわかった。

 

「ねえ、今日の終わりにさ、したいことがあるんだけど」

 

「……」

 

そういいながら彼女が今までずっと着けていた眼鏡と帽子をおもむろに外し、こちらにくるりと振り返った。

濡羽色と鮮やかな桃色の混じった髪が夕陽に照らされてキラキラと輝く。

まるで完成された絵画のようだ。

 

「私ね、歌が好きなんだ」

 

彼女の表情が浮かべるのは喜色。

夕陽に負けないくらい明るい笑み。

 

「勿論カラオケで歌うのも良いんだけど、こういう広くて静かな場所で思いっきり歌ってみたかったの」

 

そしてスカートの裾をちょんとつまみ上げカーテシーをする。

その一連の所作はあまりにも堂に入っている。

 

「だから、一曲だけ。聞いて下さい」

 

目を閉じて腕を広げると朗々と歌い始めた。

 

「♪~♪~♪ ♪♪♪♪♪♪♪ ♪♪~♪♪~ ♪♪♪♪~」

 

その歌声に息をのんだ。

星街先輩とも常闇さん、角巻さんとも違う。

敢えて言葉にするなら星と花を比べるようなものだ。

でも美しいと評することができるように、彼女の歌声も素晴らしかった。

周りの歌の上手な皆の歌と遜色ない、きれいで、そして楽しいという感情に溢れた素敵な歌。

ただただこの時間を噛み締める。

やがて彼女が歌い終わり、満足げにこちらへと一礼する。

それに対して、僕は万感を込めた拍手で応えた。

 

「凄かったです、いや、感想が言葉にできないくらいに」

 

「えへへ、ありがとう」

 

照れくさそうにしながらも満更でもなさそうだ。

その時、

 

「……お嬢様、楽しまれましたかな?」

 

後ろから声をかけられた。

はっと振り向くとそこには片目にモノクルを付け、白髪をオールバックにした老執事が穏やかに笑いながら立っていた。

 

「うん、満足したよ。ありがとう」

 

「いえいえ。こちらも主の想いを汲み取り、時に従い、時に諭すのが執事の仕事ですので」

 

なるほど。

予想はしていたが、やっぱり良いところの、それもかなりの生まれの方だったか。

おそらくこの感じだと僕との散策を知ってて見逃していたか。

 

「そう警戒なさらないでください。我々としても感謝しておりますので」

 

こっちの思考を読んだかのように、老執事がこちらへと視線をむけた。

 

「お陰様で、ほら」

 

彼は懐に手をいれるとそこからボタン付きの四角い箱のようなものを取り出すと、ニヤッとした笑顔を浮かべてそれのボタンを押し込んだ。

瞬間、空中に投影される彼女が満面の笑みでドーナツを食べている画像。

 

「お嬢様メモリーver6が出来上がりましてな」

 

「キャァァァァァアア!?!?!?何撮ってるの?!?!」

 

「他にもこんなのとか」

 

「やめ、やめてぇぇええ!?」

 

次々に映される彼女のどこか抜けた姿。

明らかに今日撮影されたもの以外も混じっている。

余りに恥ずかしいのか老執事のところまで駆け出した彼女が彼から箱を奪い取ろうと手を伸ばすが、彼はハハハと笑いながらまるで柳のようにヒョイヒョイと躱す。

それでいて彼女がこけたりしないようにうまく調整しているのが凄い。

 

「あの、その辺で……」

 

「おや、そうですかな?そういわれるのでしたら」

 

やんわりと辞めるように言うと彼はさっとボタンを押して投影された映像を消した。

思ったよりあっさり止めたな。

彼女もぷんぷん頬を膨らませながらポコポコと執事を叩いている。

 

「はっはっは、ではお嬢様。そろそろ……」

 

「あ、うん。ちょっとだけ待って」

 

そういうと彼女が改めてこちらへと向き直った。

 

「ねえ、名前教えてもらえる?」

 

「……そういえば、名乗ってませんでしたね」

 

予想外の言葉に思わずそんな言葉が漏れた。

そんな言葉が返ってくるとは思わなかったのか、彼女は目を丸くしてクスクスと笑った。

 

「だね。……私はAZKi。貴方は?」

 

「僕はトウマ。矢上トウマです」

 

「トウマ君、だね」

 

微笑みを浮かべながらすっと右手が差し出される。

僕はその細い手を優しく握ることで応じた。

 

「私、近いうちにこの街に来るから、そのときはまた会いましょう」

 

「はい、そのときは必ず」

 

その後、AZKiさんはそのまま老執事さんと一緒に車に乗って帰って行った。

途中まで送っていこうかと勧められたが、何となく今日は歩いて帰りたい感じだったので丁重に断った。

そのままコンビニに寄って缶ビールを買い、自分の部屋へと向かっていく。

今日は独特な日だった。

なんとなく酒が飲みたくなって、思わず買ってしまったがまあいいだろう。

部屋に近づき、ドアを開けるために鞄へと手を伸ばし、

 

「「トウマく~ん、お帰り~」」

 

いきなり目の前でドアが開かれた。

中から出てきたのはフブキさんとミオさん。

その顔には笑顔が浮かんでいる。

だけど、どこか冷たいものを感じる。

 

「た、ただいま……二人ともいったいどうして……」

 

「まあまあトウマ君」

 

「とりあえず中に入りましょうか、先輩」

 

「うわ?!星街先輩にぼたんさん?!」

 

突然後ろから現れた彼女たちに押されるように部屋へと入る。

ちらっと見えた二人の表情も笑顔だ。

だがフブキさんたちのそれと同じだ。

冷たいというより、どこか熱量を感じる。怒り?疑問?

なお、僕がぼたんさんさんの名前を呼んだ時一瞬星街先輩の片眉がピクリと動いた。

その疑問が解消する前にそのまま居間の真ん中に連れていかれる。

 

「トウマ君、とりあえずここに座って?」

 

「え、ちょっ……」

 

「いいから、座って」

 

はい。

星街先輩の強い言葉に素直に座った。

自然と正座する形となる。

 

「さて、トウマ先輩?」

 

「ちょ~っと聞きたいことがあるだけど、いいかな?」

 

いつの間にか四人に囲まれていた。

え、なんだろう。

何かしたっけ?

 

「「「「あの女の人、誰(かな)(ですか)?」」」」

 

おおう、あの一連の流れを見られていたのか。

これはちゃんと説明しないと大変そうだ。

僕は結局AZKiさんとのやり取りを(最後の歌は除く)一通り説明することになった。

まあ、それで四人に納得してもらえたのなら安いもの。

しかもミオさん、ぼたんさんは事情を説明すると自分たちの筋が違ったと思ったのか謝ってくれるくらいだ。

とはいえそれはそれとして四人に個別で買い物や遊びに行く約束を取り付けられたが。

 

 

 

そんなやり取りがあった数日後。

 

「それでトウマさまは最近忙しそうだったんですね」

 

「そうなんだよね。役得ではあったけど」

 

僕は癒月さんと一緒に研究室へと向かっていた。

道中の話題はここ最近の出来事。

星街先輩、フブキさん、ミオさん、ぼたんさんと色々なところに行くことになったこと。

その時AZKiさんの話題が出たときには一瞬眉を顰めていたが、その後の一連の流れでそれも苦笑で押し流されていた。

 

「皆様美人ですものね~。さぞ楽しかったでしょうね」

 

半目でこちらを見つめる癒月さん。

でも口元は弧を描いているから本気で咎めるつもりはないのだろう。

 

「なんか棘があるね?」

 

「べっつに~?でも同期とも友誼を深めるのも大事だとは思ってますけどね」

 

「あ~……では、この後お時間はございますか?お嬢様?」

 

「あらあら、じゃあ私の家でお食事会とでもしましょうか。お酒は期待しても?」

 

「はいはい、秘蔵のお酒を出させていただきますよ」

 

「うふふ、楽しみです」

 

途端ににっこにこになる癒月さん。

そんなにうれしいのだろうか。

僕としても彼女の手料理は美味しいから願ったり叶ったりなのだが。

……流石に二人きりってことはないよね?

そのあたりは後で聞くとしよう。

 

「あ、トウマ君にちょこちゃん、こんにちわ」

 

ちょうど曲がり角を曲がり研究室がもう目の前のとき、後ろから声をかけられた。

声質ですぐに分かる。ときの先輩だ。

 

「こんにちわ。ときのせんぱ……」

 

挨拶しようと振り返ると、そこにいたのはときの先輩ともう一人。

 

「あ、紹介するね。最近私の研究室に転入してきた、合唱部にもはいってくれることになった」

 

「AZKiです。思ったより早かったけど、また会えたねトウマ君」

 

あのときと違い最初から帽子や眼鏡もないAZKiさん。

あの時と同じく眩しい笑顔を浮かべている。

 

「また一緒にドーナツ、食べに行こうね!!」

 

「「へぇ??」」

 

これからは波乱が起きそうな予感がする。

そう思った。

 

 

 

 

 

 

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