ホロホロしちゃっていいじゃない!   作:てんりょう

26 / 28
※注意※

本話には重度の独自解釈、独自設定が含まれます。

「イメージが違う」「おかしい」等々感じられる方はブラウザバックをお薦めします。




第17話 Smoking after Gathering

 

まるで綺麗な海底を覗き込んだ時に見える景色のように輝く瞳と、酒気でほんのり紅く染まった儒烏風亭さんの顔が目の前にある。

彼女の視線は逸らされることなく真っ直ぐにこちらを向いている。

あまりに突然な事に戸惑い、そしてその空色の輝きから視線が逸らせない。

2人の間にはタバコ2本分の距離のみ。

 

なんでこんなことになったのか、それは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

few hours ago

 

 

 

 

 

 

「は?合コン?」

 

「そう、合コンだヨ!!トウマっち!!」

 

「そうだぜ、合コンだぜ!トウマ!!」

 

講義終了後、突然男友達(バカ)二人に掛けられた単語に思わずオウム返しに聞き返してしまった。

 

一人は紅正夫。

オレンジのノースリーブにネッカチーフ、頭にはヘアピンが数多くあり、如何にもなチャラい系イケメン男子。

いつも女の子にモーションをかけてはフラれるも決して邪険に扱われない。

その外見に似合わず義理堅く、バイオリンの演奏技術(本人曰く祖父に仕込まれたらしい)もピカイチ。

最近ドルオタの叔父に請われて農家の手伝いをしているとか。

 

もう一人は左翔太郎。

黒いソフト帽を被った茶髪で黒のベストとスラックスを着こなすイケメン男子。

本人曰くハードボイルドな憧れの人である鳴海荘吉さんをリスペクトしているらしいが、まだ半熟と言われている三枚目。

だが困っている人を見過ごせない人間味あふれる姿勢は男女問わず人気があり、翔ちゃんと呼ばれて親しまれている。

今はバイトとして(勝手に)探偵事務所に入り浸っているとか。

 

「どうしたの急に?」

 

「僕考えたんだヨ〜。僕がモテないのは恋愛に前向きな出会いがないからなんだと!!」

 

「だから合コン?……また面倒な」

 

「そんなこと言わずにさ〜トウマっち、参加してくれヨ〜」

 

猫撫声で参加をお願いしてくるバカ(正夫)を見ながら考える。

こいつはチャラい。女好きだ。しょっちゅうナンパもしている。

だけど、こういうので筋は通す。

いきなり相手の都合を考えずに言っては来ない。

そう思って視線を翔太郎に向ける。

それを予想していたのか、翔太郎は一つ頷いた。

 

「トウマの考えてるとおりだ。実はこいつの叔父さんとこの三人が合コンを開く予定だったらしい」

 

「だけど兄ちゃんたちが急用が入ってしまったんだヨ」

 

「代役で参加して迷惑を掛けないようにってこと?」

 

「そのとーり!!それはそれとして合コンは楽しむけどネ!!」

 

「なるほど。で、翔太郎君の方は?」

 

「そりゃお前~ハードボイルドを目指すなら合コンくらい経験しないとな」

 

「ふ~ん」

 

とはいいつつも、正夫の懇願に応じたってところだろう。

今日の翔太郎はハーフよりらしい。

しかし、合コンか。

正直にいえば部屋でのんびりしておきたいところなんだけど。

 

「な~な~いいだろ~、いこうヨ~」

 

「お前も合コンくらい経験しないとな!」

 

「確かにこれも経験か。いいよ」

 

合コンが女の子と一緒に遊ぶことを指すなら割と経験あるんだけど、言わぬが花か。

でも彼らも彼らで割と人のこと言えないんだけど。

特に翔太郎。

皆にはハードボイルドじゃなくてハーフボイルドだろとか言われてるけど決めるときは決めるからモテるんだよな。

確かQueen?とか言う渾名の娘とかとき……なんちゃらさん、だった気がする。

でもこんな感じで男友達と一緒に何かするのも久しぶりだし、よしとしよう。

部屋は……まあ、勝手に入って勝手にしていくか。

 

「じゃあ、18時に駅前のイブクロ横丁にある中華料理屋「威風」に集合でヨロ〜」

 

「おう!!」

 

「了解」

 

そういって二人と別れた。

 

 

そして約束の時刻。

イブクロ横丁中華料理屋「威風」

これから楽しくホットな合コンが始まる

 

「「「……」」」

 

「「「……」」」

 

はずだった。

僕を除く二人は沈黙して床に震えながら正座。

ギャルっぽい二人の女性が二人を腕を組み、足を鳴らしながら鋭く二人を見下ろしている。

一人は通称Queenと呼ばれていて、もう一人がときめさん(会った時に教えてもらった)だ。

どちらも翔太郎の知り合いであり、まず第一声が「二人とも正座」だった。

その圧に初手から空気がバリッバリに冷えている。

 

「で、何か言い残すことはあるかしら?翔太郎?」

 

「いや、その俺は、正夫に依頼されて仕方なく……」

 

「おい?!俺を売るなよ翔太郎!!お前もノリノリフィーバーだったじゃねカ!!」

 

「ばっ、バカ!!それをいったらお前だって!!」

 

「「二人とも聞かれたことだけに答えなさい」」

 

「「はい……」」

 

対して僕はというと

 

「なるほど〜先輩らしいというかなんというか、お人好しでごさいますねぇ」

 

「ははは」

 

白黒のコントラストが映える長髪とゴシックロリータな衣装を身身に纏ってコロコロと笑う少女、儒烏風亭らでんさんと4人を眺めていた。

僕が怒られる側ではなかったのは日頃の行いか。

それとも儒烏風亭さんと知り合いだから見逃されたのか。

 

「そういう儒烏風亭さんこそ、なんでここに?」

 

「酒カスとしてはこういう飲み会の席は逃せませんから。このお店、評判は最高ですけど中々お値段がはりますので」

 

「といいつつ、彼女たちのどちらかに頼まれたからじゃないの?君も大概お人好しだし、常識人だし」

 

「ほほほ……なんのことでごさいますやら」

 

彼女は腰に刺した扇子を開いて口元を隠しつつ上品に笑う。

しかしその扇子(どんなギミックが仕込まれているのか開くたびに柄が変わる)にはディフォルメされた彼女が焦る姿が描かれており、本人の視線は明らかに泳いでいる。

初対面のときに能面を被って酒瓶に煙管をもって来たときは度肝を抜かれたが、その後博物館トークを始めてその芸術への知識の深さに感心もさせられたのが懐かしい。

本人は酒カススロカスヤニカスと言ってはいても僕たちの前で醜態を晒すこともなく、ファッション破天荒だなと勝手に認識している。

 

というか、破天荒レベルならよっぽど兎田さんの方が上とも思うのだが。

 

「まあ、儒烏風亭さんのファッション破天荒っぷりはいつものことだから置いておくとして」

 

「ファッションじゃないですから、破天荒ですから」

 

「そろそろ2人を止めようか。いくら翔太郎がいると言ってもこの店で怒られるのは勘弁願いたいしね」

 

「それもそうですね。まあまあお二人とも、お怒りはご尤も。ですがそれを呑み込むのも良い女というものでは?」

 

「「むっ……」」

 

「そもそもさ翔太郎とその連れに女遊びなんか無理だって。ハーフボイルドに似非チャラ男だよ?」

 

「確かに、トウマ君のいう通りね」

 

「翔ちゃん、変に調子乗りそうだし。正夫君は正夫君だし」

 

「くそう、反論したいけど……」

 

「俺ッチ、足がもう限界……ここは大人しくしておくゼ」

 

儒烏風亭さんと僕の意見にQueenさんもときめさんもあっさりと引き下がって席へと座り、2人は解放される。

足をしびれさせて若干ふらつきながらも翔太郎と正夫も席に着いた。

 

「なんか変な感じになっちまったし釈然としないなにかもあるが……」

 

「兎にも角にも始めようカ!!店員さーん、ビール人数分よろしく~」

 

流石はムードメーカー。

先ほどの緊迫感などどこ吹く風。店員を呼ぶと人数分のビールを頼む。

ほどなくして運ばれてきたビールはキンキンに冷えており、黄金色の輝きを放っている。

 

「では……と思ったが、俺にとってはほぼ知ってる面子だ。堅苦しいのはぬきにしていこうか!!乾杯!!」

 

「「「「「かんぱ~い!!」」」」」

 

キンッっと心地いい澄んだ音が鳴り、合コンというより変則的な飲み会が始まった。

コース料理形式で飲み放題という定番のものだが、この店の味が最高なのは知っている。

始まり方こそ変だったが、いつもの飲み会と思えば話も盛り上がる。

 

「そういえば……翔太郎、あのライトって彼は呼んでないんだ?いつも一緒にいるからいると思ってた」

 

「ああ……声は掛けたんだがせんべい汁に興味を惹かれたらしくてな……」

 

「「せんべい汁?何故?(です?)」」

 

「ライト、そういうとこあるよね。変なところにツボがあるっていうか……」

 

「ほんと〜。最初は魔少年って感じだったけど最近印象変わってきたわ、いい意味で」

 

「そうそう、俺っチはこの前の試験ではお世話になったからヨ〜。翔太郎、後でお礼言っといてくれヨ」

 

「ああ、伝えとくよ。あ、店員さ~ん、このカクテルよろしく。Queenとときめはこれ好きだったよな?」

 

「ありがと、翔ちゃん」

 

「それでいいよ、翔太郎」

 

「僕はビール、瓶でください」

 

「俺っちは焼酎」

 

「私は日本酒ください」

 

「あ、らでんちゃん、この前はありがとね~いいお酒教えてくれて」

 

「いえいえ~気に入っていただけたようで良かったです。でも、あれを一人で飲んだんですか?」

 

「流石にそれはないって。翔太郎とだよ」

 

「……へえ、翔太郎も隅に置けないね」

 

「うっせえわ。いつもいろんな女の子と一緒にいるトウマにだけは言われたくねえよ。確かこの前はなんか初めて見る娘とドーナツ喰ってたって証言もあるぞ?」

 

「……周りに知り合いはいなかったと思ったんだけどな」

 

「あのドーナツ屋、俺もたまに行くんだよ」

 

「流石トウマ先輩。先輩方に飽き足らず見知らぬ女性を誑かすなんて」

 

「ちょ、儒烏風亭さん。そりゃないよ。状況的に反論しにくいけどさ」

 

「ま、正確にはそのあとを追ってた白上さんたちをイレギュラーズが見てて、それを聞いたってだけなんだけどな。実際はただの案内だったっていうし」

 

「ま~トウマっちならそんなもんだよネ」

 

「トウマ君、良くも悪くもお人よしだし」

 

「ほんと、そんなところ翔太郎にそっくり」

 

「馬鹿言え、俺より本屋で作家の神山店長とか泊さんとかの方がそっくりだぜ」

 

「いや、神山先生みたいな有名人と一緒にされると流石に困る……頼み頼まれるくらいには親しくさせてもらってるつもりではあるけど」

 

「え、トウマ先輩、神山先生とお知り合いなんですか!?」

 

「まあ、それなりに? 先生の新刊も早めに買えるし」

 

「えぇ~!!いいな~!!今度紹介してくださいよ!!」

 

「まあ、別にいいけど」

 

「約束ですよ!!あ、グラス空いてますね、お注ぎします」

 

「あ、ありがとう。儒烏風亭さんもほら、注いであげるよ、お猪口だして」

 

「あ、こりゃどうも」

 

「店員さ~ん、注文いいですか~?」

 

「翔ちゃん~なんか最近仕入れた面白い話ないの~?」

 

「そうだな、守秘義務にかかわるから詳細は話せないけどとっておきのネタがあるぜ」

 

ワイワイと皆思い思いに話し、笑い、飲み続けた。

最終的には翔太郎や正夫が周りの客にも絡むくらいにテンションを上げ、終始皆に笑顔が絶えなかった。

 

そして約2時間後の飲み放題終了後、

 

「「う~ん(う~ン)」」

 

「「「まあ、予想はしてた」」」

 

「あ、これいつもの光景なんですね」

 

店の前で飲みすぎて互いの体にもたれ合うように支え合う翔太郎と正夫を3人で呆れたように見つめていた。

 

「翔ちゃん、お酒弱いのにこういう場だと率先して飲むからね」

 

「『ハードボイルドな探偵には酒がつきものなのさ』だっけ?まったくしょうがないんだから」

 

そうぼやくQueenとときめの表情に嫌悪はない。

 

あるのは普段はハーフボイルドだけど時折ピシッと決める探偵見習いへ向ける確かな信頼。

 

それが2人の顔に慈母のような温かな微笑みになって表れていた。

 

「正夫も翔太郎に合わせて飲んでたしね。タクシー呼んだから申し訳ないけど2人は彼らを連れて帰ってもらえる?タクシー代は僕もちにしてるから」

 

僕は手早くスマホでタクシーの段取りを済ませると彼女たちに彼らを託した。

彼らが送り狼になることも(今の惨状では)ないだろうし、この2人なら逆にすることもないだろう。

 

「良いけど。トウマくんは?」

 

「え? 勿論儒烏風亭さんを送り届けるよ? お酒を飲んだ後の女性を1人で帰らせるなんて薄情なことしないって」

 

「君ならそういうよね。でも、送り狼になっちゃだめよ?」

 

「なるか!?」

 

にやにや笑いながら揶揄ってくるときめさん。

くそう、でも普段僕の部屋にいろんな娘が入り浸ってるのを知られてるから反論しにくいのが本当に困る。

 

そんな今を悪くないと思ってない自分にも。

 

「あ、タクシーきた。ほら、翔ちゃんに正夫くん、タクシー来たよ」

 

「こりゃだめだ、Queen、私が正夫君に肩かすから翔太郎をお願い」

 

「OK~」

 

タクシーが到着し、2人が慣れた様子で酔っ払いをタクシーに叩きこんで出発した。

 

「さて、儒烏風亭さん。かえ……」

 

「じゃあ、2件目行きましょうか先輩!!」

 

帰ろうかと口にしようとした瞬間、勢いよく腕を振り上げて2次会を希望する彼女。

ちらっと腕時計を見る。

時刻は20時。

まだ早いといえば早い。

が、しかし、2人(Queenさんとときめさん)に連れて帰ると約束したのだから。

 

「ダメ」

 

「えぇ~いいじゃないですか、飲みましょうよ~そもそもなんでダメなんですか?」

 

「いや2人にちゃんと連れて帰るって約束したし」

 

「それ、別に今すぐって話じゃないですよね?」

 

「いや、まあ、うん」

 

「ならいいじゃないですか、行きましょうよ~」

 

確かに今すぐ、とは約束はしていない。

してはいないが、このまま2人で飲むというのも……。

外だと何かあったらフォローが難しいし。

 

「やっぱりダメ。外で飲んでるんだから何かあったら大変だし」

 

「え~……外じゃなければいいんですよね?」

 

彼女は不満そうに口を尖らせるが、すぐに何かに気付いたのかパっと扇子を開くと口元を隠した。

瞳しか見えないけど、明らかに笑顔が浮かんでいることがわかるように細まっている。

 

「うん……え、今、なんて」

 

「じゃあ先輩の部屋で飲みましょう!!」

 

「いやいやいや?!それお持ち帰りじゃん?!」

 

満面の笑みで提案するらでんさんに思わず首を振った。

この娘は僕の話を聞いていたのだろうか。

しかし、儒烏風亭さんは不敵な笑みを崩さない。

 

「ちっちっちっ、甘いですね先輩」

 

「何が??」

 

「お持ち帰りの定義とは”男性が女性を口説いて家やホテルに連れていく”ことを指します」

 

「まあ、一般的にはそうだね」

 

「で、す、が、今回は私が先輩に口説かれたわけでもなく、私が先輩の部屋で飲みたいと言っているのですからお持ち帰りには該当しません」

 

彼女は口元を隠していた扇子をパチンと閉じる。

そこから出てくるのは真一文字に結ばれた真剣な表情。

まっすぐ真剣にこちらを貫くその視線に圧され、口から出かかった言葉が飲み込まれて消えた。

 

「そもそも、お持ち帰りはいかがわしいことをするための行為でございますれば……先輩には無用の心配でございましょう?」

 

そして芝居がかった言葉で僕への信頼を表してふにゃりと笑みを浮かべた彼女に、僕は反論の言葉を失うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おっじゃましま~す!!おっさけ~おっさけ~」

 

「テンション上がるのはわかるけど、先に連絡ちゃんとしたの?」

 

僕と儒烏風亭さんはそれからすぐに移動し、僕の部屋に到着した。

意気揚々と冷蔵庫へと向かう彼女に僕が投げたのはここに来るのにあたって出した条件

 

「迎えですよね?わかってますよ~。もう青くんに連絡しましたから。ほら」

 

そういって彼女がスマホのメッセージアプリをこちらに見せてきた。

そこには火威さんに対して迎えに来てほしい旨と了承の返事が記載されている。

 

僕がつけた条件は一つ。迎えに来てもらうこと。

幾ら僕が自制するといったとしても、やっぱり一線を引く意志は持たないとダメだと思う。

既に何人かと1対1で部屋で過ごしてる実績があるのが辛いところだけど。

今までもいかがわしいことをしたわけじゃない。

とはいえ、それがいいわけでもないから最近は来るのはいいけど誰かと一緒にを徹底してもらっているのだ。

 

「ならよし。今なら伯楽星と獺祭があるから好きな方選んでいいよ」

 

「じゃあ~、獺祭にします!!お猪口お猪口~」

 

勝手知ったるとばかりに食器棚からお猪口を2つ取って、そそくさとリビングへと向かう彼女を溜息一つで見送ってから、僕はつまみを用意する。

 

買ったのは純米大吟醸だから冷蔵庫からエリンギを取り出し縦に割いてオリーブオイルと塩を振ってトースターに放り込む。

焼ける間にクリームチーズを取り出し、おかかをさっと作って別の器に盛ってお盆に乗せる。

とりあえずエリンギができるまではクリームチーズでつなごう。

あ、チェイサーの水も忘れずに。

 

「あ~獺祭はおいしいですね~」

 

「頼み込んで取り置いてもらってたやつなんだから、大事に飲んでよ」

 

「わかってますよ~。あ、おつまみありがとうございます!!うま~!!」

 

リビングではもう儒烏風亭さんがテーブルの上で栓を開けて飲み始めていた。

彼女の目の前につまみであるチーズとおかかを置いた途端に1切れ消えていった。

まあ、おいしいと言ってもらえたから良しとしよう。

僕も彼女の対面に座ると注いでもらっていた獺祭を1口。

 

「うん、おいしい」

 

「ね~おいしいですよね~。威風で出てくるお酒も悪くないんですけど、やっぱり飲み放題のより先輩の部屋で飲むお酒は良いのが揃ってますよね~」

 

「まあ、それなりにお金かけてるしね」

 

「あ、そういえば先輩、聞いてくださいよ~このまえはじめがですね……」

 

そう言って始まった2次会は穏やかなものだった。

儒烏風亭さんが話す同期たちのエピソードを笑いながら聞き、僕の最近あったエピソードを離すと彼女も笑いながら相槌を打ってくれる。

 

エリンギができたらそれもつまみつつ、獺祭が半分程度まで減ったころ。

 

「あ、あの、先輩」

 

「ん?……あ、ちょっと洗濯物が干しっぱなしだったかも。ちょっと席外すね」

 

頬を赤らめながらもじもじし出す儒烏風亭さんの様子を見て、僕はわざとらしく席を立った。

 

「え、あ! いってらっしゃいませ」

 

そんな僕の行動に一瞬ぽかんとした儒烏風亭さんに背を向け、そのままベランダに向かうべく寝室の方へと向かう。

後ろで儒烏風亭さんが立ち上がった音を聞きながら、道中で机の引き出しを開けた。

そこにあったのはタバコと火をつけるためのマッチ。そして携帯用灰皿だ。

実は他の皆には内緒にしているが、本当にたまにタバコを吸っている。

特に意味はない。

別にストレスがあるわけでもない。

ただ尊敬している立花氏が吸っているのを見て始めたのがきっかけだ。

当時は吸い始めた僕を見て苦笑されたのを覚えている。

ベランダの窓を開け、外に出る。

たばこのにおいを部屋に残しておくと、鼻のいいフブキさんやミオさんたち獣人メンバーに悟られてしまう。

いや、別にばれたからどうということはないんだけれど。

ただ何となく1本だけ吸いたくなったので、マッチに火をつけタバコを咥えて火をつける。

銘柄は「螺旋」の1mgだ。

吸い込むと同時に咥える部分にあるカプセルを嚙み潰す。

独特な甘い香りが口の中に広がっていく。

 

「っふぅ~」

 

しばらくそれを堪能して煙を吐き出した。

そのままぼんやりと燃えて短くなる先端を見つめ、

 

「へぇ、先輩もたばこ、吸われてるんですね」

 

「っごほっ?!ごほっ?!?!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

もう一度吸おうとした瞬間に儒烏風亭さんから声をかけられ、思わずむせてしまう。

まったく気づかなかった。

そんなに長時間ぼんやりしてたつもりはなかったのだが、やはり酔っているのだろう。

いや、そんなことよりも……。

 

「だ、大丈夫。いや、これは、ちがくて、えっと……」

 

気が逸る。

どうやって言い訳しよう。

いや、できるわけがない。

現場を見られているのだから。

 

「えっと、先輩。私も吸っていいですか?」

 

「……え?あ、うん。いいけど」

 

至極あっさりとした彼女の言葉。

予想と違う反応に思わず固まってしまった。

てっきり罵倒や軽蔑に近い何かが来ると思ったのだけど。

 

「あ、あれ?」

 

「どうしたの?」

 

酔ってるせいか今一つ思考がまとまってない。

そんな中、儒烏風亭さんが慌て始めた。

バックの中を漁ったり、ポケットを叩いたりと何かを探している。

 

「先輩……火をつけるの、持ってないですかね?どうもライター忘れちゃったみたいで」

 

「え、火か。ごめん、実は僕の方も今持ってないや」

 

ちょっとタイミングが悪かった。

僕は本当にたまにしか吸わないからライターを使っていない。

だからこそマッチなのだが、ちょうどさっき使ったものが最後だった。

 

そのとき、彼女の視線が僕の口元に向かう。

 

「……先輩、ちょっと失礼しますね」

 

「え、何を……むぅ!?」

 

何を思ったのか、急に彼女は僕の唇とたばこに左手を伸ばし、まっすぐ咥えさせてきた。

その細く白い指が唇に触れ、思わず緊張してしまう。

空いた右手でタバコを取り出し、慣れた仕草で咥えると

 

「……」

 

「?!?!?!?!」

 

ぐっと彼女の顔が間近に迫り、タバコの先端同士が触れ合った。

綺麗な海底を覗き込んだ時に見える景色ように輝く瞳と酒気でほんのり紅く染まった頬。

突然の行動にそのまま硬直してしまう。

 

「……ふぅ、ありがとうございます、先輩」

 

どれくらいの時間が経ったのか。

近づけていた顔と唇を抑えていた指を離し、彼女はベランダの外に向けて紫煙を吐き出した。

まるで1枚の絵画のようなその所作に、思わず目を奪われた。

そして、やっと理解が追い付いてきた。

今のはシガレットキスというのではなかろうか。

その事実を認識した時、一気に気恥ずかしさが襲ってきた。

頬が熱くなり、心臓が痛いくらい跳ねている。

彼女の方を見れなくて、視線を宙に向ける。

まるでこのやり取りを苦笑するかのように煌々と月が輝いている。

 

「……先輩」

 

「何?」

 

ぽつりと零れた儒烏風亭さんのこちらを呼ぶ声に視線をそちらに向ける。

顔は背けられており、その表情は伺うことができない。

だけど、よく見ると耳が真っ赤に染まっていた。

 

「私、別に誰に誰にでもこんなことするわけじゃないですから」

 

「え、あ、うん」

 

「さ、続きのお酒飲みましょ。青くんが迎えに来るまでにもう一本飲みた……」

 

「ん?どうした……の」

 

すっと立ち上がりリビングへと向かおうと振り向いた儒烏風亭さんの言葉が不自然に止まった。

彼女の視線が向いている方へと視線を向ける。

 

「……あ、どうぞ続けて続けて」

 

片手にスマホを持ち、レンズをこちらに向けている火威さんが立っていた。

……レンズ?

 

「な……え、あ?」

 

「あの、火威さん、つかぬ事をお聞きしますが……今何をやっておられるので?」

 

恐る恐る尋ねる僕に満面の笑みで答える火威さん。

 

「いやだなあ、先輩。シガレットキスのシーンを見るなんて中々できないんですから。漫画のネタのための撮影ですよ」

 

「「待って?」」

 

「青くん、そんなひどいことしないよね?!らでん、それを今すぐ消してほしいな??」

 

「あ、そうだ。これ、皆の共有サーバーにアップした方がいいかな」

 

「「待って!?!?!?!?」」

 

そのままスマホを操作しそうな彼女に対して、儒烏風亭さんと僕は慌てて飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

後日その動画を消してもらうのを条件にランチを奢るのが確定した僕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。