ホロホロしちゃっていいじゃない!   作:てんりょう

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第1話「これも1つの日常」

「で、あるからしてここの計算は……」

 

教壇に立つ教授の声を聴きながら、窓の外を横目で眺める。

 

暖かな日差しに照らされながら風にそよぐ校庭の木々。

既に桜は散ってしまったが、青々と茂る葉がサラサラと揺れている。

 

視線を反対側に向ければ他の受講生の姿。

黒板と手元のノートに視線を往復させつつ手を動かしているものもいれば、眠そうに欠伸をするもの、僕と同じように物思いにふけるものと様々だ。

 

実に素晴らしい。

 

これぞ平穏だ。

 

どこぞのおにぎり好きの猫又やペコペコいってる兎娘からのいたずらもなく、ドラゴン娘の思い付きやそれを止めようとする天使との諍いにも巻き込まれない至福の時。

 

予習は十分行っているため、講義そのものは退屈だ。

 

だがそれがいい。

 

生きていくうえで過剰な刺激などナンセンス。

 

なんてどこかの漫画のラスボスのようなことを考えながら、僕は授業の声へと意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんばんは」

 

「こんばんきーつね、トウマ君、遊びに来たよ」

 

「こんばんみおーん、これお土産」

 

「こんばんはー、お邪魔しまーす」

 

今は放課後。すぐさま帰宅し晩御飯、風呂、読みかけのラノベを読んでから就寝。

 

と、行きたかったのだが。

 

唐突に現れた来客によって予定が崩れた。

 

唐突に鳴ったチャイム音に扉を開けて目に入ったのは白と黒と茶色の髪を持つ三人の獣娘。

 

1人目は手を狐の形のようにしてこちらに向けている白上フブキ。

 

雪のように白く長い髪と同じピンっと伸びた耳を持つ狐娘で、よほど楽しみなのか髪と同じ色の柔らかそうなしっぽがフリフリと揺れている。

 

2人目に挨拶してくるのは大神ミオ。

 

豊かに広がる黒に一部赤いメッシュが混じる髪を持つ狼娘だ。

 

手に持つお土産の箱を掲げて、少し申し訳なさそうに僕へウインクしている。

 

こちらの返答を聞かずに扉の隙間から体を滑り込ませてくるのは3人目の戌娘、戌神ころね。

 

2つ結びにした茶髪のおさげと同じ色の垂れ耳を揺らしながら、さっと靴を脱いで勝手知ったると言わんばかりに奥へと向かっていった。

 

「……いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずいらっしゃい」

 

アポとか事前連絡がなかったたとか思うところはあるが、白上さんと大神さんの二人を一旦中へと迎え入れる。

 

連れだってリビングへと向かうと、戌神さんが我が物顔でテレビ台の下に入れている某花札屋から発売されている携帯もできる据え置きゲーム機を取り出し、セッティングを進めていた。

 

それどころか買い置きしていたスナック菓子を取り出して勝手に開けて食べていた。

 

何やってんだ、この戌娘は。

 

「ほらー、はやくやろうよ。PEACH TRAINS 99年で」

 

「いやいや講義あるよね、戌神さん。確か前に金曜日は1時限あるとかいってなかった? 何故時間がめっちゃかかるそれをチョイスするの? てかそんなにやると丸1日じゃ終わんないんだけど」

 

「だいじょーぶ。トーマに代返頼むから。よろしく!」

 

戌神さんがそう言って決め顔で親指を立てる。

 

「いやダメでしょ」

 

何言ってんだ、このお惚け戌娘は。

 

「トウマ君のいう通りだよ、ころね。代返はだめだよ」

 

指を立てて戌神さんを注意する白上さん。

 

ゲーム狂狐だと思っていたが流石に締めるところは……

 

「出席だけして寝てれば良いんだよ」

 

所詮はゲーム狂だったか。どや顔で言うな。

 

「もう、2人とも。だめだよ、せめて20年くらいにしとかないと」

 

「「は~い」」

 

いや20年でも翌朝までかかるんだけど。

 

大神さんはだいぶ2人に甘い。

 

「あれ、そういえば猫又さんは?」

 

いつもなら戌神さんと一緒にいる紫髪の独特な雰囲気を持つ猫娘である猫又おかゆの姿が見当たらなかった。

 

「おかゆ、今日はおばあちゃんのところに顔出してから来るって」

 

いや来るのかよ、あの猫娘。

 

「ごめんね、いつも遊びに来ちゃって」

 

大神さんが両手を合わせて申し訳なさそうにしながら謝ってきた。

 

……そんな顔をされると弱い。

 

「せめて10年にしよう。それならあまり遅くならないし」

 

「「え~」」

 

「え~、じゃないの。家主に無理言わない」

 

戌と狐の抗議の声を大神さんが一蹴する。

 

「まあまあ~、いいじゃない。料理とか食事代とかお土産とか入れてるんだし」

 

対して、唐突に後ろからの声が弁護に入って来た。

 

そこにいたのは先ほどまでいなかったはずの猫又さん。

 

「いつの間に入って来たの?」

 

「ミオちゃんが『ごめんね、いつも遊びに来ちゃって』って言ったあたりから」

 

「あ、おかゆ~。こっちこっち」

 

「やっほ~ころね」

 

言いながら僕に袋を手渡してくる。

 

中にあるのはは複数のお茶とおにぎりとお菓子。

 

こやつ、明らかに遊び倒す気満々である。

 

てか4人揃ったなら僕いらなくね?

 

釈然としないけど、ゲーム機を持って帰ってもらってこのまま寝させてもらおうか。

 

「もうそれ持って帰ってい……」  ―――ピンポーン―――

 

タイミング悪くインターホンが鳴ったので玄関に向かう。

 

覗き穴から外を見ると見知った後輩達の姿があった。

 

すぐに鍵を開けて扉を開ける。

 

「ららーいおーん、トウマ先輩こんばんは。バイトなかったので遊びに来ました」

 

「こんばんはー、ポルカでーす。暇なんで遊びに来ましたー」

 

灰色の長髪と丸い耳を持つ獅子娘の獅白ぼたんさんとクリーム色の髪とまるでピエロのような帽子を被るフェネック娘の尾丸ポルカさん。

 

2人ともとある縁で知り合った獣娘で、何故かよくよく遊びに来る娘たちだ。                                                                                                      

 

「……何でうち? 2人とも予定が空いてるなら2人で遊んできなよ」

 

わざわざこんな男の家に遊びに来なくても良いだろうに。それこそ2人の交友関係なら幾らでも遊ぶ人はいそうだが。

 

「あれー、そんなこといってていいんですかー?」

 

獅白さんが悪い笑みを浮かべている。                                                                   

 

なんだ、この娘がこんな顔をするのは珍しい。ゲーム中ならともかく平時では礼儀正しいのだが。

 

そこのところは同じネコ科の紫猫娘にも見習ってほしいものだ。

 

「これを見よー!!」

 

尾丸さんの掛け声とともに獅白さんがその手を掲げた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

 

そこからは液体の入った瓶が覗いている。

 

「これ、たまたま見つけたんで買ってきた勝駒です。先輩、日本酒好きでしたよね?」

 

「私も半分出したんですよ。崇め奉れー!」

 

にんまりとした笑顔を向けてくる2人。そんなレアもののお酒につられ……

 

「どうぞ、お嬢様方。お上がりください」

 

「「おじゃましまーす」」

 

意志の弱い自分が悲しい。が、それはそれ。

 

せっかくのお酒なのだから大事にせねば。

 

2人を先にリビングへと向かわせ、僕は冷蔵庫を開けて勝駒を入れる。

 

代わりに常備するようになったウーロン茶とオレンジジュース、あと人数分のコップをかごに入れてリビングへと戻る。

 

「フブキ先輩たちも来てたんですね」

 

「あ、ポルカちゃん。いらっしゃーい」

 

「お~結構人数増えたね~。あ、ころね。そこのお茶とって~」

 

「はいよ、おかゆ。あ、ミオしゃちょっとそっちに詰めてくれる~?」

 

「いいよー、あ、ぼたんちゃん何飲む?」

 

「ありがとうございます。私はお茶で。フブキ先輩、今日は何するんですか?」

 

「今日はPEACH TRAINSだよ。10年の予定」

 

女性は3人寄れば姦しいとはよく言ったものだが、6人になったら喧しいだと痛感した。

                                               

テレビの前できゃいきゃいと楽しそうにしているのを眺めながら、入り口に設置した机に持ってきたジュースとかを置いてそのまま椅子に座る。

 

まあ、これで人数も十分増えたし僕が参加しなくても問題ないだろう。

 

そう思って机においてあるラノベに手を伸ばし……

 

「何やってるの?トウマ君早くこっちに来なよ」

 

「そうだよ、トウマ君。早く始めないといつまでも終わらないよ?」

 

白上さんと大神さんから同時に声を掛けられ、思わず固まってしまう。

 

「いや、十分人数いるんだから別に僕が参加しなくても……」

 

「いいからー、はやくこっちこっち」

 

いつのまにか近くに来ていた白上さんに腕を掴まれ、テレビの近くまで引っ張られる。

 

若干バランスを崩しながらも座った場所は白上さんと獅白さんの間で。

 

いつの間にかチーム編成ができていたみたいだ。

 

「はい、トウマ先輩。先輩からですよ」

 

獅白さんから渡されるままコントローラーを握る。

 

「……ま、たまにはいいか」

 

「どうしたの?早く始めよう?今日は負けないよ~!」

 

「うち、久しぶりにこれやるから不安だけど、フブキと一緒だし負けないよ!」

 

「おかゆー、がんばろーねー」

 

「そうだね、ころねー」

 

「おまるん、やるからには勝つよ」

 

「ししろんがいれば何とかなるなる」

 

他の皆もやる気満々であるようだし、10年だから何とかなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きていくうえで過剰な刺激などナンセンスだ。

 

だけど、たまにはこんな騒がしい日常もいいのかもしれない。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに。

 

1位 白上・大神チーム、2位 獅白・尾丸チーム、3位 僕、4位 戌神・猫又チームであった。

 

1,2位は順当に資産を増やしていき、戌神・猫又チームが3位だったのだが、最後に貧乏大王を擦り付けてそれによる損失により3位へと繰り上がった。

 

ただこれにより戌神さんが再戦を要求。それをほかのチームも承諾してしまったため追加10年が決定。

 

しかし全員疲れからか1人また1人と倒れていきドローゲームとなった。

 

 

 

 




白上フブキ:ゲーム狂い狐。だけど良心より。

大神ミオ :良心1。料理を作ってくれることも。

戌神ころね:マスコット枠。

猫又おかゆ:遊び人。神出鬼没。だが偶に真面目になることも。

獅白ぼたん:良心2。クール枠。ゲームのスキルも高い。

尾丸ポルカ:ムードメイカー。地味に運動神経も高い。
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