ホロホロしちゃっていいじゃない!   作:てんりょう

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※注意※

本話は多大な「ご都合主義」「独自解釈」「独自設定」が含まれます。

「イメージが違う」「口調がおかしい」等々感じられる方はブラウザバックをお薦めします。


第4話「白狐とご飯とトラウマと」

side : Fubuki Shirakami

 

今私は最強の敵を前にしている。

鈍い鉄色の粘体生物、鋼鉄の肉体をもつ銀色のドラゴン、両腕に剣と弓を持つ機械の戦士。

 

どれも今まで戦った全ての敵より強い。

 

粘体生物から繰り出される爆裂魔法で、機械戦士の持つ乱れ飛ぶ斬撃やドラゴンの突撃で、仲間たちも大きな痛手を受ける。

 

その攻撃の余波が私にも届くくらい激しいものだ。

 

炎による熱波や、斬撃や突撃での衝撃波が伝わってくる。

 

だけど、

 

(私の仲間たちは絶対負けない!!)

 

私の意思に呼応するように、まず4本の腕と脚をもつ獅子王がその剛腕を振るい四爪から無数の斬撃を放つ。

 

それはかなり高速で移動する粘体生物に直撃し、その肉体を四散させた。

 

続いて、多彩な魔法を持つ巨大な水風船の様な体を持つ相棒が傷ついた体を癒やす。

 

最後に8つの首を持つ龍が全ての口から燃え盛る炎を機械兵士とドラゴンへと吐き出した。

 

それは2体を打倒するまではいかなくとも多大な痛手を与えたようだ。

それぞれの体から火花が散り、明らかにその動きを阻害していた。

 

(今がチャンス!)

 

相手はもう満身創痍。そう判断した私は手を振りかざして仲間たちに再度攻撃を指示する。

 

獅子王の太く力強い腕から放たれる攻撃が機械戦士を捉えた。

 

鈍く重い音とともに機械兵士の体が歪む。

 

機械戦士は一瞬抵抗するかのように電子音を上げ、しかし抗しきれずに爆散する。

 

それを追うように八首龍がその首をしならせて、目にも留まらぬ突きを鋼のドラゴンへと放った。

 

疾っと風を切り、その肉体を1、2、3発と殴打する。

 

それらはドラゴンの肉体を大きく歪ませていく。

 

そして最後に8本全ての首による鞭打がドラゴンの首を捉えた。

 

火花とともに配線と装甲が千切れる音が響き、その頭を吹き飛ばして活動を停止させた。

 

同時に響き渡る歓声とファンファーレ。

 

それを聞きながら私は、こみ上げてくる感動のまま両手を振り上げた。

 

side : Fubuki Shirakami out

 

 

 

「ヤッター!!!!!」

 

リビングから白上さんの歓声が聞こえてきた。

 

その声の弾み具合から、どれ程嬉しかったのか伝わってくる。

 

こちらもちょうどできたことだし、休憩を促すついでに持っていくとしよう。

 

そう思い、ガスの火を止めて揚げていたそれを一旦クッキングペーパーの上で油を切ってから盛り付ける。

 

そして別の器に特性ソースを盛り付けると、トレイに載せてリビングへと入った。

 

「白上さん、そろそろ休憩したらどう? 料理もできたよ」

 

「あ、はーい」

 

未だ興奮冷めやらぬ様子で頭につけていた大型の機械を外している白上さんに声をかける。

 

彼女が手に持っているのはCAGCで作成された特殊なゲーム機だ。

 

製造元は通称【先取りしすぎる栄華無きゲームアカデミー】

 

データベースにあるのに限るがこのゲーム機にインストールすることで、ゲーム内を実体験として感じることができる。

 

もちろん、肉体に被害は及ばずあくまで体感できる画期的なゲームである。

 

今、白上さんが遊んでいたのは【竜王探索 魔物の主】という累計11作もの多数のシリーズを有する【竜王探索】シリーズの派生作品のひとつである。

 

従来とは違い、魔物たちを仲間にして配合して強化していくゲームだ。

 

昔やっていたことがあるらしく、懐かしみながらも楽しくプレイできているようだ。

 

「はい、ご依頼の唐揚げ」

 

「やった! 楽しみにしてたんですよね」

 

常備してあるウェットティッシュで手を拭いていた白上さんが満面の笑みで机の前に座る。

 

「しかし、突然来たと思ったら行き成り唐揚げ食べさせてくださいと言われるとは思わなかったよ」

 

「えへへ」

 

えへへじゃないんだけど。

 

ニッコリとした笑みで全力でごまかす白上さんに内心突っ込む。

 

しかし、その笑顔に思わず許してしまいそうになる自分も甘いなあと思ってしまう。

 

「でも良く僕が今日鶏肉買ったの知ってたね。じゃないと唐揚げ作れなかったし、面倒だから普通なら作らないんだけど」

 

本当は炒飯と鶏皮の炒め物でも作ろうかと思っていたのだが。ビールに合うし。

 

誰か献立を話した記憶はないのだけど、どうやって知ったのだろうか。

 

「あ、それならトウマ君がスマホで特売情報で鶏肉が安いことをチェックしてるのを見たんです。それで、頼んだら唐揚げ作ってくれないかなって」

 

僕の不注意が原因だった。昨日も遅くまで起きてたから注意力が落ちていたのか。

 

「前に皆で料理を持ち寄ったときのトウマ君の唐揚げ、おいしかったからまた食べたいって思ってたんですよね」

 

「ホントはミオも呼んだんですけど、今日バイトだって。だから私だけで来たんです」

 

……ま、しょうがない。また食べたいと思われたのなら本望だ。

 

冷蔵庫から以前飲み損ねたIPAビールを持ってくると白上さんの前に座り、手を合わせる。

 

白上さんもそれに倣うように手を合わせ、

 

「「いただきます」」

 

2人の声が合わさる。

 

なんとなく視線を白上さんの方に向けると、ちょうど顔を上げた白上さんと視線が合った。

 

「♪」

 

それになんだか気恥ずかしさを感じてさっと視線を逸らすと、ビールのプルタブを引くとグイっと一口あおった。

 

喉を通る炭酸の刺激と鼻を抜ける香りが心地よい。

 

そして揚げたての唐揚げに齧り付いた。

 

サクッとした触感とともに、鳥の脂が溶けて口の中に広がるのがわかる。下味にマスタードを付けているので、その辛さが食欲をそそる。

 

「ん~、やっぱりおいしい!!」

 

白上さんが満面の笑みで唐揚げに舌鼓を打ってくれている。よほどご満悦なのか豊かな尻尾が左右に激しく揺れていた。

 

それに満足感を感じつつ、ビールと唐揚げを交互に口にする。

 

ビールの苦みで脂を流し込むことで無限に唐揚げが食べられそうだ。

 

PLLLLLLLLLL………

 

1つ目の唐揚げを食べ終わり、2つ目に手を伸ばそうとしたときに僕のスマホの着信音が鳴った。

 

一旦ビールを机に置いて画面を確認すると、そこには【獅白ぼたん】の名前が表示されている。

 

「ごめん、ちょっと電話かかってきたから席外すね」

 

そう言って通話ボタンをタップし、耳に当てながら立ち上がり

キッチンの方へと向かう。

 

「あ、もしもしぼたんさん?」

 

「?!」

 

『トウマ先輩、こんばんは。今時間良いですか』

 

「ちょっと待ってて」

 

そのまま後手で扉を閉める。

 

「ごめんごめん、今ご飯食べてたから。もう大丈夫」

 

『あ、すみませんご飯中に。何食べてたんですか?』

 

「唐揚げ。久々に作ったからちょっと疲れたよ」

 

『いいですねー、前の唐揚げ美味しかったからまた食べたいです。……あれ?』

 

ぼたんさんの怪訝な声。

 

何か疑問に思うことがあったろうか?

 

『先輩、前に1人なら面倒だから作らないとか言ってませんでしたか?』

 

確かに。以前の持ち寄り食事会で行った覚えはある。

 

「ああ、今白上さんが来ててさ。リクエストされたからね」

 

『……へぇ、フブキ先輩が……』

 

何だろう。

 

ほんの少し、ぼたんさんの声のトーンが下がったような。

 

違和感を覚えたのも束の間、直ぐに電話越しの彼女の声は元に戻った。

 

『ま、いいです。それより、やっと名前ですんなり呼んでくれるようになってくれましたね』

 

「そりゃ、会う度に何度も復唱させられたらね」

 

『呼んでくれない先輩が悪いですね』

 

先週のぼたんさんとのトラブルの際、会うたびに名前呼びに訂正されていた。

 

半ば女性は苗字呼びが癖になっていたから、治すのに大変苦労したものだ。

 

しかも、名前で呼ばないと半目で黙って見つめてくるのだ。このプレッシャーと言ったら……。

 

『ところで先輩、今度バイクに乗っけてもらえませんか? 行きたいところがあるんです』

 

「別にいいけど、珍しいね。いつもなら面倒なんで近場で、とか通販で、とか言うのに」

 

『実は外縁部に新しいPCショップができたんですよ。PC1台新調したいなって』

 

ぼたんさんはPCを自作できる。本人は趣味と言っているが、その性能は店売りと遜色ないほど。

 

かく言う僕のPCも彼女の協力の下作成されたものだ。

 

「了解。いつ行く?」

 

『ありがとうございます! そうですね、明後日とかどうです? 午後からで』

 

ぱっと頭の中で予定を確認するが、用事らしいものは思いつかない。

 

「わかった。明後日の午後ね。集合は?」

 

『迎えに来てもらっても良いですか? 後で住所メールしますので』

 

「いや、男に軽々しく住所を教えるのはどうなの?」

 

『やだなー、相手は選んでますよ? 先輩なら悪用しないでしょ?』

 

そういわれると弱い。いや、悪用する気は全く無いけど。

 

僕なんかにかかる信頼が大きい気がする。

 

「……なら良いけど」

 

『やった! なら明後日お願いしますね! それじゃあまた』

 

おやすみなさいといってぼたんさんが通話を切った。

 

重責のような誇らしいような、なんとも言えない感情を胸に抱きつつスマホをポケットに入れ、リビングへと戻る。

 

「……どうしたの? 白上さん」

 

「むー」

 

何故かこっちを半目でじっと見つめてくる。さっきまで機嫌良く振られていた尻尾も耳の様にピンっと立っていた。

 

そんな彼女の視線に別に悪いことはしてないのだが、居心地の悪さを感じてしまう。

 

「名前」

 

「え?」

 

「ぼたんちゃんを名前で呼び始めたんですね。ちょっと前まで獅白さん呼びだったのに」

 

「え、ああ。先週ちょっとね」

 

詳細を話すのは流石に憚られるので、さらっと流す。

 

下手しなくても軽蔑じゃ済まない。最悪通報まであり得る。

 

「私の方が会うの早いのに、ぼたんちゃんの方が名前早く呼ぶんですね」

 

「……あー」

 

「私だけじゃなくてミオたちもですけど、名前で呼んでくれてもいいんじゃないですか?」

 

「……」

 

「それとも……ぼたんちゃんは良くて私が駄目な理由が、あったりするんですか?」

 

逡巡する間に白上さんの瞳が不安の色に染まっていく。

 

これはマズイ。別に白上さんに隔意があるわけではないのだから。

 

「えっと、その、別にそんなことは無くて……」

 

ヤバい。

 

頭の中を焦燥感と、一種の強迫感が支配していく。

 

言葉を口にしようとして、でも声にならずにただ開閉を繰り返すだけに終わってしまう。

 

そんな自分が嫌で、思わず手に力が入る。

 

「慌てなくて良いです」

 

いつの間にか隣に座っていた白上さんが、そっと両手で包み込んでくれた。

 

「ゆっくりで良いです。私は、それがどんなことでもちゃんと聞きますから」

 

白上さんの優しい声が、焦燥感と強迫感を溶かしていく。

 

「……昔のことなんだけど、僕は今よりずっと根暗で大人しくてさ、友達もほとんどいなくて基本1人で本ばっかり読んでる子供だったんだ」

 

まあ、今も明るいわけじゃないけど白上さんたちのおかけで大分改善した……と思いたい。

 

「先生の言いつけも守る、所謂いい子ちゃんって感じでさ。別にそれを不満に思ったこともなくて、普通に他のクラスメートとも交流もしてたんだ。ただそれが最低限だったというだけで」

 

「うん、それはなんとなく想像できますね」

 

「だけど、それがきっと駄目だったんだろうね」

 

その時のことを思い出すと、今でも体に緊張が走る。

 

それを感じ取ったのか、包み込む白上さんの手からの圧が上がる。

 

「まあ、良くある告白ゲームだったんだ」

 

机の中に手紙が仕込んであって、ノコノコ行ったらゲームでしたー、ざんねーん、みたいなやつで。

 

「相手にしたら良い子ちゃんをちょっといじってやろう、的な感じだったんだろうね」

 

それは、よくあるコミュニケーションだったんだろう。

 

友人たちの中で、特に目立ちもしないものにちょっかいをかける。

 

そして、一種の上下関係を形成する。自分が、自分の仲間たちが上に行くように。

 

「でも、僕にとってそれは……とてもつらいことで」

 

思わず怒ったのを覚えている。

 

「そこからはホント、エグかった。誰も彼もから無視されてさ。先生にも味方してもらえなくて」

 

【空気の読めないやつ】認定をされた。

 

それなりに仲の良かった友達からも距離を取られて。

 

「別に、死んじゃいたいとかそんなことは思わなかったけど、ただ疎外感が強かった」

 

まあ、そこから抜け出したくて勉強と当たり障りのない処世術を身に着けた。

 

自分の身を、立場を守るには所謂【空気を読める】ことが必要と学んだ。

 

同時に一線を引いておけば、

 

「何かあっても、辛さを感じにくくなる。だから誰かを、いわゆる自分の縄張りに入れないようにしてきたんだ」

 

実際、それは上手く行った。

 

少なくともこの時のようなトラブルに巻き込まれることは無くなった。

 

「でも、それが当たり前になり過ぎてさ。みんなとの、なんていうか、距離感の取り方がわからなくてさ」

 

折角今が心地良いのに、壊れるのが、自分の言動で壊してしまうのが、凄く怖い。

 

今まで話したことがなかった自分の過去。

 

思わず口から溜息が溢れた。それほどに疲れていた。

 

「そうだったんですね」

 

白上さんが、ずっと握ってくれていた手をそっと離した。

 

それに、一抹の寂しさを覚えて……、

 

「えっ?!」

 

グイッと突然頭を引っ張られた。突然のことにバランスが崩れ彼女にされるがままに腕の中に抱え込まれる。

 

顔全体に広がる柔らかい感触。そのことが導き出す事実に一気に顔が熱くなるのがわかった。

 

「ちょっ?! 白上さ……」

 

「私、ちょっと怒ってます」

 

慌てて離れようとすると、より強い力で抱え込まれて身動きが取れない。

 

というより、余り感じることのない白上さんの怒気に、身動きを止めた。

 

「私が、私たちがそんな薄情なヒトたちと同じ扱いにされてたことに」

 

「いや、そんなことは……!?」

 

「うん、わかってますよ?」

 

目線だけ上に上げると、白上さんが優しい瞳で見下ろしていた。

 

「きっと私たちとの関係を大事にしてくれてるんですよね。でも……」

 

頭を抱えられた腕の力が緩み、代わりに頭を掴まれて固定される。

 

同時に白上さんの額が僕の額にくっつけられた。

 

数cm先まで近づいた青い瞳の中に、自分の瞳が映るのがわかる。

 

「私たちがもしそんな人たちだったら、きっとこんな風に遊んだり、ご飯をもらいにきたり、ぺこらちゃんみたいにイタズラしたりしないと思います」

 

「だから、トウマ君ももっと私たちとの距離を詰めてくれて良いんです。皆も、そして私も、そんなことでトウマ君を嫌ったり距離を取ったりしません」

 

彼女の澄んだ青い瞳と真摯な言葉が、額から伝わる温かい体温と共に染み渡ってくる。

 

「……ありがとう、ふ、フブキ…さん」

 

「っ……!? うん、どういたしまして!!」

 

たどたどしくもフブキさんを名前で呼ぶと、満面の笑顔が返ってきた。

 

「あっ、さ、さぁ、ご飯食べましょ!? 冷めちゃいますよ!」

 

フブキさんが急にアワアワしながら、でも隣に座ったまま唐揚げに向かう。その横顔は真っ赤になってその白い髪と合わせてショートケーキみたいだ。

 

とはいっても、僕の顔もきっとトマトのように真っ赤になってることだろう。

 

「トウマ君、ちょっとずつで良いんです。きっと皆も待ってると思いますよ」

 

勿論、私もですと続く彼女の顔は真っ赤ではあったけど。

 

いつもより輝いて見えるその笑顔に、もう少し皆との接し方を変えてみよう、そう思った。

 

 

 

 

 

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