本話は多大な「ご都合主義」「独自解釈」「独自設定」が含まれます。
「イメージが違う」「口調がおかしい」等々感じられる方はブラウザバックをお薦めします。
当初予定より文字数が増える気配がしたので一旦分割投稿します。
暗く視界の悪い室内を歩いていく。周囲には荷物が散乱して、通常人が暮らしているようには見えない。
そこを懐中電灯の頼りない灯りのみで少しずつ進む。
時にはぬいぐるみを動かしたり、チラシをひっくり返して見たりして脱出のための手掛かりを探していく。
kkkkkkkkk……
「っ?!」
何処からともかく聞こえてきた甲高い笑い声に思わず息を呑み、慌てて周囲を見回す。
何処だ。
何処にいる。
焦って探すも姿が見えない。
このままだと不味い。必死に声の主を探し、
GAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!
「「「「ぎゃああああああ?!?!?!?!」」」」
「うぅ、もぅいゃあ……」
「なんでぇ……なんでウチがこんなことしなきゃいけないのぉ……」
「おぉ、流石にびっくりするね」
「そんなんで済ませるの、ある意味凄いよ」
今、僕達がやっていたのは【道化師の悪夢の夜】
とあるツテでテストを依頼された試作型VRゲーム機【天球器】。これにセットされていたVRホラーだ。
元々はVRゴーグルをつけて遊ぶものだが、このゲーム機を使うことで、部屋にゲーム画面を投影できるようになった。
操作はコントローラーでやるが、操作により視点が動くようになるため狭い室内でもVRプレイができるようになる画期的なものである。
ただ、何故4人でホラーゲームをやっているのか、これは少し前に遡る。
フブキさんに自分の過去を吐き出してから2日後。
「トウマ君、フブキに料理を作って上げたって聞いたんだけど!」
いかにも私怒ってます的な表情で大神さんが詰め寄ってきた。
「え、ああ。3日前やってきてなし崩しに……」
「フブキだけズルイ!! ウチもトウマ君の料理食べたい!!」
食い気味に被せられた。あの穏やかな大神さんにしては珍しい。
しかし、作る立場としたら食べたいと要望されるのは素直に嬉しい。
加えて、あの夜に思い立った通りいい機会かもしれない。
「なら、今晩何か作ろうか?」
「ホント!?」
「うん、今日はバイトも無いから予定は空いてる……」
「行く行く!! あー、何作ってもらおうかなぁ」
目をキラキラさせて喜んでいる大神さん。あーでもないこーでもないと料理を呟き始めた。
フサフサの尻尾がフリフリと機嫌良く揺れている。
「あ、その、大神さん、僕からも……良い…かな?」
「やっぱり唐揚げ、いやいやハンバーグとかも……ん? 何? どうかした?」
食べたいものを考えるのに集中していた大神さんが不思議そうに顔を上げた。
「その、良かったらで……良いんだけど」
緊張で喉が渇いてきた。余り他人、それも女性に事務的なこと以外で自分からお願いをするのは怖い。
図々しくはないだろうか、嫌われないだろうか、そんなネガティブな事ばかり頭を過ぎる。
「僕も大神さんの手料理が……食べたいかなって」
「えっ……?」
大神さんの表情がぽかんとしたものとなった。鳩が豆鉄砲を食ったようとはこういうものを指すんだろうなと他人事のように思う。
「いや、めいわ……」
「そんなことないよ!」
「う、うん」
鼻先まで大神さんが近づいてきた。
その勢いに思わず仰け反る。
「あ、ごめん。でも、全然迷惑じゃないよ。ウチたち色々迷惑掛けてきたから、ウチの料理を食べたいって言って貰えて嬉しいな」
自分が思った以上に近寄り過ぎていたことに気付き顔を赤らめながら一歩離れるも、彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
その反応に、少なくとも嫌われて、疎まれてはいないことを察する。
それに少しホッとする。
「僕はもう今日は講義がないから、特に何も無いならこれから一緒に買い物でも行く?」
「ウチも今日はもう終わりだから、そうしようか。……そうだ、せっかくだし一緒に作らない?」
「よし、なら行こうか」
大神さんの言葉に合わせて鞄を肩に担ぐと、示し合わせたように大神さんと歩を合わせてCAを後にした。
それから2人で近くのスーパーへと向かう。
ここは結構品揃えが良く値段も手頃なので良く利用している。
そこで何を作るのか相談しながら買い出しを行った。
当初の目的がどこかに行った気がしないでもないが、2人で色々相談しながら買い物するのは楽しい。
といっても僕の家のキッチンは所詮1人用なのであまりちゃんと作れないので、シチューを作ることに決める。
買い出し済ませたら料理を始めるのにちょうど良い時間になったので、そのまま家に向かう。
帰り道も大神さんの表情からは終始笑顔が溢れていて。
ちょっと勇気を出して良かったと思う。
家に着いたらまずは調理の準備。
こっちがエプロンの準備をする間に大神さんは艷やかな黒髪をポニーテールに纏め上げていた。
顕になったうなじに思わず目が惹き付けられるが、鋼の理性で引き剥がす。こっちを信頼してくれている大神さんを裏切る行為はできない。
兎にも角にも準備を済ませ、調理を開始する。
流石は大神さん。何度か料理を持ってきてわかってはいたが手際が良い。
肩が触れ合いそうなほど狭いキッチンなのだが、それを感じないくらいテンポ良く進む。
まあ、偶に勢いよく振られる尻尾が当たるのはご愛嬌か。
そして、あっという間に後は煮込むだけとなり、一旦リビングへと戻る。
ついでに冷蔵庫からお茶とコップを2人分用意。
「いやー、あっという間にできたね」
「そうだねー。ウチだけだとこんなに早くはできなかったかも。トウマ君、やっぱり料理に慣れてるね」
「いやいや、大神さんの手際が良かったからだよ」
「いやいやいや、トウマ君も凄いよ。あの冷凍肉団子自作だよね? あれすっごく気になってるんだ」
「いやいやいやいや、シチューの隠し味にバターを入れるとか知らなかったし。あれでグッと美味しくなったよ」
2人して互いのことを一頻り褒め合う。
多分、これは切りがないな。
大神さんも同じことを思ったのだろう。どちらからともなく沈黙した。
でもそれは決して不快でも、苦痛を伴うものではなくて。
「……くすっ。なら2人の成果だね」
「……そうだね」
可笑しくてクスクス笑い合っていると、鍋がコトコトと音を立てたのが聞こえてきた。
そろそろ出来たようだ。
取りに行こうと腰を上げて、
「いいよ、ウチが取りに行くから」
肩に大神さんの手が置かれて動きを制される。
そのまま彼女がキッチンへと向かい、直ぐにシチューの入った鍋を持ってきてくれた。
誰かに料理を持ってきてもらうとかいつぶりだろうか。
ここで遊ぶときはいつも配膳してた気がする。まあ、ホストが客を饗すのは当然といえば当然だが。
大神さんが蓋を開けると、途端に部屋中にシチューのいい香りが広がっていく。
一気に空腹感が押し寄せてきた。
すぐにでも食べたい気持ちを抑えて、大神さんがよそってくれた皿を受け取る。
このことになんとも言えないむず痒さを感じる。
大神さんはかなりの美人だ。普通僕みたいなのに縁がある人じゃない。
そんな人と一緒に料理作って、こうやって手渡して貰えるのは非常に嬉しい。
大神さんが自分の分を用意したことを確認してから手を合わせる。
見ると大神さんも自然と手を合わせてくれた。
「「いただきます」」
唱和し、食べ始める。
一口頬張ったときに広がるシチューの香りが素晴らしい。
自分ではシチューは面倒で作らない。偶にファミレスとかで頼むくらい。
「あ、やっぱりこの肉団子美味しい! 流石はトウマ君、これ美味しいよ!」
「それは良かった。一応配合からこだわって作ったものだから、口にあって良かったよ」
2人で料理の感想を口にしながら、和気あいあいと食事した。
1人の時とは違う、楽しい食事の時間にいつもより食欲が増したのかあっという間に鍋のシチューが空っぽになった。
「「ごちそうさまでした」」
2人でまた手を合わせると、大神さんがさっと立ち上がろうとする。
「あ、いいよ大神さん。片付けは僕がやるよ」
「あ、ならお願いしようかな」
それを手で制して、鍋と食器をさっと集めると流しへと持っていく。
キッチンペーパーで軽く汚れを拭き取ってから、スポンジを泡だててさっと洗い、流し台に崩れないように置く。
そして人数分のコップとお茶を冷蔵庫から取り出して戻る。
「♪」
ニコニコしながら大神さんがスマホをタップしていた。
心なしか、いつもよりご機嫌に見えるのは気のせいだろうか。
「はい、大神さんの分」
「あ、ありがとう。……お酒じゃなくていいの?」
手に持つお茶に真っ先に疑問の声を上げる大神さん。
僕がお酒を持ってないのがそんなに不思議だろうか。確かにうちに皆が遊びに来ているときはよく飲んではいるけど。
「いくら僕でもいつも飲んでるわけじゃないよ? 特に今日は飲むわけにはいかないし」
「え、なんで?」
「だって、大神さんを送っていかないといけないでしょ?」
「でも、ウチ一人でも帰れるよ?」
多分大神さんは気を遣ってくれているのだろう。
このあたりの気遣いは彼女ならではだねと感じつつ、
「いやいや、女の子を夜道に1人で帰らせるわけにいかないし」
いくらなんでもそんなことはできない。まして、男の部屋に泊めるわけにもいかない。
「あ……ありがとう」
こっちの意図に気づいたのか、少し顔を赤らめる大神さん。
……タイミングは今だろうか。
意を決して居住まいを正す。
「あの、大神さん」
「何? 急に改まっちゃって」
「その、お願いというか、なんというか……」
緊張で舌が上手く回らない。
落ち着け、落ち着けと何度も頭の中で呟く。
不思議そうにこちらを見つめる大神さんの顔。それを真っ直ぐ見つめる。
「大神さんのこと、……ミオさんって、呼んで、いいかな?」
「……え」
目を見開き、耳をピンと立てて驚きの表情を浮かべる大神さん。
「いや、その……もう何度も一緒に遊んでるし、一緒にご飯食べたりもしてて、もっと仲良くなっていきたいって思って、それでいつまでも名字呼びは他人行儀かなって……」
頬を書きながら、ぽつぽつと語る。
「何小学生みたいなこと言ってるみたいな感じだけど、これはきちんと言葉にしないと、と思ったんだ」
自分で言っててとても恥ずかしい。
呆れられていないだろうか、彼女の表情をチラリと見てみる。
「…………!!」
それを見て、今度は僕が目を開く番だった。
大神さんの表情にあるのは侮蔑や嫌悪ではなく、何とも形容しがたいものだった。
その頬はまるでトマトのように赤く染まり、瞳は限界まで見開いている。
かと言って口元はプルプルと震えており、なんとなく口を開こうとしているのを我慢しているようにも見えた。
耳もピンっと立っており、尻尾は痛いほどブンブンと揺れていた。
「え……と……だ、大丈夫?」
「あ、うん。ウチは平気」
艷やかなその黒髪が思いっきり広がるほど首がブンブンと振られた。
理由はともかくものすごく動揺してるのは見て取れた。
「うん。ウチは大丈夫。ミオって呼んで?」
「あ、ありがとう」
口元を震わせながらも、ミオさんは笑顔で肯いてくれた。
しかし、彼女がすぐに顔を伏せる。
「実はね、ウチ、トウマ君に謝ろうと思ってたんだ」
「えっ……?」
その表情は長い髪に隠れて見えない。
「この前PEACH TRAINSやった時もそうだったけど、トウマ君私たちと一緒に遊んでるときにさ、どこか線を引いてるよね? 必要以上に親しくならないようにって感じで」
さっきまでの明るい声とは違う、固く平坦な声。
「ころねとかおかゆとかぺこらが君に戯れてるのを見てそれに気付いてさ、でも君が色々気遣ってくれてるからついそれに甘えちゃって」
極力感情を出さないよう意図的に抑えたミオさんの声音。
「もしかしてウチたちのせいで無理させてたのかなって思ってて」
「……」
「だから、今日はちゃんと謝ろう、そして迷惑かけないようにしようって、そう思ってたの」
元気よく振られていた尻尾も今は力なく垂れ下がり、床に伸びていた。
「でも、今トウマ君に名前で呼びたい、もっと仲良くしたいって言ってもらえてとても嬉しくて……でもトウマ君に迷惑かけてたかもしれないのに喜んだ自分が嫌で……!」
俯いているミオさんの声がだんだん震えはじめた。
膝にある彼女の両手が固く握りしめられていく。
「っ……!!」
過去のトラウマが頭を過る。体全体に緊張と硬直が走り、
(きっと皆も待ってると思いますよ)
フブキさんの言葉が脳裏を過ぎった。
そうだ。一歩踏み出すと決めたのは自分だ。
自分で決めたのなら、迷わず進む。
そっとミオさんの隣に座ると、可能な限り優しくその手に触れた。その固く握った手を解きほぐすように。
「え……?」
僕の意外な行動にミオさんが顔を上げてこちらを見る。
その瞳には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていて、キラキラと輝いているように見えた。
「ミオさん」
勝手にミオさんの手を握るという、今までの自分なら絶対にしない行為に否応なく緊張が高まる。
「もう一度いうよ。僕はミオさんと、皆と、もっと仲良くなりたい」
彼女が、はっと息をのむのがわかった。
「確かにミオさんの言う通り、僕は皆と意図的に一線引いてきた」
「だけど、それは皆と一緒にいるのが嫌だったわけじゃない。僕が勝手に怯えて、皆の手を取らなかっただけで……」
ゆっくり、僕の気持ちが本当だと彼女に伝わるように。
「ミオさんも僕と仲良くなりたいと思ってもらえて嬉しかった。だから、これからと僕と仲良くしてください」
「…………!?!?」
彼女の双眸が大きく見開かれ、可愛らしい頬が朱に染まっていく。
ポロリと限界まで溜まっていた涙が一筋、その頬を滑り落ちていった。
だが、それは決して悲しみによるものでなく……
「……うん、これからもよろしくね、トウマ君!」
次に浮かんできたミオさんの満開の笑顔に、自分の決断は誤りでなかったと、そう思えた。
「……と、ところでトウマ君? そろそろ手を離してもらえると……ウチ、ちょっと恥ずかしい、かな」
「ん?…………あ、ご、ごめん?!」
急に視線を彷徨わせたミオさんの言葉に、ずっと手を握ったままだったことに気付き、慌てて手を離す。
ミオさんは再び顔を伏せて僕が握っていた手を胸元に寄せる。
その両耳はピンっと立ち上がっている。
言いようのない沈黙が支配する。
決して不快ではないが、何をしていいかわからないようもどかしい感覚。
それに焦りを募らせていると、
「ねぇ、トウマ君……」
伏せていた顔を上げ、若干見上げるようにこちらを見つめるミオさん。
さっきよりも顔は赤く染まり、双眸が潤んでいる。
その言葉には言外の思いが込められているのか、囁くようなものであったにも関わらず、はっきり熱を持っているように届いた。
すっと、ミオさんが少しだけこちらへと体を寄せてくる。
それに誘われるように、僕の体も僅かに距離を詰めた。
彼女の切なげな瞳と視線が交差する。
そして……
DING-DONG!!
「「っ……?!?!?!」」
突然なったインターフォンの音に、2人同時に飛ぶように離れた。
「あ、えと、来客みたいだから、ちょっと行ってくるね!」
「う、うん! いってらっしゃい!」
まるで壊れたロボットのようにギクシャクしながら、僕は玄関へと向かう。
そのまま解錠してドアを開けると、
「「こんばんは~、遊びに来たよ!」」
そこに立っていたのは、戌神ころねさんと猫又おかゆさんの仲良しコンビ。
一抱えもあるダンボールを1つずつ持った2人が、満面の笑みで立っていた。
当時のことを、ミオさんは悲痛な表情でこう振り返る。
「トウマ君とちゃんと話せたのは良かったし、ころねやおかゆとも遊べたのは楽しかったよ」
「でも、あのゲームは二度とやらない。少なくともホラゲなら絶対にしない」
to be continue……