本話は多大な「ご都合主義」「独自解釈」「独自設定」が含まれます。
「イメージが違う」「口調がおかしい」等々感じられる方はブラウザバックをお薦めします。
「トウマ君。ころさん、ミオちゃんと名前で呼んだんだから、僕のことも名前で呼べるよね?」
黙ってこちらの状況を伺っていた猫又さんが、ころねさんの後ろから顔を出してきた。
「え、あ、まあ、うん……」
「じゃあ、呼んでみようかー」
「……お、おかゆ、さん?」
「良くできましたー、パチパチ」
いつものように、どこかフワフワとした笑みを浮かべながら手を叩く彼女の姿にどこかホッとする。
「じゃあ、準備も済んだことだし、早速始めよっか」
「そだねー、早くやらないと遅くなっちゃうし」
「まあ、そうだね。あまりトウマ君の部屋にお邪魔し過ぎると悪いし」
「そうだね、始めよっか」
とりあえず部屋の真ん中に腰を下ろした。ゲーム説明を聞く限り、視界が広いほうが良さそうだし。
すると右隣にミオさんが、左にころねさん、おかゆさんが背後に座る。
「あの、3人とも……」
「何?」
「どしたのー?」
「早く始めなよー」
「何か近くない?」
ミオさんの尻尾がふさっふさっと右腕にあたり、左肩にはころねさんのおさげが触れ、背中におかゆさんが腕を組んで乗ってきている。
右腕と左肩は少しこそばゆいし、背中はおも……
「トウマ君、なにか失礼なこと考えなかったかなー?」
「……いいえ? 何も考えてないよ?」
……いなんてことはない。決しておかゆさんの圧に負けた訳じゃなく。
内心、誰とはなしに言い訳しつつ。
気を取り直して、スタートボタンを押した。
『それではゲームを開始しますが、皆様へ最初のテストプレイヤーの方から伝言がありますので再生いたします』
「伝言?」
『ぺーこぺこぺこぺこ!』
ゲームの開始では早々耳にすることのない単語に違和感を覚えると同時に、聞き覚えのある笑い声が響いた。
なんでここで兎田さんの笑い声を聞くことになるのか。
なんとも嫌な予感がする。
『憐れな挑戦者たちよ! このゲームはそら先輩監修の元作成されたVRホラーぺこ!』
「「……え”」」
ピシリと、両隣が石になった音が聞こえた気がした。
『しかも! これはクリアするか50回ゲームオーバーにならないと終了できない仕様ペコ! 強制終了すらできないから諦めるペコ!』
「わー無駄に高性能……」
「まじかよ……」
『加えて加えて! 簡単なところで50回ゲームオーバーになろうとすると勝手にゲームが進行し、強制ホラー体験するようになってるペコ!…………マジで勝手に進むペコよ』
録音の兎田さんの声が後半震えていた。ということは強制進行でえらい目にあったのか。不憫な。
『さあ、めくるめく悪夢の世界に行ってくるペコ!……ホント、頑張るペコ。気をしっかり持つペコよ!』
『伝言は以上です。それではゲームをお楽しみください』
「「「「……」」」」
最後にガチのエールを残して伝言は終わった。
それと同時に周囲の景色が薄暗い部屋へと変化する。
だが、そんなことより気になる点があった。
「「ほらー……げーむ」」
「この反応見る限り、おかゆさんたちは内容知らなかったの?」
「そうだね、私達もロボ子先輩に渡されただけだったし、内容の説明までは聞いてなかったなー」
完全に固まっている2人を余所に余裕の見えるおかゆさん。
とりあえず、勝手に流れていく視界を眺める。
どうやらぱっと見は普通の一般家屋のようだ。モデルハウスやショールームのCMでみるような雰囲気の部屋に生活感が足されたような感じた。
ただ、全体的に暗い。光源が足りないのか、それとも光量が少ないのか。
すごいところは僕が首を動かすとほんとに視界が動くところだ。
多分、こうやってヒントを探していくのだろう。
そうこうしているうちに、書斎の机の前で止まった。
目の前には日に焼けて色褪せた表紙のハードカバーの本や写真、視界には机の引き出しが見えたことからその辺りを調査するのだろう。
試しに本に向けて手を伸ばしてみると、どんな技術を使っているのか手元に本の映像が浮かび上がった。
それに感心しつつ本を開く仕草をすると、実際に映像も開かれていく。
そのとき……、
kkkkkkkkkkk
「な、何?」
どこから兎も角小さくても耳障りな甲高い声が聞こえてきた。
突然のそれにミオさんが辺りを見渡す。
それが段々大きくなってきて……
「GaAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
「「キャアー!!!!!」」
「おぉっ?!」
叫び声とともに目の前に目が血走り恐ろしい形相をしたピエロが飛び出してくる。
それに絹を裂くような悲鳴を上げるミオさん、ころねさん。
「……っ?!?!」
それと同時に左右の腕に強い衝撃を感じて、声なき悲鳴を上げることとなる。
ミオさんところねさんが同時に腕に抱きついてきたことが要因だ。
それは腕に直に触れる柔らかい2つの膨らみの感触が得も言われぬものであったこともあるのだが……
(い、痛い……!!)
最大の要因は2人の腕に抱き着く、いやしがみつく力が非常に強かったことだろう。
引き裂かれる、とまではいかないが割と洒落になってない強さで掴まれると結構痛い。
だが男として叫ぶわけにもいかないため、上がりそうになる悲鳴をぐっと飲み込んだ。
対して背中にいるおかゆさんは、驚きの声は上げるものの思ったより動揺した様子も感じられなかった。
このあたりは流石おかゆさんというべきか。
兎にも角にも、早くゲームをクリアしないとそれこそ腕が故障しそうである。
目の前には点滅しているContinueボタンと、消灯しているEndボタン。
念の為Endボタンを選ぼうとするがやはり選べない。
諦めてContinueボタンを押し、ゲームを継続する。
幸いというか、今の地点からの再開のようだ。
努めて腕の痛みと柔らかさを無視しながら、周りの音に注意を払う。
kkkkk……
さっき聞こえたのと同じ音が聞こえたので、素早くその方へと顔を向けた。
そこにあったのは、突然現れたピエロを小さくしたような人形。
ただ、その顔はこちらへまっすぐ向いていて不自然さがあった。
暫くその人形から視線を離さないでいると、
「……(・д・)チッ」
「「ひっ?!」」
ピエロの表情が急に憮然としたものに変わったかと思うと、パッと視界から消え失せた。
直感だが、このピエロの驚異は一旦過ぎ去ったと感じ、手元にある本をチェックする。
だが、特に情報もなかったが中にメモ用紙が入っていた。
〈Look to the right〉
そこに書いてあるのは〈右を見ろ〉
その指示に従って特に気負わずに右を向く。
ミオさんもころねさんも、僕の動きに合わせて右を見た。
「…………oa」
そこにいたのは、青白い肌にボロボロの衣服を身に纏い悪鬼のような形相でこちらを睨みつける女性の姿。
それは既に右手に持つ赤黒く染まったナイフを振りかぶっており、
「「ひぅ?!」」
「kyaAAAAAAA!!!!!!」
耳をつんざくような絶叫と共に真っ直ぐに振り下ろされる。
同時に鮮血が飛び散る描写が広がり、さっき見たばかりのContinueの文字が浮かび上がった。
「これは……」
「ひょっとしなくてもキツイゲームだね……」
余りに初見殺しすぎる襲撃に言葉が出てこなかった。
おかゆさんの声にも緊張の色が混じる。
正直、最初は然程問題なくクリアできると思っていたのだが。
思わず背筋に冷たいものが走る。
左右の二人は……
「「アワワワワワワ……」」
完全に使い物にならなくなっている。
目には大粒の涙が零れそうなほど溢れ、体はガタガタ震えながら力一杯僕に抱きついている。
もう柔らかいじゃない。痛いしかない。爪が立つほど握りしめないでほしいが、この震え具合を見るとそうも言えないし。
兎に角、一刻も早くクリアしないと。
そう決意してプレイに集中するのだが……
「ひぃい?! 今度は見なかったのに何でぇ?!?!」
「うぎゃあ!! 来るなくるなクルナーーー?!」
「やめてやめて助けてぇ!!」
「いやぁあぁあぁ?????!!!!!」
王道、定石外し、変化球と様々なパターンで襲いかかる攻勢に尽く引っ掛かってしまい、結局50回という残機を使い切る形でゲームを終了するのだった。
「「……」」
当然50回という恐怖体験にミオさんところねさんはSAN値直葬されてしまい、真っ白に燃え尽きてしまったことは言うまでもない。
ゲームが終了し、見慣れた自室の風景となり燃え尽きていた2人も何とか持ち直した。
今は2人とも落ち着いた様子でココアを飲んでいた。
いや、若干目が死んでるようにも見えるが……。
とにかく時刻も23時とかなり遅くなっている。
「じゃあ、今日はお開きにしようか。みんな、帰る準備大丈夫?」
「「「え?」」」
「……え?」
3人が不思議そうな顔でこっちを見た。
嫌な予感がする。
「えっと、3人とももう帰るんだよね?」
「「嫌!!!!」」
「だって」
さっきまでニコニコ笑っていたミオさんところねさんが同時に真顔になった。
それを他人事のように眺めるおかゆさん。
「いやいや、寝落ちしたときならともかく、起きてるならちゃんと家に帰ったほうが……」
「「ヤダ!!!!!!!!」」
さっきより強い拒否反応。
ミオさんは涙目で睨んでくるし、ころねさんに至ってはベッドに縋り付くように掴まっている。
「いや、一応僕も男だからこんな時にその部屋にいるのは……」
「? トウマ君、変なことしないでしょ?」
「ミオしゃの言うとおり。そもそもトーマ君にそんな度胸あるなら今までになんか起きてるよねぇ」
「そうそう。名前すら呼べないヘタレ君だしねぇ」
「ん、ぐ、むぅ」
1男としてヘタレ呼ばわりは御免被りたいが、それはそれで問題ある気もして思わず唸るしかなかった。
「……ふぅ、わかった。なら3人はリビングを使って。僕はキッチンで寝るから」
「えぇ!? それはだめだよ。トウマ君も一緒に寝ようよ」
「そうそう」
「駄目です。こればかりは譲れません」
「ころさん、ミオちゃん。ここが落としどころじゃない? じゃないと強制的に家に送られちゃうよ?」
おかゆさんの言葉に頷いて肯定する。
「……わかった。ころね、一緒に寝ようね!」
「そだね! 一緒に寝よね! おかゆもだよ!」
「わかったー」
よっぽど怖かったのか。2人は互いの両手を掴み、まるで死地に赴くような表情をしていた。
その中で平常運転のおかゆさんに感嘆しつつ、とりあえず寝る準備を進める。
とりあえず季節柄風邪を引くことはないだろうけど、寝るのには辛いだろうから予備のマットレスを取り出す。
その間に3人が机などを片付けてくれていて、寝るスペースは確保できた。
そこにマットレスとあとタオルケットをとりあえず巻いて寝るのは何とかなりそうだ。
とりあえず自分はジャケットを手に取ってキッチンへと向かう。
「それじゃあ、電気とかエアコンは気にしなくていいから。眠くなったら寝たらいいから」
「トーマ君はどうするの?」
「僕? これを敷いて寝るよ?」
「え、それじゃあ寝れないでしょう? 私たちは気にしないから一緒に寝ようよ」
ミオさんの心配そうな声。まあ、確かにこれで硬い床の上で寝るのはキツイのはその通り。
だけど、予備ももうないからしょうがない。
「いやいやミオさん。男は狼だから。そんなこと言ってると……」
「大丈夫」
ミオさんの反応に思わず振り返ると、3人がまっすぐこちらを見つめていた。
そこには何かを我慢する色も何も見えない。
「私はトウマ君を信じてるよ?」
……そんな風に無垢な信頼を向けられると、なんというかこそばゆい。
全く気負った風のない彼女に、一瞬自分が間違ってるのかと思ってしまう。
「トーマ君、忘れてない? ころね達は皆獣人だよ? しかも肉食系」
「ん? それが?」
「どっちかといえば、ころね達に襲われる心配した方が良くない?」
「いやいやいやいや」
ころねさんがニヤリと笑いながら、笑えないことを口にした。
いやいや、洒落になってない。
「そうだね。トウマ君もちょっと無防備すぎるよねぇ」
おかゆさんもチラリと犬歯をこちらへ見せながら、目を細めた。
その視線が艷やかで思わずぞくりとしてしまう。
「も、もう。2人とも何言ってるの?! トウマ君、違うからね! そんなことしないからね!!」
ミオさんが顔を真っ赤にしてアワアワしている。
その様子に思わず和んだ。
「大丈夫だよ、ミオさん。そんなことないのは知ってるから」
「なら大丈夫だよね?」
「えっ?」
いつの間にかおかゆさんが音もなく側まで近寄っていた。
上目遣いに、すみれ色の瞳がこちらを見つめている。
「トウマ君が僕達を信頼してくれてるように、僕達も君の事を信じてるんだよ? だから、寝るならちゃんとしたところで寝よ?」
どこか掴みどころのないおかゆさんの真剣な瞳。
ミオさんところねさんの真っ直ぐな視線。
「……ふぅ、わかった。わかりました。降参です」
その視線に両手をあげて降参した。
「ふふっ」
「「イエ~イ」」
ハイタッチする2人を尻目にジャケットをクローゼットへ収納した。
そのとき
「……でも、僕は別に襲われても平気だよ? 寧ろ襲っちゃうかも……なんてね」
後ろからすぅっと更に近寄ったかと思うと背中から抱きつかれ、そのまま耳をカプッと噛まれた。
軽い痛みを覚えるくらいだから、声を上げるほどではなかった。
それよりも抱きつかれたときに感じた、柔らかい感触に意識が持っていかれていた。
ほんの一瞬であり、他の2人には気付かれてはいない。
いつの間にか半歩離れたところにいたおかゆさんの方へ思わず振り向いた。
そこにいたのはこちらの反応を愉しむように目を細め、少し頬を赤らめる彼女。
ウインクしながら、その艷やかな唇に白い指を添えていた。
絵になるその仕草に、思わずドキッとしてしまった。
多分こうやっておかゆさんにからかわれていくんだろうなと思いつつ、それも悪くないと思ってしまう自分がいた。