それを形にしたもの
さっそくですが。
作品のタイトルを見て想像した話と、実際に見て知った話が全然違ったなんてことは、よくある話ですよね。
今回みなさんに読んでいただくお話もその例に漏れず、タイトルを誤認してしまった筆者が、じゃあその間違ったストーリーを書いてみようと思い、産まれたお話です。
みなさんの良い暇つぶしとなれば幸いです。
また、これは筆者の処女作兼試作品なのでアドバイスは大歓迎です。ドシドシお寄せください。
※なお筆者は原作を全く読んでおりません。悪しからず。
[1]
舞台は近未来。
革新的なAR技術の普及により世界はその様相を大きく変貌させていた。
今まで漫画やゲームの中だけだった物が次々と現実にその姿を現し、人々の生活に浸透していったのだ。
そしてこの物語は、AR開発の日本におけるパイオニア、無川グループAR技術開発部門「リアルファンタジー」が経営するAR技術の先進学校、無川高校のほんの些細な日常を描いた物語である。
無川高校3階。
昼下がりの付属図書棟。一般書架。
「ちょいとお嬢さん、まさかその本を貸りようってんじゃあないだろうねぇ?」
「もし、そうだとしたら?」
ちょうど本棚から一冊のハードカバーを取り出した金髪の少女に、背後から黒髪の少女が声をかけた。
「それはちょいと困るなぁ。あたしもちょーどその本を貸りようと思ってた所なんですがねぇー」
にへら笑いを浮かべる黒髪。
「……姐さん」
金髪の隣にいる学ランが心配そうに指示を求める。
金髪は学ランをアイコンタクトで制し、待機を命じた。
「どうかこのあたしめに譲ってやっちゃあくれませんかね?」
にへらにへら。
「できん相談だな。悪いが諦めてもらおう」
冷たく言い放つ金髪。
「そうかぁー、残念だなぁ……。まあっ、今日のところは帰るとしますかね。……あっどーもお騒がせしました」
黒髪はニコッと人のいい笑みを浮かべて、回れ右をしようと足を一歩、踏みだす────
「んな訳ねぇだろうがっ‼今日こそはあたしらが頂いて行くぜぇぇ‼」
言うが早いか、黒髪が振り向きざまに得物を構える。それと同時に学ランが機関短銃を取り出し、金髪が懐から拳銃をサッと抜き出す。
「へぇ?」
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッツ!!!!!!!!!!!』
次の瞬間、学ランの間抜けな声は、布を引き裂くような汎用機関銃の前に、その本人ごとかき消された。
「同志竹本‼」
危機一髪、金髪は咄嗟に本棚の影に隠れ難を逃れた。
そしてすぐに、棚の前で見るに堪えない姿で倒れている学ランに声をかける。
「竹本!しっかりしろ同志竹本!」
「ハッーハッハッハッハッハッ!まずは1キルッ‼」
未だ硝煙立ち上る、ドイツの傑作機関銃を誇らしげに構え、高笑いする黒髪少女。
「おい、返事をしろ竹本!」
いくら呼びかけても返事をしない部下。
視界の左斜め上を見ると竹本のライフゲージは空になっていた。
「たった一回の射撃でHP全損だと⁉脳筋女めふざけやがって」
「見たか!これがナチスおじさんもお気に入り!グロスフスMG42汎用機関銃の力だ!」
「笑止!何がナチスおじさんだ。そのスクラップが凄かったのは何世紀も前の話だろうがッ」
「なんだとォ!」
「フンッ。懐古厨め。今の時代はこれさ」
そう言って金髪は本棚の影から腕を突き出し、己が愛銃を誇らしげに掲げて見せる。
その手には文庫本ほどの大きさの、小さな自動拳銃が握られていた。
「見たまえ!これぞ今や、世界中のチンピラからテロリスト、果ては軍人まで、みんなが欲しがる大ベストセラー。世界に轟くグロックシリーズのサブコンパクトモデルG26だ!」
「ハッ!何を出してくるかと思いきや、とんだお笑い草だぜ。そんなガキのオモチャ、小さすぎて見えなかったわ」
「なんだとォ!」
「やんのか!」
一方その頃竹本は。
2人が言い争っている間に図書室から撤退していた。
敗残兵は速やかにフィールドから退場しなければならない。
「いやーまさか、初手からマシンガンでハチの巣にされるとは。あーあ、油断したわー」
竹本は頭に被っていたメカメカしいヘッドギアを脱ぎ、大きなため息をついた。
「全く、拡張現実だかARだか知らないけど本一冊借りるのも大変だな」
竹本はぽつり呟くとそのまま廊下の奥に消えて行った。
再び図書館では。
本棚脇でセーラー服姿に無骨なヘッドギアを被り、マシンガン型の大型コントローラーを構える黒髪少女が勝気に叫ぶ。
「ふん。まあいいさ。どの道てめぇに勝機はない。漫画研究部、『ストーンリバーファミリー』の田代マミさんよぉ!さあ、大人しくその本を渡してもらおうか?」
【田代マミ】と呼ばれた金髪の少女は舌打ちをし、悪態をつく。
たった一回の射撃で窮地に立たされてしまった。
周りを見渡しても、あるのは本棚ばかりでどれもあの脳筋銃を防げる物は見当たらない。
装備は愛銃の『グーたん』が一丁。
が、これではいささか心許ない。
やっぱりサブマシンガンくらい持とうかな・・・いやいやこれこそがわたしのポリシー。これが美学。捨てるわけにはいかない。
しかし、護衛の竹本は脱落してしまったし……
一応竹本のUZIはそこに落ちてるが。
他の奴らは一体何をしているんだ!
うん?
待てよ。
本当にあいつらは何をしている?
「おい瀬良。うちの部員達はどうした?さっきお前が撃った奴以外にまだいたはずだが?」
「ああ、それならもう殺られちまったかもしれないなぁ?うちの優秀な部員達に」
【瀬良】と呼ばれた黒髪の少女は「優秀」を殊更強調して言う。
なるほどな。そう言う事か。そもそもこの特攻バカが単身ここに来れた時点で怪しいと思ったんだ。
こいつは図書棟の入口で、うちの漫研に自分の文藝部員をぶつけて、その隙に大将首を部長自ら獲りに来たという訳か。相も変わらずの猪戦法だな。
奴は一人。
この窮地を脱すれば我々の勝利は確実。
「勝てる。まだわたしは負けていない!」
田代は数秒の黙考したのち結論を口にした。
「なあ瀬良。わたしが伏兵を用意しておいたとは考えなかったのか?例えば、スナイパーとか」
「なに?」
サッと左右を確認する瀬良。
どこを見渡しても本棚しかなく、特に目立ったものは見当たらない。
「ケっ、下手な嘘つくんじゃねえやい」
勝利への確信を得た田代は、思い切り口を歪めて務めて意地悪く、癪に障るように話す。
「いいんだなぁ?文芸部部長 瀬良ハルヒ。それがお前の選択で」
「くッ!」
「マジックを見せてやろうか?わたしの合図一つでお前の頭が一瞬にして消える」
瀬良は、本人はあると思っている頭で考える。
ブラフか否か…
もしブラフなら何の事は無い。
が、しかし……もし万が一、本当に狙撃手がいたとしたら……
頭に熊田副部長の言葉が蘇る。
『ほらな。だから言っただろう?もうちょっと考えて行動しろって』
ここで田代を逃がすわけには行かない。
でもあたしが獲られてしまっては、その時点でゲームが終わるッ!
どうすれば、一体どうすればいい。
「さあ、消失マジックの始まりだ‼」
田代が天井に向かってG26を撃つ。
室内に発砲音が響く。
「おんどれぇぇぇぇっ!」
それを狙撃の合図だと思った瀬良は、結局恐怖には勝てず辺り一面MGを全弾機銃掃射。
その隙に田代は逃走。
「待ちやがれぇッ!!!!」
田代の逃走に気付いた瀬良は、直ぐに逃げる田代にMGを向けたが弾が出ず、すぐさま腰からリボルバーを抜いたものの、既に田代の姿は無かった。瀬良は、空になったサドルマガジンを捨て、新しく装填。
そして田代が消えた方へ走って行った。
そして瀬良の周囲、粉々に粉砕された(ように見える)本棚や穴だらけになった(ように見える)壁の前には何者の姿もなかった。
「はっはっはっはっは、上手くいったわ、脳筋女め」
田代はハードカバーの本を抱え、右手には竹本のUZIを掴んで大喜びで走って行った。
「後はこの本を憧れの王野先輩に渡せば……」
田代の脳内には、『王野先輩』なる人物が浮かび上がっている。
木陰の裾で読書にふける白い影。
風にそよぐ撫でつけられた清潔な黒髪。
そこに隠された、憂いを湛えた瞳が、ポツリ、ポツリと活字に落ちていく。
スラリと長い指が頁を捲るその一挙手一投足にもう目が離せなくなる。
本当に絵に描いた様な美青年。
不肖この田代マミ密かにお慕い申しております。
「嗚呼、王野サマ、待っていてください。先輩が読みたがっていた本はこの田代マミが必ずやお持ち致します!」
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッツ!!!!!!!!!!!』
田代がルンルン気分で出口に向かっていると、目の前の本棚が一瞬にして消し飛んだ。
田代の妄想劇場も一瞬にして消し飛んだ。
「王野センパイへの貢ぎ物、この瀬良ハルヒが頂戴いたす!」
背後から瀬良の雄叫び聞こえた。
[2]
「おんどりゃ!おどれごときが王野センパイなどと馴れ馴れしい!」
激昂する田代。
「あたしはなぁ、知ってんだよ。王野センパイがその本読みたがってるって」
空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを装填しながらにじり寄って来る瀬良。
「お互い相容れないと思っていたが、まさか恋敵だったとわね。これはいよいよ戦争だ!」
「ああ、図書館戦争だ!」
言うが早いか二人は一斉に撃ち合い、走り出した。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッツ!!!!!!!!』
『ダァッダダダダダッダダダダダッダダダダダッダダダダダッダダダダダッダダダダダッダダダダダッツ!!!!!!!!』
放たれた9㎜パラベラム弾と7.92㎜モーゼル弾の暴風雨が本棚や絨毯、天井や照明を喰い千切っていく。
「大体、お前みたいなガサツな奴には王野サマは釣り合わない、手を引け!」
UZIを右手で構え本棚の隙間を狙い撃つ田代が叫ぶ。
「ガサツとはなんだ。お前こそそんな神経質はセンパイには似合わない、お前こそ諦めろ!」
田代よりやや遅れて、瀬良がMGのバイポットを掴んで腰だめで、狙いもつけず無茶苦茶に撃ちまくる。
「その銃が何よりガサツさの証拠だ。なんだそのバカでかい銃は!
「銃とはそれすなわち破壊の権化!ただ目の前に立ちはだかる敵を、打ち倒しッ粉砕しッ踏破する!その為の牙だッ!」
「はっ!脳筋らしい言い草ね。銃とはそれすなわち殺しの手段に過ぎない。一個の選択肢でしかないのだ。相手を殺すだけにそんなでかい武器はいらん。むしろ邪魔だ!」
「何だと!そんなおもちゃで人が殺せるか!」
「やってやんよォ!!!」
「上等だァ!!!」
「こんのぉ!」
田代が急速方向転換。
本棚をかいくぐり、瀬良の前に躍り出る。
好機とばかりに唸りをあげる瀬良のMG。
だが、押し寄せる弾丸を、特撮よろしくソク転でダイナミックに回避し、その勢いのまま10点満点のバク宙を決め、瀬良を飛び越え向かいの本棚へ飛び移る。
「こなぁくそぉっつ!!!」
いきなり180度、しかも頭上を通っての移動に面食らいながらも、田代の着地点に向け、残弾数も考えずがむしゃらに撃ちまくる瀬良。
向かいの本棚群へ渡った田代はそのまま本棚の奥へと走り去る。
「鬼さんこちら」
「待てやっコラァ!」
瀬良は頭に血が昇り、トリガーから指を離す事を忘れ、田代がいた本棚へ突撃しながら弾丸を打ち込んでいく。
『ッダダダダダダダ!!!!!!!!』
しかし棚の向こうには田代が待ち構えており、突っ込んでくる瀬良をそのままハチの巣にする作戦だったが、瀬良の獣の感が働き、間一髪、急停止。
「甘かったな!」
「お前がな」
田代がニヤリと頬を歪めると同時、田代が足を掛けた本棚が瀬良に向かって倒れてくる。
周囲の本棚はMGの爪痕によってズタボロになっており、華奢な田代の人蹴りで容易に倒壊した。
粉塵をかきわけ本田の残骸の前に立つ田代。
「これでさすがにくたばっただろう」
バラバラになった本棚とバラバラになった図書達。そしてそれらの下敷きになった瀬良。
誰もが勝利を確信したその瞬間。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッツ!!!!!!!!!!!』
けたたましい発砲音が轟き、倒壊した本棚が吹き飛び、両手をだらりとぶら下げた瀬良が姿を現した。
「何故生きている!さてはお前チーターだなっ⁉」
「ふん。なんだかんだ言ってお前だって大馬鹿者だな。ゲームのやりすぎで脳が溶けたか?これはAR、各超現実だぞ。本当に本棚が倒壊するわけないだろ」
「でも、あたり判定はあったらしいな。お前はもう瀕死だ。諦めろ」
UZIを捨て、懐からG26を取り出し、瀬良に突き付ける。
「諦めろ?諦めろだって?御冗談。まだまだ戦争はこれからだ」
殺意むき出しの戦士の目で、田代を睨みつける。
「ま、次がんばりなさいな。おつかれさん」
死神の目をした田代がG26のセーフティーを外し、瀬良が腰のリボルバーに手を掛けようとした瞬間……
『PLLL PLLL PLLL PLLL PLLL』
第二ラウンドが始まる寸前、田代の携帯が鳴った。
携帯をポケットから取り出し、相手を確認する。
「撃つなよ」
「撃たねーよ。今はなッ!」
「ふん」
田代はG26を下げ、瀬良の憎たらしい顔に一瞥を送り、田代は携帯の応答ボタンを押した。
「わたしだ。どうした」
『あ、姐さんですか⁉こちら一階正面ロビーッ杉山!』
「同志杉山か。わたしは今取り込み中なんだが…」
『奴ですッ!!奴が現れましたッ!!それで、花岡さんも森田さんも殺られました!隊は全滅ですッ!!!!』
「なんだと?奴とは誰だ。落ち着いて状況を説明しろ!!」
『守るも攻むるも黒鐵の~♪浮かべる城ぞ頼みなる~♪』
狼狽する田代、その背後で瀬良の携帯電話も鳴り始めた。
「出てもいいか?」
「あ、ああ、好きにしろ……それで杉山、敵の勢力は?一体どこの部が攻めてきた」
改めて携帯に向かう田代。
『て、敵はッ!敵の勢力は唯1人!特級災害、識別コードB、『文学少女』ですッ!!!』
「なんだとッ⁉笑えない冗談だ同志杉山。そんなはずがないだろ。奴なら今頃……」
「文学少女だとッ!!!!」
反射的に声のした方を振り向く。
そこには携帯に向かって叫ぶ瀬良の姿が。
冷や汗をかいた瀬良と目が合う。
「文学少女?」
「文学少女…」
開いた口が塞がらず、信じられなさから幽かな笑いが漏れる。
「なんでだよ!あいつならまだあんの分厚い本読んでるはずだぞ!! 生徒会の定例会議でも新しく貸りに来るのはもっと先だって…」
瀬良が食い下がって来る。瀬良が知っている事を田代が知らないわけは無かった。
「わたしもそう聞いている……奴は一昨日1200頁越えの長編をアニメーション研究会から奪取していったばかりだ」
「だったらアイツはまだそれを読んでるはずだ。奴の生態研究から割り出した読了平均からも後3日はかかる計算だぜ?」
「そうだ。そのはずだ。奴の読書環境に何かしらの変化が起きたのかもしれない………………はっ!そう言う事か!」
しばしの熟考の後、田代はハッと何かに気づく。
「なんだよ。何か分かったのか?教えろよぉ」
「ちょっとは自分で考えたらどうだ」
「分からん。教えろ」
瀬良はモノを考えない。
「はぁ…。今朝の事を思い出せ」
「今朝?えーと……なんかあったけなぁ、えーとえと」
「瀬良ハルヒ。お前今日遅刻したな?」
「っな!何故それを!」
「我々、漫研の情報力をなめるな。で、それは何故だ?」
「乗ってた電車が止まったからだ」
「そのダイヤにアイツも乗ってたんだ」
「うん……それで?」
「ほんとッバカだなお前!!その止まった時間に残りを全部読んじまったってことだよ!」
「なんてこった!そして誰がバカだ」
田代はアホに物を教えるのも一苦労だと、、呆れて肩をすくめていると…
『ギャァァァァァァァァァ!!!!!!!!ぁッ姐さんッ!!!!アネサァァァアン!!!!!』
携帯から無残な悲鳴が聞こえてきた。
「同志杉山!部隊を速やかに撤退させろ!白旗を上げても構わん。杉山!杉山!応答しろッ!」
『・・・ ・・・ ・・・』
通信機からはもう杉山の声はせず、絶えず鳴り響く銃声と、何か大きなモノが地に伏せる音、そして阿鼻叫喚の死の叫びが幽かに響くのみであった。
「……」
「お、おい。大丈夫か?」
気を使って瀬良が田代に声をかける。
「お前の方こそ大丈夫なのか」
「あ、ああ。…いや、今の副部長の通信が最後だった。うちの部隊は全滅だ」
「わたしの部隊ももう長くはない。殿がやられた」
二人の目にもはや光はなく、先ほどまでの熱気も最早冷め切っていた。
「・・・」
「・・・」
しばしの沈黙の後、田代が口を開く。
「で、どうする?まだやるか?……まあ、わたし達が争っている間に奴に殺されるが?」
「・・・」
項垂れている瀬良の返事を待つ田代。
さすがにあの脳ミソ筋肉も仲間の死には動じるか。
それに今にも最凶のキリングマシーンがやって来るのだからな。
絶望もするのも致し方ない。
「詰み(チェック)だ(メイト)。死んでいった同志たちの為にもわたしはまだ死ねん」
戦意喪失した瀬良にG26を突き付ける。
トリガーに指を掛けようとした瞬間、瀬良が田代の銃を掴む。
「詰み?詰みだって?まだここにKingが二つも残っているのにか」
田代の腕を掴んだまま立ち上がり、まっすぐ田代の目を見返す瀬良。
「あたしらがKingだ。あたしらが獲られない限りゲームには負けない」
「しかし相手はあの文学少女だぞ?」
「それが?相手は唯のアウトロー。蛮族如きに王が遅れを取ってなるものか」
「じゃあ本当にやる気なんだな?」
「あたぼうよ」
瀬良の目は再び熱い血の流れる戦士の目に戻っていた。
そして、田代の目も冷徹な死神のそれに戻っていた。
[3]
ほんの数分前。
無川高校2階、付属図書棟、玄関ロビー。
普段ならば、閲覧スペースで勉強する生徒や、ニュースコーナーで新聞を読む教師たちで賑わっているロビーだったが、今は銃火器で武装した兵隊達が命を奪い合う鉄火場に成り果てていた。
そんな中、入口の前にポツンと一つ、おびただしい弾痕でデコレーションされた新刊棚が鎮座している。
そしてその裏で、米軍正式採用の黒いアサルトライフルを構え、虎視眈々と反撃の機会を伺う男が一人。
「下井会計、右側の火の手が強い。4,5発撃ち込んで火力を落としてくれ」
「了解」
「荒川書記、下井会計が火を弱めたらその内に、鍋ん中かき回せ」
「ja-」
そして男の指示後、右斜め前方のバリケードから顔を出した漫研部員が一気に3人、瞬時に額を撃ち抜かれて脱落した。
慌てるバリケード内に、小柄な男がどこからともなく降って来る。
小柄な男は、手近な敵の足を銃剣で切り裂き、あわてて銃を構えようとする兵をドイツの軍用拳銃で止めをさす。
指揮系統が崩壊し、バリケードから頭を出した間抜けを、男が黒いアサルトライフルで間引いて行く。
その勢力差、80対3。桁から違う文藝部だが、未だ戦闘開始から10分、文藝部の優勢が崩れたことは一度も無かった。
「下井会計、良い腕だ」
「…」
「照れるな照れるな。やっぱり学園でも指折りの狙撃手はモノが違うな」
「…」
「ふん、シャイな奴め。荒川書記、右の鍋はその辺でいい。そろそろ奥のステーキがいい感じだ。派手にひっくり返してこい」
「ja-」
「しかしお前もスキモノだねぇ。無理して部長に合わせる事ァ、ないんだぜ?」
「いえ。自分、部長に憧れてるんで」
「それでも半世紀も前の銃は使いづらかろ?」
「いえ。ロマンでカバーできます」
「ああそう。お前さんもそっち側かい……と、言う訳だ。鍋は俺が見ておくから、下井会計は奇特な懐古厨の応援に行ってくれ」
「了解」
少なくとも指揮官が部下と談笑する余裕がある内は、漫研が攻勢に出られることはないだろう。
「副部長。異常事態だ」
「どうした」
「図書棟への廊下を女生徒が一名移動中」
「避難勧告は済んでるはずだが」
「ああ、そのはずだ」
「聞きそびれた一般生徒だろ。この戦場を見たらすぐに逃げ帰るさ」
「ああ、俺もそう思う。が、念のため注意しておけ」
「OK、了解だ……んんッツ!!!!!」
「おい?どうした」
無川高校。図書棟右舷。B校舎。3-3。
戦場の全てを見渡させる教室で下井会計は困惑していた。
指示が途切れた。
あのイノシシ部長と違って、普段から冷静な副部長が酷く慌てている。
こんな事はそうある事じゃない。
下井会計は何事かと急いで、自身のマークスマンライフルを、副部長の周辺に向けて照準を合わせた。
そしてそのスコープに写った光景に愕然とした。
副部長の前には一人の少女が立っていた。
大人しそうな顔立ちに細いメタルフレームの丸眼鏡。黒く長い髪を編み込んだ二本のおさげ。
その手にはネイティブ柄の布で、棒状の物を包んで持っている。
「お、お前はッ‼」
慌てふためく副部長。
勢いよく布を翻し、隠されていたものが露わになる。
西部劇の中でしか見たことの無いような、骨董品級の古いレバーアクションライフル。
細く長いバレルに、目を引く木目のストック。この銃の代名詞ともいえるトリガーガード兼用の大きなスピンコックレバー。
「ゥ、ウインチェスターライフル……」
「……」
文学少女は目の前の男を見据えると、無言のまま、瞬時に副部長の眉間に照準を合わせ、引き金を引いた。その間わずか0.5秒。
「ッんぐあ!」
副部長はすんでの所で、弾を回避し、そのまま漫研の陣地になだれ込んだ。
何事かと思った漫研部員たちは、侵入者が来た方向を見て一同唖然とした。
「ゥ、ウインチェスターライフル!!!!!」
「図書館バンディット・・・」
「あれが…イエローガール」
「西部の刺客……西部の亡霊」
「未来から来た殺人ロボット」
「ブラックたまちゃん・・・」
『『『『文学少女だ!!!!!』』』』
漫研部員たちは彼女の二つ名を口々に羅列し、とうとう決定的な悪魔の真名を口にしてしまった。
「ぅ、撃て撃て‼撃ち殺せ!!!!」
錯乱した兵達には、照準も何もなく、唯々がむしゃらに弾をバラまき続けた。
縦横無尽の弾幕の中を、余裕たっぷりに突き進むセーラー服姿の悪魔。
まるで屋台の的当てゲームでもやっている様に、ゆっくりと銃を構え、サイト越しに目が合った物から、確実に撃ち殺していく。
「RPG!RPGを持って来い!手榴弾もありったけ用意しろ!」
自分の隣でサブマシンガンを撃っていた部員の頭が吹き飛び、漫研の隊長格が部下に急いで支持を飛ばす。
「死にさらせぇぇぇえええッツ!!!!!!」
直ぐに漫研部員が、一階奥の個人閲覧室から、大量のRPG-7を担いで来て、走りざまに既に装填されている一丁をブっ放した。
緊張の一瞬、時の流れが遅く感じる。発射されたロケット弾頭を見つめる誰もが、この放たれた対戦車弾がこの恐怖諸共、眼前の悪魔を吹き飛ばしてくれると、心のどこかで安堵していた。
が。現実はあろうことか、文学少女は放たれた対戦車弾を、自前の骨董銃で撃ち落として見せるという、曲芸的射撃によってあっさり希望は絶たれた。
しかし一部漫研部員達は諦めず、雪合戦の体で手榴弾を次々投げて行ったが、その大半はRPG同様撃ち落とされ、残りは弾き返され、部員がより被害を被った。
「はっ!…………だめだ……このままじゃ勝てない!」
漫研のバリケード内でしばらく放心状態だった副部長は、度重なる爆発音によって正気を取り戻した。
「下井会計!状況は見えているな!」
「もちろんだ」
「荒川書記、奴の気を引き付けられるか?」
「やってみます」
「よぉし!作戦コードC-2状況開始」
「「Ja-!!!」」
作戦はいつも通り。誰かを囮にし、その隙に別の誰かが打倒す。
普段ならば部長が弾幕を張り、荒川書記が特攻し、副部長と下井会計で仕留めていくスタイルだが、今は部長という気合の塊が不在で隊のモチベーションが下がっている。
副部長は今になって、あのイノシシ部長の、無根拠なポジティブさのありがたみを思い知っていた。
依然RPGショックから立ち直れない漫研部員達を抜き去り、文学少女の前に立ちはだかる、荒川書記。
「文藝部瀬良組、不肖この荒川ナツキがお相手つかまつる!」
荒川書記が出て行ったことにより、漫研部員達の心にまた新たな希望が湧いてきた。
なぜなら今眼前で悪魔の相手をしているのは、ほんのついさっきまで自分たちを苦しめていた、忍者モドキなのだから。
視界の外から襲ってくる銃剣の刃、全く予想だにしない方角からの発砲。
荒川書記は壁や柱を足場に得意のパルクールを駆使し、常に文学少女の死角にいるように立ち回り、映画やドラマを見て覚えた見様見真似の組み手を掛けようとするが、文学少女はその化物じみた運動神経で、荒川書記の刃と弾丸を交わしていく。
死角から、脇腹に刺そうとした銃剣をすんでの所で手首を掴まれ、すかさずワルサーで掴んだ腕を撃ち抜こうとするも、ウインチェスターのストックで殴打され腕ごと地に打ち付けられてしまう。
「下井会計、今だ!」
文学少女が荒川書記の攻撃を阻止したことで、動きが止まり、それを見切った副部長は下井会計に狙撃指示をだした。
副部長の合図と共に、下井会計が放った弾丸の軌道は、確実に文学少女の眉間を撃ち抜く物だった。
しかし、文学少女の額に突き刺さるはずだった7.62×51mm NATO弾はそのまま文学少女を素通りし、弾痕だらけの絨毯にまた一つ新しい傷をつけたにすぎなかった。
「嘘だろ。あいつ、避けやがったッ!!!!」
撃った弾丸は必ず当たる。まるで的自ら弾に吸い込まれるように。
下井会計の射撃はいつでもそうだった
しかし、奴は違った。
奴は身動きが取れない状態で、その人間離れした反射神経と動体視力によって迫りくる弾丸を完全に見切り、首だけ動かしてそれを回避したのだ。
「おもしろい。面白いぞ!こんなの初めてだ!当ててやる!絶対ど真ん中ブチ込んでやるぜッ!!!!」
下井会計は教室に隠れるのを止め、ベランダに乗り出して、次々と引き金を引いた。
それは陽動の弾、陽動の陽動の為の弾。
確実に当てるため。絶対必中の一発を作るため。こちらの意図する事を気取られない様に。
一発一発に偽りの殺意を込めて、真の殺意を気取られないように。
陽動の為とは言いつつも、文学少女には一発も、唯の一発も当たる事は無かった。
文学少女はのらりくらりと、まるで酒にでも酔っているかのように奇妙な動きをして、下井会計の狙撃を避け続ける。
しかし転機はすぐにやってきた。傍から見ていた荒川書記が文学少女に取りついたのだ。
荒川書記にしがみつかれ動きを止める文学少女。
「今です‼」
文学少女の動きが止まったのを下井書記は見逃さなかった。
すかさず文学少女の額に照準を合わせトリガーを引いた。
が、吹き飛んだのは下井書記のHPの方だった。
図書館では、再び誰もが唖然としていた。
彼らの目に映るのは、頭を吹き飛ばされた荒川書記と、校舎側に向かってウインチェスターを構える三つ編み少女の姿だったのだから。
副部長は恐る恐る視界の左斜め上のパーティーメンバーのHPを確認した。
BUCHO 30/100
HUKU-BC 87/100
KAIKE 0/100 【Dead】
SHOKI 0/100 【Dead】
荒川書記、下井会計、戦死。
「あの銃で、当てたのか…?」
副部長は見ていた。
下井会計のMk14 EBRが放った弾丸は真っすぐ文学少女の眉間めがけて飛んでいった。
しかし文学少女は、荒川書記にしがみつかれたまま身体を大きく捻って弾道を避ける。
そして荒川書記のこめかみを貫く7.62×51mm NATO弾。
下井会計に枷を外させた文学少女は、素早くその骨董銃を構え、B校舎の下井会計めがけて引き金を引いたのだ。
下井会計は少なくとも本気だった。
荒川書記も命がけで勝負していた。
自分の読みたい本のためなら手段を選ばず、縄張り、派閥、そして戦力差さえも軽々無視し、人間離れした反射神経と動体視力、そして化け物じみた機動力で戦場を渡り歩く、図書館戦争のアウトロー。
奴に借りられた図書は二度と図書館に返却される事は無い。
「ハ、ハハ。こら勝てねぇわ」
副部長は改めて自分の敵を再確認し、渇いた笑いを漏らした。
携帯を取り出し、部長に報告を入れる。
これから戦死する報告を。
M16を置き去り、愛銃90-twoを取り出す。
すっかり怖気づいた漫研部員をかき分け、バリケードの外、文学少女の前に立ちはだかる。
「無理ゲー上等ッ!!これだからゲームはヤメられねぇなァッツ!!!!」
最凶のキリングマシーンに、単身ハンドガン一丁で突っ込む男は、漫研部員達の目にはどう映っただろうか。
[4]
「んで、やるったて具体的にはどうやんのよ」
「そ、それは、あたしのこのMGがあれば瞬殺よ」
「つまりはノープランてことか…」
「つまりは気合いだ」
瀬良と田代は一時休戦し、手を組む事にした。
今は二人でとりあえずのバリケードを組み、その後ろで打倒文学少女の作戦を考えていた。
「とりあえずお互いの装備を確認しよう」
「おうよ」
ごそごそと装備を外す二人。
「あたしはこのMG42が一丁。75発入りのサドルマガジンがあと3つ」
瀬良は肩にかけたMGを誇らしげに掲げ、マガジンを出して見せた。
「それとサブにこれ」
そう言って腰から一丁のリボルバーを引き抜いた。
「うわ、何その銃。変なのー」
「変なのとはなんだ。『マテバ6ウニカ』マテバ社が開発したオートリボルバーで装弾数は6発。イタリア製だぞ!」
通常のリボルバーと違いシリンダーの下部と繋がったバレルに、ウェブリーのように遊底がスライドするという世にも珍しい機構を持つ、半自動回転式拳銃。そんな代物を瀬良はそれ自慢げに構えてみせる。
「“Sei Unica”あなただけのものってな」
「もういいから。そんな奇天烈な銃は早くしまえ。そんなモン使うやつの気が知れんわ」
田代は顔をしかめ、呆れたように手を振る。
「いいんだよ。あたしはマテバが好きなの」
「あっそ…」
「そういうてめぇは。どんなオモチャを出してくんだ?おうん?」
瀬良がムカつく顔で田代に詰め寄る。
「腹立つなぁ。わたしのはこれだよ」
懐から取り出したのは、先程の小さな自動拳銃だった。
「なんでい。やっぱりオモチャじゃねえか」
「ああん?何なら試すか?その筋肉脳で?」
「おおん?やんのか?マテバの本気見せてやんよ」
本気でマテバのハンマーに指をかける瀬良。
「やめろやめろ。わたしらは今休戦中だ」
「てめぇが先にしかけてきたんだろうがい」
ぶすっとむくれる瀬良。
「んで、そのオモチャの他は?なんかあんのかい」
「後は、竹本のUZIと、これはグロックの弾が使えるし、あとはえーと…………ちょっと待て」
持て余したUZIとG26を瀬良に押し付け、ごそごそとジャケットの中を漁り始める田代。
「そう言えばなんでお前、スーツ着てんの。うちの制服はセーラーだろ?」
「ああ、これか。これは漫画研究部『ストーンリバーファミリー』の幹部だけの制服なの」
「へー『首領(ドン)石川』がヤバい奴ってのは知ってたが、そういう方面でヤバい奴とは知らなかったぜ」
「反学園勢力、『浪漫主義党』なんかのメンバーの奴に言われたくねえよ。なんだ文藝部『瀬良組』ってヤクザか」
「んだとマフィア風情が、喧嘩売ってんのか!ああん?」
「上等だ。脳筋ザル」
ジリジリと睨み合い、火花を散らす険悪な二人。
「後はこれだ…………プラスチック爆弾が1,2,3,4,,,」
「おいおい、どんだけあるんだよ」
「8.9.10、全部で10個」
ジャケットを拡げてみせると、裏地には爆弾がびっしりと張り付けられていた。
「お前、実は危ない奴?」
「お互い様だ」
怪訝そうな顔をする瀬良。
「で、あの化物を倒す方法だが……どうしたものかね」
「うーん」
「あーー」
目を閉じて腕を組み、難しい顔をする田代。
足を投げ出し、虚空を見つめる瀬良。
しばらく二人でボーっと考え込む。
「あーー………………あっ閃いた!」
「んん?何か思いついたか?」
「ああ、これならいけるぜ。化物退治としゃれこもうじゃないか」
図書棟2階、玄関ロビー。
まさに鎧袖一触、文藝部副部長を瞬殺した後、逃げ惑う漫研部員を軒並み鴨撃ちにし、今最後の一人の脳天に風穴を空けた文学少女。
ウインチェスターのレバーを起こし、排莢。
勢いよく飛んだ空薬莢が、カランカランと、誰もいなくなってしまった図書室に渇いた音を響かせる。
給弾口に再び.44-40 Winchester弾を詰め、レバーアクションで装填する。
辺りを見渡し。目的の物を発見。
壁にかけられた館内見取り図を確認し、目当ての本がある棚を探す。
3階。一般書架。
「で。どうして王野サマな訳?」
対文学少女用のトラップを仕掛けながら、唐突に田代が口を開いた。
「そ、そらあ、最高にイカすからだよ。センスもいいしよ。」
一瞬呆気にとられた瀬良だったが、直ぐに平静を装い、キョどりながらも答える。
「ふーん。イノシシにしてはなかなか目がいいじゃない」
「てめえ、どこまでも喧嘩売ろうってか」
田代を睨む瀬良だったが、田代はあっけらかんとして作業を続ける。
「センパイの使ってる銃見た時からだ。いわゆる一目惚れって奴よ。今時あんなハジキ好んで使ってんのは、あたしの他には文学少女かアニ研のオタク共ぐらいなもんだと思ってた」
田代はバリケードを作りながら、横目で、珍しく真剣な表情の瀬良を見る。
「最新式はそりゃあ古い銃よりいいんだろう。弾も当たりやすくって丈夫で壊れにくい。値段も安くて、誰でも簡単に使える。それはこんな(MG42)骨董品よりいいんだろう。……でもなあ、そんなのダセぇんだよ。クールじゃない。みんなと同じモン使ってたらそらあもうそれはモブだろう?あたしはな、モブ(やれら役)にはならないぜ。舞台で一番良い役を演じるんだ。そのためには拍(キャラ)がつく得物を持たねえとな。そういう気概をあたしは『王野葉月』って男から感じたんだよ」
「うん?」
首をかしげる田代。
「お前のポリシーは分かったが、王野サマって1911以外の銃持ってるのか?」
「いや?その1911の事だが」
「バッカお前。1911って言ったら米兵なら誰もが持ってる、200万挺以上作られた大ベストセラーだぞ!」
田代は今日何度目かの呆れ顔で、目の前の脳足りんに教えてやる。
「べらぼうめぃ!!てめぇっちは字が読めねえのかぃ!『ガバメント1911」の1911は千九百十一年制って事だろうがよぉ!今から100年以上も前の銃だぞ。あたしのMG42が一九四二年だから30年も先輩だぞ!それにどんだけ作られようがそんなのは問題じゃねえ、要はその得物を使うのが粋かどうかでぃ!!!!』
「……」
片膝を立て、セーラー服の袖を捲り、時代劇のように啖呵を切る瀬良を見て、「絶対にこいつとは仲良くなれない」という事を理解した田代であった。
無川高校。図書棟3階。一般書架。
夕陽の差し込む図書室。
すでに放課後となり校舎に残って駄弁っていた生徒も帰り支度を始める頃。
目当ての本の場所をメモした紙を見ながら、3階書庫への階段を上るおさげの少女。
字面だけ見るなら極めて一般的な光景だが、その少女の手には血塗られた骨董銃が握られている。
折り返し階段を上りきると、
「よぉ、西部劇。牛の世話はもういいのかい?」
そこには金の髪をなびかせる死神が待ち構えていた。
[5]
「よくもわたしの部下をやってくれたな、山賊」
大人しそうな顔を歪め、煩わしそうに目の前の障害を睨む文学少女。
「もう二度と本が読めない身体にしてあげる」
田代はキメ顔そう言ってUZIを構え、文学少女目掛けワンマガジンぶっ放す。
しかし文学少女は、瞬時に屈んで初弾を避け、しゃがみ撃ちで田代を狙い撃つ。
まさか初手一発目から倒せるとは思ってはいなかったが、これも作戦の内。
UZIで適度に弾幕を張りながら、右手のグロックで危うい所を狙って撃つ。
きりの良いところで撤退。
田代は大げさにひるがえり、本棚群の中に逃げ込んだ。
「にしても一発も当たらんぞ。あいつの周り空間が歪んでるんじゃないの⁉」
金髪が逃げたのを見て、文学少女は激しく舌打ちをし、獲物を追いかける。
ほんの少し前。
「田代、奴は今気が立ってる。何故だが分かるか?」
「朝から本を読めていないからだろ?奴は重度の活字中毒だ。今頃奴は発狂寸前だろうさ」
「そこだ。奴は今理性を欠いた獣だ。持ち前の化物じみた戦闘勘だけで戦ってる。あたしらみたいに考えて行動できない」
「なるほどな。その通りだ。あいつはわ・た・しの様に考えて行動できない」
「ムカつくなぁ…………だからよう、時間を掛ければ掛ける程アイツは気が立ってまともな判断が出来なくなる」
「まともな判断ができなければ、足元を掬われる…か」
「そうなったらもう勝ちはあたしらのもんだ」
「ふん。あの、瀬良にしては良い作戦だ」
鬼の形相で追いかけてくる文学少女を見て田代は作戦の成功を確信する。
本棚間を逃げ回りながら叫ぶ田代。
「おらッ来い来い、西部劇ッ!」
当てる気でグロックを2,3発撃って牽制するも、あっさりと避けられてしまう。
そして負けじと文学少女も撃ち返してくる。
チョロチョロ小賢しく駆け回り、その都度殺す気で牽制射撃を行う。
いつまでたっても追いつけない標的、そして危うい所に飛んでくる牽制射撃、文学少女は相当頭に来ていた。ウインチェスターの弾が明後日の方向に当たるようになった事から相手が相当頭に来てる事が分かる。
「そろそろ頃合いか……やるぞッ!!瀬良!」
遠くから瀬良の返事を聞くと、田代は急停止。
屈んだ姿勢から足のバネを使って大きくバク宙。
向かってくる文学少女の頭上を飛び越え、反転、背後からライダーキックを喰らわせる。
「行ったぞ瀬良!」
吹き飛ぶ文学少女。蹴り飛ばされた先には、MG42を構えた瀬良の姿があった。
「よお、クソメガネ・・・よくもあたしの部員をやってくれたな。覚悟しやがれェッツ!!!!!」
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッツ!!!!!!!!!!!』
第二次世界大戦時、連合軍を震え上がらせたその破壊力は今尚健在であり、MG42の最大の特徴であるその悪魔的な発射速度にものを言わせ、ここぞとばかりに馬鹿みたいに撃ちまくる。
圧倒的な弾幕の前に、さしもの文学少女も反撃できず逃げ惑うしかない。
さらに後方からは、田代が逃げる文学少女を今度は牽制ではなく本気で殺りにきている。
さすがの文学少女も最早万事休すかと思われたその時、眼前に扉を見つけ急いで飛び込んだ。
「かかった!!!!」
飛び込んだ先は、図書棟内で授業を行う際に使用される教室だったが、普段と違う点が一つ。
壁や床、至る所にプラスチック爆弾が大量に張り付けられていたのだ。
「くったばれェェェッッツ!」
田代がスイッチを押した瞬間、プラスチック爆弾が一斉に起爆。
内臓に響くほどの激しい爆音と共に図書棟の一部が崩落した。
「さすがにこれで奴もくたばっただろう」
「バカお前、フラグ建ててんじゃねえ!」
「・・・」
「・・・」
二人して瓦礫を見る。
「ホンンンッツ!!!!」
瓦礫の中からゾンビの様に腕が突きだされ、満身創痍の文学少女が出てきた。
「アイツ一体どんだけVIT上げてんだよ!!」
「活字ィィ~本を読ませろォォォォツ!!!!!」
雄叫びを上げ、前傾姿勢で突っ込んでくる文学少女。
ウインチェスターライフルのバレルを掴んで、力いっぱい瀬良の頭を殴りつける。
「っぐへぇッツ・・・痛ってぇなあ」
負けじと弾切れなったMGで横薙ぎに殴りつける。
「ちょっと、直接手を出すのはルール違反だぞっ!」
「うるへー!!戦争にルールもクソもあるかぁッツ!!!!」
「活字ィィイイイイッツ!!!!!!」
MGを投げ捨てボクシングポーズを取る瀬良。
前傾姿勢で腕をだらりと垂れ下げ、ガルルルルと喉を鳴らして威嚇する文学少女。
即座に瀬良のストレートが決まり、のけぞった勢いで頭突きで反撃する文学少女。
夕暮れの図書棟内でどつきあう二人の少女。
理性を欠いた野生メガネとトリガーハッピーなイノシシ女、どちらもパワープレイな二人、その殴り合いはしばらくの間続いた。
「長いなぁ。早く終わんないかなぁ」
田代は開始1分で既に飽きていた。
「うるせぇぞ田代!……こんな奴、あと一発で瞬殺じゃあ‼」
「本をォォォォ読ませろぉぉぉッッッツ!!!!!!!!」
もはや立っているのもやっとの状態で、尚もふらつきながら闘志バリバリの二人を見て、田代は大きなため息をついた。
『パァッン!!!!』
次の瞬間、短い銃声が轟き倒れる文学少女。
その背後では田代が構えたグロックの銃口から、硝煙が立ちぼっていた。
「長い。飽きた」
「てめぇ、男同士の勝負に水差すんじゃねぇよッ!!」
「どっちも男じゃねえッ!!!!」
「ホン~」
G26で脳天をぶち抜かれ、HPが0になった文学少女は床に這いつくばって静かに泣いていた。
[6]
息絶えた文学少女を放って、とうとう戦争の時。
「さあ、お待ちかねの第二ラウンドだぜ」
意気込む瀬良だったが、既にメインアームのMG42は弾が無く、本人の体力は仮想世界、現実世界問わず、ほとんど残されていなかった。
一方の田代は残りHPも多く万全の状態に近かったが、いかんせんそんなに弾が残っていなかった。そして肉弾戦もしたくなかった。なんならもう疲れたから早く帰りたかった。
彼女は普段から指揮官としての仕事が主であり、それ故にあまり予備弾倉を持ち歩いてはいなかったのである。
「とは、言ってもお前もわたしももうまともに戦える状態じゃない。……ここはどうだ?一つ、古き良き決闘というやつで決着をつけるのは」
「いいな!決闘!!すぐやろう!」
ウキウキの瀬良。
もう既に日が暮れかけている。
沈みかけた太陽は、その最後の力を振り絞って目一杯の光を地上に降り注がせている。
紅の図書室で、二人背中を合わせて立つ。
田代の手にはグロック26が、瀬良の手にはマテバ6ウニカが握られている。
「いいな10歩進んでから撃つんだぞ。絶対に途中で撃つんじゃないぞ」
「撃たないわよ。信用ゼロか」
「男同士の真剣勝負で背後からズドンなんて、誰が信用すんだ」
「だから男じゃないって」
「いいから、始めるぞ」
「「1 2 3 4 5」」
─自らの欲する物の為、自らの求める人の為、
「「6 7 8 9」」
─己の正義を貫き、他者の正義を踏みにじる。
「「10ッ!!!!」」
─それが図書館戦争である。
太陽が沈みきり、辺りが暗闇に飲まれた瞬間。
マズルフラッシュが闇を払い、銃声が静寂を掻き消した。
ほぼ同時に発射された9mmパラベラム弾と.44マグナム弾だったが、敵の命を奪うに至ったのは田代の放った弾丸だった。
心臓を完全に撃ち抜かれた瀬良は、勢いよく後方に吹き飛び、HPが0になると同時に絶命した。
一方で田代は脇腹を撃たれ、本日初めてのダメージを負った。
「わたしの勝ちだ」
「ぢぎしょう……」
「銃(こんなもの)は当たってナンボ。悪戯に弾をばら撒くだけじゃなく、正確に当てる練習をおし」
「クソ!!!次は絶対勝つッツ!!!!」
「ふん、返り討ちにしてくれる」
そう言って田代は目当ての本を抱えて出て行った。
第一次図書館戦争。終結。
漫画研究部『ストーンリバーファミリー』 戦死80。生還1。
文藝部『瀬良組』 戦死4。全滅。
所属無し アウトロー 死亡1。
エピローグ
無川高校。昼休み。中庭への外廊下。
廊下の隅でたむろする怪しい集団。背の高い学ランの男が、金髪の女生徒にハードカバーを恭しく手渡す。
「守備は?」
「完璧です。この本が図書室から借りた物である証拠は全て消し去りました。新品同様の仕上がりです。先方も本屋で買ったものと思いこむこと間違いなしです」
「うむ」
「すーー、はーーー」
大きく深呼吸し、息を整え、前髪をいじり、襟を正す。
「よしッ」
「姐さん、いってらっしゃいませ」
「うむ、行ってくる」
中腰の学ラン勢に見送られ、中庭中央の木陰でベンチに座る『王野葉月』の元へ向かう。
『葉月~お弁当食べよぉ』
突如乱入者が木の裏から現れ、王野葉月の隣に座った。
「ん?」
歩行の中途姿勢でフリーズする田代マミ。
『ああそうだ、葉月が読みたがってた本ゲットしといたよ』
そういって鞄から田代が抱えている本と全く同じものを、取り出す緑の髪の女。
「んん?」
『ああ、いつもすまないな。キャロライン』
「んんん⁉」
「よぉ、勝ち馬。どうしたよ不景気な顔して……」
昼食のパンを齧りながら、頬に湿布を張った瀬良ハルヒが陽気に話しかけてきたが、眼前の光景を見て、同じくフリーズした。
「「・・・」」
しばらくして、2人は中庭の少し離れたベンチで眼前の地獄を見ていた。
だらしなく足を拡げ、大柄に背もたれにもたれ、紙パックのストローを咥えながら瀬良がぼやく。
「なんのために、あたし殺されたんだ?」
瀬良の背後でそうだそうだと頷く文藝部員達。
「キャロラインって誰だよぉ~」
頭を抱えて俯き、項垂れる田代。
田代の後ろでさあ?と首をかしげる学ラン勢。
「なあ、瀬良。ちょっとあの奇天烈銃でわたしん事撃ってみてくれ」
「いいぜ。その代りてめえののっぺり銃でもあたしを撃ってくれ」
互いに銃を取り出し、互いのこめかみに銃口を押し付けて引き金を引く。
パァンッ!と発砲音が中庭に響く。
「痛くない…」
「という事は……」
「「これは夢だ!」」
「「ゲームだからだろうがッツ!!」」
お互いの脳味噌をブチ抜きあい手に入れた希望は、ベンチの後ろにいた二人の側近のツッコミによって見るも無残に打ち壊された。
いかがだっただろうか。
原作の『図書館戦争』は図書館の自由の為に戦う物語だが、筆者はタイトルを見た瞬間「図書館の中で戦って欲しい本を奪い合うのかな?」と内容を誤認。
目的の図書を手に入れる為ならば、手段を選ばない。邪魔する奴は撃ち殺す。そういう殺伐とした世界観を思い描き、あらすじを見て愕然。実はもっとディティールの凝った物語であった。
しかしこの度、友人の強い勧めもあって、この妄想を自分の趣味全開で世に出す事に。
素人由来の乏しい語彙力に、貧しい表現力、いい加減なミリタリー知識の塊なのだが、どうぞ御贔屓ご鞭撻のほどよろしく頼みたい。
最後まで読んでくれてありがとう。