天を翔ける、されどその翼は黒く   作:紅小豆

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さてさて、今日は選抜レースを見に来ましたよ。年に四回しか開催されないこのレース、先輩にも『このレースでウマ娘の才能を見極めて、その上でお前の担当を決めろ』って言われちゃいましたね。つーか人多いなぁ……早めに来て座る場所確保してて正解でしたよ。まあ、正直言って、僕の目標(最低ライン)は”ある程度のところで勝たせてあげること”なんですよ。そうすれば、仕事としても”普通に生きられる”わけですからね。でも欲を言わせてもらうならある程度の出世はしたいですし。別に前みたいにトップとまでは求めませんが……おや?なんだか騒がしいですねぇ。

 

 

「数多くの優秀なウマ娘を輩出してきた、『メジロ家』の秘蔵っ子か。果たしてどんな走りを見せてくれるかな」

「彼女は、入学前から素晴らしいステイヤーだと評判でしたよね、今回も活躍してくれそうです!」

 

 

へぇ~、メジロマックイーンって子が今回人気みたいですね。名家の娘だったんですねあの子。確かに資料で見た時、同じような名前の子が多いと思いましたよ。まあ確かに練習の際のタイムはなかなか良かったですね。素質は相当でしょう。でもどうせああいう子は他の優秀な方に取られちゃうんでしょうけど。とりあえず3番手、4番手あたりの子に声掛けていけば良さそうな子見つかるよね。

 

 

 

おっ、始まりました。うーわっ、先頭の子すっご、確かアイネスフウジンさんだっけ?序盤から上がってくなぁ。さてさて……注目のあの子は……おや、後ろ側ですねぇ。ラストスパートで仕掛けるつもりかな?もしくは、ただ力が入んないだけなのか、これは後者ですかねぇ。

 

 

 

 

──さあ、いよいよレースも終盤!しかし、大注目のメジロマックイーンは、いまだ後方!

「走りにも力が無いようだな。スタミナ切れか?」

「うーんもっと能力のあるステイヤーかと思っていたんですが……期待しすぎたかな」

 

 

ふむ……やっぱり力が入ってないですねぇ。とはいえ改善の余地はいろいろとありそうですが……

 

 

 

──懸命に走るが、マックイーン伸びない!

 

 

 

──先頭のアイネスフウジンが、今……ゴーーーーーール!! 選抜レースを制したのは、アイネスフウジン!彼女の未来に期待する大歓声が、場内を包んでいます!

 

 

 

「アイネスフウジン、いい脚を持っているな。トレーニング次第で大化けしそうだ」

「ええ、是非うちのチームに入ってほしいです……!でもウワサのあの子の方は……うーん、思ったより伸びなかったなぁ」

 

 

ふむ……7着ですか、確かにあまり良い結果ではありませんでしたね。

あ!いいこと閃いちゃいました(笑)

今なら簡単にあの子のトレーナーになれるのでは!?今なら他のトレーナーからのマークも薄いですし、何よりこのレースの結果が全てではありませんからね!最終的に本番で勝ってくれればいいんですから、さて、明日くらいにでも声をかけに行きましょうかねぇ。ククッ、まさか才能のあるウマ娘を手に入れる機会に恵まれるとは……やっぱりツイてるなぁ(笑)

 

 

 

 

 

はぁ……、はぁ……っ

……ダメですわね。脚にうまく力が伝わらない、昨日と同じ、嫌な感覚……。昨日の選抜レースに出ていた方々、想像以上の精鋭ばかりでした。このままでは終われませんわっ!次のレースでは、絶対に結果を残して──

 

 

「あのー、練習中のところ失礼いたします」

「はい?」

 

 

呼びかけられた方向に目を向けると模擬レースの際にいた新人トレーナーさんが

 

 

「貴方は……新人トレーナーさん、ですわよね。もしかして、私のトレーニングをご覧にいらしたのですか?」

「はい、そんなところで……」

「光栄ですわ。ご足労いただき、感謝いたします。けれど、一つ、お聞かせください。なぜ、私に興味を持っていただけたのですか?私、先の選抜レースでは、メジロの名に泥を塗ってしまうような情けない走りしかお見せできませんでした。だというのに……なぜ?」

そう、貴方はウマ娘を育てる才能のあるお方のはず。本来ならば、もっと良い結果を出している方に声をかけているはずですわ。

彼は少し考えるようにして、言いました。

「あなたの心の強さが何より素晴らしいと思いました。終盤、勝利が難しい状況になっても、あなたは諦めず必死に粘り続けた。その精神力が魅力的でした」

 

 

「心……なるほど。精神的な面を見ていただけたのですね。ありがとうございます。メジロのウマ娘たるもの、心も常に強く在らねばならない。せめてそちらだけでもお見せできたのなら、嬉しく思います。……けれど。私をご担当いただくか否かは、ぜひ、走りを見てご判断くださいませ。私には、メジロの名を持つウマ娘として、果たさなければならない、高い目標があります」

 

「目標、ですか?」

 

「はい、『天皇賞の制覇』という目標です。それはもちろん、トレーナーさんとの適切な信頼関係も無ければ果たせないもの。つまり、トレーナーさんが私の力を信じられなければ成し得ないことなのです。ですから、貴方には、走りの方も認めていただいた上で、ご判断願いたいのです。私をメジロの名に相応しいウマ娘として育てていただけるか否かを」

 

「なるほど……承知しました」

 

「ありがとうございます。先日の失態、ここで挽回させてくださいませ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、そう言うや否や、走り出していきました。別に資料上のタイムは相当なものですけどね。別に不満はないんだけどなぁ……。まあ本人は納得できてないみたいですから、しかたないです。選抜レースで結果を残せなかったのも、なにか原因があると思いますから。一応見てみよっかな~

 

……見た感じフォームは綺麗で問題はないですねぇ。長距離向きの体力と、強い精神力。確かに天皇賞を獲れる素質はあります。春秋連覇も視野に入れても良さそうです。ちゃんと育ててあげれば、僕もいい感じに出世できそうですね。……さて、だいたい走りの方も分かってきました。

 

 

「ふぅっ……ふぅっ……いかがでしたか?」

 

「ええと……フォームに問題はないんですが、脚に力が入ってないように見えますね……」

 

「え? あっ……そっそれは……」

 

「何か心当たりでも?」

 

「あっ、いえ!そういうわけでは!その……申し訳ございません!もう一周、走って参ります!」

 

 

あらら、行っちゃいました。その後トレーニングを引き続き見てたんですけど、やっぱり調子が悪そうですねぇ……


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