「はっ……はっ……!まだ……鍛え足りない……!」
さて、今日も練習を見に来たわけですが……うーん、やっぱり調子が悪そうです。すこし焦りがちな気もします。こんな調子で練習しても、あまり効果は無さそうに思えますが……
「……あら?体に……力が……」
おや?立ち止まって……あっ!倒れちゃいました。
「だ、大丈夫ですか!?」
とりあえず、なんとか保健室まで運び込みました。診てもらったところ、どうやら軽い貧血だったようです。栄養不足が原因とは仰ってましたが……食事ちゃんと取ってるんですかねぇ……そのとき僕の後ろのドアが勢いよく開いて一人のウマ娘が駆け込んできました。
「マックイーン!倒れたって聞いたけど、だい──」
「うわっ!ビックリした……は、はい、とりあえず安静にしてもらってますよ」
「あっ、す、すみません!」
そのウマ娘は謝ってきた後、自己紹介を始めました。
「えっと、あたし、メジロライアンっていいます。マックイーンとは親戚みたいな関係なんです。あなたのことは、マックイーンからいろいろ聞いてます。マックイーンを気にかけてくださってありがとうございます。」
「いえいえ……そんなそんな」
「ちなみに、倒れた原因ってわかったんでしょうか?」
「ええと、栄養不足からくる貧血だったみたいですね」
「なるほど……選抜レースが近いからって無理してるなぁ、とは思ってたんですが、もっと早くに声をかけてあげれば……実はこの子、責任感が強すぎるっていうか、必要以上に自分を追い込んじゃうんですよね。そんなことしなくても……十分立派なのに」
そのとき、ライアンさんのスマホのアラームが鳴り始めました。
「──っといけない!もう行かなきゃ……!ごめんなさいトレーナーさん、失礼します!それと、マックイーンのこと、よろしくお願いします」
それだけ言い残して、ライアンさんは出ていってしまいました。
それからしばらくして、ようやくマックイーンさんが目を覚ましました。
「そうでしたか……大変なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。けれど、もう大丈夫ですわ!今すぐトレーニングを再開して──」
その言葉をかき消すように、彼女のお腹の音が鳴ります。
「……食事、しっかり取れてますか?」
「も、もちろんですわ!メジロ家のウマ娘たるもの、食生活を含む日々の生活も完璧に整えておりますもの!今回倒れてしまったのは、私が未熟だからです!日々の鍛錬が足りなかっただけですわ!」
うーん、頑固な子ですねぇ(笑)
まともに物も食べずに、しっかりと走れるわけがないでしょうが。どうしたもんですかねぇ……
「そうだ、食事の記録ってありますか?あれば見せていただきたいのですが……」
「ええ、構いませんが……」
いろいろな記録が書かれた手帳を受け取り、食事の欄を見ると……なんですかこれ、最低限の物しか食べてないじゃないですかこれ!人間のフリした喰種でももう少しは食べますよ!
「いかがでしたか?問題ないメニューかと思いますが」
いや、問題しかないですよ。相手が准特等なら『いや、なんでやねん(笑)』とツッコミを入れていたところです。
「制限……キツすぎません?」
「それは……実は理由があって……」
「理由、ですか」
「はい、私の、えっと、体質といいますか……。少々太りやすいのです。普通の食事でもすぐにお肉がついてしまって。ですが、レースに出る以上、だらしない体を晒すわけにもいきませんから……」
「それで、ここまで厳しく食事制限をかけたわけですか」
「はい、ですが、倒れてしまったのでは本末転倒ですわね。なにか対策を考えます。すみませんが、私はこれで失礼いたします。今日は……本当にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
そう言って立ち去ってしまいました。
数日後、昼食を取ろうとカフェテリアに向かったところ、マックイーンさんを見かけました。
「うう、物足りませんわね……ですが、食事は決めたメニューに留めなければ……!」
まだ食事制限するつもりですか……呆れを通りこしてチョー笑えます(笑)
とはいえ、またさっきのように倒れられたら困るんですけどねぇ。なにか策を考えねば……
「あー!マックイーンまだ食事制限してるの!?」
一人のウマ娘がマックイーンさんに駆け寄っていきます。心配されてるようですね。
「テ、テイオー……」
「今日はマックイーンの好きなスイーツもあるのに?」
「うっ……ですが、メジロ家のウマ娘たるもの、だらしない体でレースに出るわけにはいきませんわ」
「むむー……まあいいや。ボクはいっぱい取っちゃうもんねー」
テイオーと言われたウマ娘は目の前のスイーツを大量に取っていきます。うわっ、なにあのマックイーンさんの顔。拷問されてるみたいな顔してるじゃん(笑)
まあ僕もダイエット中に目の前でそんな量のスイーツ取ってるとこ見たらそんな顔しちゃいますね。とはいえ、今ので頭の中にいい策が浮かびましたよ。さてと……資料取りにいかないと。
いつものようにトレーニングをしていた時、トレーナーさんが歩いてくる姿が目に映りました。
「あら?またいらしてくださったんですね」
「ええ、早速で申し訳ないんですが、こちらを見て頂けないでしょうか」
そう言って一冊のノートを差し出してきました。拝見するとたくさんの献立が書かれていました。
「脂肪になりにくいメニューを中心に、食事の内容を考えてみました。せめて参考になればとも思ったのですが、いかがでしょうか……」
詳しく見てみると、なるほど、緻密にカロリーが計算された上で、栄養素も十分取れるように調整されています。それに何よりも……
「あの、スイーツが、献立表の中に……!?その……食べてよろしいのですか!?」
「その方が元気も出て、モチベーションアップに繋がります。これで力一杯走れるでしょう」
「ありがとうございます。まだ担当でさえない私のために、ここまでしてくださって。この献立表、一週間ほどお借りしてもよろしいですか?そして、お返しする時にまたトレーニングを見に来てくださいませんか?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。それでは、またお会いいたしましょう」
さてと、約束通り一週間経って、もう一度彼女を見に行くことになりましたが、食事の効果はあったかな……?満足のいく走りができていればいいけれど……
ええといつもの場所に来たけど……あ、いましたいました。
「一週間ぶりですわね、トレーナーさん。それではトレーニングを始めますので、見ていてくださいませ」
こうして、しばらくマックイーンさんのトレーニングを見てたんですが……見違えるほど変わりましたね!完全に資料通りのマックイーンさんです。いやー、献立表を渡しておいてよかったです(笑)
「トレーナーさん、いかがでしたか?」
「ええ、最高でしたよ」
「ふふっ、光栄ですわ!あの献立表のおかげです。おかげでスイーツも口にできて、まだまだ走れそうですわ!……ともあれ、これで、走りの実力の方も、認めていただけたでしょうか」
「もちろんです!」
「ありがとうございます。──では、改めて……私はメジロのウマ娘。華麗に、優雅に、完璧に勝利することをこの名に義務付けられておりますわ。私を担当すると仰るのであれば、貴方にもまた、メジロ家のトレーナーであるという自覚を持っていただかなければなりません。いかがです?──その覚悟はおありかしら?」
「……ここまで言われたら断りにくくなっちゃうじゃないですか……まあ、答えは決まりきってますけど。あなたの夢を叶えるため、全力を尽くしてサポートしてみせましょう」
これだ。これこそ僕が求めていたものなんだ。この子なら僕の最高の目標を叶えてくれる。”ある程度で勝たせてあげる”だなんて妥協する必要もない。予定変更です。必ず”最強のウマ娘を育ててみせましょう”。