はい、というわけで無事正式に担当を見つけることができました。とりあえず改めてお話をしたんですが”天皇賞に出られるのはだいぶ先なのでまずはクラシックを目標にしたい”とのことでしたので、それに合わせて長期的なスケジュールを組んでいきましょう。とはいえ今はデビュー戦が近いですから、それに向けたトレーニング中です。
「ふむふむ、スピードは悪くないですが仕掛けるタイミングが若干遅いですね、それだと間に合いませんよ」
「はいっ!すぐに改善しますわ」
「中盤でちょっと飛ばしすぎな気がします。最終直線でスパートがかけられませんから、そうですね……先頭の後ろを保つイメージで走ってみてください」
「分かりましたわ」
うんうん、タイムはしっかりと伸びていますし、日々のトレーニングの効果はしっかり出ているようですね。これならデビュー戦でも結果を残すことができるでしょう。
それにしても、名家の子、ですか……僕とは違って幼少期からご両親に愛されて生きてきたのでしょうね。あなたが羨ましいですよ、マックイーンさん。アイツからしてみればたかが分家の末っ子の
「ごきげんよう、トレーナーさん」
「ああどうもどうも、それじゃあ、始めましょうか」
トレーナーさんが正式に私の担当となってから数ヶ月が経ちました。トレーナーさんの的確な指導のおかげで、タイムも大幅に向上しました。そしてデビュー戦が前日に迫った日の夜、私は不思議な夢を見たのです。
「こ、ここは?」
私は知らない屋敷の小部屋に座っていました。目の前には大きな書物が。開いてみたところ、家系図のようですね。ええと、本家が和修で、分家として有馬、伊丙、芥子……その隣に書かれているもう一つは見えなくなっていました。塗りつぶされているとかかき消えているとかそういったものではなく、私の視界から見るとその部分だけが見えなくなっているのです。その時、私の後ろの扉が開きました。振り返ると、非常に年老いた男性が、
「──何をやっている」
この時の私はどういうわけか、その方に
「お父さん」
と言いました。自分でも何を言っているのか、理解できませんでしたわ。
「うちは早世だね」
「本家でない和修は皆、そうなっている」
その言葉を聞いた瞬間、私の心の中にドス黒い感情が次々と流れ込んでくるような感覚を感じました。しかも、まるでもともと自分の中にあったものであるかのように。自分の体、自分の意志であるはずなのに、先程から自分のコントロールができないのです。
「じゃあやりたいこと全部、ちゃんとやっておかないとね」
ああ、私は何を言っているのでしょうか。でも、どうしてこんなことを言っている自分をおかしいと思えないのでしょうか。
屋敷の外に出ると目の前には女の子が待っていました。
「──、追いかけっこしよ!」
「うん!」
そういって私たちは広い庭を無邪気に走り回りました。何度も追いかけ、捕まえて、逃げて、捕まって、その度にたくさん笑って……とても楽しかったですわ。
「アハハ、ハハハ!……うわっ!ハハハ!交代交代!」
二人で一緒に庭に倒れ込み、私は自然とこう言っていました。
「おじいちゃんとおばあちゃんになってもこうしていたいなあ」
「わたし、おばあちゃんになんてなりたくないよ」
「ううん、きっと楽しいよ」
その言葉が、私の夢の最後でした。
そしてやってきたデビュー戦、目標は”5バ身以上差をつけての一着”ですわ。天皇賞を狙うのならばデビュー戦で勝つことなど当然のこと。必ずや結果を残してみせますわ。
「すぅ……はぁ……」
「あの、いけそうですか?」
「……問題ありませんわ。少しだけ緊張してはおりますが、ここから目標に向かっていくという高揚する気持ちもあるのです。天皇賞制覇への第一歩、いざ、踏み出してまいりますわ!」
マックイーンさんのデビュー戦を見に行くためスタンドへ、なんとか前の方の席に腰を下ろすことができました。
「それにしても、5バ身、ですか……」
なかなか無理難題を押し付けてくるもんですよ。ちなみに事の発端に関しては、先輩に相談したところ
『そうだな……メイクデビューでは5バ身以上差をつけて勝て。この時点で並の実力くらいじゃ届かねえぞ』
とか言われたのが原因です。それを伝えたら本気で練習し出すあの子もあの子なんですがね……まあ熱を入れすぎて怪我されるのも嫌ですからちょうどいい感じに休みも入れつついいコンディションを保ってくれました。
おっ、ファンファーレが、さて、そろそろ始まるぞ~
ゲートが開くと同時に全員がいっせい駆け出しました。まずは作戦通り、先頭集団の少し後ろで前の様子を伺いながらコーナーへ入っていきます。
──注目のメジロマックイーン、先頭集団の後ろで様子を伺っています。
よし、このペースなら問題なくついていけそうですわ。あとは終盤で加速できるくらいのスタミナを残すことができたら……
──先頭集団は第3コーナーへ、ここまで大きな順位変化なありません。
来た!!ここで仕掛けてみせますわ!
──メジロマックイーンが仕掛けてきた!凄まじい加速です!あっという間に先頭集団を外から抜き去ってしまいました!
自分でもどれほどのスピードで走っているのか分からないほどに視界が高速で流れていきます。このまま大差をつけてやりますわ!
──他のウマ娘もスパートをかけますが差は縮まるどころかどんどん開いていきます!完全にメジロマックイーンの独壇場だ!
最終直線へ入った時点で、後続の気配は、全く感じませんでした。残りは400……200……100……
──メジロマックイーン!後ろに大差をつけて、今ゴールイン!この子にかなうウマ娘はいるのでしょうか!?
ストックが尽きましたのでこれから先、投稿頻度が落ちると思われます。申し訳ございません